「マスコミの宣伝に惑わされず、歴史を見て、何をしなければいけないかを考えて行動するべき」──。
2013年8月9日(金)14時15分より、大阪市淀川区の淀川区民センターで開かれた、第52回教育科学研究会全国大会・大阪大会にて、小出裕章氏(京都大学原子炉実験所 助教)による記念講演「子どもたちに伝えよう 原子力の真実」が行われた。小出氏は上記のように述べて、子どもたちに安全な未来を残すための、大人の心構えを説いた。
(IWJテキストスタッフ・花山/奥松)
「マスコミの宣伝に惑わされず、歴史を見て、何をしなければいけないかを考えて行動するべき」──。
2013年8月9日(金)14時15分より、大阪市淀川区の淀川区民センターで開かれた、第52回教育科学研究会全国大会・大阪大会にて、小出裕章氏(京都大学原子炉実験所 助教)による記念講演「子どもたちに伝えよう 原子力の真実」が行われた。小出氏は上記のように述べて、子どもたちに安全な未来を残すための、大人の心構えを説いた。
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小出氏は、日本人の核に対する意識について、「1945年の広島と長崎の惨状を見て、多くの人が原爆は恐ろしいと思った。この『恐ろしい』が、次に『希望』に変わっていった。原爆は大変悲惨だが、これだけのエネルギーを出すのなら、人類の平和に役立てると思い込み、何とか使えないかという夢に置き換わってしまった」と話した。
そして、原子力に夢を託そうした頃の新聞記事の『さて原子力を潜在電力として考えると全くとてつもないものである。しかも石炭などの資源が地球上から次第に少なくなっていくことを思えば、このエネルギーの持つ威力は人類生存に不可欠なものと言ってよいだろう』という文章を示した上で、「化石燃料がなくなるから、未来は原子力だ、とマスコミから宣伝を流され、日本国民はそう信じてきた」と説明した。
さらに、原発は低コスト、小さく作れる、都会のビルの地下室を発電所にできる、という新聞記事の続きを紹介し、「今、電気代は世界で一番高くなり、原子力発電所が小さくなることはなく、都会ではなく僻地に押し付けることになった。すべて幻」と断じた。
「化石燃料がなくなるから原子力」という見立てが誤りであることの説明として、小出氏は、石油可採年数推定値の変遷について触れた。「1930年、石油はあと18年でなくなると推定されていたが、1950年には、まだ20年あるという評価。発表ごとに、採掘可能期間が延びる。石油がなくなるという脅しには、科学的根拠がないことに気づかなければいけない」。
再生不能エネルギー資源の埋蔵量については、「再生不能とは、掘り出して使えばなくなるもので、一番豊かな資源は石炭である。現在、世界の総エネルギー消費量から換算すると、石炭は50~60年分あるし、技術の進歩ですべての埋蔵量を使えるようになると800年分はある。天然ガスは、新しいガス田が発掘されて、今は石炭に匹敵する豊かな資源となった。次は石油。オイルシェール、タールサンドの採掘方法が、最近米国で画期的に進んだことから、これも増えていくだろう」と予想した。
そして、化石燃料が枯渇する前提で、期待を集めてきた原子力の資源、ウランについては、「ウランは、どんな化石燃料に比べても貧弱な資源。埋蔵量は石油に比べて数分の1、石炭に比べれば数十分の1しかない。こんな馬鹿げた資源に人類の未来を託すのは、はじめから間違いだった」と述べた。
小出氏は「原子力の抱える問題は、核分裂生成物などの放射性物質を、次々と生み出してしまうこと。その毒物を、私たちは無毒化する力がない。だから、生命環境から隔離しなければならないが、隔離期間は100万年だ」と述べ、「広島原爆がまき散らした核分裂生成物の120万発分を、すでに原発が作ってしまった。セシウム137の半減期を考慮して補正しても、約90万発分の死の灰が残っている」と説明した。
死の灰を管理するために、さまざまなプランが考えられたが、どれも問題があり、残っている方法は地層処分だけだという。小出氏は「日本は世界一の地震国。地震は深さ何10キロというところで発生して、地表まで岩盤をばりばり割りながら到達してくる。地層処分のために1000メートル掘っても、安全ではないのだ。そして、100万年間保管しなければならない。日本政府は、どこかに捨て場を確保しようと策略を続けてきたが、これだけは、どこの自治体からも断られてきた。最近になって、モンゴルに捨てようと動き始めた。本当に恥ずかしい国である」と批判した。
さらに、小出氏は「日本は先進国だと思っているかもしれないが、明治維新からわずか145年。近代国家としての、日本の歴史はこれだけだ。日本という国を、神武天皇が作ったところからでも2673年。その末裔である私たちが、電気がほしい、豊かになりたい、と原子力をガンガンやって、膨大な放射能のゴミを作って、これから100万年間管理すると言っている。これは、まともなことでしょうか。このゴミを、私たちは子々孫々に押し付けなければいけない。これは、未来に向けての犯罪だ」と嘆いた。
「nuclear weaponは核兵器、nuclear power plantは原子力発電所、と訳される。同じ言葉が『核』と訳される時は軍事利用、『原子力』と訳されるときは平和利用、と使い分けられている。私たちは、この2つは違うものだ、と聞かされてきたが、では、nuclear developmentは何か。北朝鮮やイランがこれを行うと、日本のマスコミは『核開発』と訳す。日本が行うと『原子力開発』と伝える。そして、イランが核開発すると経済制裁、軍事制裁となり、日本の原子力開発は文明国として必要だという。国民全員が誘導されてしまっている」と指摘した。
続けて、「日本は、憲法で戦争を封じた国家、とされているが、すでに世界6番目の軍事大国である。5番目までは国連の常任理事国だ。なぜ、この5カ国が常任理事国になれたかと言えば、核兵器を持っていたから。核兵器の所有が、決定的な力になっている。そのため、『日本が支配国になろうとすれば、核兵器を持たなければならない』として、日本の原子力開発は、平和利用を標榜しながら進められてきた」と語った。
最後に小出氏は「私たちは、本当に注意をしなければいけない。きちんと歴史の流れを見て、自分たちが何をしなければいけないか考えて、責任というものを果たさなければいけない」と力を込めた。そして、「私たちは、大変重要な時期にいる。子どもたちに未来を残していく立場で、どうするのか真剣に考えていただきたい」と話を締めくくった。