泉田知事が田中委員長と初会談 国のずさんな原発事故対応の是正を要求 〜SPEEDIの活用、ヨウ素剤の事前配布の指針明記を訴え 2015.8.24

記事公開日:2015.9.2取材地: テキスト動画
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(箕島望・佐々木隼也)

※IWJ会員向けに会談の全文文字起こしを掲載しました!

 米国では航空機テロも含めて、原子力発電所の事故防止が検討されている。しかし残念ながら、日本では事故防止がうまく機能しない例というのがある——。

 泉田裕彦・新潟県知事は、田中俊一・原子力規制委員長との会談の冒頭、原発事故の防止・対応策が十分でない日本の原子力政策について問題提起した。

 「世界的に『テロの脅威』が高まりつつある」と叫ばれる昨今、安倍政権はさらに「中国の脅威」「北朝鮮のミサイルの脅威」を煽り立てながら、「戦争」のリスクを増大させる安保法制の成立を目指している。しかし脅威を煽る一方、テロを含むあらゆる原発事故リスクへの対応・防止策についてはおざなりのまま、原発を再稼働させるという矛盾を抱えている。

 そのうえ、安倍政権は2015年、原子力災害対策指針や防災基本計画から、「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の文字を削除。「予測が不確実なため」として、住民の避難に活用しないことを決めた。

 「被ばくが前提の避難基準では住民の理解は得られない」と訴える泉田知事は2015年8月24日、田中委員長と会談。原子力災害発生時の住民防護や避難のためのSPEEDI活用、ヨウ素剤の事前配布のための予算措置を要望した。

 泉田知事はこれまで再三にわたり田中委員長との会談を求めてきたが、田中委員長がこれを拒否し続けていた。今回、泉田知事は「全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長」の立場として、約3年越しの初会談がかなった。

 会談では、7月29日の全国知事会でまとめた、原子力災害に対する国の施策に関する提案・要望書を手渡した。

■全編動画

  • 面会 泉田裕彦氏(新潟県知事、全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長)、田中俊一氏(原子力規制委員会委員長)
  • 日時 2015年8月24日(水) 10:30~
  • 場所 原子力規制委員会(東京都港区)
  • 来 訪:全国知事会危機管理・防災特別委員会委員長 泉田 裕彦 (いずみだ ひろひこ)
  • 対 応:原子力規制委員会委員長 田中 俊一(たなか しゅんいち)

SPEDIの活用はNO、ヨウ素剤の事前配布はOK、しかしそのための予算は…?

 福島の事故では、ベント判断まで約8時間半だった。ヨウ素被曝の影響を下げるためには、安定ヨウ素剤を、放射性物質の到来前に飲む必要がある。しかも一番効果的なのは服用して、だいたい5,6時間ぐらいである。つまり、福島の事故のケースでは、事故発生後2〜3時間以内には、半径30km圏内の住民すべてに行き渡っていなければならない。

 泉田知事は、現在の指針では「実測値で数値が上がってから配る」とされていることを指摘。同様の事故がもし柏崎刈羽原発で発生した場合、半径30km圏内には約40万人が居住していることをあげ、「ここに数時間で配るというのは極めて難しい」と語った。

 さらに内閣府の原子力防災担当の職員からは、「風(放射性物質)が流れていく方向に、まずは集中的に配る」と説明を受けていることを紹介。であれば、拡散予測の参考としてSPEEDIの活用の仕組みを講じるべきではないか、と訴えた。

 そのうえで、米軍のほかフランス、ドイツ、イギリスなどでも同様の予測手法が導入されていることをあげ、「日本だけ、それも住民だけ使えないという指針のまま行かれると、やはり住民理解を得るということは困難ではないか」と語った。

 これに対し田中委員長は、SPEEDIは「風向きによって拡散を計算するだけ」であり、気象条件が安定している条件下でしか効果が発揮されず、そのうえ絶対値は評価できないと反論。「SPEEDIでの避難は基本的に、色んな混乱のもとになる。避難する、防災対策をとる必要がなくても、そういったもの(SPEEDI予測)を出すことによって色々問題が起きる」と語り、風向きでヨウ素剤を配るのは正しくないという認識を示した。

 そのうえで田中委員長は、ヨウ素剤の「事前配布」を推奨した。

 泉田知事は、「国が定めた指針にないと予算が取れないという構造がある」と、行政の仕組みを説明。配るための労力、予算について「指針に書いていないことを、各県が独自にやるのであれば、自分で予算措置をしなさいということになってしまう」として、指針への事前配布の明記を求めた。

 これに対し田中委員長は、「(政府に対し)柔軟に対応していただくよう私のほうでもお願いする。お金の面で不可能だということがあってはならない。そういうつもりで私も取り組んでいきたい」と応えた。

日本の現行法制度が抱える矛盾 「複合災害」時に住民の避難を妨げる法制度の不備の是正を

 他にも泉田知事は、全国知事会を代表して様々な問題点を指摘した。

 「米国なんかを見ていると、航空機テロも含めて、原子力発電所の事故を防止するということが検討されている。残念ながら日本は災害対策基本法と、原子力災害特別措置法の二つの法律で別建てになっているということから、うまく機能しない例というのがある」

 泉田知事は、自然災害発生時に原発災害も同時に発生するような、複合災害を想定した場合の「法制度上の弊害」を訴えた。

 現法制度上では、原子力災害時の避難指針では本来「屋内退避」となるが、同時に自然災害の観点から「避難」するとなった場合、住民避難のためのバス運転手などは労働安全衛生法上、被ばく量の問題で違反になってしまう。泉田知事はこうした法律上の不整合を直すよう求めた。

 これに対し田中委員長は、「管轄省庁が異なり簡単ではない」と回答。知事は規制委が他省庁への「勧告権」を行使するよう求めたが、田中委員長は「勧告権はもちろん法的には持っているが、それなりに意義がある勧告でないと、勧告したけれど『一応勧告しました』だけで終わるのは私としても、本意でないので…」と明言を避けた。

 泉田知事はこれら提案を、8月6日に山谷えり子・内閣府防災担当大臣、望月義夫・環境大臣にも要請している。しかし両大臣からは、この法整備の問題は「規制庁の仕事だ」と言われたという。しかし田中委員長は、「いえ、必ずしも…そのことは私がここで一存で決められることではないので…」と言葉を濁した。

 また、泉田知事は「今日の最大のお願い」として、今後も全国知事会との定期的な協議の開催を求めた。田中委員長は、全国知事会の特別委員会も数が多く難しいとし、「頭から否定するつもりはないが、すぐに具体化できるかどうかはちょっと…」と明確な回答は避け、会談は終わった。

 会談後は、泉田知事のみが報道陣のぶら下がり取材に応えた。泉田知事は会談を振り返って、法整備の勧告権の行使について田中委員長が明言を避けたことをあげ、「よく分からない理由で、行使の同意をいただいていないという状況。やはり国全体としての対応というのができていない、という以外言いようがない」と厳しく断じた。

 ぶら下がりでは他にも、原発に対するテロ攻撃、ミサイル着弾のリスクについて質問が飛んだ。

 ぶら下がり取材の動画・全文文字起こしは以下の記事に続く。

以下、泉田知事と田中委員長の会談全文起こし

(…会員ページにつづく)

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