2019年大晦日の夜に岩上安身が選び、2020.1.1日号~No.2666号に掲載した「2019年10大ニュース・国内編」。岩上安身は「他の何を差し置いても、トップは自衛隊の中東への派遣だ」として、「中東への自衛隊派兵を、閣議決定で先行してしまう! 対米隷属の先に見えるのはイラン戦争!」を1位にランク付けしていた。
その懸念が、わずか数日も経たないうちに、現実のものになってしまった。
イラン革命防衛隊のスレイマニ司令官が米軍の空爆で死亡! 米国防総省が声明「トランプ大統領の指示で殺害」
2020年1月3日、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」のトップ、カセム・スレイマニ司令官が、イラク・バグダッドで米軍のドローン空爆によって死亡した。スレイマニ司令官はイランが支持するイラクの民兵組織と共に車両でバグダッド国際空港を出ようとしたところ、複数のミサイルが車両2台の車列を直撃し、少なくとも5人が死亡したとされている。
また、イラン革命防衛隊は、親イランのイスラム教シーア派武装組織のアブ・マフディ・アル・ムハンディス副司令官も死亡したとしている。
▲イラン革命防衛隊司令官ガーセム・スレイマニ(ウィキペディアより)
米国防総省は声明で、「トランプ大統領の指示のもと、米軍はカセム・スレイマニを殺害することで、在外アメリカ人を守るための断固たる防衛措置をとった」と1月2日夜(中東時間で3日)に発表。「トランプ大統領の指示」によってスレイマニ司令官を殺害したと認めた。
その上で「スレイマニ司令官は、イラクや周辺地域でアメリカの外交官や軍人を攻撃する計画を進めていた。彼は過去、数か月にわたり、イラクの基地をねらった攻撃を画策し、アメリカ人やイラク人を死傷させた。また、今週起きたバグダッドのアメリカ大使館の襲撃を承認していた」などと批判している。
そして「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた。アメリカは、国民と国益を守るために世界のどこにおいても必要なあらゆる措置を取る」などと警告している。アメリカのこの「予防攻撃の正当化」の主張に、国際法を尊重し、遵守しようとする姿勢など微塵もない。傲慢の極みである。
高まる緊張!イランが報復を警告!米軍は中東地域に約3500人部隊増派
また、米国防総省当局者は3日、イランが報復を警告しているのを受けた措置として、中東地域に約3500人の部隊を増派する方針を明らかにしたと、米国の複数のメディアが報じている。
米政府は昨年12月末、イラクの首都バグダッドにある米大使館前での大規模デモを受け、中東地域に約750人の増派を発表したばかりである。追加増派で緊張が一層高まるのは避けられない。
▲米大統領ドナルド・トランプ(ウィキペディアより)
他国の主権を踏みにじる米国!これ以上の悪徳が現在の地球上のどこにあるのか⁉
イラクのアブドルマハディ暫定首相は今回の米軍の攻撃について「イラクの主権を侵害するものであり、イラクや中東、世界での戦争を引き起こす危険な行為だ」と非難している。もっともすぎる主張である。
▲イラン暫定首相アーディル・アブドルマハディ(ウィキペディアより)
米国は、他国の主権をまったく尊重しようとしていない。イラク戦争の開戦理由だった大量破壊兵器は、結局、存在しなかった。間違った理由で開戦したことを米国自身が認めている。そんな暴挙を働いていてなお、米軍はイラク領土内に勝手に居座り、イラクの主権を踏みにじってドローンを飛ばしてミサイルを撃ち、テロ行為を営々と行っているのである。イラクに対して、陵辱の上に陵辱を重ねる米国は、いったい何様のつもりなのだろうか。政府トップの名において行われるこれ以上の悪徳が、現在の地球上のどこにあるのだろうか?
強まる米国批判! グテーレス国連事務総長「新たな湾岸戦争に対応する余裕はない」、ロウハニ大統領「アメリカによる身の毛もよだつ犯罪行為に対しイランは間違いなく仕返しをする」
イランのラバンチ国連大使は3日、CNNテレビのインタビューに出演し、「イラン国民に対する戦争行為だ」と批判。「イランに対する開戦に等しく、(二国間関係は)新たな段階に入った」などと述べた。
また、ラバンチ氏は、グテーレス国連事務総長と安全保障理事会に対し書簡を3日に送付。「国連憲章を含む国際法の基本原則を完全に侵害しており、明らかな国家テロだ」と訴えた。「スレイマニ氏は安保理指定のテロ集団討伐のために重要な役割を果たしてきた」と称えた上で、「米国の偽善的な政策は、国家をまたぐテロと闘う努力をひどくむしばんでいる」と批判。安保理理事国に対し、「米国の違法な行いを非難するよう」求めた。
グテーレス国連事務総長は、「世界は、新たな湾岸戦争に対応する余裕はない」との声明を発表した。米国とイランの緊張激化に「深い懸念」を表明し、「指導者は最大限の自制が必要」と訴えた。
▲国連事務総長アントニオ・グテーレス(ウィキペディアより)
イラン最高指導者ハメネイ師は「血で汚された犯罪者には厳しい報復が待ち受けている」と述べ、アメリカに対して報復措置をとる考えを表明。その上で、国をあげて3日間、スレイマニ司令官の死を悼むと宣言した。
▲イラン最高指導者アリー・ハメネイ師(ウィキペディアより)
ロウハニ大統領は「偉大で勇敢な司令官の死は、イラン国民全体に深い悲しみをもたらし、アメリカに立ち向かうイラン国民の決意を倍増させた。アメリカによる身の毛もよだつ犯罪行為に対しイランは間違いなく仕返しをする」と述べた。
- 司令官殺害 アメリカとイランはどう主張したか(2020年1月3日、NHK NEWS WEB)
▲イラン大統領ハサン・ロウハニ(ウィキペディアより)
イラクの首都バグダッドにあるアメリカ大使館は1月3日「イラクで緊張が高まっている」として、イラク国内のアメリカ国民に対し、直ちに国外に退避するよう求めたとのことである。
日本政府は「言及を避ける」などというあやふやな態度をすぐにあらため、米国に対して断固抗議すべき
他方、昨日1月4日も千葉県でゴルフに興じていた安倍晋三総理は、記者団から現在の中東情勢の受け止めを問われたが、米軍による革命防衛軍爆撃については言及をせず、「今月、諸般の情勢が許せば中東を訪問する準備を進めたい」などとピントはずれな回答を述べた。安倍総理は今月中旬、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などを歴訪する方向で調整しているとのことであるが、中東に起きている事態に何の見識もない安倍総理が現地に行ったところで、何ができるのであろうか。血税の無駄遣いもいいところである。
- 首相、中東情勢への言及避ける(2019年1月4日、共同通信)
米国防総省の声明では「今回の攻撃は、この先のイランによる攻撃を防ぐために行われた」などと主張しているが、先制攻撃は国連憲章に反する挑発行為で、許されるものではない。日本政府は「言及を避ける」などというあやふやな態度をすぐにあらため、米国に対して断固抗議すべきである。また、緊張の高まる中東への自衛隊の派遣など問題外である。即刻中止することを強く求める。対米従属ばかりで、派兵中止の決断ができない政権ならば、もはや交代させるしかない。
なお、イラク政府の主張は、ロシアの通信社であるスプートニクが正確に取り上げている。
イラク首相のアブドルマハディ氏は、 この事件に関するイラク政府の立場を明らかにするため、「これは米軍のイラク駐留条件の重大な違反。米軍の役割は、イラク軍の訓練と有志連合のメンバーとしての(テロ組織)『ダーイシュ(イスラム国、IS)』との戦いのみに限られている」と発表した、と報じている。
おそらく、こうした違反行為まで踏み込んで書いている日本の大手メディアは皆無のはずで、ぼやかしてしか書いていないはずである。
ちなみに、このスプートニクを翻訳されている方は、ペンネーム「海外記事」さんという方である。「海外記事」さんはIWJの会員にもなっていただいており、IWJには常日頃から激励のメッセージを寄せていただいている。この場を借りて御礼を申し上げたい。