「女性市民のほぼ全員が脱原発派。日本社会では近い将来、女性たちの考えが、はっきりと表面化するだろう」──。
2013年9月1日(日)13時より、東京都千代田区の日比谷公会堂で行われた「9.1さようなら原発講演会」で、作家の大江健三郎氏はこう話した。一方、京大原子炉実験所助教の小出裕章氏は、福島第一原発に危機的状況が続いていることを重ねて強調。「こんなにひどい状況は、戦時中でも起こらない」と訴えた。
(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)
「女性市民のほぼ全員が脱原発派。日本社会では近い将来、女性たちの考えが、はっきりと表面化するだろう」──。
2013年9月1日(日)13時より、東京都千代田区の日比谷公会堂で行われた「9.1さようなら原発講演会」で、作家の大江健三郎氏はこう話した。一方、京大原子炉実験所助教の小出裕章氏は、福島第一原発に危機的状況が続いていることを重ねて強調。「こんなにひどい状況は、戦時中でも起こらない」と訴えた。
■ハイライト
はじめに司会の木内みどり氏(俳優)が開会を告げ、「安倍政権は戦後日本の民主主義を一掃しようとしている。憲法の改悪と軍隊の強化が、今まさに始まろうとしているのだ。脱原発運動にはそれに抵抗し得る力がある」との、鎌田慧氏(ルポライター)による開会あいさつのあと、ジンタらムータのバンド演奏を挟み、福島から駆けつけた佐藤和良氏(いわき市議会議員)が登壇した。
佐藤氏は、法案成立から1年間も放置されてきた、原発事故子ども・被災者支援法に関して、この8月30日に復興庁が発表した基本方針案を厳しく批判した。「基本方針案は『福島県内の33市町村を支援対象地域にする』としているが、これは、原発推進派の専門家が唱える『年間被曝線量100ミリシーベルト以下安全説』と同根だ」。佐藤氏は「遵守されるべきは、一般人の年間被曝線量の上限は1ミリシーベルト、という法令基準」と力説し、「たとえ福島県外でも、これに当該する地域は支援対象にすべきだ」と訴えた。
集会の中心となったのは、大江健三郎氏と小出裕章氏の2人。大江氏は、まず、いとうせいこう氏(作家)の『想像ラジオ』(河出書房新社)を話題にした。「私は、この作品が(第149回)芥川賞で落選したことを実に残念に思う」。大津波に襲われた男が、残したい言葉を電波ではなく「想像」の中に成り立つラジオで伝える、というこの作品は、「今の日本人に必要」との主張である。
大江氏は、この作品をヒューマニズムの視点から絶賛。「人間を根本的に考えるのが『ヒューマニズム』であり、それを批判することは間違っている」とし、「この作品を『古い』『センチメンタル』といった言葉で批判する人たちは、無知にすぎない」と言明。さらに、「死んでしまった人が(生前は)どういう思いを抱きながら生きていたのかを言葉にする行為は、文学そのもの」とも語った。
大江氏は原発を巡る日本の現状を、「脱原発の運動は、市民の間に確実に存在するが、政府にはその意識はない」とし、「今、期待したいのは女性市民の頑張り」と強調した。「日本人女性の、ほぼ全員が脱原発派だ。この事実が、原発再稼動に向けた流れを変える力を生むだろう。日本社会では近い将来、女性たちの考えが、はっきりと表面化するだろう」。また、大江氏は「日本人は、個人単位では『脱原発』の意識を持っているが、社会に『再稼動推進』の空気が広がり始めると、黙ってしまう」とも述べ、「それは決して美徳ではなく、むしろ悪徳である」と力を込めた。
小出氏は「福島第一原発は、依然として危機的状況だ」と強調。話題を集めている汚染水問題については、「事故発生以来、今日までずっと汚染水が流れ出ていたことは、普通に考えれば誰でもわかること」と主張し、これまで、この問題に触れようとしなかった新聞・テレビの報道姿勢を暗に批判した。
そして、「東京電力に対し、『お前のところの原発は安全だ』というお墨つきを与えた政府は、自分たちが犯した罪を隠すためにも、フクシマショックの真実を口にしない」と政府批判を重ねると、「政府は、飛散した放射性物質の量は広島の原爆168発分と発表しているが、実際はその2~3倍が飛び散っていると思う」との見解を示し、「こんなひどい状況は、戦時中でも起こらない」と断じた。
その後、ザ・ニュースペーパー(動画には未収録)のコントを挟み、澤地久枝氏(ノンフィクション作家)と内橋克人氏(経済評論家)が登壇した。「大人は、少々の内部被曝を覚悟して魚を食べるが、子どもたちに同じ食生活を強いることはできない」と語った澤地氏は、「私たちが(食品の選び方などで)態度を、もっとはっきりさせることが、福島原発事故の危険性の矮小化を図ろうとしている人たちに打撃を与える」と主張した。
続いて、内橋氏は「科学技術の発展を根拠にした『新たな原発神話』が、メディアによって流布されようとしている」と警告し、会場に集まった2000人超の市民らに向かって、「だまされてはならない。広島、長崎、そして福島と、われわれは十分に悲惨を経験したではないか」と呼びかけた。
閉会のあいさつで演壇に立った落合恵子氏(作家)は、「原発事故など、なかったかのような雰囲気が広がっている。今この時に、銀座でショッピングしている人たちを、この会場に引っ張ってきて『話を聞け』と迫りたい気分だ」と表明。「この2年半の間、日本の政治が何ら変わらなかったことに落胆している」としながらも、「われわれは、原発を選んでいない。私は今後も、あきらめずに声を上げていく」と宣言した。
2013年9月1日、日比谷公会堂で開かれた「さようなら原発講演会~つながろうフクシマ! くりかえすな原発震災」の記録です。一度聞いてみてください。Let’s be connected with Fukushima! Verbinden uns mit Fukuschima!