2014年2月14日金曜日から続いた大雪は、関東甲信越・東北など全国9県で死者24人、負傷者596人、数千世帯に及ぶ孤立地域を出す、未曾有の豪雪災害となった。今、国の災害対策のあり方が問われている。
2014年2月21日、「全国積雪寒冷地帯振興協議会」の会長である新潟県の泉田裕彦知事が、山形県新庄市長、長野県栄村長とともに自民党、国交省、内閣府を訪問し、今後の雪害対策に関する緊急要望書を提出した。自民党では平沢勝栄衆院議員(政務調査会長代理)、国交省では中原八一参院議員(大臣政務官)、内閣府では古屋圭司防災担当大臣が、それぞれ対応した。
この要請行動をIWJは密着取材。しかし全編撮影を許されたのは古屋防災相との会談のみで、自民党は頭撮りとペン取材、国交省では頭撮りのみが許された。泉田知事らは古屋防災相との会談後、内閣府1階で記者のぶら下がり取材に応えた。
- 日時 2014年2月21日(金)
- 場所 国土交通省(東京都千代田区)
要望書では、国交省、総務省、内閣府に対し、「除雪費用分の特別交付税の増額配分」や、「被災地以外の自治体による除排雪支援費用の国の全額負担」などを求めている。
近年では、累積の積雪量では通常より多い程度だが、短時間で集中的に降り甚大な被害をもたらす「ゲリラ豪雪」が問題となっている。泉田知事は古屋防災相との会談で、この「ゲリラ豪雪」が自治体の財政を圧迫している現状をあげ、「国交省から雪対策の助成金をいただいているが、必要経費の7割程度。除雪にあたる土建業者がいざという時に万全の体制で出動できるような、待機時の財政支援、財政安定の確保をお願いしたい」と訴えた。
また山形県新庄市の山尾市長も、現在除雪した雪をダンプで運ぶ「排雪」の段階に入っていることにふれ、「宅配便や救急車を通すために道路に雪を置いておけない。しかし近年この排雪も財政を圧迫している。これでは田舎は生きていけない」と、窮状を訴えた。
雪国が広域応援できる体制作りを
また泉田知事は、今回新潟県が埼玉県と山梨県に除雪車を派遣した際に、雪国のように道路脇にポールが立っていない等の理由で、除雪作業が難航したことを紹介。雪国以外の道路が雪に対応していないことを指摘しながら、「関東でいくら除雪車を買っても練習できず、オペレーターの育成もできない。雪国が機材・人員に余力をもっておき、いざという時に広域応援できる仕組みを作っておいた方が効果的だ」と語った。
そのうえで、「災害救助法を修正して、いざという時に応援する側が費用を国に直接請求できる仕組みを作ってもらいたい」と要請した。泉田知事によれば、今回山梨県に事務方レベルで応援の打診をした時に、一度は断られていたという。その点をふまえ、泉田知事は「制度として広域応援した方が直接請求できる仕組みを作ってもらわないと、頼む方も頼まれる方も躊躇してしまう」と訴えた。
道路は早く止めれば良いというわけではない
さらに泉田知事は、道路の早期通行止めの問題点にも言及した。地面に降り積もった雪が風によって吹き上げられることで、通常の降雪の100倍のスピードで車や建物周囲に積もる「地吹雪」の脅威を説明。そのうえで、3年前の新潟県における大雪の際に、国道を早く止めたことで脇の農道や県道に流れた車が「地吹雪」により立ち往生してしまった事例を紹介。「早く止めれば良いというわけではなく、幹線をまずはあけておき、他の道路を止めてから順番に止めていただきたい」と要請した。
古屋防災相「自治体もSNSの活用を」
一方、古屋防災相はSNSの活用について言及。古屋防災相のFacebookに投稿された、現地からの「国道何号線でこうなっているから早くこうして欲しい」という具体的な要望に対し、トップダウンで対策を指示したところ、数時間で対応できたという。古屋防災相は「SNSの活用を自治体も工夫をしてやっていくと、かなり効果がある。地方公共団体でも、その点をよく研究していただきたい」と語った。
泉田知事も、「私が早く動けたのも、(SNSを)見ていたから。見た瞬間に『もうダメだ』、というのがわかった。初日から動くということは、『どう受信するか』が重要」と、災害対策におけるSNSの重要性を確認した。
SNSの活用を強調する古屋防災相だが、今回の大雪では、特に政府・官邸の情報発信の無さが問題となっている。特にTwitterでは官邸の災害アカウントや、安倍総理のアカウントが、深刻な被害を出している14日、15日、16日には一切の情報発信を行なっていない。
「放置自動車撤去で問題は解消されるのか?」政府の法改正に疑問符
最後に古屋防災相から、「放置自動車についてどうでした?」と問われた泉田知事は、「車内に留まることで一酸化炭素中毒になる可能性がある。今回新潟県で100台立ち往生した時には、近くにまず避難所を開設して誘導した。除雪後にその避難所に道路の復旧を連絡したから、スムーズに開通できた」と回答。「自治体で避難所を開設してから止めるべきでしょう」と語った。
それに対し古屋防災相は、「放置自動車の問題は、去年の災害対策基本法の改正の時も、首都直下地震の時の検討課題として残った。この通常国会で法改正が必要ならばやろう、ということも含めて、それぐらいスピード感をもってやりたい」と語った。政府は現在、今回の大雪で放置車両が除雪を妨げるケースがみられるとして、緊急時に車両の撤去を可能にする法改正を検討している。
会談後のぶら下がりで、この件について問われた泉田知事は、「動かせるようにしたほうが良いのだろうが、雪のある中でレッカー移動は物理的にできない。地震の場合は分かるが、雪で立ち往生した車を法律で動かせるようにしても、レッカー車は入れず、移動はできない。法改正で問題が解消されるのかどうか、どういうイメージなのかちょっとわからない」と疑問を呈した。
「雪対策の専門家を国の危機管理に加えるべき」
またぶら下がりでは、IWJが国の情報発信の不備について質問。今回の大雪では、国の情報受信・発信の「遅さ」が被害を拡大させたのではないか、との指摘がある。
国の情報発信の今後の課題を問われた泉田知事は、「私も霞ヶ関で働いているときは東京都民だったが、東京にいると、例えば山際で一晩に70センチ雪が降ればどういう事になるか、というイメージが湧かない」と前置きしたうえで、「司令塔が東京にあり、周りの23区のイメージしか無いなかで、どうすればいいかの指揮が本当にできるのか」と指摘。「新潟から応援を派遣した時は、孤立対策をまず念頭に動いた。しかしその時東京で何をやっていたかというと、幹線道路の回復。まさに自動車をどうするか、みたいなことをやっていた」と、今回の政府の対応を問題視した。
泉田知事は今後の国の災害対応のあり方について、「雪が多い所の孤立対策どうするか、というのを経験している人が、国の危機管理に加わるべき。かといって、例えば国交省の北信越運輸局長が指揮できるかというと、そういう制度になっていない」としたうえで、「なので例えば自治体から出向で、雪対策危機管理官みたいな人を配置し、指揮をする仕組みをもっていた方が良いのではないか」と語った。
奥多摩の孤立をイメージできなかった舛添都知事
東京都の舛添都知事は、2月9日にフジテレビ系情報番組に電話出演した際、大雪対策について問われ「(大雪は)一日で終わる話」と語っている。雪による事故、停電、ライフラインの破損、負傷者、死者などの被害はもとより、「山間部の孤立」という問題についても、全くイメージが出来ていなかったことが分かる。選挙戦では「三多摩地域のインフラ整備」などを重要政策に掲げていた舛添都知事だが、今回の大雪による奥多摩の孤立被害については想定外だったようだ。
東京都のほか、埼玉県なども、今回の雪害では対応が遅れている。政府も含め、二度と同じ事態を避けるためにも、泉田知事が提言するような大雪に対する危機管理体制の、早期の構築・整備が必要ではないだろうか。
【追記】会談の内容をほとんど報じない既存メディア
内閣府での古屋防災相との会談は、報道陣にフルオープンで行われてたにも関わらず、現在この要請の模様を含めメディアではほとんど報じられていない。この要請を取材したのはIWJの他には共同通信と新潟日報の3社のみ。会談後のぶら下がりでも3社以外の姿はみられず、会談からぶら下がりまで、撮影したのはIWJのみだった。
23日20時現在で、確認できるものでこの要請を報じているのは、静岡新聞と秋田魁新聞が共に「共同電」で「除雪経費への財政支援要請-防災相に新潟知事ら」と短く報じているのみ。記事内容も、要請の内容や泉田知事の指摘についての記述はほぼ無く、放置自動車撤去の法改正についてのやり取りを主軸に据えている。肝心の共同通信の記事は確認できていない。
古屋防災相も23日に出演したフジテレビ「報道2001」で「豪雪地域の知事からいい提案があった。経費補助出れば支援し易いといわれた」などと語り、泉田知事を「豪雪地域の知事」と言い換えるなど、泉田知事の動きがほとんど報じられない状況下にある。
貴重な記事と思います。ただ、「地吹雪」の定義が間違っていますよ。
執筆したIWJ記者の佐々木です。「地吹雪」の定義についてのご指摘、ありがとうございます。
急ぎ調べ、記事内容を少し修正加筆致しました。