2020年8月28日に総理の職を辞することを表明した安倍総理だが、6月に配備計画を撤回した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替案として、敵基地攻撃能力保有の方向性を貫く意向を与党幹部へ伝達していたことが明らかになった。
▲安倍晋三総理大臣(IWJ撮影)
共同通信の報道によると、安倍総理の在任中である9月上旬に開かれる国家安全保障会議(NSC)では、新たな安全保障政策の方針に向けて協議の推進を確認されると見られている。後任の総理総裁は、この方向性を踏襲するものとみられる。
実際、「ポスト安倍」の最有力候補とされる菅義偉(すが・よしひで)官房長官は9月2日午後の出馬会見で、「安倍政権で進めた取り組みを継承して、さらに前に進めるために、全力を尽くす」と述べた。安倍総理がその座を離れたとしても、米国の強硬な対中国戦略に沿った敵基地攻撃能力保有へと進む「アベ政治」の方向性と何ら変わりない可能性が高い。
安倍総理が「敵基地攻撃能力」保有論に固執する背景には、米国の安全保障政策の転換が!! 「スタンド・アウト」構想から「スタンド・イン」構想へ!!
背景にあるのは、中国のミサイル装備の充実に伴う米国の安全保障政策の転換とされている。大規模な固定基地は、ミサイル攻撃の格好の対象となる。東アジア共同体研究所の須川清司上級研究員は、米軍は、在日米軍を中国のミサイルの射程内にとどめておきながら活動させる「スタンド・イン」構想に転換しつつあると分析している。
それ以前に米国の戦略として支配的だったのは、「スタンド・アウト」構想と呼ばれるものであった。これは、「インド太平洋における広域分散」とも言われ、中国軍のミサイルの射程外であるグアム、ハワイ、豪州、米本土内にいったん米軍を退避させてから現場に戦力を投入するものである。しかし、一度主力部隊が最前線を離れると、台湾、南シナ海、東シナ海等の最前線に戻るのに時間がかかるという問題がある。
そこで、最近になって、「スタンド・イン」構想が台頭してた。これは、米国の主力部隊を中国の短・中距離ミサイルの射程圏内にとどめておきながら活動させる構想だが、米国の部隊が生き残るためには、より感知されにくく、高速で移動し、手頃な価格の軍備を多数備える「スタンド・イン」部隊がふさわしい、とされる。
射程圏内に、「より小さくより機敏な」部隊を多数置くことで、敵を消耗させることが狙いだ。
中国は、千島列島、日本、台湾、フィリピンに続く線を第一列島線と名づけている。この第一列島線内部に位置する嘉手納、普天間などの大規模な米軍の固定基地が、中国軍のミサイル攻撃でダメージを受けても、「より小さくより機敏な」部隊が広範に分散展開し、中国軍に対して反撃できるようにする――これが、「スタンド・イン」構想である。
須川研究員によれば、米軍は部隊を分散させるだけではなく、攻撃力の強化も目指しているという。米軍は、射程 1600kmのトマホークの増強に入っているが、さらに射程650kmの地上配備型長距離精密誘導攻撃(LRPF)ミサイルの開発と配備を急いでいる。
主として第一列島線の諸国や豪州、グアムなどにLRPFミサイルを多数配備することで、攻撃と防御の両面において中国が対応しなければならなくなる目標数を大きく増加させる狙いだ。
- 米中対立時代の安全保障論議~その2.米軍の新戦略がもたらす激震(須川清司、Alternative Viewpoint、2020年8月22日)
つまり、日本における「イージス・アショア」の配備撤回と、そのあとに急浮上してきた「敵基地攻撃能力保有論」とは、米国のインド太平洋における「スタンド・アウト」構想から「スタンド・イン」構想への転換の表れとみるべきなのだ。
敵国によるミサイル発射の兆候を察した時点で攻撃を行うことを可能にする「敵基地攻撃能力」の保有は、他国から見れば日本が先制攻撃を行おうとしていると疑われるものであり、「専守防衛」の理念から大きく逸脱している。
「イージス・アショア」の配備計画が北朝鮮のミサイル発射騒ぎに端を発していることから、攻撃対象とする「敵」とは北朝鮮を指すと考えられがちだが、実際には中国を敵国と見なしているものと思われる。
なぜなら韓国は北朝鮮を「自国の領土」とみなしており、日本が北朝鮮を攻撃する場合、韓国との事前協議と同意が必要となるからだ。仮に北朝鮮が日本にミサイルを発射しようとしても、日本がただちに攻撃することはできない。
「敵基地攻撃能力」保有論については、岩上安身による、水島朝穂・教授のインタビューもぜひあわせてご覧いただきたい。
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