【文化】「誰かを倒す革命に答えはない。必要なのは各々の中の意識革命だ」 ラッパー・DELI氏が松戸市議選に向け本格始動開始 2014.8.28

記事公開日:2014.8.30取材地: テキスト動画
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(IWJ・原佑介)

 「って事で、俺は今年の11月に俺の地元である松戸市の市議会議員選挙に立候補します!す。もう決めた!」――。

 ラッパーのDELI氏が2014年6月18日、突如、twitterで、自身の地元・千葉県松戸市議会選挙への立候補を表明した。

 DELI氏はソロ活動の他に、2000年代の日本のHIPHOPシーンを牽引した8人のラッパー集団「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」の一人としても、若年層を中心に広く知られている。

 立候補表明後、自身の政治団体「PLANET ROCK」を立ち上げたDELI氏は8月28日、池袋のクラブ「BED」で政治資金パーティーを開催した。

■ハイライト

  • 出演:DELI氏、K DUB SHINE氏、SUIKEN氏、DJ OASIS氏、B-YAS氏、B.I.G.JOE氏、山本太郎議員、三宅洋平氏、他

「日本社会を自分の目で確かめようと思った」

 この日の政治資金パーティーは、「PLANET ROCK」の事実上の発足式も兼ねていた。ラッパーが、なぜ市議会議員選挙へ立候補すると決めたのか。DELI氏は冒頭、出馬を決意した胸の内を語った。

 「もともと社会問題に関心はあったが、3.11の福島第一原発事故以降、自分の目で確かめようと思った」――。

 DELI氏は震災後、「BOND&JUSTICE(大土雅宏代表)」(※)の活動に合流して、被災地での炊き出しにあたった。また、反原発デモにも積極的に参加し、地元・松戸市の放射性物質汚染の計測にも取り組んだ。

 さらに「脱被曝」を掲げる団体「オペレーション・コドモタチ」を立ち上げ、福島などに住む家族の避難をサポート。常日頃から「子どもたちを守れ」と訴えており、Twitterでの出馬表明の際も、「自分たちの子供に給食くらい選ばせてやりたい!」と語り、市議当選後の活動方針を示した。

問題の本質は「民主的プロセスの欠如」

 DELI氏は、精力的な活動を重ねる中で、「思うところがあった」と振り返る。

 「7月に集団的自衛権の解釈改憲の閣議決定があって、そのときに、『総理が安倍さんから他の人に変わっても、そう大きく社会派変わらないんじゃないか』と思った。確かに安倍さんはむちゃくちゃだけど、根本的な問題は原発も辺野古基地建設も一緒で、『プロセスがおかしい』ということ。安倍さんの政策に賛成・反対する以前の問題で、必要な手続きをすっぱぬいて解釈改憲をやったことが問題だ」

 民主的なプロセスの重要性を指摘した上で、「誰かを倒す革命を目指しても、答えはない。各々の中からはじまる意識革命が必要だ。みんな、自分の物語の主人公は自分だ」と話すDELI氏。「ヒーローやメシアを求めたり、誰かを倒せば変わる、などとは思ってほしくない」と呼びかけ、ごく少数のリーダーに頼るのではなく、一人ひとりの積極的な社会参加や意思表明が重要だとの認識を示す。

 その上で、「3.11以降、おれは『できないこと』ばかり探したけど、その中でもなんとか『できること』を探し、市議会選に出ることにした。それならおれでもできるだろう、と思った」と、市議選に挑戦するに至った心の内を語った。

 原発事故後の松戸市は関東でも比較的に放射線量が高く、「ホットスポット」と呼ばれている。にも関わらず、十分な測定はされていない、とDELI氏は語る。

 市議として「脱被曝」を進める一環として、松戸市内にある約400の公園のうち、少なくても100カ所の土壌を測定し、汚染状況を明らかにすることに予算を割きたい、などと展望を話した。

山本「全国選挙に候補者を出しているつもりで資金援助が必要」

 パーティーには、山本太郎参議院議員と、昨年の参院選で17万票超を獲得した三宅洋平氏も駆けつけた。

 DELI氏の出馬の決意は、山本、三宅両氏の影響が大きいという。「洋平くんが選挙中に言っていたように、政治の敷居を下げていこうと思う。みんな、政治を高く見積もり過ぎているが、『おれにできるんだから他の人にもできる』ということを証明したい」とDELI氏はいう。

 山本議員は、選挙でかかる資金面の苦労に言及。「松戸エリア内だけで選挙すれば何百万円で済むと思う。でも、DELIさんは松戸だけでなく、全国に運動を広げていくという意味で、全国選挙の感覚で選挙に挑んでいると思う」と述べ、「僕たちも、全国選挙をやっている感覚でDELIさん支えていかなければいけない。全国選挙に候補者を出している、というつもりで資金援助が必要だ」と呼びかけた。

 さらに山本議員は、『近いうちに解散総選挙が行われる可能性もある』と語る。

 「秋の解散率は50%とも言われている。野党は誰もその準備をしていない。消費税増税後に景気が上がったことはない。となると、これから安倍政権の支持率も下がるだろう。安倍政権は権力を守るために拉致問題に力を入れ、支持率を上げる。そこで解散したら、今よりも権力を持つことになる」

 このように危機感をあらわした山本議員は、「一人ひとりが準備しなければいけない。人数が増えるほど供託金も集まりやすい。もし解散がなくても、準備をしておけば、次の統一地方選につながる。権力がこれ以上議席を増やせば、もう打つ手はない。一人ひとり力を合わせて頑張っていこう」と訴えた。

音楽で世界は変わらないけど、音楽なしで世界は変わらない

 参議院の選挙戦を経験した三宅氏は、「投票率挙げるいい方法は、やっぱり仲間から候補者が出ることだ。友達が甲子園に出れば、野球が嫌いでもその試合を観る」と述べ、選挙を身近なものにする工夫が必要だと主張する。

 「おれたちはローカルなクラブのイベントを散々やってきた。ポスターを使って客を集める行為と選挙のベクトルは一緒。おれらが得意なことだ」

 三宅氏は「自民党が前の選挙で取ったのは1800万票だけだが、1800万票で戦争するかしないかが決められてしまう。無投票層は4000万人いて、自民に入れた人の倍以上の人が投票に行かない最大党派だ。自民に投票する、と決めている人を説得するよりも、普段は選挙に行かない人に選挙に行ってもらうほうが早い」との見解を提示した。

 続いて、「おれは、『音楽で世界は変わらないけど、音楽なしで世界は変わらない』と思っている。海外でもラッパーが立候補、ということですでに話題になっていて、それに続く人が出る、とも聞こえてきている。音楽の中だけに閉じ込められてはだめだ、一歩踏み出すと世界が広がる」と説く。

 「(DELI氏の立候補は)日本の音楽業界にも影響を及ぼすはず。音楽も良くなるだろうし、DELIくんに続く人も出るだろう。こんな動きは世界中でみたことがない。DELIくんの姿をみて、ファンはどんどん勉強する。その勉強した人たちが街に繰り出す。これはすごいことになる」と希望を口にした。

「HIPHOPと政治」

 その後、DELI氏と同じラッパーやHIPHOPのグラフィティアーティストが登場。社会派と呼ばれるHIPHOPグループ「キングギドラ」の一員で、ラッパーのケーダブシャイン氏は、「HIPHOPと政治」というテーマでスピーチした。

 ケーダブシャイン氏は、HIPHOPとの出会いを、「ラップもDJのスクラッチも、これまでにない新しいものだったからハマっていった」と振り返る。

 「『RUN DMC』とかに憧れて自分でもラップやっているうちに、『KRS-1』や『Public Enemy』なんかの社会的な発言をするラッパーが出てきて、彼らが『米国の黒人の歴史の負の遺産をここで終わらせよう』と打ち出したことで、それがトレンドになっていった。みんなアフリカのペンダントとかをして、『アフリカにいたときおれたちは戦士だったんだ、誇り高き存在だったんだ』というようなことを言い始めた。

 当時の米国の黒人はそれまで奴隷として生きてきたことしか知らされてなくて、自尊心も誇りもなかった。それまでにもマルコムXとかキング牧師もいたが、それだけでは足りない部分があった。そこで『KRS-1』がマルコムXなんかのメッセージを改めて取り上げ、90年代のHIPHOPが盛り上がっていった」

 ケーダブシャイン氏はさらに、「黒人たちが『同胞愛や兄弟愛で意識を上げ、生活環境を上げていこう』としていたその時代、おれはアメリカにいて、その動きを目の当たりにした。そして、『どうせラップをやるなら、おれもそういう方向でメッセージを伝えたい』という衝動に駆られた」と語り、メッセージ性の強いラップを歌い続ける自身のルーツを紹介した。

マイケル・ジャクソンもマイケル・ジョーダンも奴隷の子孫

 続いてスピーチしたのはブルックリン・ヤス氏。日本初のヒップホップ専門のメジャーレーベル「Future Shock(フューチャー・ショック)」の代表を務める人物だ。ケーダブシャイン氏と同様に、90年代に米国で生活していたBrooklyn Yas氏は、やはりHIPHOPカルチャーに感銘を受けたと明かす。

 「白人は裕福な生活をしている人が多いが、この白人が何に憧れているのかというと、みんな黒人の音楽やファッションだった。そしてその黒人たちが普段何を話しているかというと、政治や文化、黒人の歴史なんかの話をしていて、『ちょっと待って、音楽でこんなこと言っちゃってすごくない?』と感銘を受けたことから、おれのHIPHOPが始まった」

 ブルックリン・ヤス氏は続ける。

 「そんな黒人の友達の一人に、『お前ら日本人は米国に戦争で負けて、原爆を落とされた。でも、お前らは歴史を辿れば侍だっただろう。でも、おれたち黒人には、そんな歴史はない。マイケル・ジャクソンでもマイケル・ジョーダンでも、どんな大物だろうが、黒人は、遡ればみんな奴隷だった爺ちゃんがいたんだ。だからおれたちは、おれたちのために黒人の文化をちゃんと形成しなければいけないんだ』と言われた。

 すごい格好いいと思って、『おれも何か一緒にできないか』と聞いたら、『黒人は黒人のために戦う。お前は、日本人の戦いをすることが正しい』と言われ、目からうろこだった。そこから、おれのHIPHOPのミッションが始まった」

 ブルックリン・ヤス氏は帰国後の1997年に「Future Shock」を設立。同レーベルには「ZEEBRA」「OZROSAURUS」などの有名なラッパーが多数名を連ね、ケーダブシャイン氏などとともに日本のHIPHOPシーンの黎明期を支えた。

 「3.11を受けて、『Public Enemy』のリーダー、チャックDが『HIPHOPはマイノリティのCNNである』と言ったことを思い出した。『声なき人たちが声をあげて、みんなをつなげる文化になる。HIPHOPは、そういうメディアなんだ』と。

 震災で日本が大変になったときに、『僕らにできることがあるんじゃないか』と思い、「BOND&JUSTICE」なんかと行動した。そして今度は、信頼できる仲間が選挙に立候補する。そんなに楽しいことはなく、応援するしかない。DELIの立候補はHIPHOPとして不自然なことではなく、そのまんま(HIPHOPの行動)だ」と語った。

「HIPHOPは底辺の声を声高に伝えていくこと」

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