2023年1月25日、午後4時45分より、東京・司法記者クラブにて、1人1票裁判(2021年衆議院)最高裁大法廷判決後の記者会見が行われ、原告である弁護士グループの升永英俊氏、伊藤真氏、黒田健二氏らが登壇した。
会見冒頭、升永英俊弁護士はこのたびの最高裁の判決について、次のように述べた。
升永弁護士「今日、最高裁大法廷判決が出ました。判決の内容は『是正義務付き合憲』。
『是正義務がない』と言っている判決ではなくて、これは、2021年の衆議院選挙では投票価値の不均衡はいまだ是正されていないんです。したがって、将来、是正される予定になっているから『合憲』であると、こう判断したわけですから、2021年の選挙自体から言うと、『是正義務がまだ残っている。是正されてないんですから、是正しなきゃいけない』というふうに判決文の中ではっきり言っています。
『新区割制度と一体的な関係にある本件選挙区割りの下で拡大した較差も、新区割制度の枠組みの中で是正されることが予定されているということができる』――」
- 1人1票裁判(2021衆院)最高裁判決全文(一人一票実現国民会議ウェブサイト)
平成28年(2016年)、国は、「1人別枠制」の廃止を要求した平成23年、同25年、同27年の大法廷判決にもとづき、人口比例配分方式の一つである「アダムズ方式」を採用した改正法(衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律)を成立させた。
- 衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平成六年法律第三号)(e-Gov、2016年5月27日施行)
「1人別枠制」とは、各都道府県に1議席ずつ配分した上で、残りの議席を人口比で配分する方式で、1票の格差を広げる要因として批判された。
「アダムズ方式」は、都道府県の人口を一定の数で割った商の小数点以下を切り上げた数を、都道府県ごとの小選挙区の数とする方法。米第6代アダムズ大統領が考案したとされる。
この改正法は、令和2年(2020年)の国勢調査の結果にもとづく定数再配分を定めたものなので、調査前の平成29年(2017年)の選挙の時点では反映されていない。
一方、国勢調査翌年の本件令和3年(2021年)の選挙では、平成27年の大法廷判決が「違憲状態」とした2014年選挙の区割りから、わずか6県で各1議席減の是正しかなされなかったことから、原告弁護士らは「アダムズ方式により配分される定数と異なる定数配分で選挙が行われた」、「従って、本件選挙も前回選挙も、『1人別枠制』が廃止されたと評価できない」と、違憲性を訴えた。
投票価値が不平等な選挙では、人口の多数が国会議員の多数を選ぶ保障がなく、人口の少数が、国会議員の多数を選び得る。そして、そのような選挙で選ばれた国会議員が、多数決で法律を作り、総理大臣を選んでしまうために、結局、少数の国民の意見が立法を決定し、総理大臣を決定することがあり得る。
このような事態は、憲法1条、前文第1文の国民主権に反する。これが、原告弁護士グループの主張だ。
伊藤真弁護士は、この判決について次のように述べた。
伊藤弁護士「この判決、『アダムズ方式』が予定されているものの、それで改善が見込まれているものの、それをまだ実現していないわけですね。
その中で、前回の選挙よりも格差が拡大し、2倍以上の格差の選挙区が29増えてしまっていると。1360万人の有権者が大きな不利益を受けている。そこにしっかり向き合っていない。過小評価されてしまったというところは残念です。
先ほど、升永弁護士の方から指摘があったように、一昨年のこの選挙は正当性がないということを裁判所も認めていると言わざるを得ません。
今、反撃能力ですとか、増税ですとか、国民生活を直撃するような問題が山積みの中で、正統性のない選挙は許されないと改めて思います。(中略)
国会議員が主権者ではありません。国民が主権者です。これをしっかり実現しなければいけないと改めて思います。
ただ、今回の判決は『アダムズ方式』、これをしっかり実現すること。これが、今回の判決の条件の基礎になっています。
ですから、国会は『合憲判決が出たのだから、もうそのまま放置してよい』と安易に考えるのではなく、しっかりとこの判決を受けとめて、『アダムズ方式』を実現する。さらに、そこでとどまらず、『人口比例選挙1人1票』を実現する方向に進んでいってもらいたいと思っています。
今回の判決は、決して、国会に甘い判決ではなく、国会に厳しく、これを実現するように突きつけた判決だと、そう評価しています」
会見の詳細は、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。
全人口の50%が50%の衆議院議員を選出することを目標とする「人口比例選挙」については、ぜひ以下の記事を御覧いただきたい。