「右も左も机上の空論」「日本のメディア規制は末期状態」〜伊勢崎賢治・高遠菜穂子が安保法制で緊急トーク「戦争を知りたくない」日本人へ 2015.12.15

記事公開日:2016.1.10地域: テキスト 動画
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(取材:安道幹、文:IWJテキストスタッフ・関根かんじ)

※1月10日テキストを追加しました!

 「個別的自衛権も集団的自衛権も、国際法では『交戦権』のこと。われわれは、憲法9条の下で個別的自衛権の行使はできると思っているが、行使できるのは『自衛権』。国際法上の個別的自衛権(交戦権)ではない。今のPKO部隊は、住民を守るという理由で交戦主体になる。だから、PKOで自衛隊を海外に送ってはいけないのです」──国連職員として世界各地で紛争処理、武装解除を成功させ、紛争解決請負人の異名を持つ伊勢崎賢治氏は、こう断言した。

 2015年12月15日、東京都渋谷区の青山学院大学にて、「緊急トークセッション 本当に平和をつくる―伊勢崎賢治×高遠菜穂子 現場から問う、自衛隊、憲法、安保法制」が開催され、東京外語大学教授の伊勢崎賢治氏、イラクでの人道支援活動を続ける高遠菜穂子氏が、それぞれ講演を行った。

 伊勢崎氏は、安保法制の議論について、「右も左も、机上の空論を弄んでいる」と指摘する。国連では、集団的自衛権、国連措置(集団安全保障)、ミニ国連(EU、アフリカ連合、アラブ連合など)を作ることを可能にした国連憲章第8章(第52条)「地域的取極(ちいきてきとりきめ)」の、3つの合法的な交戦権がある。ところが、日本の立場は、国連の敵国条項(再び侵略戦争へ向かう動きがあれば、国連の許諾なしに国連加盟国が攻撃できる)の適用を受けた「保護観察中」の身であり、「ゆえに、日本は慎重にしなくてはならない」と釘を刺した。

 さらに、安倍政権が成立させた安保法は、「アメリカから高い買い物をさせるためのもの」と糾弾。安保法は、国連平和維持活動(PKO)、非国連総括型(有志連合型)、周辺事態の3点に絞られているが、「一番危険なのが、陸上自衛隊のPKO派遣だ」と指摘した。

 「国際社会に真実を伝えてほしい、とイラクの友人たちから懇願される」と言う高遠氏は、イラクでの12年間の支援活動の中で体験した現地の実態をスライドで紹介していった。「日本のマスメディアは、イラクの現状も、ISの真相も伝えない。特に2014年頃から、報道規制は末期症状だ」。

 質疑応答の中で、ISが勢力を拡大した理由について高遠氏は、2005年から続くイラク政府のスンニ派狩り(ISはスンニ派系)が原因だと言う。2004年、イラクでの支援活動中に自身が武装勢力に拉致されたのは、米軍のイラク空爆への憎しみが背景にあったから、とも話し、「戦争になると失業率が上がる。給料のいい武装勢力の兵士になるしか仕事がない。そして、憎悪の連鎖はアジアのイスラム教徒にも波及する。ロヒンジャ(ミャンマーのイスラム系少数民族)の迫害に対して、すでにISもアルカイダも報復をほのめかしている」と警鐘を鳴らした。

記事目次

■ハイライト

  • 講師 伊勢崎賢治氏、高遠菜穂子氏
  • コーディネーター 川口創氏
  • 日時 2015年12月15日(火) 19:00~
  • 場所 青山学院大学(東京都渋谷区)
  • 主催 イラク戦争の検証を求めるネットワーク(事務局長・志葉玲氏)(詳細

国連の敵国条項で「保護観察中」の日本は慎重にふるまうべき

 冒頭で、イベントを主催した、イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長を務めるジャーナリストの志葉玲氏が、「安保法制の成立により、政府は2016年から、駆け付け警護として自衛隊のPKO活動を実施する。紛争の現場をよく知る伊勢崎氏と高遠氏に、現状と今後の予測を語ってもらう」と挨拶した。

 伊勢崎氏は、「戦勝国である安保理常任理事国5ヵ国が、すべての武力を統制する支配者のセオリーに基づいて作られたのが、国連であり、国連憲章だ。その国連憲章第7章51条で、初めて集団的自衛権が国際法で定義された」と口火を切った。

 ところが、5大国にすべての武力の統制を任せることには無理があるため、3つの逃げ道を設けた。それが、集団的自衛権、国連措置(集団安全保障)、ミニ国連(EU、アフリカ連合、アラブ連合など)を作ることを可能にした国連憲章第8章(第52条)「地域的取極」である。

 ミニ国連も、国連の許可を得なければ作れない。だが、伊勢崎氏は、「許可なしにできる戦争が、ひとつだけある。それは、旧敵国(ドイツ、イタリア、日本)に対して反撃ができる敵国条項だ。つまり、日本は保護観察付きの立場なのだから、武力行使には慎重にならなければいけない」と語気を強めた。

 しかし、アメリカのアフガニスタン侵攻の際(小泉政権下)、自衛隊はテロ特措法で参加した。イラク戦争では、NATOでさえ拒否したにもかかわらず、日本はイラク特措法を作って協力ししている。伊勢崎氏は、「それらは国際法上、集団的自衛権の行使に該当し、立派な戦争行為だ」と指摘。さらに、ソマリアの海賊退治のために、ジブチに自衛隊基地を建設したことにも言及し、「集団的自衛権の行使容認の議論は、形骸化しているのだ」と明言した。

住民保護のため戦闘もする今のPKO「自衛隊を送ってはならない」

 伊勢崎氏は、「アメリカから高い買い物をさせるため、自衛隊が海外で展開できるようにしたのが、11本の法案をまとめた安保法だ」と語る。その現場は、国連平和維持活動(PKO)、非国連総括型(有志連合型)、周辺事態の3点で、もっとも危険なのが陸上自衛隊のPKO活動だと主張した。

 ルワンダでの住民虐殺を国連のPKO部隊が阻止できなかった事件を契機に、PKO活動の内容が大きく変化したことに触れた伊勢崎氏は、住民を保護する責任(Responsibility to protect:R2P )について、このように述べた。

 「昔は、国連は中立の立場で停戦を監視し、和平に導くとしていた。日本のPKO活動の5原則も、それに基づいていた。だが、今では大きく変わり、人権が武力介入の正当性となった。一方で、それは他国への内政干渉にもなるため、難しい部分もあったが、初めて実行されたのが2011年のアラブの春。リビアのカダフィを倒すため、国連主導で住民保護のために行った空爆だ」。

 最後に伊勢崎氏は、「個別的自衛権も集団的自衛権も『交戦権』、戦争のことです。国際法で『交戦権』とは合法的に人を殺す権利のこと。日本では憲法で『国の交戦権は、これを認めない』としている。われわれは、憲法9条の下で個別的自衛権の行使はできると思っているが、これは国際法上の『個別的自衛権の行使(交戦権の行使)』ではない。日本が行使できるのは『自衛権』なのです。ゆえに、住民を守るという理由で交戦主体になる今のPKOには、自衛隊は派遣できない。今も昔もこれからも、自衛隊を送ってはいけないんです」と力強く言明した。

緊急支援が急増、1ヵ月で1000人以上が戦争で死ぬイラク

 自衛隊基地の街、北海道千歳市出身の高遠氏は、「私は、自衛隊への嫌悪感はなかった」と話す。「千歳市は人口9万人のうち、3割が自衛隊関係者。街には戦車道路があり、常に戦車が走っていて、生活に自衛隊が密着していた。初めてバグダットに行って、砲撃の音に懐かしさすら感じてしまった」と苦笑すると、「だが、すぐに演習場と人が死ぬ戦場の違いに気づかされた」と表情を引き締めた。

 「イラクでは、月に1000人以上が戦争で死ぬ。また、負傷者も多く、局所麻酔だけで足をチェーンソーで切断している治療にも立ち会った。また、障害者になり働けず、難民になったり、家族を守れず自己嫌悪に陥いる若者も多い。さらに、ヨルダンで難民申請をしても、医療費は一括前払いで、治療も満足に受けられない」。このような生々しい体験談を、スライドを映しながら説明した。

 イラクでは、2013年末まで13ヵ月間にわたり、イラク政府による武力鎮圧が続き、死者が出ているにもかかわらず、毎週金曜にスンニ派市民のデモが行われていたという。2013年12月28日、イラク政府がアルカイダを掃討すると宣言。ファルージャなど、デモが行われた街が、アルカイダの拠点という理由で攻撃され、空爆まで加わり戦闘は激化する。

 「ファルージャの市民たちは自警団を組織し、政府軍と内戦状態に。難民も急増した。そして、住民たちが戦闘地域に出払った隙をついて、ファルージャはISに占拠されてしまった。そんな現状を、欧米のマスメディアは、内戦もひっくるめて、すべてISの仕業にすり替えて報道した」と高遠氏は憤った。

2014年から末期症状になったマスメディアの報道規制

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