「わたしの友だちに手をだすな!」
東京、新大久保駅などで行われている差別デモとカウンターの抗議行動を、IWJは最近、重点的に取材し、報じている。同様のデモは、大阪・鶴橋などでも行われていた。2013年4月20日、京都の烏丸御池、四条河原町で、「在特会による街宣と、それに対するカウンターの抗議行動」が行われたことに合わせ、IWJは東京から記者を派遣し、生中継でお伝えした。この日の模様を、報告する。
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20日正午、在特会約4〜5名が烏丸御池の交差点に集まり、「ヨシフらの言論弾圧を許すな!街宣 in 京都」と題した街宣を行った。向かい側の歩道には、これに反対するための市民、約30〜40名が集結した。警官や公安らしき人多数、盾を持った機動隊、機動隊車両二台といった物々しい警備だった。
カウンター抗議には、上瀧浩子弁護士も参加。話をうかがった。上瀧弁護士は、京都事件の弁護団の一員。ここでいう「京都事件」とは、09年、「公園を不法占拠し、グラウンドとして使っている」とし、京都朝鮮第一初級学校(幼児・小学低学年)を「行動する保守」らが襲撃した事件を指す。
事件の日は普段通り授業が行われており、学校の中には子どもたちが大勢いた。にも関わらず、行動する保守らは校門前で拡声器を使い、「朝鮮帰れ」、「スパイの子ども」などとの罵声を上げ続けた。また、公園に設置されていた学校のスピーカーなども強制撤去している。
この事件は刑事事件として、行動する保守らに「侮辱罪、威力業務妨害、器物損壊罪」で執行猶予付きの有罪判決が下されている。また、民事では、学校側が損害賠償と、学校近くで街宣をしないよう訴え、6月13日に最終口頭弁論期日を迎える。判決は9月頃に出る予定。
上瀧弁護士は、被害にあった生徒の親から、次のような悩みを聞いたという。「子どもたちが凄く怯えていた。『朝鮮』という国を指す言葉が、『朝鮮汚い』『朝鮮帰れ』などという文脈で使われることで、『朝鮮』という言葉が悪い意味として捉えられたらどうしよう」。
また、「スーパーで、子どもに『アッパ(パパ)』『オンマ(ママ)』と大声で呼ばれると、『誰が聞いているかわからないからやめて』という気持ちになる」と話す生徒の親もいるという。「自分たちが朝鮮人だとバレたら誰が何をしてくるかわからない」。
被害者は、京都事件によって、「社会に対する安全感を失った」と上瀧弁護士は考察する。中には、「初めて日本はアウェイだと実感した」という親もいたという。日本で生まれ育ち、少なからず差別を受けてきたであろう在日の方に、初めて「敵地」と感じさせるほどの衝撃である。
09年と今では、カウンター勢力の数がが圧倒的に違う。上瀧弁護士は、「(構造的な)差別がなくなるとは思わないが、過激な行動がなくなることで傷つく人が少なくなればいいと思う。『頑張ってやぁ』、『一緒にやってくれて嬉しい』という声を、在日の人からも聞く」。
「ヘイトスピーチ規制については、法で処罰をしても差別自体はなくならない。『これをやったら損だからやめておこう』ということになる。どれほど実効性があるかもわからないので、現段階ではまだ考えがまとまっていない。市民がプラカードをあげ、ヘイトスピーチ言論を無効化するのが望ましい」。
東京のカウンター勢力は「プラカード隊」や「レイシストをしばき隊」などだが、大阪のカウンター勢力は、「友だち守る団」が有名だ。友だち守る団は、「わたしの友だちに手を出すな!」という声をあげ、反差別を訴える。しばき隊に呼応する形で今年2月に立ち上がった。
守る団としての行動は、この日でで5度目。回を重ねるごとに参加者は増えている。3月31日、東京ではデモ隊を遥かに上回るカウンター勢力が集まったが、大阪でも、差別デモ参加者が30〜40人程であるのに対し、200〜300人のカウンター参加者が集結したという。
「関西では、生活に密着した住宅街でやっている。いくらなんでもそれはまずいと思った。しかも、東京よりも鶴橋、京都のほうが言動も悪質」。守る団を立ち上げた動機について、代表の凛七星氏はこう話した。
凛氏は、在日コリアンである。また、前述の「京都事件」の被害校である「京都朝鮮第一初級学校」の出身者だ。「学校側はずっと、地元の方々と合意の上で公園を使っていた。そうした地元に密着した事情も経緯も知らずに飛び込んできた。これは放置しておけない思った」。
カウンター勢力登場の影響もあってか、守る団は回を重ねる度に参加者を増やしていく一方、差別デモ隊の勢いは衰えているように凛氏は感じるという。さらに追い打ちをかけるように、最近、関西を中心に活動する行動する保守団体「神鷲皇國會」の幹部が立て続けに逮捕され、解散したという出来事が。
なぜ、このタイミングで警察が動いたのか。凛氏は、「こういう勢力を利用している連中がいるが、最近、差別デモ問題は海外まで情報発信されている。警察も、『さすがにこれはまずい』、という流れになってきているのでは。実際、暴力行為を放置しないのは当たり前の話し」との見解を示した。
凛氏には、在日として経験してきた差別についてもうかがった。「映画『パッチギ』のようだった。近隣の中高生が学校まで来て、在日の子を殴るのは日常茶飯事。こちらもやられっぱなしではいられない。これは子どもの間の話と言えなくもない」。
凛氏は社会人になって、社会的な差別を目の当たりにしたという。「在日というだけで、どこも雇ってくれなかった。つい最近までは年金にすら入れてもらえなかった層もいる。年金の話は、在特会らが『在日特権』と言うが、制度上の不備に対する救済措置であり、彼らの主張は支離滅裂だ」。
凛氏は続ける。「つい最近でも、『在日コリアンお断り』ということで、部屋の契約ができない学生から相談があった。『見たくないものは見ないようにしよう』という差別構造が、日本社会のツケとして、未だにある」。
そうした構造的な差別とは別に、今、道路の向かい側に新たな差別が迫っている。これに対して凛氏は、次のようにみている。「これまでの差別はアンダーグラウンドなものだった。表面化しないよう、歯止めがかかっていた。しかし、それを打ち破る人が少数出てきて、『差別していいんだ』と勘違いする人も出てきた」。
「彼らは客観的に自分たちをみれず、主観、誤解を信じこむ。『正せる場を社会が持てなかった』という不幸もあった。ストレス発散に出てくる人もいる。社会への鬱憤をぶつけることでカタルシスを得る人もいる。人を傷付けていることを知らず、快感を得る人がいる。これはいくらなんでも問題だ」。
最後に、今後の動きについて凛氏に聞いた。「連続して逮捕者が出たことで、彼らの動きも慎重になるか、という見方もしている。しかし、情報を収集し、彼らがこういうことをしないように先手を取ることが大事。彼らがああした行動を『出来なくなる』ような環境づくりを考えている」。
在特会が「我々が許せないのは在日特権である!」と叫ぶ。するとカウンターの市民の一人はすかさず「ネトウヨ特権で電気代踏み倒してたん誰や!」と返す。笑いがおきる。神鷲皇國會の幹部の一人が逮捕されたのは、電気代滞納の催促にきた関電社員を恐喝したからだ、という報道にかけたものだ。
15:30。場所は四条河原町交差点のマルイ前に変わり、再び在特会による街宣が行われた。ここは、京都市内でも、もっとも人で賑わう場所とも言われている。特に今日は土曜日ということもあり、歩道は歩行者で溢れた。
場所柄からか、警備の警官は、在特会が街宣するスペースを確保し、その中には人が入れないよう厳重にガード。在特会員らの周りに、半円形の列を作って隊列を組んだ。在特会は先ほどより若干増え、7、8名ほど。
マルイの向かい側に、再びカウンターの市民が50名ほど集まった。歩道には、このような紙を持って立つ市民も数名。「何が起きているんだ」という顔をした多くの通行人が、紙を見る。
興味を示し、紙を覗き込んだ通行人の老人は、街宣の内容に、「許せねぇな!」と憤りを見せた。この紙を持って立つ一人の男性に話を聞いた。「僕らは『帰れ帰れ』とシュプレヒコールを上げているから、どっちがどっちかわからないという意見を聞いた」。
「だから、『在特会側はこういうことを言っている』ということを文字にして伝えることで、わかってくれると思った。実際、今日はとても手応えを感じる。読んでくれる人が多く、話してみた感じの反応がいい。特に若い人からの反応が」。
事実、この紙に、年齢、性別、国籍問わず、多くの通行人が関心を寄せて立ち止まった。欧米人と思わしき男性が紙に興味を示していたため、話を聞いてみた。立命館大学に留学中のスウェーデン人だという。
スウェーデン人留学生「こういう差別デモがあることは初めて知ってびっくりした。差別デモは、スウェーデンにもある。小さな国だから規模は大きくないが。スウェーデンでも、そうしたデモに、差別反対の市民が立ち上がる。民族差別は本当によくない」。
同じく、アメリカのテネシーから留学にきたという女性は、「こういうことはアメリカにもある。相当びっくりした。日本では初めてみた。私たち(外国人)のためにみんなが戦うのは嬉しい」と語った。
四条河原町交差点には、「差別をやめろ!」「帰れ!」といったコールが、絶えず響いた。在特会はときおりカウンターの声に反応し、片手で掲げた日章旗で、守る団を指しながら「うるせぇ!」などとの声を上げた。カウンターの市民は、失笑しながら「日の丸穢すな!」と怒鳴った。
カウンターの市民の中でも、先頭に立ち、拡声器を使い、在特会に対して何度も何度も粘り強く次のメッセージを投げかけた男性は、通行人の注目を集めた。
「日の丸を掲げて弱い物イジメする人を許せません。外国人を虐めるのはやめて下さい。本当に日本を愛しているんですか?あなたたちは、本当の日本を知っているんですか?本当の日本は、色んな外国人がいて、日本人がいて、そして、生活を支え合っています。色んな人がいていいのが日本なんです」。
街宣終了後、このメッセージを発し続けた男性に、話をうかがった。彼は、京都出身、京都在住の在日韓国人だった。「こういうデモがあると知ったのは、3〜4年前、ウトロ地区(京都の在日韓国人の集住地区)にデモ隊が来た時」。
在日韓国人の男性は、「その時、街宣車に乗った小学生の女の子が、『ゴキブリは出て行け』と叫んだ。それがショックで、その日は眠れなかった」と、当時を振り返る。
今では中学生となったその女の子だが、現在もまだ活動を続けており、先月の鶴橋では、「南京大虐殺ならぬ、鶴橋大虐殺をしますよ!」というスピーチをしていたという。「声をよく覚えていたので、すぐわかった」と男性は話す。
「差別など、遠い時代の話だと思っていた。物語でみたような差別が今目の前に出てきた。亡霊をみているかのようだ」
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