「人工妊娠中絶薬は、リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(性と生殖に関する健康と権利)である。科学的エビデンスにもとづいた中絶薬の速やかな承認と現行の法改正を!」~2021.12.9 緊急院内集会「中絶薬に関する意見交換会」 2021.12.9

記事公開日:2021.12.30取材地: テキスト動画
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(取材、文・山内美穂)

 2021年12月9日(木)午後4時から、参議院議員会館にてRHRリテラシー研究所主催による、緊急院内集会「中絶薬に関する意見交換会」が行われた。

 RHRリテラシー研究所は、日本の女性の性と生殖に関する健康と権利について研究と環境改善を目指す団体。

 意見交換会には、政府側から厚生労働省、法務省の担当部局が参加した。また、国会議員として、社民党・福島瑞穂参議院議員、立憲民主党・塩村文夏参議院議員、田島麻衣子参議院議員、日本共産党・吉良佳子参議院議員、倉林明子参議院議員、無所属・寺田静参議院議員の7名が参加した。

 経口による人工妊娠中絶薬は、近年世界中で、科学的エビデンスのもと、より安全な中絶薬として使用されている。日本でも周回遅れながら、2021年4月には、英ラインファーマ社の人工妊娠中絶薬(ミフェプリストンとミソプロストールのコンビ薬)の治験が行われ、承認申請の動きがあることを毎日新聞が報じた。11月には、ラインファーマ社が年内にも中絶薬の承認申請を行う方針であることを、読売新聞が報じている。

 主催のRHRリテラシー研究所代表・塚原久美氏は、この報道を受け、中絶薬の承認時に実現すべきことを提言し、国会議員と政府関係各所を招き、意見交換会を行った。提言は以下の通り。

①中絶薬は速やかに承認すべきである。
②中絶薬は必要とするすべての国民が使えるようにすべきである。
③刑法の自己堕胎罪と母体保護法の配偶者同意要件は廃止すべきである。
④遠隔医療を用いた自己管理中絶を導入すべきである。
⑤母体保護法指定医師以外の医療者も中絶薬を扱えるように法改正すべきである。

 提言内容の説明の後に、厚労省、法務省との意見交換がなされたが、そのいくつかの焦点を以下に紹介したい。

■全編動画

  • 日時 2021年12月9日(木)16:00~17:30
  • 場所 参議院議員会館 B103会議室(東京都千代田区)
  • 詳細 Twitter告知

※本題に入る前に2点、補足をする。

1.当院内集会は、「中絶」自体を勧める集会ではなく、国際連合を中心に国際社会で提唱されている「女性の基本的人権」としてのリプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点から、やむを得ず「望まない妊娠」をした場合に、日本国内で主流となっている掻爬(そうは)法ではなく、より安全な経口中絶薬を、という人道的観点に基づき、承認の動きがある経口人工中絶薬について政府省庁と国会議員を招いて開かれた意見交換会である。

2.「中絶」の是非を問う問題は、古今東西、宗教観からも世界中で論争が起きている非常にデリケートな問題である。その論争を例に挙げると、アメリカでは、1973年代に連邦最高裁において中絶を合法とする「ロウ対ウェイド判決」が下されて以来、司法、政治の場において激しい論争が繰り広げられてきた。

 以降、主にキリスト教保守派などによる、胎児の生命権を尊重する中絶反対の立場をとる「プロライフ派」と、妊娠・出産が女性にとって身体的影響とその後の人生に多大に影響を及ぼす以上、《生む・生まない》が女性の意図から外れて妊娠・出産を強要されるべきではないというフェミニズム視点から中絶容認の立場をとる「プロチョイス派」の対立が激しく、「中絶医」を襲撃する暴力事件や爆破事件、殺人事件なども起きている。

 レーガン・ブッシュ政権では、プロライフ派的な政策がとられ、続くクリントン・オバマ政権では、プロチョイス派寄りの政策を実行。クリントン政権下では経口中絶薬ミフェプリストンの輸入禁止などの措置を撤廃した。近年になると、前トランプ大統領は大統領選中に「中絶法の非合法化」を選挙公約に掲げた。大統領就任翌日には、女性たちによる反トランプの抗議行動がニューヨークで行われたという。バイデン大統領は、上院議員時代は、保守的な立場から中絶への資金拠出に反対する立場だったが、大統領就任後は人工妊娠中絶の権利保護を誓う声明を出した。

 上記のことから、「中絶」についての論争は宗教観の強い国において、政治問題にまで発展し、現在進行形で世界中の課題であることを付記しておく。

そもそも「中絶薬」とはなにか?

 RHRリテラシー研究所の調べによると、今回、承認申請の手続きに入った人工妊娠中絶薬は、ミフェプリストンとミソプロストール。ミフェプリストンは、妊娠継続に必要なホルモンを止める薬であり、ミソプロストールは子宮収縮薬。ミフェプリストン200㎎錠1錠とミソプロストール200㎍4錠のコンビ薬となる。

 現在、世界でミフェプリストンが使える国は82か国である。(※注1)OECD加盟国の38か国中、31か国が承認しており、残り7か国のコスタリカ、韓国、リトアニア、ポーランド、スロバキア、トルコ、日本が未承認ということだ。

 世界の平均卸価格は780円~1400円ほどで、34ヵ国では全額公費負担で無償提供、25ヵ国では一部公費で負担されているという。提言の中で、日本でも誰もが手軽に購入できる価格となるように、場合によっては生活困窮者や若者などに無償提供するなどの施策を求めていく必要がある、としている。

 当該の2薬は、過去30年間、中絶薬を取り入れた各国で安全性と有効性が十分に確証され、またWHOでも必須医薬品のコアリストに入れているほど安全な薬とみなされている。

 一方、日本における中絶方法は、いまだ、金属の器具で子宮内を掻き出す掻爬(そうは)法が24%、掻爬法と吸引を合わせた手術が36%、合わせて60%もの高い比率で掻爬が行われている。女性の身体にダメージを与える掻爬法は、安全性が劣り、女性にとって身体的にも精神的にも苦痛をもたらすということは明白である。費用も自己負担で、妊娠初期の妊娠の場合でも8万円から30万円と高額だ。

 そのような中、「中絶薬は人工妊娠中絶を必要とする女性にとって特に重要なリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)である」と、塚原氏は訴える。

(※注1)Gynuity Health Projects調べ
https://gynuity.org/assets/resources/biblio_ref_lst_mife_en.pdf
https://gynuity.org/

女性たちを苦しめる、刑法堕胎罪と母体保護法の存在

 提言3では「刑法の自己堕胎罪と母体保護法の配偶者同意要件は廃止すべきである」と即刻廃止を呼びかけている。

 日本では、中絶をすると刑法堕胎罪(刑法212条)の罪に問われることを知っているだろうか。しかし、母体保護法が定める場合に限って、堕胎罪は適用されない。母体保護法は母体の生命健康を保護することを目的としており、決められた条件のもと、母体保護法指定医による人工妊娠中絶が認められている。それには配偶者の同意が必要であるという条件が加えられている。

 このことから「堕胎罪と母体保護法は中絶を必要とする女性や少女たちを不当に苦しめ、社会的なスティグマ(差別・偏見)の源泉にもなっている」と塚原氏は訴える。そして、そのことが安全かつ合法的な中絶へのアクセスの障壁にもなっているという。

 日本では、1907年に堕胎罪が定められ、すでに114年も存在し続けている。旧刑法のときに初めて堕胎罪が定められたところまで遡ると141年にもなる。韓国では70年前の法律がそのままなのは時代にあっていない、と、近年廃止された。世界では廃止になっている国が多い。「医療も進歩し、世界も時代にあわせて変化してきているのに、日本では依然、114年前の刑法がそのままである。時代に即した法改正を」と塚原氏は訴えている。

 またRHRリテラシー研究所の調べによると、中絶における「配偶者の同意」が不要の国は192か国に対し、必要の国は日本を含むたったの11の国と地域しかない。堕胎罪含め、時代遅れの法律をそのままにしていることに疑問の声が上がっている。国連女性差別撤廃委員会は、2016年、日本政府に対してこれらの刑法の見直しの勧告をした。

WHOでも、セルフケアとして自己管理中絶(オンライン診療)を推奨

 提言4では「遠隔医療を用いた自己管理中絶を導入すべきである」とし、電話やインターネットを通じて診療、指導、オンライン処方ができるように求めている。異常があれば医療従事者に連絡し、必要に応じて通院となる。遠隔医療は、中絶を早期化し、プライバシーも守られるなどメリットが多い。

 そもそもWHOでは以前からアフリカなどの医療が行き届かない地域で、この遠隔医療を行っていたが、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、2020年、マニュアルを作成した。「非侵襲的・コスト効果が高い・(倫理的に)受け入れやすい・自立性を高める」と、セルフケアとして推奨している。

 またコロナ禍においても医療負担を軽減し、感染リスクを引き下げるとして、2020年3月には国際産科婦人科連合(FIGO)が遠隔医療の有効性の声明を出している。同団体は、2021年3月には、1年間オンライン診療を実施してきた結果、有効性と安全性が確認されたとして、今後は「恒久化」すべきとの宣言を出している。

医療提供者の利害によって、女性たちの権利が阻まれぬよう、適正価格を!

 意見交換会では厚労省から、報道の通り「ラインファ―マ社が12月下旬には経口中絶薬の承認申請をし、各機関での審議を経て、その結果、有効性と安全性が確認次第、速やかに承認という流れである」という報告があった。

 会場からは、適正価格を求める価格設定についての質疑が相次いだが、「承認前なので」との前置きで医療保険の範囲内での一般論としての回答にとどまった。ただし「企業側から提出される算定資料の『薬価算定基準』にもとづいて算定をする。その基準は『外国平均価格調整』というルールで、米英独仏の先進国の価格を参照することになっている」との回答があった。

 また、提言5の「母体保護法指定医師以外の医療者も中絶薬を扱えるように法改正すべきである」では、妊娠初期の中絶薬の処方・管理、吸引処置の実施は、これまでの科学的エビデンスにもとづき、中絶薬の取り扱いは、「指定医師」だけではなく、ミッドレベルの医療者でも十分に行えることを示し、法改正を求めている。

 母体保護法における「指定医師」制度は、戦後、掻爬法しか中絶方法がなかった時代に、「危険だから」という理由で作られた制度であり、より新しくより安全で倫理的にもより受け入れやすい中絶医療にアクセスする障壁になっている。

 会場では、この「指定医師」制度により、中絶薬が医師を通してしかアクセスできなくなると、高額医療などにつながる可能性があり、そのような事態を招くようなことがないように政府側に強く求めた一面もあった。

 そのほか、「中絶という言葉自体が社会的偏見やスティグマのようになって多くの女性たちを苦しめてきた。名称には『流産薬』、『月経調節薬』という表現が好ましいのではないか。承認の過程でぜひ検討してほしい」という要望もあった。

胎児の命はいつからか?

 塚原氏と法務省の間で、現行の刑法堕胎罪は日本では114年前に作られた法律で世界でも廃止されてきている、時代遅れな法律であることに触れ、法改正の見直しについて議論があった。

 法務省からは「胎児の(生命保護の)保護法益の観点から直ちに廃止するという状況には至っていない」という回答があった。

 しかし塚原氏は、前述のように刑法堕胎罪は日本も批准している女性差別撤廃条約の条約違反にもあたり、国連の人権理事会でも胎児の命と女性の権利の問題で議論がなされていることを指摘。「国連レベルでは人権は生まれた後の人間のものである、したがって胎児は対象ではない、胎児の命を理由にして女性の人権を侵害するのは間違いである」という結論を示した。

 この議論の続きから、「法務省は『胎児の生命身体の保護法益』というが、『胎児』とはいったいどういう定義か」、「何週からか?」という問いが投げかけられたが、法務省担当官からは言葉が発せられることはなかった。

 これを受けて、倉林明子参議院議員から、以下のように発言があった。

 「胎児がいつからか、というのを言えないのは、ショッキングに受け止められたという認識を持つべきだ。

 堕胎罪ということでやっていることから言うと、(中絶は)ものすごいハードルになっているし、このハードルを世界基準で外してくれっていう、そういう議論をしている。

 あなたたちの回答は、現状の規定からどうなるっていう説明なんだけど、受け止めてほしいのは、現状の規定のハードルを越えないと、この中絶薬がせっかく日本で初めて承認されたことをもってしても『使えないのだ』と。そこが受け止めてほしいところなんですよ。

 そういう視点で、申請を受け止める側として、あらゆる女性が『産まない選択』をしたときに、(より安全な)中絶ができるようになるにはどうしたらいいかってことを一緒に考えてほしい」。

「世界基準の人権が欲しい」

 最後に、インターネットキャンペーンサイト「Change.org」で中絶の配偶者同意をなくそうという活動をしている「#もっと安全な中絶をアクション」のメンバーの梶谷風音氏から発言があった。

 「日本では中絶薬が承認されていないため、海外からの輸入に頼ったという人がたくさんいる。DV受けている人に限らず、夫が同意してくれないとか、そんな人もいる。処方箋も英語で読めずに不安になりながら中絶をしている人がいる。言葉も通じない国から処方箋を取り寄せたいと思う女性はいないと思う。

 結婚しているか結婚してないかとか、虐待されているかされてないかとか、女性の人権ってそういうものじゃないですよね。だから日本の人もそうだし、日本に生きていて外国から来ていて日本語がしゃべれない人や、未婚であっても既婚であっても、合法的な中絶を阻むことでその女性を苦しめることをやめてほしい。

 私たちが求めているのは、そんな大したことを求めてるわけじゃなくて、『世界基準の人権がほしい』そういうふうに思っています」。

 最後に、RHRリテラシー研究所の塚原氏の提言の中の「結語に変えて」から一部抜粋して紹介したい。

 「中絶は生殖年齢にある女性の4人に1人が45歳までに経験する医療だと言われている。決して特別なことではないし、女性にとって中絶はたまたまその時置かれた状況やタイミングが悪かったために『望まない妊娠』という結果になっただけである。

 同じ女性が状況やタイミングが変わってくれば『産みたい妊娠』になることは多い。(中略)現代女性にとって望まない妊娠は『現代病』のようなものであり、それを安心・安全にコントロールできることは、女性たちの人生設計を確かなものにし、キャリアを築いていくための基礎になる。

 中絶が女性の『人権』である一つの理由は、妊娠をコントロールすることができなければ女性は自由意志を持てなくなり、自分の『身体・子宮・胎児の奴隷』にされてしまうためである。」

 詳しくは、ぜひ全編動画を御覧いただきたい。

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