2013年5月22日(水)18時30分、京都市下京区のキャンパスプラザ京都において、ロシア科学アカデミー評議員のアレクセイ・ヤブロコフ博士による講演会が開かれた。ヤブロコフ博士が共著者として名を連ねた報告書『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の日本語版が、4月26日に発刊されたことを記念し、全国4ヶ所で来日講演を行っているもので、最終開催となる京都講演には、280名を超す来場者が詰め掛け、会場は超満員となった。講演はロシア語で行われ、ロシア語翻訳の第一人者である吉岡ゆき氏が通訳を担当した。
(IWJテキストスタッフ・久保元)
2013年5月22日(水)18時30分、京都市下京区のキャンパスプラザ京都において、ロシア科学アカデミー評議員のアレクセイ・ヤブロコフ博士による講演会が開かれた。ヤブロコフ博士が共著者として名を連ねた報告書『調査報告 チェルノブイリ被害の全貌』の日本語版が、4月26日に発刊されたことを記念し、全国4ヶ所で来日講演を行っているもので、最終開催となる京都講演には、280名を超す来場者が詰め掛け、会場は超満員となった。講演はロシア語で行われ、ロシア語翻訳の第一人者である吉岡ゆき氏が通訳を担当した。
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冒頭、ヤブロコフ博士は、この報告書を刊行することになった経緯を解説した。この中で、ヤブロコフ博士は、2005年にWHO(世界保健機構)とIAEA(国際原子力機関)が出した報告書の内容が、「(チェルノブイリ原発事故で)起きたことに、恐ろしいことは何もないとの主旨だった」と述べた。「具体的に書かれている内容が、私や友人が、チェルノブイリなどで見てきたことや、何千という研究論文にまとめられてきた内容とあまりにも違っていた」と語り、この報告書の内容に疑問を感じたことから、「ベラルーシの物理学者ワシリー・ネステレンコ博士と共に、これまでの調査で明らかになった真実を、一冊の本にまとめることに決めた」と説明した。また、今回、刊行された報告書について、「全世界で発表された、数万点の研究論文や調査報告書のうち、約5千点からデータを引用してまとめたものである」とし、その内容の正確性について、自信のほどを示した。
続いて、ヤブロコフ博士は、この報告書に記載した内容をもとに、チェルノブイリ事故後のロシアやウクライナ、ベラルーシ、ヨーロッパ各地における健康影響調査のデータと、福島第一原発事故によって、日本で起きる恐れのある、健康面への影響について解説した。
まず、固形がん(血液以外のがん)の罹病率について、「放射能汚染のひどい地域・汚染が並程度の地域・ロシア全体」の3パターンをグラフで示し、汚染のひどい地域ほど、がんの罹病率が他の地域よりも明らかに高くなっていることを解説した。
甲状腺がんについては、ベラルーシで当初予想されていた罹病率を、実際には上回ってしまっていることを図示し、「チェルノブイリ事故の4年後に、甲状腺がんの発生率が急激に高くなった」と説明した。それに相応する時期を、「日本では来年の後半ということになる」と述べ、チェルノブイリ事故後のベラルーシの状況に当てはめて考えた場合、日本でも2014年の半ば頃から、甲状腺がんの罹病率が急増する、との見解を示した。
乳がんの罹病率に関しては、「チェルノブイリ事故後、10年経ってから急激に上昇している」とし、「同じことが日本でも起きると予測している」と述べた。ダウン症児の出生率については、ベラルーシと西ベルリンのデータを示し、「チェルノブイリ事故から9カ月後に、ダウン症児の出生率が急激に上昇した」とし、ヨーロッパ各国でも同様の傾向が反映された、統計学的に確実なデータであるとした。また、日本でも同様の傾向がすでに出ている可能性があると説明した。
被曝の影響として、白内障に転じる可能性がある、両眼性の水晶体混濁が増加するとのデータも示した。ベラルーシの子どもにおける水晶体混濁の罹病数と、体内に摂り込んだセシウム137の量に関連性があり、体重1kgあたり、おおよそ20Bq(ベクレル)を超えると、水晶体混濁が急増すると説明した。
また、ソ連全体で60万人いるとされる、リクビダートル(チェルノブイリ事故の収束処理に従事した作業員)の家庭における、流産率の調査データも示した。事故後1年間の妊娠については半数が流産となり、また、同じ地区の平均的な家庭と比べ、事故処理に従事して以降、5~6年間は流産率が非常に高いという結果を明らかにした。
このほか、ヨーロッパにおいて、生後1年以内の乳児の死亡率が上昇したデータや、ベラルーシにおいて、新生児の先天性異常や奇形の発生率が、事故後6年経ってから急増したデータ、また、女児に比べて男児の出生率が減少した事例などを示した上で、放射能によるさまざまな健康被害が、日本でも今後起きる、との予測を示した。
特に、これまで減少傾向にあった日本全体の新生児死亡率が、2011年に上昇したという公式データについて、「福島の事故以外、(原因は)考えられない」と述べ、「『福島の事故による危険は生じていない』という当局の発表が嘘であることを証明している」と語った。
原発推進派が原発反対派に対して、「『放射線恐怖症』によって自らを病に追い込んでいる」という主旨の誹謗中傷をすることについては、「カエルや野鳥などの動物にも染色体異常が発生しているが、動物が『放射線恐怖症』にかかることはない。推進派の意見には根拠がない」と指摘した。
チェルノブイリ事故から学ぶべき教訓については、「放射能は安全だという当局の情報を信用しないこと」「当局から独立した放射能モニタリング体制を確立すること」「体内に摂り込んだ放射性物質のモニタリングを実施すること」が重要であると語った。また、尿検査による、内部被曝の大規模な測定や、定期的な検診の必要性を訴えた。
低線量被曝や内部被曝の危険性については、「放射線防護の数値は、原子力産業従事者が対象であり、一般公衆に当てはめることを想定したものではない」とし、年間許容被曝線量について、「1mSv(ミリシーベルト)で大丈夫だとは思わない」と述べ、被曝をより低減していくべきとの見解を示した。
「原発事故による健康被害は心配ない」との見解を示したWHOとIAEAに対しては、「両者間での協定によって、原子力産業にとって不利になる情報の公開が制限されている」と批判し、この協定の破棄を求め、原発反対派がジュネーブのWHO本部前で、抗議ピケを6年間にわたって毎日張っていることを明らかにした。
講演の終盤、ヤブロコフ博士は「これ以上、放射能による健康被害の危険性を拡大させないために、より大きな声で叫ぶことが重要だ」と述べ、反対世論を盛り上げ、政治を動かしていくことの重要性を説いて、超満員の聴衆に向かって力強く拳を振り上げた。