元衆議院議員 吉井英勝講演会「原発廃炉への課題とこれからのエネルギー」 2013.12.7

記事公開日:2013.12.7取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 「潜在的な核兵器開発の能力を持つことが、核抑止になる」という考えが、日米の根底にある──。

 2013年12月7日、大阪・十三のシアターセブンで、吉井英勝氏(元衆議院議員)を招いた講演会「原発廃炉への課題とこれからのエネルギー」が行われた。京都大学原子核工学科を卒業し、一貫して原子力問題を国会で追求してきた吉井氏が、福島第一原発事故の背景と対応の問題について解説し、さらに、電力会社、原発メーカー、ゼネコン、メガバンクからなる「原発利益共同体」の目論みを語った。

■全編動画(14:00~ 2時間11分)

※音ズレが発生しております。ご了承ください。

原発廃炉もエネルギー問題も、全体像を掴むことが重要

 はじめに、「原発問題を考える時、3.11は重要な出発点になる。廃炉にしても、エネルギーの問題にしても、全体像を掴んでおくことが大事である」と語る吉井氏は、被災者に対して十分な賠償責任が果たされていない現状、いまだに近寄れないほどの放射線量を示し、汚染水処理問題解決の見通しも立たないままの福島第一原発の現状を解説した。

 その上で、福島第一原発は、建設コストと稼働時のランニングコストを抑えるために、低地に建設されたこと、「安全神話」によって地下水対策もまったく考慮されていなかった実態を語り、「その結果として、今の汚染水問題がある」と述べた。

原発輸出の方向性は一貫して推進されている

 続いて、吉井氏は、日米原発利益共同体の関係を解説。海外に原発を輸出するため、小泉内閣から第1次安倍内閣の期間に、原子力立国計画が作成され、それが現在も継続していることを説明した。「2010年の10月、管総理はベトナムのズン首相との間で原発輸出の覚え書きを交わし、3.11後も、その継続を表明している。そして、第2次安倍内閣では、原子力産業協会と共に、成長戦略の柱として『原発輸出』を掲げている。原発輸出推進の方向性は一貫して続いており、安倍総理は原発の営業課長である」。

 また、「原発の再稼働は電力供給の問題ではなく、原発の輸出先の技術者を、大量に育てるためのものだ。その国の若者に、日本の原発で技術を習得させる必要があるので、原発輸出と再稼働はワンセットなのである」と説明した。

アメリカの核の傘の下、日本が原発を保有する意味

 日米安保条約と原子力協定については、「アメリカの核の傘の下における、アジア戦略の中で、日本が原発を保有する意味を掴んでおくことが大事である」とし、原発と再処理工場を持ち、潜在的な核兵器開発の能力を維持することが、核抑止になるという考え方が、日米の根底にある、とした。

「想定外」という言葉そのものに気をつけろ

 また、吉井氏は「福島第一原発事故の検証と、老朽化した原発の機器を使った実証データを記録することが、今後の原発問題を考える上で重要である」と述べた。その上で、 小泉政権時に、原発の耐震性試験に用いる大型振動台を、行政改革を言い訳に売り払ったことや、全電源喪失に対する対策を怠ってきた国の姿勢を問題視し、「自公、民主関係なく、メルトダウンは起きないという立場をとっている。安倍総理の答弁書は『冷却できない事態が生じないように、安全の確保に万全を期している』というもの。安倍総理の答弁ほど、いい加減なものはない」と批判した。

 福島原発事故の原因を、想定外の津波に求め続ける東電については、「気をつけないといけないのは、『想定外』という言葉そのものだ。これは『免責されたい』という立場で使われる言葉。2006年に、マイアミで開催された原子力工学国際会議では、津波を想定する議論が、ちゃんと行われている」と話した。

 吉井氏は「今回の事故は、まじめに対策を講じてこなかった、東電側の不作為の問題である」とし、発災時、ただちにベントをするべきであったのに、廃炉を恐れるあまり、すぐに海水注入をせず、対応が遅れた東電と、その東電を指揮する強い法律上の権限があったにもかかわらず、十分に使い切っていない、当時の管総理に対し、「重い責任が問われる」とした。

問題解決のキーワードは「再生可能エネルギーの爆発的普及」

 いわゆる原発利益共同体について、吉井氏は「東芝、日立、三菱をはじめ、巨大ゼネコン、新日鉄、メガバンクといった、日本財界の中枢部が原発政策を推進している、という本質を見極めることが重要である」とした。

 また、福島の汚染水問題の行き詰まりに関して、「東電を破綻処理した上で、国が前面に出て進めるべきである」と、その具体的な方策を語り、「全国から英知や技術を結集して取り組むことが必要」と主張した。

 原子力規制委員会の新規制基準については、「原子炉立地審査指針の基準で、国際基準でもある100ミリシーベルト(敷地境界での積算被曝線量)を新基準に取り込んだ場合、日本には再稼働可能な原発は1基もなくなる。そのため、この国際基準は、新基準からすっぽり抜け落ちている」と指摘し、「これは、田中委員長の判断というより、再稼働させたい原発利益共同体からの圧力があったのではないか」と述べた。

 最後に吉井氏は、問題を解決するキーワードとして、「再生可能エネルギーの爆発的普及」を挙げて、地産地消エネルギーのネットワークを創る必要性を語り、「原発依存に走った地域については、そこの人たちが、自信をもって原発依存から抜け出せる仕組みを考えていく必要がある」と述べた。

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「元衆議院議員 吉井英勝講演会「原発廃炉への課題とこれからのエネルギー」」への4件のフィードバック

  1. 宇佐美 保 より:

    今回の巨大津波を想定していなかった「想定外」の事象というのは、想定自体の誤りであって、その想定の甘さが追及されて然るべきです。
    それなのに、「想定外」であるから、責任が無いという弁明が罷り通る事態が異常現象です。
    その上、2008年に東電社内で福島第一原発・第二原発における津波評価・対策が検討されて、O.P.+15.7mという想定波高の数値を得ていたというのでは、とても「想定外」との弁明は通用しません。
    それが通用してしまい、更には、、2006年12月22日に安倍内閣の政府答弁書で「原子炉の冷却ができない事態が生じないように安全の確保に万全を期している」と大見得切っていた安倍氏が、今回の事故責任を何ら感じず、表明せず、原発再稼働、輸出に奔走する事態こそが、私達にとっての「想定外」です。
    それにしましても、金儲けに奔走する経団連の方々は、福島第一原発の敷地内に村を作って、ご家族そろってお住み頂きたいものです。
    え!元東電幹部の勝俣氏や清水氏らは、ご家族揃って海外に移住されておられるのですか?
    安倍氏の代わりに吉井氏に総理となって頂きたく存じます。

  2. 宇佐美 保 より:

    私は、菅さんは原発事故対策に命懸けで立ち向かって下さったと感謝しています。
    なのに、多くの人の命、生活を救うためには、菅さんが怒鳴りつけようが、菅さんを羽交い絞めにしてでも、有益な助言を菅さんにすべきな方々は、実際には、「石の地蔵が立ち並んでいただけの様だった」旨を内閣審議官として菅さんを補佐され続けた下村健一氏は、書かれておられます。

    そして、SPEEDIの結果が、菅さんの手元へ渡ったのは数か月後であっても、活用できなかったのは自分の責任と講演の都度謝罪しておられます。

    一方、『週刊文春(2011.6.9号)』“福島原発非常時冷却システムを撤去した勝俣会長”には、次の記述を目にします。「原子炉が停止した時にはECCSという非常用冷却システムが作動するはずだった。だが、そこには″最後の砦″となる機能が存在しなかった。
     いったいどういうことなのか──。
     ここにある内部文書がある。〇三年二月十七日に開催された「第十回 原子力安全委員会定例会議」の議事録だ。
    ……
    議題に上がつていたのは〈(福島第一原発 二~六号機の)蒸気凝縮系を削除する〉という設置変更について、
    つまり〝最後の砦″の蒸気凝縮系機能の撤去が検討されていたのだ。
    ……東電が福島第一原発から蒸気凝縮系機能を撤去しょうとしていた平成十五年は、まさに小泉政権時代だ。電力会社と二人三脚で原発を推進してきたのは自民党政権そのものだった。

     菅さんを「イラ菅」云々で避難して、菅さんに責任を押し付け、自民党時代築き上げてきた「安全神話」責任を隠ぺいする、「原子力村」の思う壺です。

  3. 宇佐美 保 より:

    「検証 東電テレビ会議 朝日新聞社」の152頁に次の記述が載っています。
    14日午後4時15分のことだ。
    班目委員長は、圧力容器に水を入れるため、圧力容器の蒸気を抜くべきだと主張した。吉田所長は蒸気の逃がし先である格納容器のプールの水温を下げなければ、圧力は低下しない。蒸気が逃げてしまうと、かえつて、燃料棒がむき出しになる時間を早めてしまうと主張した。
     吉田所長は「本店のほうでフォローを」と言い、班目委員長の説得を本店に求めた。ところが、その直後、吉田方式がうまくいかないことが分かり、それを聞いた本店の清水社長が「班目先生の方式で行ってください」と決断を下した。
     班目委員長の指示通りに動いたが、弁はすぐに開かず、時間が過ぎていった。結局、吉田所長と班目委員長のいずれの案もうまくいかないまま、事態はますます深刻化していく。

  4. 宇佐美 保 より:

    科学2013年11月号(岩波書店)には、東電元社員の木村俊雄氏が次のように記述されておられます。
    「自然循環だけによって約50%出力まで炉心の熟を除去することができる(自然循環による冷却効果が大きいということである)。この炉心内の自然循環は、沸騰水型炉(BWR)特有の安全性を保つものとして、想定される異常な過渡変化および事故に対して十分対処できる設計の一つとしてうたわれている。」と、更には、「この安全機能が地震発生か1分30秒前後(津波到達以前)から失われていた可能性がある」と、そして、その原因は、「原子炉圧力容器につながる配管破損による冷却材意外に考えられない。」と書かれておられます。
    この件は「IWJ]でも木村氏は発言されておられます。

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