福島県鮫川村に建設された、1キロあたり8000ベクレルを超える「高濃度」の放射性廃棄物の焼却施設が7月16日、本格稼働する。一度は地域住民からの抗議により工事は一時中止となったが、5月22日、村は「立地地域の大方の同意は得た」として工事を再開。7月4日には既に試運転に入っている。
しかし今、この建設工事そのものの正当性が大きく揺らいでいる。
7月12日、施設の建設地の地権者の一人である堀川宗則氏が、「署名押印をしていない同意書をもとに、勝手に工事が進められた」として、村に運転の即時停止を申し入れ、その後記者会見を行った。
村の担当者は以前IWJの取材に対し、「昨年4月、焼却炉の工事を国が進める前、契約の前に、村は地権者18名と周辺住民9名に対し説明会を開き、全員の名前と印鑑をもらった同意書がある」と、「周辺住民と地権者の同意」の根拠を主張していた。
しかし堀川氏は「説明会には一度も参加したことがなく、サインも判子も押していない。署名捺印を求められたことも一度もない」とし、自分が署名したとされる同意書の開示を村に求めた。村が同意書を開示し、偽造が発覚した場合、有印公文書偽造の疑いがあるとして法的措置も検討するという。
堀川氏の開示請求に対し村は、早くて2週間後に「開示できるかどうかの審査結果」を知らせると回答している。
- 日時 2013年7月12日(金)
- 場所 鮫川村役場ほか(福島県鮫川村)
村は同意書の偽造を否定
12日午前、堀川氏の委任状と実印を携えた親族が役場を訪問し、同意書の開示請求と運転の即時停止を申し入れた。
村の担当者は、名前と印鑑が押されていない同意書の原本を開示したが、記名欄のみで「何に同意するのか」という名目の記載がなかった。昨年4月の時点では、減容化施設を設置するという事しか決まっておらず、村は地権者や周辺住民にも「8000ベクレル超えの放射性廃棄物を焼却する」とは説明しなかったという。
また、堀川氏が同意書に署名捺印していない件について村は、「署名については、地権者18名が所属する青生野協業和牛組合の組合長が『全員分とってくる』と言ったので、村としては(堀川氏)本人に直接確認はしていない」と答えた。堀川氏の親族が「本来は村が確認すべき問題ではないか。こうして申し入れをしているのだからなおさら、本物かどうか確かめるべき。役場として、偽造したものを公文書として保管しているとのは問題ではないか?」と再三追及するも、担当者は「村は偽造していない。(開示について)検討させていただく…」との回答を繰り返した。
また、「テロなど何らかの要因で焼却施設が万が一爆発したらどうするのか?」「その場合の避難経路はどうなっているのか?」という質問に対して、担当者は「それはまだ考えていない」と回答。安全性の確保よりも、稼働をまず先行させるという村の姿勢をあらためて示した。
村と環境省の「説得工作」
申し入れ後、堀川氏の自宅で堀川氏と親族らが記者会見を開いた。会見にはNHKや毎日新聞など、大手メディアの記者も駆けつけた。
同意書の開示を2週間もかけて審査することについて、堀川氏の親族は「自分が署名したものを確認するだけなのにおかしい」と村側の対応に不信感を露わにした。「村が審査で同意書を開示しないと回答したらどうするのか?」というNHKの記者の問に対しては、「個人情報なので、それを本人が請求して開示しないというのは通常考えられない。しかも厳密に言えば個人情報にすらならない。個人情報とは電話番号や住所など個人を特定するもの。これは名前と判子だけなので。個人情報には該当しない」と答えた。
また、会見では周辺住民に対する建設同意の「説得工作」も明らかになった。堀川氏と同じく建設に反対だった別の地権者は、仕事がなくなり無職になりそうな時に、村から焼却施設での仕事を紹介され、賛成にまわったという。この地権者を含め、多くの周辺住民が「同意」と引き換えに、焼却施設や村の施設での仕事を斡旋されたという。
今年5月の「賃貸借契約書」にもサインせず
また堀川氏は、今年5月の工事再開時に地権者18名中16名が日立造船と結んだ「賃貸借契約書」にもサインしていない。これについて村と環境省はIWJの取材に対し、「賃貸借契約は法的には地権者の半数が同意していれば問題ない。また、工事再開についての同意は、昨年4月の工事開始時に同意書をもらっているから必要ない」と語っていた。
しかし6月28日に行われた、環境ジャーナリストの山本節子氏と村との行政交渉で、山本氏は「建設地は共有地であり、地権者に所有権がある。地権者全員の同意がいるはず」と指摘。村に対し、「地権者の半数の同意で良い」という根拠となる文書を環境省に提出するよう求めた。村はその要請を承諾し、環境省の担当部署に申し入れをしたが、まだ回答はないという(7月12日現在、この賃貸借契約書は契約元が「日立造船」から「環境省」に変更されている)。
「なぜ人の土地に勝手に焼却炉を建てられるのか」
こうした村と環境省のやり方について、堀川氏はIWJの取材に対し「最初は『仮置き場』を設置するという話だったのに、いつのまにか焼却炉にすり替わった。村と環境省は、なぜこんな内輪揉めのようなことにするのか。これまではこういう部落を分けるような、賛成と反対に分かれるようなことはなかった」と語る。
堀川氏は「すべて後付け後付けで話をすり替える対応。村と環境省が『最終処分場にするつもりはない』と言っても信用できない。なぜ人の土地に勝手に焼却炉を建てられるのか」と怒りを露わにする。会見でも、「この案件は、最初から不可思議なことがたくさんあった。この事業は必ず止めなければ、という思い。今後、みなさんの協力で押し切っていきたいので、ご協力をお願い致します」と決意を語った。