小池百合子氏の東京都知事選出馬による失職にともない、10月23日に投開票が行われる、衆議院東京10区補欠選挙。来年1月に行われるとも噂される衆議院解散総選挙の「前哨戦」と位置づけられるこの東京10区補選に、「野党統一候補」として立候補することになったのが、民進党の新人、鈴木庸介(ようすけ)氏だ。
豊島区や練馬区の一部を含む東京10区といえば、小池百合子都知事のお膝元である。その東京10区に自民党が擁立するのは、都知事選で「除名覚悟」で小池氏の応援にまわり、「小池劇場」の立役者となった若狭勝衆議院議員。豊洲新市場問題などをめぐって、「小池都政」に対する都民の注目度が高いだけに、野党候補は苦戦を強いられる可能性が高い。
10月9日、私はそんな鈴木氏に緊急でインタビューをおこなった。共産党を含む「野党共闘」に対する考えや、今回の選挙で掲げる主要政策、生まれ育った豊島区への思いなどについて話を聞いた(私自身も、彼と同じく豊島区の生まれ育ちである)。
立教大学経済学部卒業、NHK入局、コロンビア大学大学院修了、LSE(ロンドン経済政治学院)修了、そして今回の立候補と、「エリート街道」を突き進んできたかに見える鈴木氏だが、33歳から2年間、いわゆる「ニート」の状態となり、精神的にも非常に追い込まれた時期があったという。インタビュー中、突然、自分の過去について話し始めた鈴木氏は、涙まで見せた。
そのような経験から、「『総活躍』しなくてもいい、誰しも『居場所』のある社会をつくりたい」と語る鈴木氏。ときおり涙を見せながら、今回の選挙戦にかける思いを語った。
ところがこのインタビューから約2週間が経った10月20日、23日の投開票日の直前になって、民進党の最大支持母体である連合東京が突如、鈴木候補の応援から手を引いた。「野党共闘」で安倍政権と対峙しようとする共産、自由、社民の野党3党などが、鈴木庸介候補を応援する大規模な合同街宣を池袋駅前で開催したことに、「野党共闘」を頑として認めようとしない連合が反発したというのである。
しかし、その合同演説会に、当の鈴木候補自身は姿を見せなかった。
他党の支援者の票を取り込むチャンスをふいにしただけでなく、「応援してもらっているのに、当の候補が顔も出さず、挨拶ひとつしないとは無礼な」と、鈴木候補自身はさんざんに評判を落としている。しかも、それもこれも、「野党共闘」は絶対に許されないという連合の意向を「忠実」に従ったためである。この間の事情は、以下のレポートにまとめたので、ぜひ、御覧いただきたい!
連合は、鈴木氏が勝とうが負けようがどうでもいい。ただひたすら、「野党共闘」が実現しなければ、それでいいのだ。
鈴木候補はその意向に「忠誠」を誓って、自分を応援する合同街宣を欠席するという、前代未聞の「無礼」を働いて、世間から非難を浴び、その一方で、忠誠を尽くした連合からは、「野党連合は認めないからな」というみせしめのように、応援から手をひかれてしまった、というのだから、たまったものではない。
合同演説会の行われた直後、池袋から2kmほど離れた要小学校で行われた個人演説会の会場で、鈴木候補は、合同演説会に立たなかった理由を「小池さんと若狭さんが相手だったら、勝てるわけないんですよ、こっちが今いくら束になっても」と、見当違いの苦しい弁明を口にした。
「野党共闘」に乗り気ではないのはあくまで自身の判断で、連合のゴリ押しや民進党執行部の「オトナの事情」のためであるとは、決して口にしない。全部自分の判断、責任だ、と語る彼の口調は、いかにも苦しげだった。
9日の私のインタビューの中でも、鈴木候補は「野党共闘」に対して「蓮舫さんがリーダーシップで大きな方向性を示していただいているので、やはりそれについていくというのが組織人のあり方だと思いますし」と歯切れの悪い回答であった。衆院東京10区補選で「野党共闘」が実現しないのは、鈴木候補の問題というよりは、連合の意向に逆らえない民進党執行部の問題であると考えるべきだろう。
16日投開票の新潟県知事選では、事実上の野党共闘が実現して米山隆一氏が戦いを制した。民進党は自主投票に決めたが、選挙戦終盤になってから執行部が米山氏の応援に入り、最後は蓮舫代表も応援に駆けつけざるを得なくなった。当選した米山氏は、20日、私のインタビューに答え、「民進党と共産党はかなり政策が似ている。『政策が同じであれば、誰とでも組む』というのが政治の基本ではないか。こうした基本は、やはり大事にしたほうがいいと思う」と語った。
米山氏の勝利を見れば、「野党共闘」の成立が、与党候補者と戦う野党の候補者にとって、いかに心強く、選挙戦を戦い抜き勝利を得る上で、いかに大きなプラスになるかは、明らかである。
投開票日は明日に迫っている。「保守票が逃げるので『野党共闘』では勝てない」などと、民進党幹部や連合トップは言い続けているが、「野党共闘」を拒否して、その後に残るのはどんな結果なのか、明日、有権者が審判をくだすことになるだろう。注目したい。
- インタビュイー 鈴木庸介氏(衆院東京10区補選予定候補)
- タイトル 緊急インタビュー決定!岩上安身による東京10区補選 民進党公認候補予定者 鈴木庸介氏インタビュー
- 日時 2016年10月9日(日)19:00〜19:30
- 場所 民進党東京都第10区総支部(東京都豊島区)
生まれも育ちも豊島区「このまんま町屋か落合の火葬場で焼かれていくぐらい、地元の人間です」
岩上安身(以下、岩上)「皆さんこんばんは。ジャーナリストの岩上安身です。私は今、豊島区の北大塚に来ております。なんとなく雑然とした感じがするかと思いますけれども、東京10区で行われる補選の野党統一候補となりました、民進党の鈴木庸介さんの選挙事務所。オープンしかけのところに来ております。これから緊急で鈴木さんにお話をうかがいます。鈴木さん、初めまして」
鈴木庸介候補(以下、鈴木候補)「初めまして。鈴木です」
岩上「よろしくお願いします」
鈴木候補「お願いします」
岩上「ネットのこういうところに出るというのは、あまりご経験ないんじゃないかなと思うんですけれども」
鈴木候補「そうですね」
岩上「NHK出身だということで」
鈴木候補「ええ。NHK含め、既存メディアになかなか取材していただけないもので」
岩上「ああ、そうですか。古巣、何してるんだ、みたいなね」
鈴木候補「東京10区の自民党さんの話題のあとで、ちなみにこの他にも、と出てくるので…たいへんこういう機会を与えていただくのはありがたいです。ありがとうございます」
▲鈴木庸介候補