「言語学の世界的権威」ノーム・チョムスキー教授講演会 ~第1回「言語の構成原理再考」 2014.3.5

記事公開日:2014.3.5取材地: テキスト
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(取材・記事:IWJ・野村佳男)

 「言語とは何かを考えることは、人間とは何かを考えること」――。

 「現代言語学の父」と評される、マサチューセッツ工科大学名誉教授のノーム・チョムスキー氏の講演「言語の構成原理再考」が、3月5日に上智大学四谷キャンパスで行われた。

 チョムスキー教授は1950年代、20代の若さで、言語学における革命的理論となる「生成文法理論」を発表。それまで外的な要因によって習得すると思われていた言語が、実は人間が生まれながらに持っている特性であることを発見し、以来、言語の科学的研究の基本的な考え方となっている。

 チョムスキー教授の上智大学での講演は、1987年以来27年ぶり。会場には700名もの聴衆が詰めかけ、言語学の歴史的経緯を中心に、表現の自由や人間の脳の仕組みなど、チョムスキー教授の幅広い知見に触れた。

  • 日時 2014年3月5日(水)
  • 場所 上智大学(東京都千代田区)
  • 主催 上智大学、CREST(「言語の脳科学に基づく神経回路の動作原理の解明」)、上智大学大学院言語学専攻、上智大学国際言語情報研究所

メディアや政府の「全体主義」が、個人の自由な発言を奪う

 チョムスキー教授は、言語学の研究を通じて、「言語は、人間が5-10万年前のある時点で、突如一瞬の間に獲得した生物学的機能だということが判明した」と語る。

 そして、「人間は言語によって、有限の脳の中に無限の力を獲得することができるようになった」と述べ、他の動物にはない人間の力の根源には、「言語の獲得」があると解説した。

 しかし、他方では、言語によって、人間は苦しみ傷つけられることもある。会場からも、「言語はヘイトスピーチや戦争プロパガンダなどの目的にも使われている。言語の将来はどうなるのか」という質問が出された。

 チョムスキー教授は、「言語はトンカチのようなもので、いろんな形で利用できる。くぎを打つこともできれば、人を殴ることもできる」と説明。言語は、他のさまざまな側面によって影響を受けると述べた。

 たとえば直近では、新聞がこぞって、ウクライナ問題に関するスキャンダラスな記事を報道していることを取り上げ、「他国に軍隊を送ることを世界中のメディアが一斉に記事にするということは、昔では考えられなかった」と語った。

 そのような全体主義的なメディアの報道姿勢に関して、「『おかしい』と言っているのは、ワシントンポストの黒人記者だけだ」と、一方的にニュースを報じるメディアの危険性を指摘した。

 メディアや政府が全体主義に走れば、個人の自由な発言が奪われると、チョムスキー教授は主張する。日本で可決された特定秘密保護法を取り上げ、「なぜあのような法案を通したのか。国家の言うなりになっても良いのか」と、強い口調で訴える場面もあった。

チョムスキー氏の哲学「言語は人類普遍の特質を持つ」

 チョムスキー教授が唱える言語学の理論は、非常に緻密で難解であるが、彼の哲学は非常にシンプルだ。

 「すべての言語には、それを生成する共通した『普遍的な文法(Universal Grammar)』が存在する」

 各言語によって言葉や発話の仕方は違っていても、我々には人類が共有している「生物学的資質」としての言語能力が備わっていると、チョムスキー教授は主張する。

 自然界が雪の結晶を作るのと同じように、言語は人間が自然に身につけている、生物としての基本特質の一つであると、講演でも繰り返し強調した。

 世界には様々な言語が存在するが、言葉として外側の形になっているものは、あくまで周辺的なものであり、「そのコアな特質から見れば、各言語には何も違いがない」とチョムスキー教授は主張する。それは音声言語に限らず、手話等の視覚言語でも同様であるという。

 チョムスキー教授は、「もし、言語が私たち人間そのものであるならば、人間もまた、生来的にはまったく同じなのである」と述べ、人種差別をなくし、人類の尊厳や人権を保障することの重要性を提唱した。

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