安冨歩×深尾葉子×平智之 出版記念特別鼎談 「合理的な神秘主義」と「タガメ女」と「禁原発」の著者3人が日本の岐路を語り合う 2013.5.26

記事公開日:2013.5.26取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富田/奥松)

 2013年5月26日(日)18時から、京都市中京区のハートピア京都で、安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所教授)、深尾葉子氏(大阪大学大学院経済学研究科准教授)、平智之氏(前衆議院議員)による出版記念特別鼎談が開かれた。3人は、最近上梓した単行本での主張を中心に持論を展開。異口同音に「日本が進むべき道は、アベノミクスの先にはない」と明言した。

■全編動画

  • 安冨歩氏(東京大学東洋文化研究所 教授)
  • 深尾葉子氏(大阪大学大学院経済学研究科 准教授)
  • 平智之氏(前衆議院議員)

 平氏は「今、日本は岐路に立たされている。それは、原発という大きな負の遺産に対し 私たちが直ちに『不要』と言えるかが試されている、ということだ」と述べ、自著『禁原発と成長戦略』(明石書店)を、「『原発をゼロにしよう!』と叫ぶだけではダメだ。どうやったらゼロになるか、ゼロになったあと、われわれ人類には何が求められるのか、について、法律と形で提言する本だ」とアピールした。

 続く深尾氏は、『日本の男を喰い尽くすタガメ女の正体』 (講談社)の内容を、「日本では、結婚すると、夫は妻によってタガをはめられるが、その夫は、会社でもタガをはめられる。つまり、夫は身動きが取れない状態になる。原発反対の声に対し『そうはいっても……』と、大勢の男性諸氏が一歩引いて傍観してしまうのは、タガが優先される日本社会ならでは」と説明。女性がサラリーマン社会から排除されるのも、タガ優先の社会構造の産物と主張し、「すべての日本人に、自分のあり方を見直してほしいと願い、この本を執筆した」と表明した。

 「そんなに悪いことをしていない、この私が常に抱えている不安や恐れの根源に何があるのか、との視点で書いたもの」と『合理的な神秘主義』(青灯社)について語った安冨氏は、「この本を通じて、広く日本人に対し、そんな不安や恐れを抱くは必要ない、と提言したつもり。今の日本社会に横たわる諸問題への、対処法を示す一冊だ」と語った。

 討議に移り、平氏が「米国がタガメ女で、日本はそのタガメ女につかまれているカエル男という見方もあると思うが」と水を向けると、深尾氏が「戦後の日本は、確かにそうなのかもしれない。私鉄沿線の農地がつぶされてベッドタウンが誕生し、そこに住宅ローンを抱えたサラリーマン世帯が暮らす光景は、その象徴と言えそうだ」と応じ、安冨氏は「戦後、米国は日本への文化戦略を実施した。米国のテレビドラマやハリウッド映画の対日輸出を通して、だ。米国型のライフスタイルを日本に広めるには、相応の住宅が必要ということで、米国が扱いやすいタガメ女とカエル男が、日本にどんどん生まれる結果になったという説明は妥当だ」と、深尾氏の見方を支持した。

 日本社会を支配する「同調圧力」が話題になると、深尾氏が「テレビなどのメディアは巧妙に、同調のタネとも言える価値観を日本人に埋め込む。日本人の多くは、その価値観にくみしていれば安全と考えるため、必然的に均質性が生まれる。その均質性をベースにしているのがサラリーマン社会であり、ママ友軍団だ」と指摘。「私立の幼稚園の場合、曜日指定で、子どもの服装に変化を求められる。親が誤って違う服装をさせると、子どもがすごく嫌な思いをする。子どもの時分に、すでに同調圧力の怖さを経験しているのだ」と述べた。

 安冨氏はその同調圧力を、今の日本社会を支配する、組織の中の自分の立場を何よりも優先する「立場主義」の視点で説明。「立場主義は、江戸時代の家制度とは対照的なものだが、今の日本人が自覚できないほど、個々人の奥深いところまで入り込んでいる」とし、その立場主義の浸透が、タガメ女とカエル男の増産につながっている、との見方を示した。

 そして、「タガをはめられたサラリーマンが、生産システムに馴染んでいたのは、バブル期までの日本。そこから先は、日本人一人ひとりがタガを外さなければ、新たな経済成長は得られない時代だったのだが」と振り返り、「原発を再稼動させないと日本経済は復活しない、などの間違った信念を捨て去ることから、日本経済の再成長が始まる」と力説した。

 平氏は「中国は今、日本政府が、人類史上初となる急ピッチの高齢化社会の進展に、どう立ち向かっていくかに注目している」と話し、中国の要人はアベノミクスをまったく評価しておらず、「その中身に、何ら目新しさがないことに失望した、という話を聞いた」と明かした。

 これを聞いた深尾氏が、「今の日本の人口減少は、政府が人口抑制を意図した結果ではない。それは、国民の多くが選択した結果、つまり、子どもを産むこと、あるいは結婚することを、自ら放棄したのであり、この現実を、日本政府は直視する必要がある」と述べ、「夢よもう一度」的なノリのアベノミクスは、自民党が今なお、タガを強化する方向を向いている証拠、と断じた。

 平氏は「今の日本に必要なのは、分配重視の政策」と力説し、「いつの時代も金持ちは誕生する。これから大切なのは、増税で金持ちからたくさん金を徴収して国債を発行するよりも、その金持ちが地域のために金を使う、新たな仕組みを考案すること」と訴えた。

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