【文化】コミュニケーションは、予期されたものと同時に衝撃を必要とする ~安冨歩先生の授業 2013.6.13

記事公開日:2013.6.13取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 6月13日(木)16時30分から、東京都文京区の東京大学本郷キャンパスにて、インターネット授業の第3回になる「安冨歩先生の授業」が行われた。安冨歩氏は「企業も政治も、人々がどのように意味のある情報をつかみ出し、新しい価値を生み出せるかを考えれば、意味のある経済活動の道が見えてくる」との考えを示した。

 休憩後は、第1回目のゲストで、前回欠席した神奈川県平塚市議会議員の江口友子氏を迎え、『ハーメルンの死の舞踏』という本をもとに、個人の生き方や社会のあり方を語り合った。

■講義

■対談

  • 出演 安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)、江口友子氏(平塚市議会議員)
  • 日時 6月13日(木)16:30~
  • 場所 東京大学本郷キャンパス(東京都文京区)

 第3回目の授業では、利益はどのように出るのか、というテーマのもと、関所とブランド、コミュニケーションの問題が取り上げられた。安冨氏は、まず始めに、自身が銀行員として働いていた2年半の経験を例に挙げた。「そもそも、銀行は企業家をサポートすることが本来の仕事である。にもかかわらず、両替などの書類の操作にエネルギーを費やし、現実的には価値を生み出していない」とし、「そのような仕事で、銀行員は莫大な給料をもらっている。しかし、生産性は低いが、どう見ても、農家の方が価値を生み出している」と指摘した。

 その上で、フランスの歴史学者フェルナン・ブローデルの著書『物質文明資本主義』を取り上げて、市場が生まれ、市場群と市場群の間に為替や決済の情報が集まり、富を独占する結節点が発生する構造を解説した。安冨氏は「ローマ帝国のような、人々の生活を覆う政治権力が、何世紀にも渡って出現せず、一方で、市場経済が拡大し、物質文明の巨大化が進んでいった状況が、資本主義の起源である」と述べた。そして、「経済的権力を1ヵ所に集中させる結節点を作り、それを占拠できるかどうかが、利益を生むためのポイントだ」と指摘すると、銀行員が本来の価値を生み出さないにもかかわらず莫大な給料を得ている理由を、「銀行が、市場を結ぶ結節点になっていることで説明できる」とした。

 続いて安冨氏は、2002年10月25日に、世田谷区の自宅駐車場で刺殺された国会議員、石井紘基氏の主張を例に挙げて、「日本経済停滞の原因は、国内市場と国家権力が結びついた、国家資本主義にある」とした。「市場拡大が続いていた高度経済成長期には、国家権力の拡大は問題ではなかった。しかし現在、資本主義経済の成長が止まる一方で、国家権力の拡大は止まらず、国家が国内において最大の関所(結節点)となってしまっている。この構造が日本経済を圧迫しているので、解体するべきである、と石井氏は考えた。民主党政権は、石井氏の考えを引き継いで、何とか解決しようとしたが、実現できなかった」と解説した。

 また、現在の経済動向について、「アベノミクスは、再び、国家権力の拡大を推進しているが、単に金を刷っても意味がない。これからは、日本社会で起きているコミュニケーションの窒息を、どのように乗り越え、人間同士のやり取りの質を高めていくかにかかっている」とし、人々の心に働きかける、新たな結節点を作る必要性を説いた。

 後半は、江口友子氏をゲストに迎えて、『ハーメルンの死の舞踏』という物語に照らし合わせながら、国家資本主義を据える日本の社会構造や、原発を推進する政治の問題点について語り合った。江口氏は「立場の争いと、アリバイ作りが政治家の仕事になってしまっている」と、現在の政治状況を問題視した。

 それを受けて、安冨氏は「われわれは創造的な社会を目指す必要がある。行政による、手続き的公正性は、公正性を担保しない。何かのために、自らを投げ出す時に公正さが生まれる。自由で自立している人とは、多くの人と関係性を結び、何かあれば助けが得られる状態にいる人である。その中で足りないものを、貨幣で補えば良い。戦略的に貨幣を使うことが重要であり、市民の中に、ガンジーのような人が出てくることが大事である」と語った。

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