「秘密保護法で戦争の姿は見えにくくなる。軍や権力者のやりたいようになるのは間違いない」――。
7月30日に文京区で「秘密保護法は憲法違反 7.30 国民大集会」が開かれた。特定秘密保護法の違憲訴訟などに取り組むジャーナリストらが秘密保護法の危険性を訴え、ノンフィクションライターの林克明氏は、秘密保護法が戦争取材に与える影響について言及した。
(IWJ・原佑介)
「秘密保護法で戦争の姿は見えにくくなる。軍や権力者のやりたいようになるのは間違いない」――。
7月30日に文京区で「秘密保護法は憲法違反 7.30 国民大集会」が開かれた。特定秘密保護法の違憲訴訟などに取り組むジャーナリストらが秘密保護法の危険性を訴え、ノンフィクションライターの林克明氏は、秘密保護法が戦争取材に与える影響について言及した。
■ハイライト
特定秘密保護法の差し止めを求める訴訟は現在、東京、横浜、静岡の3カ所で提起されている。
東京地裁に提訴したフリージャーナリストら43名の代理人を務める山下幸夫弁護士は、「秘密保護法には知る権利への配慮規定が挿入されたが、フリーランス記者には適用されない可能性がある」と述べ、「フリーは日頃から差別を受けていて、入れない記者会見もある。法が施行されれば、フリーに厳しく適用される可能性がある」と指摘した。
また、今回の違憲訴訟の意義について山下弁護士は、「なかなか日本の法制度では、抽象的な違憲裁判は認められておらず、この種の裁判は難しいところがある」と認めながらも、「なんとしても司法の場で問題提起し、裁判所に判断させることが重要だ」と説明した。
第一回口頭弁論後の報告集会の様子は、次の記事を参考にしていただきたい。
横浜地裁に提訴したのは、フリージャーナリストの岩田薫氏、中央大学名誉教授の伊藤成彦氏など、11名の市民だ。
岩田氏はこの日の集会で、原告が30人程度に増える見込みだと話し、「横浜は最大の言論弾圧事件、『横浜事件(※)』の舞台になった場所。横浜地裁で起こすことは意味あることだ」と意気込みを語った。 (※)1942年から1945年にかけて、中央公論や改造社、朝日新聞などの言論関係者ら60人以上が治安維持法違反容疑で逮捕された事件。戦時下最大の言論弾圧事件として知られる。拷問で4人が死亡し、30人が有罪判決を受けた。
演劇、ミュージカルで秘密保護法の危険性を訴える動きもある。「劇団チャリT企画」は7月24日から8月3日まで、目黒区のこまばアゴラ劇場で「それは秘密です。」という演劇を上演している。
「それは秘密です。」は、秘密保護法の施行から数年後の日本、という舞台設定で、ひとりの芸人が突如として秘密保護法違反で逮捕されてしまうが、その容疑が「秘密」、逮捕された芸人の仲間が、事件の真相を解明するために奔走する、というストーリーのコメディだ。
劇団チャリT企画の木原未緒氏は集会で、「演劇を観て、秘密保護法に関心ない人から、『ぞっとした』『こんなことがありえるなど想像もしなかった』という感想をいただいた」と紹介し、「芝居は空気感を伝え、想像力を深められるものになっている。秘密保護法を考えるきっかけや、ヒントにしてもらいたい」と語った。
劇団「Musical Guild Q」が10月22日から26日まで中野WIZホールで上演するミュージカル「THE SECRET GARDEN ―嘘の中にある真実―」も、秘密保護法違反で逮捕された原発労働者ら9名の裁判がストーリーの中心になっている。
このミュージカルにはジャーナリストの鳥越俊太郎氏、岸井成格氏や作家の澤地久枝氏など、多くの言論人や学者が賛同人として名を連ねている。
登壇したMusical Guild Qの石村淳二氏は、「秘密保護法は、まずはマスコミを黙らせる。そして演劇人を黙らせ、国民を黙らせる、という法律だと思う。黙っているわけにはいかない。廃止運動の一助になればと思って、取り組むことにした」と話した。
秘密保護法は取材活動にどのような影響を与えうるか、フリージャーナリストの原告らが講演した。
チェチェン紛争などの取材にあたったノンフィクションライターの林克明氏は、戦争取材と秘密保護法の関連性に言及した。
「秘密保護法が施行されれば、取材者の選別が今まで以上に強まる」と林氏は警鐘を鳴らす。
「自衛隊のイラク派遣時、当時の防衛庁は各新聞、テレビを集め、『イラクではこれを守れ、ああいうことするな、死体は映すな』とレクチャーした。それを見て、『これが報道統制だ』と思った。戦争報道といえばベトナム戦争が有名で、世界中のメディアが入って世界中の世論を動かした。以降、これを教訓に、報道は権力者側から統制されることになった」
現実に、イラク戦争では、レクチャーされた通りにほとんどのメディアは報道した。思うように取材し、報じたのはおおかたフリーランス記者だった。この事実は大きい、と林氏は指摘する。
さらに、「私はチェチェン紛争を取材し続けたが、なんとかそれなりに取材できることは多い。チェチェンやパレスチナは外国の戦争で、日本は直接関わっていないが、今後は、海外紛争地への自衛隊派遣が可能になった。その場合、日本が関わる紛争の取材は、事実上、ほとんどできなくなると思う」と懸念を示した。
「できるとしても、自衛隊や政府の認めた取材だけ。そうなると真実はわからなくなる」
秘密保護法には報道への配慮規定があるが、「著しく不当な方法でない限り」という制限が設けられているが、「戦場では、権力者から見て『不当なこと』をしないと取材できない」と林氏は言う。
林氏は今まで、バスの中に身を隠して立ち入り禁止区域に忍び込んだり、自動小銃と軍服を用意して兵士に成りすますなどして取材にあたった、と振り返る。立ち入り禁止区域に入ったら、1000体の死体が転がっていたこともあったという。
「こうした事実がわかったのは、私が著しく不当な方法を使ったからだ。そうでもしなければ、歴史的には何もないことになってしまった」とし、「原発取材もそうだが、紛争の取材などは今後、わかりにくくなり、戦争の姿も見えにくくなる。軍や権力者のやりたいようになるのは間違いない」と、秘密保護法施行による情報統制に危機感をあらわにした。
若者の過労死問題と鉄道人身事故の取材を続けるフリー記者の佐藤裕一氏は、かつて埼玉県警に鉄道人身事故について問い合わせたところ、「あなたは自称の記者なので報道対応はしない」と突っぱねられた事実を明かした。
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