【米国で進む経済徴兵制】戦費調達のために「貧困」創出か ~堤未果氏が指摘「米国では学費肩代わりの入隊急増」~岩上安身によるインタビュー第26回 ゲスト 堤未果氏 2010.5.20

記事公開日:2010.5.20取材地: テキスト動画独自
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(IWJテキストスタッフ・富田)

 国にとって「貧困層」は、格好の人材供給源になり得る。なぜなら貧困層、わけても、まだ先の人生が長い若者たちの間には、「今の貧しい暮らしから一刻も早く抜け出しい」との、怒り混じりの機運が高まりやすく、政府がそうした若者たちの鼻先にニンジンをぶら下げれば、勢いよく走り出す可能性が見込めるためだ。たとえ、向かう先が「戦争」であっても──。

 2010年5月20日、都内でジャーナリストの岩上安身と対座した、米国の貧困問題に詳しい堤未果氏(ジャーナリスト)は、9.11後の同国には、こうした状況が成り立っても不思議ではない実態が存在する、と報告した。

 インタビュアーの岩上安身は、中国や北朝鮮との間にきな臭さが漂い始めていることに加え、若年層の格差問題が深刻化する今の日本には、米国のような「徴兵」が馴染む素地がある、との認識を示した。それから4年後の2014年現在、日本では集団的自衛権の行使容認の閣議決定がなされ、「貧困」と「格差」を示す多くの経済指標が発表されるなど、その素地が当時よりも厚みを増していると言える。

 2014年9月3日付の東京新聞は、「貧困層に『経済的徴兵制』?奨学金返還に防衛省で就業体験」と題し、文科省の有識者会議「学生への経済的支援の在り方に関する検討会」メンバーの前原金一・経済同友会専務理事の発言を伝えている。会議で前原氏は、卒業後に就職できず、奨学金の返還に苦しむ人たちについて「防衛省でインターンシップ(就業体験)をさせたらどうか」と発言。さらに「防衛省は考えてもいいと言っている」と促したという。

 日本の「今」と「未来」を見据えるうえで、必見のインタビューである。

■ハイライト

戦費調達のしわ寄せ「教育部門」に

 冒頭で岩上安身は、堤氏が2010年3月に上梓した『アメリカから〈自由〉が消える』 (扶桑社新書) を紹介しつつ、「今日は、9.11以後の米国社会に何が起きているかについて、堤さんに貴重な話を聞きたい」ときりだした。

 「同時多発テロ後の米国では、『テロとの戦い』を大義名分にした軍事予算の引き上げが実施され、その穴埋めとして、社会保障費が削られている」と指摘した堤氏は、それが「大学進学」に与えた悪影響の観点から、今の米国社会の実態を伝えていく。

 「その国の政府が『対教育』の予算を引き下げれば、多くの大学は経営難に陥り、大学側はその打開策として、人気のある有名教授を高額報酬で引き抜く作戦に打って出る。となると、それは学費に反映され、高い学費を払えない貧困層の若者は、学費の肩代わりを条件にした徴兵、いわば『経済的徴兵制』に応募せざるを得なくなる」。

 これを聞いた岩上安身が、「米政府は学費の工面が難しくなる層を意図的に創出し、その層を米軍のマンパワー確保に振り向けている印象だ」と発言。堤氏は、経済的徴兵制では、いわゆる「貧困層」の若者が狙い撃ちされるが、それよりも上の「中間層」にも学費値上げを背景にした、憂慮すべき傾向が見られる、と言及した。

重くのしかかる教育ローン負担

 「大卒」という称号を得ないとワーキングプアになる――。もはやこれは米国社会の常識、と堤氏は断言。「だから米国の若者の間には、遮二無二、大学に入ろうとするモチベーションが働く」とした上で、貧困層でなくとも、大学の学費高騰によるダメージは避けられないと強調する。「遡ること20年ほど前だったら、州立大は年間7000ドル(1ドル=100円として70万円)だった学費が、今は公立大の年間の授業料は、ざっくり言えば日本円で200万円ほどかかる」とし、それ以外にも教科書代や寮費などがかかるから、大学進学は、かなりの経済負担として中間層にも重くのしかかると述べた。

 さらに、米国産業界のハードからソフトへの転換により、ワーキングプアになるのを回避するために、大学に進学して卒業したにもかかわらず、コーヒーチェーンの店員といった、「バッドジョブ」と呼ばれる低賃金職に就かざるを得ないケースが、もはや珍しくなくなっているという。「本人たちは、『この状況は、ちゃんとした就職先が見つかるまでの一時しのぎ』と自分に言い聞かせるが、なかなかいい就職先が見つからずに、簡単に5年以上の年月が過ぎ去ってしまう例が少なくない」。

 そこで、頭をもたげているのが「奨学金の返済」の問題だ。

 「米国の奨学金というと、返済不要というイメージがある。確かにそういう奨学金制度はあるが、一方では民間の金融機関から学生がお金を借りる『教育ローン』がある」。堤氏は、学費高騰で、こうした教育ローンを利用せざるを得なかった米国中間層の若者たちの中には、バッドジョブの広がりに根差した所得環境の悪さから、返済などとてもできないケースが多々生まれていると訴える。

3万ドルの借り入れが10万ドルに

 教育ローンの中には妥当な金利のものもあるが、一方では審査が緩いかわりに金利が高く設定されている「サブプライムローン(十分な返済力が見込める層向けのプライムローンよりも下位にある、との意味)」がある。

 堤氏は言う。「金利が高い教育ローンの中には、インターネットでの極めて簡単な手続きで借りられるものある。そして、当の若者本人は『これは大学を卒業するためだから』と納得してしまい、安易にクリックしてしまう」。

 その上で、そんな教育ローンでは、住宅のサブプライムローンのように「自己破産(=借金負担からの解放)」というラストリゾートが用意されていないことを強調した堤氏は、「悩むのは、そういった現実が、米国の若者たちに十分に知れ渡っていなことだ」と力を込めた。

 岩上安身が言葉を継ぐ。「教育ローンの利用は『自分への投資』ということで美化されがちだが、それには大学卒業後の自身の『社会的上昇』が、一般論として担保されている世の中である、という前提が欠かせない」。

 堤氏は、米国の教育ローンでは支払いの「延滞」が認められず、中には複数のアルバイトをかけ持ちで毎月の返済金をねん出する若者もいる、と続ける。「そういった無理は病気につながりやすく、そうなると今度は、米国ならではの『高額な医療費』の問題にぶち当たってしまう」。

 「米国の教育ローンは、9ヵ月返済が滞ると不良債権化する。3万ドル借りて不良債権化させた若者にインタビューしたら、『返済金額が10万ドルほどに膨れ上がっている』という返事があった。不良債権になれば利息の負担が跳ね上がる。しかも自己破産ができないから、取り立てのプレッシャーは本人が死んだら、その家族にまで及ぶ」。

 堤氏はこうした現実をきちんと報じない、米国の大手メディアの罪は極めて重いと批判した。

教育改革に「裏の狙い」あり

 その後、堤氏は、米国が進める「経済徴兵制」のからくりを明かした。

 「9.11後に『対テロ戦争』というコンセプトが社会にバラまかれた米国では、若者の学力底上げを狙う教育改革実施のための新法が、2007年に成立した。その中に、高校に対し、生徒の個人情報の米軍への提出を義務づける項目がある。軍は、提出されたリストを基に、高校生当人に電話をかけるのだ」。

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  1. 55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    【米国で進む経済徴兵制】戦費調達のために「貧困」創出か ~堤未果氏が指摘「米国では学費肩代わりの入隊急増」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/11590 … @iwakamiyasumi
    安倍政権が狙うのはこういう社会です。日本の「今」と「未来」を見据えるうえで、必見のインタビュー。
    https://twitter.com/55kurosuke/status/517645426539782144

  2. @55kurosukeさん(ツイッターのご意見) より:

    これは近い将来、いや現在の日本の姿ともいえるだろう。

    「作られた」貧困と格差の正体を暴く好インタビュー。

    【米国で進む経済徴兵制】戦費調達のために「貧困」創出か ~堤未果氏が指摘「米国では学費肩代わりの入隊急増」 https://iwj.co.jp/wj/open/archives/11590 … @iwakamiyasumiさんから
    https://twitter.com/55kurosuke/status/1058308125139197952

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