「原発再稼働はさかんに報道されるが、福島では廃炉・汚染水対策の方が重要」 〜廃炉・汚染水対策福島評議会 2014.2.17

記事公開日:2014.2.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ 関根/奥松)

 「スピード感がないことは反省する。500万ベクレルの汚染水の件は、隠蔽したつもりはない。今後とも、しっかりやっていきたい」。東電の担当者は繰り返した。

 福島の住民側からは、「情報は『ホームページに掲載』と言われるが、それを見られない人が多いことを訴えているのだ」「報告資料を見ると、6行にわたって句点がひとつもない。こういう(読み手のことを考慮しない)意識から変えていくべき」など、東電や政府のわかりにくい説明と、それらを明確に伝えないメディアの報道姿勢に不満が集中した。

 2014年2月17日(月)14時より、福島市のウェディング・エルティで、経済産業省と資源エネルギー庁主催による「廃炉・汚染水対策福島評議会」が開催された。これは、福島第一原発における廃炉作業と汚染水対策の現況を周辺自治体や関係団体などに説明し、要望や意見を聞くもの。政府側は、廃炉・汚染水対策チームの事務局長を務める経済産業副大臣の赤羽一嘉衆議院議員を筆頭に、原子力規制庁、廃炉・汚染水対策チーム、東電の幹部らが揃い、住民側は、福島県副知事、各市町村長、会津大学学長、商工会議所、漁業協同組合、農業協同組合、NPO理事長などが出席し、意見交換を行なった。

■全編動画 1/3 評議会1

■全編動画 2/3 評議会2

■全編動画 3/3 記者会見

  • 議題 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策の現状と今後の対応等について 等
  • 日時 2014年2月17日(月)14:00~
  • 場所 ウェディング・エルティ(福島県福島市)
  • 主催 経済産業省/資源エネルギー庁(告知

現在、4号機から搬出した燃料棒は352本

 東京電力の廃炉・汚染水対策最高責任者、増田尚宏氏から、廃炉と汚染水対策について、現状説明があった。「2013年11月より開始した、4号機の使用済み燃料および新燃料の搬出は、現在、1533本のうち352本を搬出し終わった。4号機の建物の傾斜も異常はない」。

 「今後の課題は、がれき撤去でダストなどを舞い上がらせないこと。1号機にはカバーを設置、飛散を防いだ。2号機は線量が高いので、調査を十分にしてから検討する。3号機に関しては、2015年上期に燃料取り出しが始められるように計画中。4号機の保管燃料は、2014年の年度末に作業終了予定である」などと報告した。

汚染源を取り除く、近づけない、汚染水を漏らさない

 増田氏は、福島第一原発での労働環境改善について、「平成27年度中には、周辺の線量を下げる。給食センターや休憩施設の改善をする。汚染水貯蔵タンクでは、堰からの漏水の修復を行う」と述べた。さらに、「汚染水の抜本対策において、汚染源を取り除く、汚染源に近づけない、汚染水を漏らさない、という3つを徹底する。また、2014年9月の完成を目指し、海側の遮水壁建設を進めている」とした。

 「汚染源の除去に関しては、タービン建屋に溜まった汚染水を漏らさないよう境界を凍結。汚染源の除去を目指す」と説明し、『汚染水への取り組み~地下水バイパス~』という広報映像を上映した。「汚染水が港湾内に流出しているが、湾内で留まり、影響のない線量を保っている。毎日400トンの地下水が流れ込み、その流入を防ぐ対策を立てている。海側の遮水壁の設置。地下水バイパスで、山側から流れ込む地下水を、汚染源に触れる前に汲み上げて、海に流す」などと説明した。この映像は、東電のホームページで公開予定だという。

もっと具体的な、わかりやすい説明を

 国および東電と、国民とのコミュニケーションについて、議題は移り、廃炉・汚染水対策チーム事務局長補佐の糟谷敏秀氏(経済産業省大臣官房総括審議官)が、「ホームページへの掲載、記者会見の開催、セミナーや説明会の開催、チラシなどの配布。事故や工事の概要だけでなく、原因、対策など、もっと具体的で丁寧な説明が必要だ」と述べた。

 さらに、「公表内容について、客観的な資料との比較や、出典を明記する。起きたことについての対応策も併せて発表する。イラストや画像の多用。ホームページ以外での広報の推進など、さらに取り組みを願う」とした。

 次に、原子力規制庁の金城慎司室長が報告した。「廃炉に向けた実施計画で、敷地境界における実効線量を1ミリシーベルト/年未満を基準にしたが、汚染水貯蔵タンク区域など3ヶ所でオーバーするところがある」。

 「地下貯水槽からの漏洩で、再び実効線量が7.8ミリシーベルト/年に上った。しかし、2月14日の協議の結果、廃炉対策でリスクを下げることになり、目標値として、平成27年3月末までに2ミリシーベルト/年未満、平成28年3月末までに1ミリシーベルト/年未満を達成する」などと報告した。

福島県民200万人とのコミュニケーション

 続いて、福島の関係者から意見を聞いた。まず、福島県副知事の内堀雅雄氏が、「廃炉・汚染水対策を、200万人の福島県民に、どういった手法で伝えるのか。もっと考慮してほしい」と切り出し、「私からは4つの提案をしたい」として、以下のように要望を述べた。

 「1. 女性の視点を活用すること。この評議会でも、女性の発言者や審議メンバーを増やし、女性の声を吸い上げる方法を考えてほしい。2. 子どもの視点が必要。本当の主役は、将来を担う子どもたち。今日の資料は、専門知識を持った大人向けの内容だ。中学生、高校生にもわかるような発信の仕方を望む。3. マスコミへの対応。評議会をフルオープンで行うのは大事である。また、必要に応じて、マスコミへの追加レクチャーや資料配布など、きめ細かい対応を。4. 多言語での発信も必要。海外からは、福島は3年前から止まったままだと思われてしまう。収束作業を、世界に対して、どう伝えるかを考えてもらいたい」。

情報共有を求める周辺自治体の首長たち

 続けて、いわき市行政経営部危機管理室室長・舘典嗣氏(代理)、田村市副市長・鈴木喜治氏(代理)、南相馬市市長・桜井勝延氏、川俣町町長・古川道郎氏、広野町町長・遠藤智氏、楢葉町町長・松本幸英氏、富岡町町長・宮本皓一氏、川内村村長・遠藤雄幸氏、大熊町町長・渡辺利綱氏、双葉町町長・伊澤史朗氏、浪江町町長・馬場有氏、葛尾村村長・松本允秀氏、飯舘村村長・菅野典雄氏ら、周辺自治体の首長らが、それぞれ意見を述べた。主な内容は、次のようなものである。

 「もっとわかりやすい言葉で、正確な情報を流してほしい」「昨年7月、地下水からストロンチウム90が1リットルあたり500万ベクレル検出されていたことが、今年2月に発表された。情報の隠蔽ではないか」「廃炉・汚染水対策を、国が前面に出てやるというが、まったく実感がない」「福島第一についてのマスコミ報道が少なすぎる。テレビに報道枠を作って、作業の進捗状況を報道すべきだ」。

 さらに、「東電にはスピード感がない」「現場作業員の情報と、東電発表の情報に乖離がある」などの指摘もあった。また、現場との情報共有、港湾内でのトリチウムなどの核種のデータ公開、廃炉作業の可視化、作業環境の改善や作業員の報酬の見直しなどを求める声が寄せられた。

「隠蔽はない。データは速やかに出す」と繰り返す東電

 それらを受けて、東電の増田氏が「モニタリングポストのデータをきちんと示す。質問にも速やかに誠実に答える。わかりやすい説明を心がける。海外からのアドバイスは検討し、技術開発を進めている。みんなが一生懸命に長く働ける職場作りを考えている」と答え、「スピード感がないことは反省する。500万ベクレルの件は、隠蔽したつもりはない。今後とも、しっかりやっていきたい」と繰り返した。

 廃炉・汚染水対策チームの糟谷氏は、「この場は、何かを決定する場ではない。意見を聞いて、汚染水・廃炉対策に反映していきたい。汚染水除去装置のアルプスも3系列機能し、62核種を基準以下に下げる計画だが、まだ4核種だけが下がらない」と話した。

 また、「(汚染水対策などへの)情報提供780件のうち、3分の1が海外からの情報で、参考にしたものもある。国が前面に出ていないという指摘に対しては、結果で示すしかない。現場で起きている問題を議論する、汚染水対策現地調整会議も行なっている」と回答した。

何でも「ホームページに掲載」でいいのか

 休憩に続いて、元国会事故調査委員会委員・蜂須賀禮子氏、NPO法人ハッピーロードネット理事長・西本由美子氏、会津大学学長・角山茂章氏、日本青年会議所福島ブロック協議会会長・安斎淳氏、福島県漁業協同組合連合会会長・野﨑哲氏らが順次、発言した。

 「マスコミ報道しか情報を得られない住民も多い。もっとわかりやすい広報を工夫するべき。最近は、報道も少なすぎる」「食の安全は、女性や子どもの安心につながる」「2012年に、福島第一原発が『特定原子力施設』指定になっていたことを、最近知った」「海外からの英知を受けるというが、震災当時、国は海外援助を断ったはず」「放射線量より、情報汚染の方が怖い。間違った情報による不安から、無気力、うつ病になったり、自殺に至る場合もある」などの意見が寄せられた。

 原子力規制庁の小坂淳彦氏は、特定原子力施設の指定についての告知不足を謝罪したが、「規制委員会での会議や議事録は公開し、ホームページに掲載している。インターネットでの中継、県庁での記者会見などもしている」と釈明した。

 それに対し、蜂須賀氏は「情報は『ホームページに掲載』と言われるが、それを見られない人が多いことを訴えているのだ。また、ほかの原発の再稼働の動きはさかんに報道されるが、福島の住民には、廃炉・汚染水対策の方が重要だ」と発言した。

 飯舘村の菅野氏は「報告資料を見ると、6行にわたって丸(句点)がひとつもない。こういう(読み手のことを考慮しない)意識から変えていくべきではないか。理論武装だけではやっていけない」と指摘した。

東電のロードマップは福島住民のライフマップ

 副知事の内堀氏から、廃炉・汚染水対策のロードマップ(工程表)について、意見があった。「世界で前例のないことだとは理解できるが、基本認識を共有するべき。ロードマップの1日、1ヵ月は、福島の住民にとっては、人生計画が反映する『ライフマップ』に等しい。期間と内容も、詳細にしてほしい」。

 会津大学の角山氏は「他の工事とは違い、失敗は許されない。質を上げる必要がある。準備をしっかりしてやってほしい」と要望した。

 最後に、赤羽一嘉経済産業副大臣が、「今日いただいた意見は、絵に描いた餅にはさせない」と閉会のスピーチを述べ、事務局が「次回開催は、4月頃の予定」と伝えて閉会した。

「霞ヶ関の文化」を反省。赤羽経済産業副大臣

 閉会後、赤羽副大臣が記者会見を行ない、活発な意見交換ができたことを評価しつつ、「情報を発信する側と、受け取っている住民との間に、かなりギャップがあることを認識させられた。反映させていきたい」とした。

 「すぐに取り入れたい意見はあったか」との質問には、「いわゆる、霞ヶ関の文化では、情報の『正確な発信』を重視し、発信したものが『どう受け止められるか』には、気持ちが及ばない傾向がある」とし、「情報は、福島の人々の人生に関わることなので、原点に戻って文章の作り方から考え、発信の仕方を検討したい」と答えた。

 IWJが、今後の廃炉プロセスにおいて、さらに災害が起こった際の住民への避難措置、情報供給のあり方について見解を尋ねた。赤羽副大臣は「3年近く大変な状況だったが、去年9月に方針転換して、それなりに現地の体制が整った。さまざまな事象が起こっても、深刻なダメージにはつながらない」とし、「情報供給という点では、ネガティブな話だけでなく、順調な進展も伝えていかなくてはならない。4号機の燃料棒取り出しも、1ヵ月前倒しで進んでいる」などと答えた。

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