2013年6月8日(土)14時、神戸市中央区の神戸市勤労会館において、弁護士で慶應義塾大学教授の小林節氏による講演会「改憲派が斬る!96条改正に異議あり!」が開かれた。「9条の心ネットワーク」など、兵庫県の護憲派3団体が共同で開催した。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
特集 憲法改正
2013年6月8日(土)14時、神戸市中央区の神戸市勤労会館において、弁護士で慶應義塾大学教授の小林節氏による講演会「改憲派が斬る!96条改正に異議あり!」が開かれた。「9条の心ネットワーク」など、兵庫県の護憲派3団体が共同で開催した。
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講演の冒頭、小林氏は、「私は改憲論者だが、意外に(護憲派と)目指すところは同じである」と切り出し、護憲派を中心に集まった300名を超す聴衆の心をつかんだ。続いて、「自民党の改憲草案は、明らかに改悪だ」と批判し、「海外派兵がやり放題になってしまう。海外派兵はすべきではない」と述べた。また、「教養のない人には権力を与えてはだめ。選挙で落とすべき」「自民党や維新の会には、どうみても『選良』に値しない候補がいっぱいいる」など、序盤から辛口のコメントを次々と繰り出した。
改憲を巡る情勢について、小林氏は、「実は、いま、私は余裕綽々(しゃくしゃく)だ」との見解を述べた。その理由として、「自民党が、96条改正を本格的に主張し始めたことで、『たかが手続きの話だろう』『憲法なんて、私たちの生活には関係ない』と思っていた人々までが、危機感を募らせるようになった」とし、「日本全体の憲法教養が上がった。世論調査の結果を見ても、『96条改悪反対』が明確に出るようになってきた」と語った。
また、96条で規定している憲法改正要件について、現行規定の「総議員の3分の2」を「過半数」に緩和する決議が国会でなされたとしても、「国民投票で討ち取ればいい」と述べた上で、国民投票の実施ルールを、「改憲内容を項目別に分けて○×をつけることになっている」「半年間も論争ができる」「賛成派50%、反対派50%のページ配分で解説書を作り、全有権者に配ることになっている」などと詳細に解説し、「討ち取る自信がある」と力強く述べた。
小林氏は、旧体制への回帰を待望する「復古論」についても言及し、「明治憲法下の日本はよかったというのは空想。真っ赤なウソだ」と述べ、「人間が人間である以上、古今東西どこにだって、『変態話』はある。なのに、いまだけ変態話があるということにして、『昔の日本は理想的でよかった』『今の日本はだめ』と言い、それを『全部憲法のせいだ』と言うのは、ぶっとんだ議論だ」と斬り捨てた。
自民党改憲草案の危険性についても言及した。特に、改憲草案にある「家族」の規定を、「憲法で、『国を愛しなさい』『家族は仲良くしなさい』と、2つの道徳で制限するもの。だが、『愛』なんてものは強制されるものではなく、人間の心の一番奥深くにある自然の判断。おせっかいだ」と批判した。
また、「結婚は人生で一番重大な契約だが、一番愚かな精神状態、頭に血が上っている精神状態で決めるもの」と述べて会場の笑いを誘った上で、「憲法に、『家族は仲良くしなさい』と書かれてしまえば、それが憲法の求める社会のありようになる。なので、家族の不仲状態を取り締まる、『不仲な家族取締法』が作れてしまう」とし、「憲法を使って、『国を愛せ』『国という一番大きな組織の一員であることを自覚せよ』『家族を大事にしろ』と社会を統制していく方向へ持っていかれてしまう」と警鐘を鳴らした。
立憲民主主義については、「民主主義の第一原則は多数決だが、『多数』は狂うことがある。ファシズムは、民主主義が引き起こしたもの」とし、「頭に血が上った多数がおかしなことをしたときに、『数』ではなく、『価値』によって、少数が多数を思いとどまらせ、反省させるのも民主主義だ。すなわち、立憲民主主義には、『少数決』がありうるのだ」と述べた。
現行憲法に対し、「アメリカの押し付けだから、日本人の手で変えるべき」という主張があることについては、「明治憲法は、あの馬鹿な戦争を食い止められない仕組みだった。日本国憲法が、仮に押し付けられた憲法だったとしても、当時の国民が深く納得して受け入れたのだから、それでいいではないか」とし、さらに、「現行憲法は国民に根付いている。天皇主権より国民主権のほうがいいに決まっている。この国のことを、なぜ一人の『おじさん』が決めるのか。天皇というオーナーが、『全株』を持って国を仕切っているような仕組みはおかしい。国民一人一人が『株主』であるほうが正しい組織だ」と力説した。