だから言わんこっちゃない。アベノバブルは、懸念通り早くもはじけてしまったのだ。5月23日、それまで上昇を続けていた日経平均株価が、1,143円というリーマンショック時を超える値下がり幅で暴落した際に、我々はそう指摘してきた。
その後も、5月30日には737円、6月3日には513円、6月13日には843円と大幅な下落を記録し、東証1部の時価総額は、わずか3週間で約80兆円分が吹き飛んだ。
昨年12月、安倍政権の誕生により、鳴り物入りで登場した経済政策「アベノミクス」――「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「強い成長戦略」という「3本の矢」により、円高是正とデフレ脱却を目指すべく、公共事業の拡大やインフレターゲットの導入、日銀総裁人事など、大胆な施策を矢継ぎ早に導入した。株価は急上昇し、テレビや新聞でも連日取り上げられ、景気回復への期待が大きく高まった。
しかし、上がりすぎた株価は一気に急落。ピークとなった5月22日の15,627円から一時は2,500円以上も下がってしまった。円ドル相場の水準も、5月18日の103円台から6月13日には93円台へと、円安から円高の動きが進行し、日銀の黒田東彦総裁による異次元緩和前のレベルに逆戻りした。
日銀は、4月4日の金融緩和策決定以降、年間50兆円規模の国債買い入れによる買い支えを進める一方、株価の割安感をアピールし、株式市場に投資家を誘導してきた。日銀による「相場操縦」という禁じ手ギリギリの企てが、ここにきて見事に崩れさった。
安倍総理もそれを見越してか、6月5日に「成長戦略」の第3弾を打ち出し、公共事業への民間投資や、国家戦略特区の創設などの政策を発表した。しかし、「1人当たりの国民総所得を、10年後には150万円増やす」と豪語したにもかかわらず、市場の反応は冷淡で、同日の日経平均株価は518円安を記録した。
期待感ばかりあおるマスコミの世論誘導にのせられてしまっている大方の世間からも、アベノミクスで本当に景気が良くなるのか、期待先行のバブルではないのか、そんな声が聞こえ始めている。安倍晋三総理や日銀の黒田東彦総裁などが作り出す「景気が回復しているかのような雰囲気」をそのまま伝えていたマスコミも、ここにきてアベノミクスの効果を疑問視する報道が見受けられる。
帝国データバンクが5月下旬に行った企業の意識調査では、アベノミクスによって国内景気が押し上げられていると感じている企業は42.3%いるにも関わらず、実際に現時点で「プラスの影響を受けている」と答えた企業は21.3%しかなく、一方、「マイナスの影響を受けている」と答えた企業も14.2%ある。イメージに実績が伴っていないことの証明だ。
だが、参院選に突入し、自民党はあくまで強気の姿勢を崩していない。
6月25日、東京都議選で全員当選を果たした自民党の勝因について、甘利明・経済再生担当大臣は「アベノミクスに対する評価が極めて高かった」と強調。菅義偉・官房長官も27日、2012年度の一般会計税収が見積もりを約1兆3000億円上回る見通しとなったことについて、「アベノミクスで経済が上向き、税収増につながった」と述べ、アベノミクスが十分な機能を果たしているとアピールした。自民党は、アベノミクスの正体が完全にばれる前に参院選を乗り越えようとしているのだろう。
IWJは、早くからアベノミクスによる経済復興は「幻想」ではないかと考え、さまざまな調査や取材を重ねてきた。本メルマガで紹介する同志社大学大学院ビジネス研究科教授である浜矩子氏へのインタビューは、3月12日に行ったものだ。
浜矩子氏は、一橋大学経済学部卒業後、三菱総合研究所に入社。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所所長兼駐在エコノミスト、三菱総合研究所主席研究員・経済調査部長を経て、2002年同志社大学大学院ビジネス研究科教授に就任。2011年には同志社大学大学院ビジネス研究科長に就任されている。国際経済に関する多くの本を執筆し、特に2009年以降、著書20冊、共著6冊もの本を出版。今、最も活躍するエコノミストの一人である。
浜矩子氏から見たアベノミクスは、現在の新しいグローバル時代において、極めて時代錯誤な政策であり、まさに「アホノミクス」だと断言し、実体は「バブル」に過ぎず、遅かれ早かれ破綻すると「予言」した。浜氏にインタビューをしたときは、円安に高株価を記録していた。まさにアベノミクスの「絶頂期」だった。
株価に浮かれる個人投資家に対して、ご丁寧に「早目に売り抜けて、逃げ遅れないように」とアドバイスも送られた。何人の方が、このアドバイスに従い、大きな損失をこうむらずにすんだろうか。
振り返ってみれば、実際に株価は暴落してしまい、少なくともここまでのところ、浜氏の「予言」は的中した、と言わざるを得ない。もとより浜氏は占い師ではないので、アベノミクスのバブル構造を見抜いた眼の確かさが証明された、というべきであろう。
改めて、グローバルエコノミーの追尾を前提にしつつ、日本のような成熟した経済のかじ取りをしていくべきなのか、浜氏のロングインタビューを振り返ることとしたい。
再読し、熟読すると、一度うかがったときには見過ごしていた重要な指摘、論点が改めてよく理解できる。吟味して読む価値があるインタビューであると手前味噌ながら思う。
アベノミクスの実体がいかなるものか、改めてしっかりとお読みいただきたい。
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異次元の金融緩和(日銀による国債購入も含む)を支持した経済学者、評論家(いわゆる「リフレ派」)
浜田宏一、岩田規久男、原田泰、高橋洋一、伊藤元重、伊藤敏隆、若田部昌澄、野口旭、田中秀臣、本田悦郎、安達誠司、飯田泰之、片岡剛士、村上尚己、中原伸之、上念司、三橋貴明、勝間和代、矢野浩一、山形浩生、松尾匡、黒木玄、山崎元、金子洋一、宮崎哲弥、長谷川幸洋、森永卓郎
他にも学者など多数いるが、マスコミに出てくる主だった人物に限定。
当初アベノミクスのインフレ・ターゲット政策を支持したノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマンは、この政策が失敗に終わったことを認めたが、彼の説を鵜呑みにした日本の学者、評論家は自己の誤りを認めず、この問題になるべく触れないように努めたり、専ら消費税増税のせいにしている。
(注) 特に高橋洋一のリフレ論はネットに頻繁に出てくるため、アベノミクス信者たちは専ら彼の説を受け売りしている。“ネトウヨの教祖”三橋は当初アベノミクスを支持していたが、途中で転向したのか、今は「内需を増やさないとダメだ」と厳しく批判している。山形はピケティ本の翻訳者であるにもかかわらず、「ピケティの分析はアベノミクスを肯定している」などと誤読している。