「この事業は最初から嘘で塗り固められている」 ~福島県鮫川村の焼却炉が8月の本格稼働に向け確認運転 視察の井上環境副大臣に地権者ら周辺住民が白紙撤回の要望書を提出 2013.7.18

記事公開日:2013.7.18取材地: テキスト動画
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(IWJ・佐々木隼也)

 建設着工後も地元住民に周知せず、秘密裏に進めてきた、福島県鮫川村の高濃度放射性廃棄物の焼却施設が7月18日、初めてメディアと一部村民に公開された。施設は完成後7月4日から試験運転を開始し、最終日となる18日には5000ベクレル/kg超の稲わらを、100ベクレル/kgの牧草で希釈させて焼却した。

 この日は井上信治環境副大臣が鮫川村役場を訪問し、大樂勝弘村長との面会後、焼却施設を視察。村で結成した同施設の監視委員会へ挨拶を行い、その後報道陣へのぶら下がり取材に答えた。井上副大臣は「事業を進めるにあたっては、地元のご理解ご協力が大前提」としながらも、「事業を一刻も早く進めていくことが、福島の再生にもつながる」と鮫川村以外でも、同様の施設建設を推進していく姿勢を示した。

政府が除染の責任に初めて言及

 「何らかの事故・トラブルが起こった場合、事業主体である環境省が責任を負うか」というIWJの質問に対しては、「村と協力をしていきながら国が責任をもって対応する」とし、また2年後に施設を取り壊して引き上げる際の、放射線量の測定や汚染されていた場合の除染を含めた原状回復についても、同様に国(環境省)が責任を負うことを認めた。

■井上副大臣と大樂村長面会と、その後の地権者による要請書手渡し

■焼却施設一般公開と視察後の井上副大臣ぶら下がり、施設ゲート前での抗議行動の模様

※副大臣へのぶら下がりは開始56分から

  • 日時 2013年7月18日(木)
  • 場所 鮫川村役場(福島県鮫川村)

 一方、村と環境省の「説明不足」や「住民不在で事業を進める姿勢」、「施設の安全性への不安」などから、施設ゲート前では鮫川村民や周辺自治体の住民らが抗議行動を行った。

 また、地権者の一人である堀川宗則氏と、別の地権者の息子である土手内進氏が、役場で村長と面会後の井上副大臣に、「事業の白紙撤回」を求める要請書を提出。堀川氏は7月12日、村が2012年4月に「地権者全員分の署名捺印を得た」とする施設設置の「同意書」について、「自分はサインも判子も押していない」とし、「同意書は偽造であり、明らかな有印公文書偽造である」と告発を行っている。井上副大臣はこの要請書提出に対し、「よく確認をさせていただいて、対応していきたい」としながらも、具体的に今後どのように対応していくかについては明言を避けた。

▲施設を視察する井上信治環境副大臣

 施設から1kmに実家がある土手内氏は、幼い子どもと共に村外へ避難を余儀なくされている。土手内氏は「地権者の一人である堀川さんが勇気を振り絞って、『同意はしていない』と言ってくれていることに感謝したい」と語り、「地権者、住民、他地域にどれだけ迷惑をかけているか。地権者と地域が賛成していないなかで稼働してよいものなのか。これは筋が通らないと思う。堀川さんの同意書の偽造について井上副大臣に知ってもらい、最初から嘘だと、おかしいと、それをまずはわかってもらいたい、白紙の状態から話し合いたい」と訴えた。

 7月26日、IWJの取材に対し環境省は、「堀川氏からの要請書をふまえて、村に対して手続き上の何らかの指導をする予定はなく、環境省としても何らかの対応をする予定はない」と答えた。

 堀川氏は7月12日、村に対して(自分の署名捺印があるとする)「同意書」の開示を求めたが、村は「開示できるかどうかの審査を行い、早くて2週間後に結果を通達する」と回答している。しかしその2週間後である7月26日現在、村は「担当者が出張中」を理由に、まだ何らかの通達も出していない。

▲施設裏側にある排気筒

 焼却施設は、村議会議員11名、村行政区長7名、公募で選出された村民7名(計25名)で結成された監視委員会の了解を得たあと、早ければ8月中に本格稼働する予定だ。

▲施設全体を管理する制御室

井上環境副大臣「最終処分場にはしない」

 施設に反対する住民の懸念の一つは、なし崩し的にここが最終処分場になってしまうのではないか、というものだ。視察後のぶら下がりでも、記者から「最終処分場選定のロードマップはいつ出されるのか?」という質問が飛んだ。これに対し井上副大臣は「この施設は中間貯蔵施設とは別。指定廃棄物の最終処分場については、福島を含めた各6県に作って、処理をさせていただく。市町村会や有識者会議などを経て、なるべく早くスケジュールを出していく」と語り、あらためて同焼却炉は「最終処分場にはしない」との見解を示した

8000ベクレル/kg超は「そんなに高くない」放射性物質!?

 焼却施設で燃やされる牧草や稲わらの中には、1万ベクレル/kgを超す高濃度の放射性廃棄物も含まれている。しかし環境省によれば、本格稼働後に何ベクレルのものがいつ燃やされるかについてのスケジュールは事前に公表はせず、事後に発表するという。

 事前に公表しない理由として、視察に同行した環境省の担当者は、「1万ベクレル/kg以上の放射性廃棄物が正直高濃度なのかというと、そうではない」と語った。(動画2 開始1時間20分過ぎから)

 担当者は、「確かに『指定廃棄物』ではありますが、原発で作業員の服など雑多なものを燃やす焼却炉は、だいたい平均200万ベクレル/kgなので、放射性物質の中ではそんなに高濃度なものではない」と語ったうえで、「鮫川で燃やすものは圧倒的に8000ベクレル/kg以下のものが多い。燃やす時にそうしたものと混ぜれば、灰としての濃度は高くならない。混ぜてやることによって、灰の濃度が平均化されるので」と、環境への影響の低さを強調した。

水源地に埋められる汚染焼却灰

 この焼却施設は、近隣の塙町、北茨城氏、そしていわき市に通じる水源地に建てられている。施設ゲート前で抗議行動に参加していた男性は、「問題なのは、ここが大雨で必ず土砂崩れがある場所だ」と指摘した。(動画2 開始1時間37分過ぎから)

 焼却灰は、セメントで固めて敷地内の仮置き場に埋められる。しかし、施設周辺は日常的に集中豪雨があり、頻繁に土砂崩れがある。男性は、「焼却というところばかりに目がいきがちだが、問題はここが中間管理の場所であるということ。土砂崩れなどの対策ができているのか。ここは水源の管用地であり、本来、環境省が一番その事をデリケートに考えていかなければならない」と語った。

▲施設のまわりは手付かずの自然が広がる

<メモ>
焼却施設の建つこの地域一帯は、1970年代に堀川氏を含む地権者18名が中心となり、共同で牛の放牧事業を行なってきた場所。堀川さんらは地権者として、人の手の入らない、手付かずの自然のままこの一帯を管理してきたという。しかし福島第一原発事故の影響で、運用不可能な土地となってしまった。村では2年後この施設が取り壊された後、この土地一帯を国の推進する「メガソーラー基地」にする計画をたてている。

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