【IWJブログ】新規制基準の問題点とは何か? ~「5年猶予問題」について考える緊急クロストーク 2013.4.20

記事公開日:2013.4.20 テキスト
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(IWJ・大西雅明)

 「これはインチキでしょう!」――8日に行った緊急クロストークの席上で、社民党の福島みずほ党首が、原子力発電所の新規制基準が抜け穴だらけであると厳しく非難した。

 この日、福島党首と後藤政志氏(元東芝 原発設計技術者)、満田夏花氏(FoE Japan)、そしてIWJ代表のジャーナリスト岩上安身を含めた4人が、7月に施行される新規制基準の問題点について、緊急議論を行い、IWJで中継した。ここでは、いわゆる「5年猶予」と呼ばれる問題や、パブリックコメントを無視し続ける規制委員会の対応など、多くの問題が話し合われた。また岩上は、「原発×戦争」という視点から、安全保障上の原発の危険性について、警鐘を鳴らした。

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■全編動画

 新規制基準の条文は、原子力規制委員会によって4月10日にとりまとめられた。この基準には、福島第一原発事故を踏まえ、津波対策のための防潮堤建設の義務化や、活断層上の原子炉設置の禁止などが新たに盛り込まれている。10日午後の会見で、規制委の田中俊一委員長は「(この規制基準について)厳しいという自負を持っている」と胸を張った。

 しかし、大きく強化された基準がある一方で、問題点も指摘されている。まず第1に、現在国内で唯一稼働している大飯原発3・4号機に、この新規制基準が適用されない可能性があることだ。

 大飯原発における防潮堤の完成予定は来年の3月。さらに、活断層の問題についても現在はまだ調査中の段階だ。それにもかかわらず、田中委員長は3月19日に発表した私案の中で、新規制基準を大飯原発に即時適用しない考えを示した。規制委員会としては、大飯原発が新規制基準に適合するかどうかについて評価会合を開き、6月下旬をめどに再稼働の判断を行う。

 新規制基準のもう1つの大きな問題点が「5年猶予」と呼ばれるものだ。新基準では、シビアアクシデント対策として、PWR(加圧水型軽水炉)へのフィルター付きベントの設置や、第2制御室・非常用電源・冷却ポンプなどを備えた特定安全施設の建設が義務付けられている。ところが、これら大規模設備の設置は7月の基準施行時には間に合わなくてもよく、5年間の猶予期間が与えられる。

 4月8日に行われた衆議院原子力問題調査特別委員会に、参考人として出席した石橋克彦氏(元国会事故調委員・神戸大学名誉教授)は、個人的意見だと前置きした上で、「新規制基準の地震・津波編は、(深層防護の点から)大変不十分。安全設計全般についても色々と問題がある」と述べ、「5年猶予」については、「とんでもないこと。深層防護第4層に大穴が開く(※)」と厳しく批判した。

 緊急クロストークでも、「5年猶予」に含まれる設備について、満田氏が「時間がかかる対策ばかりを先送りにしている」と指摘。後藤氏は、「5年猶予」が適用される設備の1つ、「恒設ポンプによる格納容器スプレー」を取り上げ、「これは格納容器の圧力温度が上がったときに冷却するためのもの。こんな重要なものを何年間も放っておく。福島の事故を反省していない」と憤った。

 福島党首も「これでお墨付きを与えることになったら大変。5年間の間に、地震や津波、事故が起きるかもしれない。これはインチキでしょう」と強く非難した。

(※)深層防護とは、IAEAが提唱する原子力発電所の安全を確保する際の考え方で、重層的に安全対策を施すことで、いくつかの対策が破綻したとしても、全体として安全性を確保するというもの。第4層は、事故が発生したときの対応(シビアアクシデント対応)のこと。

■以下、クロストーク実況ツイートのまとめに加筆・訂正をしたものを掲載します。

岩上安身「7月に施行される『新規制基準』に色々な問題があります。福島みずほ議員から、この問題点を話し合う機会を持ちましょうと提案され、本日緊急クロストークを行なうことになりました。初めてこの問題を知る人にも、わかりやすくお話していきたいと思います」

福島みずほ議員(以下、敬称略)「シビアアクシデントに関する基準では、5年間の猶予期間を設けるというんです。つまり、今は駄目なわけです。この5年間の間に津波や地震が起きるかもしれない。これはインチキでしょう」

満田夏花氏「『安全基準』から『規制基準』に名前を変えたのは、基準を100%守ったとしても、完全に安全とは言えないという田中俊一委員長の意向からです。

ただ、いま問題なのは、基準の中身が本当に大丈夫なのかということです。事実上、この規制基準は再稼動(をする際の)の合格点です。電力事業者の顔色をうかがいながらそのラインを決めている。

『5年猶予問題』というのは、3月19日に示された『田中私案』の中で突然出てきました。2月に募集したパブコメの中でも、猶予期間を設けるべきではないという意見がありました。しかし、(規制委員会の中で)その議論は行なわれず、突然私案が出てきました」

岩上「後藤さん、プラントの専門家として、この規制基準の中身はどこが問題なのでしょうか?」

後藤政志氏「私は、ストレステスト意見聴取会の委員でした。その際に、規制委員会は、その聴取会の中身を見て安全だとは言わなかった。にもかかわらず、政府がゴーサインを出し、大飯原発の再稼動が行なわれました。

斑目春樹・前原子力安全委員会委員長は、同時多発的に複数の機器が壊れることを想定すると、原発の設計などできないといっています。これは設計者としては正しい発言です。

政治家は、国が滅びるようなレベルになる可能性を本気で考えているのか。そう考えると、原発事故と飛行機事故とを同じように考えるのは間違えています。

同時事故や人災、テロなどが起きる可能性や自然災害による事故を考えないで『100万年に1回』という可能性を出している。数十年に1回は、シビアアクシデントは起こるものなんです。

原発を稼動するというのは、ロシアンルーレットのようなもの。こうしたものに確率論を持ってくるのは非常に無責任です。まったく間違えていると思います」

福島「素人の私が考えても、いま日本は地震の活動期ですよね。こうしたときに原発を動かすのは非常に危険だと思います」

後藤「福一では、燃料が溶け落ちて飛び散っているため、近づけません。だから事故収束がすぐにはできない。汚染水はどんどん増えてきて、タンクはいっぱいになっている。

放射性物質をそんなに簡単に管理できる技術を我々は持っていない。プラントも今まで管理できると思っていたが、できなかった。自動車はブレーキを踏めば止められるが、原発はそうはいかない。

ねずみによる停電の問題は、仮設がちゃんと設計されていないからです。ちゃんとやっていないまま2年も経過したのは驚きですが、仮設でも計画をしっかりやれば、問題はある程度、解消できる」

満田「今日の国会でも、原発の特別委員会が開かれていたが、問題の原因究明が全然できていないという意見がありました」

福島「現在の福一にある使用済み核燃料や建屋の強度の限界を、震度6強だと言っている。これは言い換えたら、6強以上がきたら壊れるということですよ」

後藤「原発の運転を開始するということは、もう一度福島クラスの事故が起きる可能性があるということです。福一は、いま事故が起こりやすい環境にあるが、1つ1つの規模はあまり大きくない。しかし、新たに稼動する原発で事故が起これば、福島原発事故のように、非常に大きいレベルのものとなります」

岩上「設計基準とシビアアクシデント(重大事故)対策の基準について。設計基準の強化というのは、既存のものにも当てはまるのですか?」

後藤「そうです。設計基準というのは、色々な条件を求め、それに合う設計を行う。しかし、シビアアクシデント対策では、炉心が溶けたあとの条件を示すことができない。推測でやることになる。もともとの設計は、放射能を出さないためにするものなのに、ベントをすることが前提になっています。これはおかしい」

福島「(私が)浜岡原発の稼動に反対したのは、制御ができなくなって暴走することが怖いからです。地震が起きると、制御棒が入らなくなる可能性があります」

後藤「大地震で制御棒が入らなくなったときに、その対策の設備も一緒に壊れないということがどうして言えるのでしょうか?」

満田「新規制基準では、『特定安全施設』をつくって、原子炉から約100メートル離れたところから遠隔で操作できるようにすると言っていますが……」

後藤「特定安全施設は、テロ対策を想定しています」

岩上「ここでいうテロとは、ハイジャックされた飛行機によるもので、911のようなテロを想定しています。しかし、飛行機を使ったテロというのは、数多くの手段の中の1つでしかない。

この2年で、日本を取り巻く安全保障上の環境が急激に変わってきました。ひとつは、昨年の4月16日に、石原慎太郎前東京都知事がヘリテージ財団主催のシンポジウムで中国に対して挑発的な発言を行ったため、日中関係が険悪になりました。

そして、自民党は改憲を政策として掲げながら、戦争ができる体制をつくろうとしている。しかし、戦争は相手のいることです。日本だけですべてをコントロールすることはできない。

今、目前で起こっていることは、米韓が合同演習をしたことによって北朝鮮が刺激され、朝鮮戦争の休戦協定を破棄すると宣言しました。北朝鮮は日本に届くミサイルを持っています。先ほど言ったように、中国との関係も、未だに険悪な状態が続いています。

自分たちが戦争を主体的にやるのか、巻き込まれるのか、攻撃されるのかは別として、もはや問題はテロだけではなくて、本当の戦争が起きるかもしれない」

満田「今は、戦争リスクも地震リスクも高まってきている。そういうときに原発を並べ、再稼動しようとしているわけですね」

後藤「私の東芝時代の友人である元原発技術者は、原発を並べて戦争はできない、と言っています」

満田「国会議員で、原発を武力攻撃される危険性について規制委員に聞いた方がいますが、規制委員会は『そこまでは規制委として見られない』と答えていました。想定外ということです」

後藤「対テロの問題についてあまり詳しくは言えませんが、(原子力発電所を)攻撃されたとき、場所によっては簡単に壊れてしまいます。大切なことは、自然現象だろうとテロだろうと何だろうと、ある状態を超えると原子炉は手をつけられなくなる。こういう議論を規制委員会はやっていないんです」

満田「今は、対策としてベントをやろうとしています。しかし、これは周りの住民に危険を強いるものです。しかも、こうした時間がかかるものを、『5年猶予』として延ばしている」

岩上「自民党案の憲法改憲草案には、非常事態宣言の規定が入っています」

福島「自民党の改憲案は義務が多い。国民は常に『公益及び公の秩序に反してはならない』と定めている」

満田氏「今の憲法は、福島原発事故において最後の砦になっている」

福島「自民党改憲草案では、『公益及び公の秩序に反する』結社は認められない。さらに、基本的人権が制約できてしまう」

後藤「もともと日本国憲法は、少数者も含めて基本的人権があり、権力を抑制するというもの。しかし、自民党憲法改正草案は国民を縛るものになっている」

岩上「原発、戦争、改憲、今話している問題が、同時平行で起こっています」

満田「市民が意見を言って、これを政策に反映していくのが民主主義。原子力規制委員会では、パブコメを募集しても、反映されずスルーされてしまう。市民の要望書を出しても無視される。原発の問題に、市民の声や批判的な専門家の声が反映されません。検討チームのメンバーは、6名が利益相反です」

後藤「意見聴取会を見ていると、電力会社が言いたいようなことを前提に、意見を言っている人がいる。そういう姿勢が透けて見えます。本当に安全だけを考えたら、そんな意見は出ないだろう、ということがあります」

岩上「5年猶予は別として、新規制基準を守れば原発は安全なんですか?」

後藤「そうはなりません。フィルター付きベントを決めるのは必要かもしれないが、それでは済まない。最低限のやるべきことすらやっていない」

満田「更田豊志委員は『一定の施行期間を置くのは、国際的にも常識』『日本をまたガラパゴスに後戻りさせないためにも、この方針は守られるべき』などと言っていて、原発を動かすことが、彼らの前提になっています」

岩上「米国はいま『統合エア・シー・バトル』という戦略を考えていて、仮に米中間で戦争が起こったときは、日本が戦場になるとされている。その戦場のひとつが若狭湾だったりするわけです。現実に日米で合同演習も行われていますが、その作戦計画に原発のリスクはまったく考慮されていないんです」

満田「規制委員会は、自分たちの仕事をかなり制限しています」

後藤「科学的な考え方に確率論を入れてきています。実際に航空機の事故を見ていると、航空機が操縦不能になって、意図しない場所に堕ちた例はある。原発に堕ちるとも限らないのに、そうした議論はされず、確率論で話されるんです」

岩上「どうして原発は、海岸線に並べてあるのですか?」

後藤「基本的に冷却水が必要ですから」

ここで所用のため、福島議員が退席。岩上と後藤氏、満田氏とでクロストークが続行されました。

岩上「まだ話していない論点ですが、六ヶ所は非常に危険ですよね。後藤さん、万が一、再処理施設で事故が起きたらどんなことになるのでしょうか?」

後藤氏「福島の事故でも、ある一定の線で、事故の被害が止まっています。不十分ながら、冷却も行なってきた。もし格納容器が爆発し、誰も近寄れないような事態になったら、日本は国として成り立たなくなります。

アメリカは面積が広く、ベントを認めている部分がある。日本とアメリカでは、原発立地の前提がまったく違うのに、日本が国際基準に合わせるのはおかしい。

六ヶ所で事故が起これば、想像を絶します。地球規模のものになります。しかし、福島の原発事故とは起こり方が違う。再処理工場は、原発プラントのように一気に事故が進むことはない。

しかし、万が一事故が起こると、放射能の量があまりにも多く、誰も近づくことができない。非常に大変な事態になるのは事実」

岩上「青森県には三沢基地があり、同時に六ヶ所がある。これが武力攻撃されるとどうなりますか?」

後藤「それは想定外です、勘弁してください。そういうシビアなことを想定すると、核施設なんてできません。しかし、『安全』か『危険』か。はっきりしていない状態で続けると必ず事故が起きます」

満田「活断層に関しては、アメリカの基準のほうが厳しいですね」

後藤「想定しているものよりも大きな地震が起きるということを、阪神淡路大震災で味わった。今は想定以上の地震が来るというのが常識です」

満田「大飯原発の差し止め訴訟でのポイントは、制御棒の挿入時間です。3つの活断層が連動した場合を計算すると、基準値の2.2秒を超えます。この点を市民が指摘すると、関西電力は以前示していた挿入時間を切り上げました」

岩上「今日、私は戦争リスクの話を出しましたが、この可能性がどんどん高まってきています。私は、日本政府が本気で戦争に備えようとするなら、まず、原発を撤去しなければならないと思っています。もっとも早くて、核燃料の撤去はどのくらいかかるんですか?」

後藤「冷却をしなければならないので、すぐにできるわけではありません。熱を取り続けなければなりませんから」

岩上「取り出した燃料棒は、どうすればいいのですか?」

後藤氏「皆さんは、リサイクルのようなものを考えているかもしれません。しかし、加工をするときのリスクは非常に高い。私は直接処分がいいと思っています。

戦争に関して言うと、早く原発をやめるというのも手です。戦争をやらないような平和的な外交的努力をしたほうがいいと思います。原発がある面で、戦争に対する抑止力にでもなれば、効能があるといえるかもしれません(笑)

広い意味での利益も大事ですが、原子力産業に携わっている人の個人の利益も大事。国は、新たな産業を興せる期間、その人の生活を保障するべきです」

満田氏「先ごろ、原子力災害対策指針ができましたが、各地の防災計画を見てみると、半島の先端に住んでいるような方たちは逃げられない状況にもなっています」

岩上「『あまりにも極限的な想定は考えられない』と、規制委員会だけではなく、色々な方が言うことがありますが、その極限的な、想像を超えるような想像をしてこそ、初めてリスクを考えることができるのではないでしょうか」


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