ロックの会「IWJ NIGHT」集団的自衛権、ヘイトデモ、日本のエネルギー戦略で激論 ~藤和彦氏×岩上安身の「ウクライナ問題」詳解も 2014.9.9

記事公開日:2014.9.22取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田)

 2014年9月9日、東京・代官山で行われた「第35回 ロックの会」 は、IWJ主催の「IWJ NIGHT」だった。ゲストは元自衛官の泥憲和氏、現役の経産官僚である藤和彦氏、関東大震災の混乱に乗じた朝鮮人虐殺の問題に明るい、フリーライターの加藤直樹氏の3人。ホスト役の岩上安身との間で、くつろいだ雰囲気ながらも鋭い議論が展開された。

 藤氏は「日本はロシアから、海底パイプラインを使って生の天然ガスを直接引き込むべきだ」と主張。集団的自衛権をテーマに講演した泥氏は、中国による台湾併合の見地から、米国が日本に集団的自衛権の行使容認を迫った理由について言及した。

 そして加藤氏は、東京の大久保を中心に頻発してきたヘイトスピーチ(差別的発言)デモに改めて不快感を示し、いわゆる「ネトウヨ」と呼ばれる、極右の色合いが濃い人々の主張は明らかに間違っている、と指弾。彼らがネタ本としている2冊の書籍は、内容が事実から乖離しているとし、版元である産経新聞出版とWAC(ワック)を批判した。

※藤和彦氏、泥憲和氏、加藤直樹氏には、それぞれ岩上安身が単独インタビューを行っている。3者それぞれのインタビュー動画記事は以下。

記事目次

■ハイライト

「原発か、再生可能エネルギーか」は不毛の議論

 北方領土問題が象徴するように、日本とロシアのあいだで緊密な連携がとれていないことは周知の事実である。だが、両国の間にパイプラインを敷き、ロシアから天然ガスを「生ガス」のまま輸入すれば、日本が抱えているエネルギー問題の大部分が片づく──。こうした提言を熱心に行っている日本人がいる。最初のゲスト、藤氏である。

 藤氏はまず、客席に問いかけた。「皆さんのほとんどは、反原発の立場だと思うが、原発の代替には(太陽光発電に代表される)再生可能エネルギーでなければダメだ、という人はどれだけいるか」。

 結果は、大多数が「原発反対」に手を挙げるも、再生可能エネルギーにこだわった人は少数だった。安堵の表情を浮かべた藤氏は、「(3.11のフクシマショック後に)巷間聞かれてきたのは『原発か、再生可能エネルギーか』の二項対立的な議論であり、これは実に不毛なことだった」とし、「世界はすでに、天然ガスの時代を迎えている」と強調し、次のように続けた。

 「二酸化炭素排出の点で、天然ガスは地球温暖化の問題に抵触するが、石油、石炭、天然ガスの3つを比較して、単位あたりの二酸化炭素排出量がもっとも低いのが天然ガスだ。しかも、石油に見られる際立った中東依存性とも無縁である」。

 原発停止以降、日本のエネルギー源は、主に石油と石炭と天然ガスで、全エネルギー消費に占める天然ガスの割合は石油に次ぐ2位。今は、日本の電力会社が中心になって、海外から輸入した液化天然ガス(LNG=タンカーで運ぶために天然ガスを一時的に液体にしたもの)を焚いて電気を起こしているが、日本の天然ガスの輸入価格は諸外国と比べてかなり割高だと、藤氏は訴える。

 そして、「日本と同様、韓国も割高で、両国に共通するのは(コストの押し上げにつながる)液状という形でしか輸入していない点。これに対し、世界の天然ガスの取引量の約9割は、産地からのパイプラインで直接持ってくるやり方だ。欧州も旧ソ連時代から、ものすごい規模のパイプラインで生ガスを引き入れてきた」と語った。

日露パイプライン敷設の必要性

 日韓のLNGの輸入価格は、「原油価格にほぼ連動してきた」とも藤氏は指摘する。岩上安身が「天然ガスの国際的な価格下落のメリットを、日本は享受できていないということか」と訊くと、「LNG形式でしか輸入できないというのは、明らかに致命傷だ」と藤氏は重ねて強調。国際比較で群を抜いて高い日本のガス料金は、その現実を映す鏡だと応じた。産業用で見た場合、日本のガス料金は米国の7倍強、フランスの約2倍である。

 日本にとって「脱LNG」は急務と主張する藤氏は、「韓国はすでに、国内にはパイプラインを敷いている。将来的に、ロシアから生ガスを直接仕入れるためだ」とし、「先進国の中で唯一、国内にパイプライン網を持っていないのが日本だ」と強い調子で言った。

 ここで岩上安身と藤氏の2人は、「ウクライナ危機」について話し始めた。藤氏が「あの紛争は、米国の(イラク戦争を推進してきた)ネオコンによる火遊びだと思っている」と話すと、岩上安身は次のように言葉を継いだ。

 「一番気の毒なのは、ロシア国民だ。米・欧・日の大手メディアは、ロシアとウクライナが戦争しているようなトーンで報じているが、親ロシア派はウクライナ国民。つまり、ウクライナ政府とウクライナ国民が、国内で戦っているのだ。その証拠に、自分の国の政府への不信感を募らせているウクライナ国民は、首都のキエフには逃げず、ロシア側に避難している。この事実は、キエフ政権とその背後にいる米国の酷さを如実に物語っている」。

 米国の現実主義者は、ネオコンがやっている火遊びにうんざりしているとした藤氏は、「ロシアは濡れ衣を着せられつつも、欧州への天然ガスの輸出を停止するとは一度たりとも表明していない」と強調。「ロシアのように、外貨獲得の面でエネルギー輸出依存度が極めて高い国は、相手国に対して立場の優位性を示すことはできない」とも語り、次のように付言した。

 「エネルギーの輸出も、グローバリゼーションを背景にした『大競争時代』に突入している。つまり、エネルギー輸出を『外交の武器』に使うことはできないのだ。ロシアは旧ソ連が崩壊した時も、欧州への天然ガス輸出を止めていない」。

対ウクライナ「ガス供給停止」の影響

 これを聞いた岩上安身は、ウクライナがロシアにガス輸入代金を支払っていいないことに言及。藤氏は「ウクライナは代金を支払っていないだけでなく、欧州へと延びるパイプラインから勝手にガスを抜き取っている」と指摘した。

 ロシアは今年6月、ウクライナから支払いを受けた分だけ天然ガス供給する「前払い方式」を導入。しかしながら、ウクライナはこれに反発し、支払いを拒んだ。
 
 その結果、ロシアは同国へのガス輸出を、あくまでも滞納を理由に停止。ロシアは欧州諸国には供給継続を約束するも、欧州の人たちは、ウクライナへの供給停止話が持ち上がった時点で「パイプからの抜き取り」を案じた。ウクライナは欧州諸国に対し、供給されたガスの一部を自国へ「逆送」してほしいと求めるようにもなった。

 岩上安身が「ウクライナは、極寒の冬を乗り越えられない」と心配すると、藤氏は「このままだとウクライナの財政はデフォルト(債務不履行)を起こすため、IMF(国際通貨基金)を含む国際金融界から圧力を受けている」と応じた。

 とはいえ、ウクライナのポロシェンコ大統領は、独立記念日(2014年8月24日)に、2015年~2017年に30億ドル規模の軍備増強を行うと発表した。それは受けたばかりのIMF融資で「喧嘩支度」を行うことを意味している。

 岩上安身は「優先すべきはロシアへの、36億ドルものガス代未納分の支払ではないのか」と強調。「ウクライナがやろうとしていることは正気の沙汰ではない」とし、「米国がウクライナをそそのかしていなければ、絶対にこんな事態には陥っていない」と訴えた。

ロシアは、日本に売りたがっている

 その後、藤氏からの「先般、ロシアは中国にガス供給することを決めたが、これは明らかにウクライナ危機が背景だ」との指摘に、岩上安身は「米欧がウクライナの味方となって、プーチン大統領をサダム・フセインのような悪人に見せる一大キャンペーンを張っている。そうである以上、ロシアが危機感を抱くのは当然で、新たなパートナーに中国を選んだことになる。『世界の工場』と言われて久しい中国と組めば、たとえ欧米から経済制裁を受けても、大抵の工業製品が手に入るという副次的効果も得られる」と解説を加えた。

 藤氏はこれに同意しつつも、ロシアは、中国への依存度を高めるとガスを買い叩かれることもわかっており、だからこそ「対日本」のカードを切ることを真剣に考えていると発言し、次のように力説した。

 「日本が、今の状態で脱原発の道を突き進んだら、間違いなく『エネルギー価格の高騰』にあえぐことになる。それを回避する最良の方法は、日露間に生ガスの海底パイプラインを敷くことだ」。 

 産地との距離が直線で4000キロより近ければ、パイプライン敷設に巨額の資金を投入しても理がかなうという。日本とロシア(サハリン・ガス田)はそれに当該する、とした藤氏は、「驚いたのは、8月25日にあったロシアのラブロフ外相の記者団へのコメント。『プーチン大統領には、まだ、今秋に日本に行く気持ちがある。決めるのは日本だ』という趣旨だったのだ」と語った。

 藤氏は、日本がウクライナ危機を巡り、対ロシアの制裁措置を発表したことについて、「日本から制裁を受けることを知っても、ロシアは門戸を閉ざしていない。今の状況は、ロシアの対日姿勢が大きく変化した証拠だ」とした。

 日露パイプラインの実現可能性について、藤氏は「日本パイプライン(小川英郎社長)」という札幌に本社を構える株式会社の名前を挙げ、同社がロシアのサハリンのガス田と日本をパイプラインでつなぐ計画を進めていることを話した。自民党内にある「パイプライン議連」は、4月、経済産業大臣と財務大臣に計画支援の要請を行い、前向きな回答を得ている模様で、岩上安身は「近いうちに小川社長にインタビューしたいと考えている」と表明した。

中国・台湾併合と集団的自衛権

 次のゲストの泥氏は、冒頭から「集団的自衛権の行使容認の報道では、メディアが国民をミスリードしている」と口調を強めた。

 メディアの議論は「集団的自衛権」という言葉の「集団的」の部分に重点が置かれ過ぎている、と泥氏。「後半の自衛権の部分は、『自分がやられたらやり返す』というのが本来の意味だが、これまでに世界で集団的自衛権が発動された10回余りのうち、本当に自国を守るために発動された事例はない」とし、1956年に起きたハンガリー動乱を例に挙げた。

 旧ソ連の支配に反発したハンガリー市民による蜂起を、旧ソ連は、資本主義国による思想侵略の結果で、市民は騙されていると判断。ハンガリーと条約を結んでいる自国の自衛権を発動させ、市民運動を鎮圧した──。

 泥氏は、これを「押し付け的集団的自衛権」と看破。岩上安身が「ヤクザの組から抜けようとしている人に、その組が『お前、抜けさせないぞ』と袋叩きにしているようなものだ」と説明すると、泥氏も「その組が、袋叩きした相手に向かって『お前のためを思ってやった』と言っているのに等しい」と補足した。

 そして泥氏は、「安倍首相は集団的自衛権行使容認の必要性を、『日本の若者が血を流さなければ、米国は日本を守らない』といった理屈で説明するが、米国の側の理屈は違う」と訴えて、「台湾危機」というキーワードを提示した。

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「ロックの会「IWJ NIGHT」集団的自衛権、ヘイトデモ、日本のエネルギー戦略で激論 ~藤和彦氏×岩上安身の「ウクライナ問題」詳解も」への2件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    IWJ NIGHTの開催ありがとうございました。
    会場はIWJ会員の方が多かったと思いますが、とても集中してお話を聞ける環境ですし、参加者の方の質問がよく勉強されている内容なので、私のよこしまさが少々恥ずかしかった。(岩上さんやゲストの皆さんや、スタッフの皆さんにお会いできるのが楽しみだったものですから。)
    撮影禁止だったはずですが、一眼レフカメラと言うのでしょうか大きなカメラを背中側にかけて、イベント終了後にゲストに長々と話しかけていた女性はマスコミの方でしょうか。
    他のイベントに便乗して取材をする(もしくは邪魔をする)マスコミの態度がネットで可視化されていたので、そう思いました。
    撮影禁止の場所にわざわざカメラを持ち込んで撮影しようとした事柄は何でしょう。

    私はしばらく自分のマスコミアレルギーと向き合わなくてはいけません。

    会場で食べたお料理がおいしくて、私はお昼にペンネを茹でました。食べなれないお料理との出会いも嬉しいですね。

    映っていないものをコメントしましたが、映っている内容もすごいです。 サウジアラビアの春といい!

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    ロックの会「IWJ NIGHT」集団的自衛権、ヘイトデモ、日本のエネルギー戦略で激論 ~藤和彦氏×岩上安身の「ウクライナ問題」詳解も http://iwj.co.jp/wj/open/archives/167732 … @iwakamiyasumi
    この会だけでも、会員になる価値有り!知りたい・知るべき事実がここにある
    https://twitter.com/55kurosuke/status/516343653707427840

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