【特別寄稿】前夜 特定秘密保護法と自民改憲――それは「良心弾圧法」だ(NPJ代表・梓澤和幸弁護士) 2014.2.13

記事公開日:2014.2.13 テキスト
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(梓澤和幸)

特集 憲法改正|特集 秘密保護法

 昨年末、12月22日に開催した「饗宴Ⅳ 前夜~取り返しのつかない軍事属国化と経済植民地化に抗うために」のシンポジウムにご登壇いただいたパネリストの方々に、短い時間内で話し切れなかった情報や思いを、「IWJウィークリー」に寄稿していただくことにしました。お引き受けいただいた方から順に掲載させていただきます。

 第2回は、「テーマ1~秘密と改憲」にご登壇いただいた、梓澤和幸氏の登場です。

 梓澤和幸弁護士、澤藤統一郎弁護士、岩上安身共著『前夜 日本国憲法と自民党改憲案を読み解く』(2013.12. 現代書館)の発刊を記念して、3者のトークセッション&サイン会を2月14日に開催します!梓澤先生、澤藤先生と岩上安身3名のサインがそろう貴重な機会となります!

 みなさまのご参加をお待ちしております!

 ※サイン会は雪の影響で急遽延期となりました。日程が決まり次第、再度告知いたします。(2月14日更新)

 詳しくはこちらをご覧ください。

はじめに

 秘密保護法が有識者会議で提唱された1年前、川柳を作った。

 多喜二来て
 地獄さえぐんだ
 秘密法

 小説「蟹工船」の1ページ目の最初に、船に乗り込む労働者たちが交わす「地獄さえぐんだぜ」という言葉があった。蟹工船も地獄、多喜二の最後もそうだった。軍国主義天皇制がもたらす労働環境の悲惨と治安維持法と特高政治がもたらす痛苦を秘密保護法(秘密保全法)にかけて作った短詩形の表現である。それを秘密保護法反対運動のさなかどなたかがプラカードにし、画像をネットに投稿してくださった。

 なぜ、そういえるのか。

東アジアの地域の状況の緊迫はどの立場に立つ人も憂慮する

 問題は、ここにアメリカが深く関与していることである。

 ベトナム戦争、イラク戦争でウソに依拠して戦争を引き起こしたアメリカが、この地域に関与していることである。

 すでに日本には武力攻撃事態法という戦時法規がある。一般には有事法制というが、戦時法規と称する方がリアルな実態を示すので、私は戦時法規と呼びならわしている。

 さて、法律的には政府がこの法律の定める武力攻撃事態や武力攻撃予測事態を認定すると何が起こるか。

1、内閣総理大臣による自衛隊の出動命令
2、指定公共機関、指定行政機関などに対する政府の指示権の発動

が起こる。1、はすぐわかるが2、とは何か。

 日本銀行、赤十字社、NHK、日本テレビ、フジテレビ、TBS、各県ごとの民間放送局、電力会社、ガス会社などが一挙に政府の指示のもとに入る総動員体制ができる。

 放送局は政府の戦時警報を出せとの指示に逆らえない。

 武力攻撃事態や予測事態認定にウソが入らないという保障はあるか。

 ベトナム戦争、イラク戦争でアメリカがウソをついたことをみるとその保障はない。二つの巨大なウソは後で述べる。ではこの嘘を内部にいて気がついたひとはどうなるか。良心の告発、良心の警笛(ホイッスルブロー)をふく人はどうなるか。

 秘密保護法が立ちはだかる。

特定秘密保護法 23条
特定秘密の取り扱いの業務に従事する者がその業務により知得した特定秘密をもらしたときは、10年以下の懲役に処し、または情状により、10年以下の懲役および千万円以下の罰金に処する。特定秘密の取り扱いの業務に従事しなくなった後においても同様である。

 またネット上のハッキングなどでウソに迫ろうとすればどうなるか。

特定秘密保護法 24条
施設への侵入、不正アクセス行為その他の特定秘密を保有する者の管理を害する行為により、特定秘密を取得したものは、10年以下の懲役に処し、または情状により10年以下の懲役および1千万円以下の罰金に処する。

 このような行為をしようと相談し、会議を開いただけでも、あるいはやってみないかと働きかけただけでも懲役5年とされる。(秘密保護法24条)

アメリカのウソ第1~ペンタゴンペーパーズ事件とエルズバーグ

 ペンタゴンペーパーズ事件とは1971年、ベトナム戦争の陰謀を記した7000ページの政府文書を、米政府高官の経歴をもつダニエル・エルズバーグがニューヨークタイムズほかに暴露し、反戦世論を一挙に高めた事件である。

 開示された文書には、本格的北爆開始の4か月も前に北ベトナムのありもしない砲撃の宣伝―これをもとにした戦争続行権限を大統領に与える議会決議案まで含まれていた。

 この決議案と寸分たがわぬ米議会決議が1964年8月に行われ、のちにうそがわかり取り消された。ベトナム戦争ではベトナム人が200万人死亡、アメリカの兵士は殺戮の途上で5万8千人、属国韓国の兵士は4986人が命を失った。このうち少なからぬ人々がウソに起因する死亡を遂げた。もし良心的告発者エルズバーグの行為がなければ、犠牲はもっと大きくなり、ベトナム人が一人もいなくなるまで戦争は続いたかもしれない。

 国務次官補の補佐官までつとめたダニエル・エルズバーグは、なぜ立ち上がったのか。

 このように述べる彼の言葉がある。

 「原点は人間である。この十年間、五人の大統領のうち四人に仕えてきた私が、戦争批判の立場にたって行動しようと決心するのは大変なことだった。

 それを実行に移すよりも、決心するまでがなかなかだった。これまで私は、ベトナムへ出征した約三百万の若いアメリカ人たちと同じように行動していたのだ。私たちの大部分はベトナムへ派遣されることを、忠誠なアメリカ人として大統領の要請にこたえる道だとみていた。最近まで、それがアメリカの正しい利益にそぐわないと考える者はほとんどいなかった。

 いま必要なのは、そうした反射作用を越えて、大統領に対する忠誠心よりも、もっと深く広い忠誠心、長い間みられなかった忠誠心を自分自身の中に奮い立たせることである。それはアメリカの建国理念、アメリカの憲法体系、アメリカ国民、自分自身の人間性、そしてアメリカの“同盟国”とアメリカが爆撃している民衆への忠誠心である」(『ベトナム戦争報告』 P.32~33から)。

 イラク戦争の遂行の過程でも良心的告発者がいた。

 米国政府の40万部のドキュメントがウィキリ―クスに告発された。告発者の中にアメリカ陸軍軍人ブラッドリー・マーニングがいた。

 40万部の文書には11万人のイラク人死者、うち民間人は6万人(米政府は死者数の文書はないと言っていた。)と書かれていた。

 またアルジャジーラの記者が屋根の上で機銃掃射で死んだことは誤爆でなく命令によるものだったこと、アルグレイブ刑務所の拷問、虐待も報告されていた。

 この告発をしたブラッドリー・マーニングは2013年7月、スパイ防止法で懲役35年の判決を受けた。その際に彼の発した言葉は胸をとらえる。

 「米国の政策のモラリテイー(道徳性)に疑問を持つようになったことが秘密情報リークの動機である」

 「人は自由な国に住むためにはときには大変な代償を支払わなければならないことを認識しつつ、刑期を務め上げる覚悟であり、自分は喜んでそうしたい。ただしそのことによってわたくしたちの米国という国があらゆる軛(くびき)から真に解放される自由と、すべての男女は生まれながらにして平等であるという建国の前提を実現することになるのであれば―――」(ローレンス・レペタ弁護士著「140万人が最高機密に接近可能な米国秘密保全制度が国家を脆弱化する」 朝日新聞社発行月刊ジャーナリズム12月号掲載論文から引用)

 この二つの事例から引き出せるのは、何か、反政府的なイデオロギーを持った人が軍隊や政府の官僚組織に潜入してスパイのようなことをやって、重大な情報が漏れるのではないということである。

 人間には良心が内在する。究極の悪人にさえ、そうである。この内在的良心が悪辣な虐殺、とてつもなく巨大な殺戮、しかも大義なき犯罪がこれから起こることを知り、それによっておきる一つ一つの家族に起る悲しみと不幸を想像するとこの良心は不可避的に動き出すのである。秘密保護法はその良心を抑え込もうという試みなのである。

 さらに究極の良心弾圧は、拷問である。

 それは卑怯卑劣である。なぜって抵抗しないとできないとわかっている人に良心を捨てることを強いるからである。拷問をうけたさなかに韓国の政治囚であった徐勝(ソスン)氏は殺してくれと願ったという。(獄中19年岩波新書)

 言い換えると拷問は殺人以上に無慈悲、冷酷残忍な行為なのである。

 自民党改憲草案36条を見よ。

 「公務員による拷問および残虐な刑罰は、(※梓澤注現行憲法から絶対にを削除)禁止する。」

ノーマフィールド 「小林多喜二」(岩波新書)と江口喚「闘いの作家同盟記」から

 3時間の拷問とは何を意味するか。情報を吐き出させるのが主眼ではない。中川(加害者の名前)達が殺意に満ちていたことはいうまでもないが、手早くころしてしまっても目的は果たせない。多喜二の苦しみを味わう時間を彼らは必要としていた。

 としか理解しようがない。特にむごたらしいデイテールの内に数えられないかもしれないが、彼らは右手の人差し指を手の甲に届くまで折った。もう原稿にむかうことはありえないのにわざわざである。 

 多喜二の母は、ほほを涙でぬらしながら叫んだ。

 「これ兄ちゃん。立たんか。立ってみなさんの前であるいて見せろ」

 この言葉は読み過ごさず、その通りを叫ぶように読んでほしい。叫べ。母親の気持ちで。

 いやあ、絶対にという言葉を取っただけですよ。禁止すると書いてあるじゃないですか、という人もいるかもしれない。しかし、キューバのアメリカ占領地グアンタナモにある収容所に6年拘束された、アルジャジーラのサミアルハジ記者には135回の尋問が行われ、同放送局にいるイスラム同胞団の人数を聞きだされたり、スパイになることを米当局から強要された。スミス弁護士は3回面接したが、拷問された事実を沈黙するなら釈放すること、またスパイになることを約束するなら釈放するとも言われたというのである。(サンフランシスコクロニクル電子版 2008年8月17日付から抜粋)日本の冤罪事件たとえば志布志事件などでも強制的取り調べの実態が告発されている。

 絶対に禁止するという言葉の強い調子は多喜二の拷問のような歴史は許さないという強靭な意志の表明であるところ「禁止。原則的には。」という言葉の質的な較差をしっかり徒みるべきなのだ。

 人間に内在する良心と両立しない秘密保護法は廃止だ。自民改憲は阻止だ。

キング牧師のことば

 最後にこの一文をご覧いただいているあなたへ、またふるさとを遠く離れて、北海道へ、沖縄へ、瀬戸内海の小島へ、そして県内のあちこちに避難されている福島の方々へ、次のマーテインルーサーキングの言葉を捧げたい。

 キング牧師は1963年黒人差別撤廃を求めるワシントン大行進の10万人の人々の集会で「I have a dream」と呼ばれた8分の演説を行った。南部のアフリカ系アメリカ人が、教会に放火されて命を奪われたり、警官に犬をけしかけられたり、リンチにあって殺されたりするすさまじい状況の中でのうったえであった。このスピーチのクライマックスから。

 「私には夢がある。いつの日か、州権優位論と連邦法の実施拒否を口にする知事のいるアラバマ州が、黒人の少年や黒人の少女が白人の少年や白人の少女と兄弟姉妹となって手をつなぎ、一緒に歩くような状況に変貌意するのです。

 私には今日、夢があります。私には夢がある。いつの日か、あらゆる谷間は高く上げられ、あらゆる丘や山は低くならされ、起伏のある場所は平原になり、曲がった場所はまっすぐになるのです。神の栄光は示されあらゆる人間がみな一緒にそれを見るのです。

 これがわれわれの希望です。この信念で、私は南部へ戻ってゆきます。

 この信念でわれわれは絶望の山から希望の石を切り出すのです

(荒 このみ 編訳 アメリカ黒人演説集 岩波文庫283頁から)

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