「評価会合は本質を見失いかけている」――。
関西電力大飯原子力発電所敷地内にある断層について検討を重ねてきた、原子力規制委員会の有識者チームは9月2日、第6回にあたる評価会合で、議論の争点になっていた断層に限っては、「活断層ではない」という方向性を示した。
有識者の一人である渡辺満久東洋大教授は、IWJのインタビューに応え、今回の結果に同意しつつも、評価会合のあり方について幾つかの疑問を投げかけた。
これまで有識者らは3回の現地調査を行い、昨年10月から5回の会合を重ねてきた。しかし、関西電力と有識者の間で見解が一致せず、約一年の間、決着が見られなかった。国内の6つの原発で進められている断層調査の中で、活断層の可能性を否定するケースは今回が初。大手メディアも一斉に「活断層ではない」という見出しで速報を出した。
「大飯原発敷地内に活断層は存在する」
第6回評価会合の翌日、渡辺教授の研究室を訪ね、見解をうかがった。教授はかねてから、敷地内の活断層の可能性を指摘してきた人物だ。
渡辺教授はインタビューの冒頭、「一定の方向性、見解の統一は得られた」と述べ、「活断層ではない」という見解を否定はしなかった。しかし教授は、「色々な面でまだ意見の対立はある。完全に見解が統一されたわけではない」と付け加えた。
この評価会合で争点となっていたのは、3、4号機用の非常用取水路の真下を横切る断層が活断層か否か。渡辺教授は破砕帯と呼ばれるこの断層が非常に柔らかく、手で掘れる状態だったことを現地調査で確認している。その結果からも、「断層活動が最近起こったことを示す可能性がある」という見解を持っていた。
しかし、破砕帯に見える構造に関しては、渡辺教授は専門ではない。「自分では判断はできなかったので、有識者の中で唯一、構造地質学の専門である重松紀生氏(産業技術総合研究所主任研究員)の意見を伺った」という。2日、重松氏は評価会合の場で、活断層の可能性を否定。渡辺教授は他の有識者と同様、重松氏の主張を尊重し納得をした、という流れだ。
しかし、渡辺教授は疑問を呈する。
「重要施設の真下に活断層がないという点では有識者は納得しました。ですが、『大飯に活断層がない』という報道は誤りです。大飯原発敷地内に活断層(将来活動する可能性のある断層等)は存在します」
評価会合では本来、敷地内を走る復数の断層が評価の対象となっていたが、いつの間にか、重要施設下を走る断層1点に問題が矮小化されていた。そのことを渡辺教授は強く懸念し、「責任を感じている」と語る。
こつぜんと消えた「Fー6破砕帯」
渡辺教授がそう話す理由は、重要施設下の断層以外にも、考慮すべき重要な点があり、その議論を十分にできなかったことに自らの「説明不足」を感じているからだ。
大飯原発敷地内の断層評価が始まった当初、検討の対象となっていた断層は複数あった。その中でも、2号機と3号機の間を南北に600メートル走る「Fー6破砕帯」と呼ばれる断層を代表に据え、評価会合では検討を始めた。「Fー6破砕帯」が活断層となれば、その真上を横切っている非常用取水路の設置は認められない。国内で唯一稼働する原発が停止する可能性もあるとして注目を集めてきた。
原発施設の下を横断しているため、「Fー6破砕帯」の調査は容易ではない。関電は、「Fー6破砕帯」の北端、原発から約200メートルにある「台場浜」付近にトレンチ(溝)を堀り、有識者も現地調査で断層を確認。渡辺教授は台場浜トレンチの断層について、「将来の活動性が否定できない」、つまり、「Fー6破砕帯」は活断層ではないかという見方を強く持った。「地すべり」を主張する有識者と意見が対立した。
しかし、評価会合の途中から、関電は衝撃的な展開を見せた。それまでとは全く異なる主張を繰り広げたのである。
これまで議論の中心となっていた「『Fー6破砕帯』の位置が間違っていました」と言うのだ。渡辺教授は、「マスコミでは報道されなかったが、非常に驚くべき話でした。今でも理解に苦しむ。この点については、2回目の評価会合でかなり厳しく関電に対して指摘しました」と当時を振り返る。
「Fー6破砕帯」はそもそも、1980年後半、大飯3、4号機の設置変更許可申請時に、関電が自らの調査によって示したものだった。当然、国もこの内容で審査を行っている。しかし、26年後、蓋を開けてみると、それまであると思われていた断層がそこにはなかったというのだ。
「(当時、関電は)なんでそんないい加減な調査をやって、しかも審査が通ったのか…」と、渡辺教授はかつての電力会社の調査と審査のずさんさに根本的な問いを投げかけた。
土地の隆起を証拠づける台場浜の海岸線
それまで、「Fー6破砕帯」は台場浜と繋がっていたと思われていた。だからこそ台場浜にトレンチを掘削し断層を調査したのだが、「Fー6破砕帯」の位置が変わったことで、台場浜トレンチとの関連性は絶たれた。渡辺教授が指摘していた「活断層の疑い」は評価外となり、争点は非常用取水路の下に見つかった新しい断層一本に絞られることになった。
この山頂トレンチの断層についても、渡辺教授は活断層の否定はできないとしてきた。しかし山の上にあるため、上層部に地層がない。渡辺教授にとっては専門分野外であり、判断を下すことができない。有識者らは唯一、構造地質学を専門とする重松氏に判断を委ねるしかなかった。
渡辺教授は、この会合のミッションが重要施設を横切る断層が活断層か否か、であることは理解しつつも、「争点があまりにもそっち(重要施設関連)だけになってしまって、大きな問題を見失いかけているんじゃないか、という思いがある」と語る。
大きな問題とは何か――。
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教授は「台場浜トレンチで確認した断層が活断層(将来活動する可能性のある断層等)であれば、もっと広範囲で検証すべきことがある」と主張している。
「台場浜の断層は新しいですよ。なぜ、そういうことが起きるのか、ということなんです」
インタビュー中、渡辺教授は台場浜の地図を指しながら、場所によって海岸線の高さが異なっているデータを示し、かつて、海底の大きな断層が動き、土地が隆起した証拠だと教授は説明した。
「海底断層が動いた時に、敷地がかなり隆起して傾くことが分かってくるわけで、それが起きたとき、原発施設全体の安全性は確認できていますか。検討の対象外となった他の断層は本当に動かないのですか。その検討は必要ないのですか、と。私が一番重要だと思ってきたのはそこです」
渡辺教授は会合の中で、この主張をずっと繰り返してきた。しかしその話になると『検討対象外』と言われ、それ以上は踏み込めなかったという。
昨年11月、島崎委員も会見で、「一番大事なのは大飯原発の安全性。その基本に立ち返って議論する」と語っていたが、渡辺教授の懸念は「大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合」の検討チームで評価を継続することになった。
「定期検査中に調査をして欲しい」
渡辺教授は前回の会合で一定の方向性が出たという点では「同意している」と語るが、疑問も残ると胸の内を明かした。
今回、あるべき場所に「Fー6破砕帯」はなかったとする調査報告はあまりにもずさんであり、これまでの関電の報告全体の信憑性を疑わざるを得ない。渡辺教授は電力会社主導で行われる調査の限界を指摘する。「規制庁には(調査の)プランニングの部分にもっと踏み込んで介入すべき」と、規制庁に十分な専門家を配置する必要性を訴える。そうでなければ、根本的な安全審査は実現しないからだ。
「可能であれば定期検査で止まった時にこそできる調査を進めてほしい。活断層ではないと判断された山頂部分でも、より建屋に近い場所での断層調査が可能だから。本来は、規制委員会が関電にそう指導すべきです」と、渡辺教授は今でもさらなる安全性の向上を願っている。
原発敷地内に活断層の疑いがあるうちに、重要施設下を通っていないという理由で、この会合を終わらせていいのかというしこりが残ったまま、大飯原発は再稼働に向けて一歩コマを進めた。9月5日、原子力規制委員会の場で田中俊一委員長は、「活動性のある断層ではないことなら、審査に入ったらどうか」と述べ、大飯原発の安全審査を進めることを決定したのである。
しかし、最終判断を下すには、他の有識者によるピア・レビューや次回の評価会合での最終議論を経ることが本来のルールだ。田中委員長は、電力会社にとって都合のよい拙速な判断を下したと言っても過言ではない。
インタビューの終わりに渡辺教授は、「将来、地震が起きた際、会合で下した評価が甘かったという結果に繋がった場合はどうするか」との問いに、「責任は我々にあります。破砕帯に関してはOKを出したのですから。責任がないなんて言えません」と締めくくった。
水俣、イタイイタイ病、カドミ汚染など、過去の公害事件には、必ず企業、政府側に都合のよいデマと呼ぶべきレベルの説を唱える学者さんが登場する。彼らの存在で被害に対して早期に効果的な対策が打たれるのが阻害されている。加害当事者よりも悪質な存在だと感じます。本件もそのように感じる。渡辺満久教授には、めげずに努力を続けて欲しい。
日本は地震国でプレートの入り組んだ縁に位置している。日本に原発に適した立地場所などないのが事実と思います。議論が、森ではなく木しか見ていない議論で、これで結論を出すのは、官僚か裁判所だけでしょう。一般的には真上だけではなく側にあっても危ないと感じるのが普通です。これだけシワだらけの断層地帯に大飯原発は立っていると議論の中で結論がでないのが普通ではない。真上にあるかどうか法的な解釈のためだけに余計な線引きして、結論を逆転させている。
渡辺教授を信頼します。