新自由主義は「機能不全の経済」 ~ノーム・チョムスキー教授講演会 第2回「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」 2014.3.6

記事公開日:2014.3.6取材地: テキスト
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(取材・記事 IWJ 野村佳男)

 現代における最高の「知の巨人」の一人、マサチューセッツ工科大学名誉教授のノーム・チョムスキー氏による講演「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」が、2014年3月6日(木)、上智大学四谷キャンパスで行われた。

 チョムスキー教授の講演は、前日の第1回「言語の構成原理再考」に引き続き、今回が第2回となる。チョムスキー教授の研究テーマである「言語学」からさらに発展し、人類にとって「資本主義」「民主主義」とは何か、という深い命題を問う講演となった。

 チョムスキー教授の活躍は、学術界にとどまらず、民主的な社会を構築するためのあらゆる活動にまたがる。1960年代にベトナム反戦運動の中心的存在として活動して以来、人種差別の撤廃や人権保護のために闘い続ける知識人としても広く知られている。

 そして90年代以降は、現代社会をとりまく新自由主義(ネオ・リベラリズム)や経済至上主義、そこから生じる貧富の格差などの社会問題に対し、書籍やメディアなどを通じて、警告を発し続けている。

※ビデオ撮影NGのため、動画はございません。ご了承ください。

※ビデオ撮影NGのため、動画はございません。ご了承ください。

  • 日時 2014年3月6日(木)
  • 場所 上智大学四谷キャンパス(東京都千代田区)
  • 主催 上智大学、CREST(「言語の脳科学に基づく神経回路の動作原理の解明」)、上智大学大学院言語学専攻、上智大学国際言語情報研究所

新自由主義は「機能不全の経済」

 チョムスキー教授は、本講演のテーマである「現在の経済システムにおける人類の生存の見込み」について、「新自由主義の市場システムの下では、人類が生き残る可能性はきわめて低い」と、現状に対する厳しい見方を示した。

 18・19世紀に活躍したアダム・スミスやジョン・スチュワート・ミルらに代表される、「古典的な自由主義」では、支配層による大衆への不自由や制限は寛容できないものとして、それを取り除くことが題目であった。

 しかし、現在はびこる「新自由主義」は、支配層の自由のため大衆に不自由を強要する仕組みであり、古典的な自由主義とは似て非なるものであると、チョムスキー教授は解説した。

 19世紀の米国では、労働者は同時に企業所有者であり、現在のような「賃金労働者」という概念は否定されていた。チョムスキー教授は、「共和党が150年間かけて、そのような考え方を国民に浸透させてきた」と説明した。

 チョムスキー教授は、「我々は今、(スミス以前の時代への)逆行の時代を生きている」と指摘。世界でもっとも裕福な米国ですら、1000万人以上が失職し、学校や交通などのインフラが崩壊しており、新自由主義は「機能不全の経済」と断罪した。

「自由貿易」という言葉に騙されるな

 チョムスキー教授は、NAFTA(北米自由貿易協定)などの自由貿易協定は、実際には「投資家の権利を幅広く保護する仕組み」であると指摘。「『自由』という言葉に騙されてはいけない」と、強く訴えた。

 多くの国民が自由貿易協定の締結の動きに反対しているにも関わらず、選挙で選出されていない少数の官僚エリートによって仕組みが作られてしまうことに、チョムスキー教授は警鐘を鳴らす。

 チョムスキー教授は、「TPP交渉が秘密裏に進められているのも、しかるべき理由がある」と語り、TPPが、国民の求める水準を満たすものではなく、真の自由貿易を侵害することは明らかである、と主張した。

希望、それは「自由」

 このような逆行の時代、暗黒の時代に、果たして希望の光はあるのだろうか。

 チョムスキー教授にとって、希望は「自由」にある。

 チョムスキー教授は、我々が長い歴史を経て「個人の自由」や「人権」を獲得してきた、その事実にこそ、将来への希望があるとの考えを示した。

 福島原発や沖縄基地問題など、さまざまな社会問題に関する助言を求める聴衆に対し、チョムスキー教授は、「私にアドバイスを求めるのは間違いだ」と、講演中に何度も強調した。

 「人権を獲得してきた人たちは、何が基本的人権かを、誰からも教えられたわけではない。その問題を一番良く知るあなたが、考え、行動する責任がある」と語りかけ、そうする自由が私たちにあることこそ、問題解決への道だと訴えた。

 社会を変えるのに、「マジック・フォーミュラ(魔法の公式)はない」と、チョムスキー教授は語る。「正義のために闘うこと」にしか、答えはないのだ。

 「一人で立ち上がるのは難しいが、大勢ならできる」。チョムスキー教授は社会活動に関わることの重要性を伝え、2日間にわたる講演は幕を閉じた。

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「新自由主義は「機能不全の経済」 ~ノーム・チョムスキー教授講演会 第2回「資本主義的民主制の下で人類は生き残れるか」」への2件のフィードバック

  1. うみぼたる より:

    岩上さんのツィッターも合わせて読んでいます。
    ノーム・チョムスキーがなぜ今、日本に来たのか。野村さんの記事から言葉を借りれば、
    「正義のために闘うこと。」
    彼は、直接それを日本に伝えに来てくれた。不正義に揺れる日本のために。自由であり続けるために。

    高齢なのでもう来日は叶わないのではないかと思っていましたが、311のあとの原発災害のあとの日本に来てくれました。
    丁寧に講演内容を見ていきたいのですが、今は、彼が来日していることが嬉しい。

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    新自由主義は「機能不全の経済」 ~ノーム・チョムスキー教授講演会 第2回 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/128049 … @iwakamiyasumi
    社会を変えるのに、「魔法の公式はない」と、チョムスキー教授は語る。「正義のために闘うこと」にしか、答えはないのだ。

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