『小説外務省』を書いた理由
孫崎享氏(以下、孫崎・敬称略)「尖閣問題がこんなに緊迫した事実関係を知ってもらいたいという動機で執筆を始めました。尖閣問題は中国だけでなく、日本もアメリカと一緒になって仕掛けた事実があります。それを34歳の主人公が追究していく話です。
実は書いていくうちに、もうひとつの重要なポイントに辿り着きました。今の日本で真実を追究しようとすると、もの凄い圧力がかかってくる。外務省だけでなく全ての組織がそうですし、世間一般でもそうです。原発でもTPPでも、核心に触れようとすると、排斥されるような流れがある。
小説の中では、外務省が省全体として尖閣問題を覆い隠そうとします。主人公が隠された部分を追究していこうとすると、その身に何がふりかかるのか。事実を話すことが難しくなっている日本の社会で、34歳の孫崎享がどう生きていくか、これがテーマとして浮かび上がってきました。
今の日本には非常に怖い空気が出てきていると思います。浦和レッズのサポーターが掲げた『Japanese Only』と書かれた横断幕や、『アンネの日記』の破損事件、『はだしのゲン』の閲覧制限の問題にしても、やっている当人は正しいことをしていると思っていて、周りも何も言わなくなっている。安倍政権になって、こういうことが容認されるような雰囲気になっているのだと思います」
ウクライナ政変第一幕の意味
岩上「本題のウクライナ政変に移ります。私はウクライナ政変についは、第一幕と第二幕に分けて考える必要があると思います。昨年11月、EUとの協定を見送ったヤヌコビッチ大統領への不満が高まり、首都キエフに民衆が集まって3ヶ月にわたる抗議行動が行われた。その結果、銃撃戦も起きて死傷者が出て、ヤヌコビッチはキエフを脱出、反政権側が権力を掌握するまでが第一幕。
第二幕はその後、ロシアのプーチン大統領がロシア系住民が過半数を占めるウクライナ南部のクリミア半島をおさえ、黒海艦隊の基地を確保したところまで。これに対しウクライナだけでなく米国が猛反発して、緊張が高まっています」
孫崎「ウクライナ政変の第一幕が意味するところは、ヤヌコビッチという選挙で選ばれた大統領が、デモで倒されたということです。ヤヌコビッチは親ロシア派です。
欧州とアメリカはこの流れを知っている。ウクライナの次の指導者を誰にするのがいいか、アメリカ国務省のヌーランド国務次官補とパイアット駐ウクライナ大使が会話をしている内容がすっぱ抜かれて表に出ました。
ヤヌコビッチ政権を倒す時点でヨーロッパとアメリカがすでに関与しているということが非常に重要なポイントです」
民衆のデモ、国家の思惑
岩上「ヤヌコビッチ政権はデモによって倒されたということになっています。これを民衆による正当な異議申し立てによる政権打倒と捉えていいのでしょうか?」
孫崎「外務省にいてイランを見てきたが、世間は民衆が政権を倒せば、民衆に正義があると思っている。ところが、民衆のデモというのは、きわめて頻繁にアメリカあるいはイギリスに支援されている側面があります。
イランでは1951年にモサデク政権という欧米から独立する政権ができた。それが百田さんの『海賊と呼ばれた男』につながっていくのですが。
独立をするとイランは石油の輸出ができない。そこへ日本の出光が買いにいく。欧米とは一線を画した、独自の関与を日本はしてきた。そこで欧米はモサデク政権を倒すためにデモを使う。デモで騒乱状態を作りそこに軍が入る。その時には細かいオペレーションのマニュアルがあった。
モサデクはリベラル。治安部隊は米英とつながっていて、モサデクを排斥したい。彼らが騒乱をあちらこちらに作り出し、その後で軍が入っていって、モサデクを排除した。
治安組織に利用された形で民衆が動く。その民衆の騒擾を利用しながら、筋書き通りに事を運ぶ。このモサデク事件を米英が仕掛けたことに反論を試みようとチャレンジする人はいない。定説化している」
日米地位協定〜占領属国モデルとしての日本
孫崎「面白いのは、アメリカは倒すことはできるが、その後に親米政権を築けないということです」
岩上「その中の唯一の成功事例は、日本の自民党ではないでしょうか」
孫崎「そうですよ。日本の場合は占領期間があったということが重要。占領期間の間に米国の意に沿う組織が作られてしまった。たとえば大学は本来は中立的で自治があるが、『アメリカ学会』が作られ、アメリカに協力する学会となった。これはもう学会じゃない。
経済界では経済同友会が作られる。大企業の役職についたサラリーマン経営者中心の経団連と違い、同友会のメンバーは固定され、日本をコントロールしていく。1945年から51年までのあいだに日本社会を構築できた。これが非常に大きい」
岩上「イラクは正面からアメリカに戦争を仕掛けられ、戦争をし、敗北し、占領された国です。しかし、日本の戦後エスタブリッシュメントのように柔順ではなかったですね」
孫崎「2004年か5年にイラクの石油大臣が『アメリカをずっと置いておくつもりはない』と言っている。米国兵の犯罪をイラク側が裁判すること、これは最後まで譲らなかった。それで米国は出て行った」
岩上「治外法権を認めさせるというのは、占領する上で重要な手段なんですね。日本の場合は、日米地位協定によって今に至るまで米兵の治外法権が認められている」
孫崎「私は普天間問題をやっているときにドイツのことも勉強するべきだったと悔やんでいる。敗戦国ドイツにも米軍が駐留している。
ドイツでは、自分の国の法律に従わせることになっている。ドイツの利益が、駐留米軍がいることの利益より大きいとみたときには、撤兵を主張できる。
沖縄に当てはめれば、普天間に米軍がいることの利益より、沖縄県民が受ける被害が大きいと撤兵を主張できた。
たとえ条約に書き込んでないとしても、同盟国同士はこの原則でやれるのではないか。ドイツと同じ形で攻めることはできたはず。当時は勉強不足でできなかった」
岩上「ブッシュ大統領が小泉首相に、こういうことがどうして他の国とできないのか、と話したとされますね。日本のような占領属国モデル」
孫崎「日本モデルがなぜイラクでできないのか、とも言われた。
同じ第二次大戦の敗戦国の日本とドイツを比べてみると、日本の場合、政府はなくならなかったが、アメリカの言うことをそのまま受けいれる前提で存続した。これに対し、ドイツは国がなくなった。つまり、4つの占領地区に対応する政府がなかった。そこから独自に国づくりを考え、考えた人たちが政権をとった点が日本と大きく違います」
核均衡と「ニア・ボーダー」
孫崎「本題のウクライナの話に戻ると、重要なポイントは、ロシアは核大国だということ。アメリカは基本的にはロシアとは戦争ができない関係になっている。核戦争は起こせない。その他の地域においても基本的に合意がないと成立しない。
ソ連崩壊・冷戦終結期の1993年くらいにウズベキスタンにいたときにニア・ボーダー論というのがあった。旧ソ連の勢力圏には手をつけるなということをアメリカものんだと思います。下手に手をつけると、核戦争になるから。ところが今、手をつけるようになってきた」
岩上「同感ですが、そうした見方をする人が少ない。ロシアが攻め込まれているのは明らかなのに」
孫崎「要するに、国際情勢は長いスパンを見ないとわからない。断片だけ見たら、逆になってしまう。選挙で選ばれた人をひっくり返したんだから。ロシアが侵略者の扱いになっている。オリンピックという行動の出来ない時期を狙って。ロシア人は反発します」
過去の歴史はアメリカも欧州も知っている。ロシアに対して制裁措置をする場合でも、自分の利益に害が出るようなことはしない。アメリカは国全体として、ロシアに対し、ビザ発給停止や経済的封じ込めをしていない。
また、シティのロシア資産には触らないというイギリスの姿勢を示すメモランダムが報道ですっぱぬかれた。
シリア、イラク、イラン、北朝鮮、これらの関連でロシアが反対側に回ったら大変なことになるという認識がアメリカにはある」
「核均衡」の終焉?
岩上「なのに何でこんな冒険主義的なやり方で、ニア・ボーダーに手を出したのでしょうか?」
孫崎「オバマ政権下では、グランドデザインを考えられない人が、バラバラに力をふるっています。軍は勝手に軍で動くという状態。対日政策も、軍産複合体の代理人のアーミテージみたいな人物が勝手にやっている」
岩上「直近の第一幕で起きた事実として、アグレッシヴに関与するヌーランド国務次官補の存在があります。さらに極右、右派セクターが力を増し、ネオナチのシンボルを掲げる集団も加わった。反ユダヤ主義も公然と口にしている。こういう人たちとヌーランドとが写っている写真が出ています。
さらに、米大統領候補だったジョン・マケイン上院議員が『オレンジ革命』というNGOのトップです。マケインが右派セクターと会っている写真が出ている。西側と気脈を通じた極右の存在がキーなんです」
孫崎「マケインというのは、キッシンジャーのように大局を見る人とは違う」
岩上「元軍人ですね。ベトナムで捕虜になって耐えたというのが売りの人。アメリカの攻撃的な保守は、核の均衡を壊してまでロシアに最終勝利をおさめるまで迫っていこうとしているのではないでしょうか」
孫崎「それはありえない、と言うかそういう戦略はとれない。キッシンジャー、マクナマラ、こういう人たちは、いくら米国が攻めても、ロシア、ソ連は危なくなったら、最後には核攻撃に踏みきることを理解していた。
現在、アメリカの大きな問題は、安全保障政策を立案しているシンクタンクが軍需産業から金をもらっていること。だから彼らの理念は緊張を造り出していく理念。理性的にアメリカの利益を確保していく立場の論者は、安全保障分野に育たなくなっている。
キッシンジャーは大学教授。シンクタンクからはちゃんとした論客が出てこない。今、アメリカの中枢に学者が入っていない。シンクタンク経由になると、怖いグループになってしまう。日本のパイプになっているのも、みんなシンクタンク」
政変は第二幕へ
岩上「もう一度本題に戻して、ロシア、ウクライナの情勢を含めた今後はどうなりますか?」
孫崎「まずウクライナの経済がおかしくなり、社会全体が不安になります。ロシアとの経済関係があって、今までのウクライナ経済が成り立っていた。いきなり西欧の仲間入りができるわけではない」
孫崎「ガス料金をロシアへ支払わなくなると、供給はストップ。それから、すでに財政危機で、余剰金のようなもので2、3ヶ月はもつが、東部や南部からロシアと一体となったほうがいいという話が出る」
岩上「確固たる民族的アイデンティティがない状況で、民族浄化が起きないか懸念されています。ウクライナ西部は歴史的汚点として、反ユダヤ主義の揺籃の地でもありました。この記憶があるところにネオナチが堂々と現れてきた」
孫崎「経済社会の混乱が、そういうものの温床となる。収入の水準が月100ドルを割るということもありうるでしょう。ロシアが経済支援を申し出るかもしれない。今、西側が言っている言葉『ディ・エスカレーション』は、今後起こりうることを防ごうということです」
岩上「ウクライナの新政権はウクライナ語を公用語とし、ロシア語の使用を禁じる、措置をとった。ロシア語を日常言語にする人が不利益を被る。『ディ・エスカレーション』は西側ができることじゃないと思うんです。
他方、ロシアもウクライナ東部のハリコフやドネツクなどの大都市を回廊のように押さえないと、クリミアを維持し続けることはできないのでは」
孫崎「マケインのような外側から見ているだけの人は、ロシアやウクライナが混乱していていいと思っている。尖閣問題と同じことです」
岩上「去年ピーター・カズニック教授に取材したときに(※) 、『日本は核だけを見ている』と言っていました。アメリカは通常兵器の拡張をしている。サイバー、スペース、ドローンだ、と。人のまつ毛を狙ってピンポイントで攻撃できる。
これからは、『核の均衡』を越える通常兵器を注視していくべきだと言っていました。そうすると『核の均衡』を崩せると本気で思い始める人が出てくるのかもしれない」
孫崎「『核の均衡』を意味する『相互確証破壊戦略』というのは、よく勉強しなきゃわからない。しっかり勉強した人がいないと、その価値がわからない。
言うべきではないが、捕虜経験が長い人は、どこか変わるんですよね。そういう人が中枢にいるべきでない。しかし、彼が共和党の安全保障の旗頭です」
岩上「戦争はありますか?」
孫崎「それはないと思う。ぐしゃぐしゃを好む人がいる。オリンピックが重要な行事になっただけに、東京オリンピックが利用されるかもしれない。オリンピックが政治を動かす一つのチャンスとなっている」(了)
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クリミアに住んでいます!クリミアはロシアですよ!楽しいですよ!90%のクリミアの人はロシアに住みたかった!やった!今クリミアはロシアです。クリミアの人は楽しいですよ。
ところで、アメリカのニュースはうそですよ!日本も!EUも!怖いですよね
Now in West of Ukraine bandits control. Fascism! I dont want to live in country of bandits. And Amiraca is a terrorist! Japanese last samurai is dead… 大変ですね。 But クリミアの侍がいますよ!