2013/08/29 国家戦略特区はTPPの前倒しと既成事実化? ――見えないTPPを国家戦略特区から見てみよう  

記事公開日:2013.8.29
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特集 TPP問題

 TPP交渉の全体会合は、8月末に行われた第19回ブルネイ会合で、実質最後となる見通しとなった。今後は各分野に分かれて作業部会が行われ、9月18日から米ワシントンで、首席交渉官のみの会合と関税についての作業部会が行われる予定だ。TPP交渉は今回のブルネイ会合以降、より「秘密性」の高いものとなる。どんどん地下に潜っていくTPP交渉と対照的に、軽自動車税増税や、ゆうちょのがん保険参入凍結など、TPPの「前倒し」ともいわれる政策が次々と浮上している。そのひとつに、政府が進める「国家戦略特区」がある。

 8月29日(木)、18時より大田区消費者生活センターで、「国家戦略特区とTPP~見えないTPPを国家戦略特区から見てみよう~」が行われた。各界の専門家が登壇し、TPP交渉の現況や問題点、日本国内で進む特区構想の危険性などについて講演した。

情報が明かされないまま、まとめの段階に来ているTPP交渉

 7月にマレーシアで開かれた第18回TPP交渉会合に、ステークホルダーとして参加した、アジア太平洋資料センター(PARC)事務局長の内田聖子氏は、会合の開催ペースが早くなっていることから「まとめの段階にきている」と述べた。これはNGOの間では、かねてから懸念されていたことだと、危機感を露わにした。

 日本は、マレーシア会合から正式に交渉に加わったが、参加できたのは3日間のみ。内田氏は、「意味はまったくない。ご挨拶に行った程度のようなもの」と評した。今後の会合は、テーマ別、個別分野の会合にシフトしていくことが予想されているため、日本は実質、「ブルネイでの第19回会合の一回参加しただけ」という結果に終わるのではないかと懸念されているという。

 内田氏は、交渉官のあいだで「10月に行われるインドネシアでのAPECで閣僚会合を開き、大枠をまとめてしまおう」と囁かれていることを紹介し、「日程と場所、都市名ぐらいは発表されるが、内容はほとんど出てこない。相当見えなくなる」と、今後のTPP交渉の行方に懸念を示した。この個別、テーマ別の部会という形態は、TPPの問題点として指摘されており、今後「秘密性」に益々拍車がかかる恐れがあるという。(記事後半へ続く)

  • 講演者 内田聖子氏(PARC事務局長)、奈須りえ氏(元大田区議会議員)、山本太郎参議院議員
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「国民生活の向上」から「投資」へと目的が変質した特区構想

 続いて、前大田区議会議員の奈須りえ氏が、第二次安倍政権が躍起になっている「国家戦略特区」とは何かを解説した。国家戦略特区とは、今年2013年4月に「産業競争力会議」で提案されたもの。もともとは2011年当時に民主党の菅政権が主導した「総合特区」がベースとなっているものだが、奈須氏によれば第二次安倍政権発足後、特区の位置づけが変質しているという。

 奈須氏は、自民党の小泉政権で始まった「構造改革特区」から、民主党の菅政権の「総合特区」、そしてこの「国家戦略特区」への変遷を解説しながら、それぞれの「何をしたいのか」という理念の部分を比較し、今回の安倍政権の「国家戦略特区」の目的を指摘した。

 「構造改革特区」の目的をみると、「国民生活の向上及び国民経済の発展」と記されており、「総合特区」では、「国民経済の発展及び国民生活の向上」と、キーワードが逆に記されている。「国家戦略特区」は、「民間投資の喚起により日本経済を停滞から再生へ導く」「国際競争力の向上世界で一番ビジネスのしやすい環境」と、過去の特区の目的がごっそり抜け落ち、「投資」という言葉が象徴するように企業優先の概念になっている、と奈須氏は指摘。以前、「総合特区」のなかで、すでに東京都に存在する「アジアヘッドクオーター特区」の担当者に対して、奈須氏が「経済効果において、税収はどういう位置づけか」と質問した際には、「税収は評価対象としていない」との回答が返ってきたという。これは、「アジアヘッドクオーター特区」が、「法人税減税を評価対象としている」ことを示していると奈須氏は断言した。

 現在存在する「総合特区」のなかでも、東京都の「アジアヘッドクオーター特区」、神奈川県を中心とした「京浜臨海部ライフイノベーション特区」、関西を中心とした「関西イノベーション国際戦略総合特区」が、「国家戦略特区」として手を挙げようとしているという。東京都の「アジアヘッドクオーター特区」について、猪瀬直樹東京都知事は、7月26日の定例記者会見で「いずれ国家戦略特区に名称が変わっていくと思います」と、発言している。

医療費負担増が懸念される「国家戦略特区」

 続けて奈須氏は、「国家戦略特区」が今後全国展開した場合に起こりうる、様々な懸念点を指摘した。

 医療分野では現在、「病床規制の見直し」が、政府の有識者ヒアリングの中で制度改革事項として挙げられている。現在病院のベッド数は、一定の地域毎に設定されているが、規制を取り払えば数を無制限に増やすことが可能となる。しかし、ベッドの数が増える反面、医療費の負担増が懸念されている。この事が医療体系に悪影響を及ぼす要因の一つになる恐れがあるという。奈須氏は、こうした例からTPPの前倒し、既成事実化をしようといているのが「国家戦略特区」ではないかと指摘した。

日本の首席交渉官 「韓国は先進国に入るのか?」

 第19回TPPブルネイ交渉会合の場に足を運んでいた、山本太郎参議院議員は、交渉官とステークホルダーの交流の場での、鶴岡首席交渉官と山田正彦元農水大臣とのやり取りを紹介した。

 山田氏が、鶴岡氏に対して、日本がISD条項を自ら交渉で要求している理由を問うと、鶴岡氏は「途上国で先進国が展開していく時の保険だ」と語り、さらに山田氏が、米韓FTAの事例から韓国もISD条項で提訴されていることを問うと、「韓国は先進国に入るのか?」といったやり取りがあったという。山本議員は、鶴岡首席交渉官を「さすが『タフ・ネゴシエーター』」と、皮肉を交えながら批判した。(取材:石川優、記事構成:佐々木隼也)

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