【IWJブログ】「TPPは現代の植民地政策」 米韓FTAの惨状からTPPを考える ~郭洋春氏(立教大学経済学部教授)緊急インタビュー 2013.2.21

記事公開日:2013.2.23 テキスト
このエントリーをはてなブックマークに追加

 2013年2月21日(木)、東京都豊島区の立教大学池袋キャンパスで、立教大学経済学部教授の郭洋春氏へのインタビューが行われた。

 郭教授は、開発経済学・アジア経済論の専門家であり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)について、その先行モデルである米韓FTAを通して、その危険性を以前から訴えてきた。今回のインタビューでも、以下に示すような米韓FTAの問題点を挙げながら、この異常な制度について、解説を行った。

■インタビューの本記事(動画記事)はこちらです。

◇ 米韓FTAの問題点

(1)ネガティブリスト
(2)ラチェット条項
(3)未来最恵国待遇条項
(4)ISD条項
(5)間接接収による損害賠償
(6)非違反提訴制度
(7)サービス非設立権
(8)公企業の完全民営化
(9)知識財産権直接規制
(10)金融及び資本市場の開放
(11)待遇の最小基準

■以下、インタビュー実況ツイートのまとめに加筆・訂正をしたものを掲載します。

岩上「日米首脳会談が、現地時間の22日に行われます。果たして、安倍総理は、TPP交渉参加を表明するのかしないのか。2月19日付のウォール・ストリート・ジャーナルに、マイケル・オースリンという方の公開書簡が掲載されています。そこには、『TPP参加すべし』『辺野古移設』『集団的自衛権行使容認せよ』などの命令が並べられ、『そうすればオバマは喜ぶだろう』と書かれています。

 また、韓米FTAで新しい動きがありました。2月7日付のハンギョレ新聞によると、韓国では低炭素自動車優遇措置が延期になりました。その理由が、韓米FTAです。米国企業が『不公平』だとして、ISD条項を使って介入したのです」

郭教授「TPP推進派は、『輸出が伸びる』と主張するが、先ほどのハンギョレ新聞の報道のように、日本で言えば『エコカー減税』が、米国の介入によって延期となる事態が起こっている。自動車のような、本来伸びる産業も伸びなくなる。

 また、『経済成長戦略として有効』との主張もあるが、正直な話、TPP参加国であるブルネイやシンガポールのような国を相手に、日本の経済成長はない。中国やインドなどが加われば話は別だが、これらの国はTPPには参加しない。

 経済学者の立場から言わせてもらうと、推進派は経済を知らないのじゃないかと思う。一部の企業は伸びるだろうが、99%を中小企業が占める日本経済は失速し、格差が拡大する。

 先に述べたハンギョレの記事について。米国は、京都議定書で、二酸化炭素削減を批准していない。そうした米国の、露骨なナショナリズムが現れたかたち。韓国にとっては、環境保護の公共政策でも、米国企業がそれを邪魔だと思えば、こうして介入してくる」

岩上「米国は、日本に『TPPに入りたいならどうぞ』という態度を見せながら、入ったら『ゆうちょをよこせ』『米国産牛肉を輸入しろ』と要求する」

郭教授「ゆうちょの件も、すでに韓国で数カ月前に起きたことです。韓米FTAを見れば、TPPがわかる」

岩上「米韓FTAの問題点にはどういったものがあるのでしょうか?」

郭教授「例えば、ラチェット条項。米国自動車が韓国内で売れないと、これは不公平だとして訴えることができる。米国はいくらでも韓国に自動車を輸出できるが、米国内では米国車を保護している」

岩上「韓米FTAで、ISD条項が発動した事例がありますよね?」

郭教授「米国の投資ファンド『ローンスター』が、『不利益を被った』として韓国政府を訴えました

 また、TPPに参加すると、『脱原発』も意味がなくなる。2011年、ドイツがフランクフルトの原発を閉鎖した際に、それを所有・運営していたスウェーデンの企業が、ドイツ政府を訴え、勝訴した。しかも、TPPは過去の判例は参考にされない。仮にドイツ政府が勝っていたとしても、韓国政府が原発を閉鎖し、訴えられたときに勝てるかどうかはわからない」

岩上「そのうえ、審理の内容は非開示です。情報として蓄積されない。結論だけが下され、しかも一新制。さらに世界銀行は、米国の傘下です」

郭教授「次は、『間接接収による損害賠償』というものです。言語、法、慣習等により、米国企業が『不利益を被った』とみなされた場合、訴えることができる。条文には、『合理的に得られる利益が得られなかった場合』とある。つまり、米国側が『非合理的』とみなせば、訴えることができる」

岩上「米韓FTA締結の際も、日本のTPPと同じく圧力がかかった。延坪(ヨンピョン)島砲撃事件の際、米国高官マイケル・フロマンが、キム・ジョンフン通商担当交渉官を散歩に誘い、『米韓の安全保障の結びつきを強くする機会はもうないだろう』と圧力をかけた」

郭教授「現代の不平等条約です。昔と今が違うのは、『二国間の話し合いの結果』という体裁がとられること」

岩上「しかし、その締結の経緯では、やんわりと脅しを仕掛けてくる」

郭教授「『公平な競争』を最も阻害するのは、『言語』という理屈です。公共調達の際の行政文書や法規等も、すべて英語で書かなくてはならなくなる。

 また、『非違反提訴』というものがある。違反していなくても、『期待された利益が得られなかった』という理由で提訴することができる。さらに、『サービス非設立権』というものは、法人企業が、その国に登記をしなくても、その国で営業ができるという条項です。

 これらの根底にあるのは、『市場アクセス』という考え方。国営企業は『独占的で、期待された利益を阻害するものである』として、外国企業が、全ての国営企業に参入することができる。全ての規制を取り払い、全ての市場へのアクセスが可能になる。金融及び資本市場の開放です。ゆうちょなど、国の根幹である資本全てに米国企業が参入するようになる。こうなると、金融市場を国がコントロールできなくなります。

 次に、『待遇の最小基準』というものがあります。『内国民待遇』とは、外国企業が韓国企業と同じ待遇を受けられるというものだが、その待遇の基準を『国際慣習法に則る』としている。ところが、この『国際慣習法』なるものは存在しません」

岩上「どのような事態が予想されますか?」

郭教授「懸念すべきは『土地』です。どこかの国にある『他国人が土地を買える法律』を『国際慣習法』とすることで、外国企業が、韓国国民と同じように、韓国の土地を得ることができるようになる」

岩上「韓米FTAで、韓国は今後どうなるのでしょうか?」

郭教授「非正規雇用が増加します。利益を得られる企業は、とことん利益を追求できるのが、韓米FTAです。乱暴な手段で利益をあげる米国企業を、韓国企業が真似する可能性があります。

 韓米FTAの条文には、『韓国企業の米国内の活動については米国の国内法が優先される』と書いてあるが、その逆は書いていない。このISD条項は、『韓国にのみ』適用される」

岩上「土地の収奪など、まさに植民地と同じです」

郭教授「帝国主義も、最終的には領土の拡大が目的となる。それを合法でやるか、非合法でやるかの違い。ただ帝国主義でも、ここまで社会システムの細部にまで入りこむものではなかった」

岩上「本当に恐ろしい話。TPPに交渉参加をして、離脱するというのは難しいのでしょうか?」

郭教授「難しい。一旦参加すれば、米国は次々に要求をしてくるでしょう」

岩上「韓米FTAのときのように、『安全保障』を盾に参加圧力をかけてくる」

郭教授「『安全保障』という観点で、日本と中国・韓国がいがみ合うのを、一番ほくそ笑んでいるのは米国でしょう。アジア地域の分断のためのTPPであり、韓米FTAである」

岩上「米韓FTAのこうした条項をみていくと、これは明らかに植民地政策ですよね。韓国は51番めの州、日本は52番目の州になってしまうのではないですか?」

郭教授「社会の隅々にまで米国の影響力が入り込んで、米国の論理が浸透していきます。米韓FTAは、韓国では、憲法より上位にきます」

岩上「日本も、TPPが国際条約ということで、憲法より上位にくるということになりかねない。

 これまで『帝国主義と植民地』という話だと、日本人と韓国人は、過去の日本の侵略はどうだった、とかそういう話になっていたが、これからは同じ立場で、『お互い属国になっちゃいましたね』ということにもなりうる」

郭教授「もしかしたら、そこで仲良くなっちゃうかもしれないですね(苦笑)」

岩上「『北朝鮮』とか『中国』というのも、日韓の富を収奪するため米国に上手く使われている。日韓共同戦線みたいなものを作らないといけないのでは?」

郭教授「アジア共同体というものを作っていった方が良い。アジアはアジアの論理がある。米国の一方的な論理の押し付けはありえない」

IWJの取材活動は、皆さまのご支援により直接支えられています。ぜひ会員にご登録ください。

新規会員登録 カンパでご支援

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です