【特別寄稿】与党側の野党分断工作!? 参院選で改憲勢力3分の2割れが濃厚の中、改憲発議の鍵を握る国民民主党に安倍総理が秋波! 2019.7.20

記事公開日:2019.7.20 テキスト
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(取材:横田一、IWJ編集部 文:横田一)

 安倍晋三総理が参院選(7月21日投開票)後の憲法改正国会発議をにらんで国民民主党に秋波を送り始めた。

 7月3日の日本記者クラブ主催の党首討論会で、国民民主の一部を取り込むケースも想定しながら国会発議を目指す考えを明らかにした。さらに翌4日のNHKの「ニュース7」でも「与党で3分の2はとても難しい」「野党とも協議して憲法改正を進めたい」と述べながら再度、国民民主党を名指しにして、改憲勢力の一翼を担うことに期待を示した。

 国政選挙の真っ最中に野党間にくさびを打ち込み、分断を図り、選挙後の改憲発議のための工作を行うとする安倍総理発言を、国民民主党の玉木雄一郎代表はどうとらえているのか。7月17日、南武線武蔵小杉駅で、神奈川選挙区の乃木涼介候補への応援演説を終えた玉木氏を直撃し、安倍総理発言や憲法改正に対する考えについて聞いた。

▲乃木涼介候補(左)玉木雄一郎国民民主党代表(右)(横田一氏提供)

玉木雄一郎代表「『憲法議論はしっかりやっていこう』という立場だが『自衛隊明記案』を含む自民党改憲案には『反対』、国民投票法の議論をすべきだ」

横田一「安倍総理が憲法改正で(国民民主党に)秋波を送っていますが、その点はいかがでしょうか? 国民民主党の一部を改憲勢力として取り込もうという発言がありましたが」

玉木雄一郎代表「これまでも何度も申し上げているように私たちは『憲法議論はしっかりとやっていこう』という立場です。

 ただ、これも何度も申し上げているように、今安倍総理、自民党が出している4項目の条文イメージ案、とりわけ9条の改憲案については、私たちは反対です。『自衛隊明記案』と言いながら事実上、自衛権の範囲を無限に拡大するような条文内容になっていますから、あれはこれまでの我が国がずっと維持してきた平和主義、あるいは専守防衛といった従来の解釈をさらに踏み越えるものであると思っています。

 『自衛隊の明記』と言いながら、実は自衛権を無限に拡大するという議論、あるいはこういう案文には納得できませんので、そこはしっかりと国会の中でも議論を続けていきたいと思っています」

横田「安倍総理の(党首討論やNHKの番組で)国民民主党と立場が近いような発言については、怒りとか選挙妨害とかという思いはありますか?」

玉木代表「あまり総理のそういう思いは感じ取れませんので、我々としてはこれまで言ってきたように憲法の議論はしっかりとやっていく。とりわけ前の前の国会から積み残しになっている『国民投票法』、手続法の方をきちんと議論をするべきだと思いますし、CM広告規制のない国民投票運動というのは、相当私はバランスが悪くなるかなと。

 今回の選挙を見ても、お金のある自民党はヤフーのサイトを開いたら、毎日のように大きなお金を使ってウェブ広告も打っているので、規制のある中でもこれだけの資金力の差によるCMやウェブ広告の差が出るということであれば、やっぱり一定の基準を設けないと、資力、お金の差によって国民投票の活動の中身がずいぶん影響を受けるなというのは非常に感じておりますので、我が党は新聞、テレビ、テレビCMだけではなくて、ウェブ広告を含めて、しっかりとした規制を入れていくという対案をすでに出しておりますから、この成立にまずは全力を上げたいと思っています」

▲応援演説後、囲み取材に答える玉木雄一郎国民民主党代表(横田一氏提供)

 現在の参院定数は245で、3分の2は164議席。非改選議席は改憲勢力(自民・公明・維新・無所属)で79議席のため、改憲を発議するためには今回の参院選で85議席の確保が必要だが、「可能性は低い」(政治部記者)。そこで安倍総理は新たな改憲勢力として国民民主党に注目し、秋波を送り始めたのは間違いない。これに対して玉木代表は、自衛隊明記案を含む自民党改憲案には「反対」と明言した。

玉木代表「国対国の戦闘になりうるホルムズ海峡への自衛隊派遣については慎重であるべき。イージス・アショアは防衛の観点からも合理性がない」

 トランプ大統領の差別的発言への質問に対して、玉木氏は「(安倍総理は)言うべきことをしっかり言うべきだと思う」「『ダメなものはダメ』と明確に伝えることが真の同盟国ではないかなと思います」と答えた。

 そこで、米国提案のホルムズ海峡護衛有志連合構想と、トランプ大統領の米国製兵器爆買要請を受けて購入を決定した陸上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」についても質問した。

横田「(トランプ大統領差別発言の質問に続いて)関連してホルムズ海峡への自衛隊派遣についてどうお考えになるのかということと、『アメリカにミサイルが撃たれた時にイージス・アショアで迎撃できる』と岩屋(毅)防衛大臣は言っているのですが、この2点についておうかがいしたい」

玉木代表「まずホルムズ海峡のアメリカの有志連合の要請については、まず事態を客観的に事実確認する必要があると思います。

 (外務省時代に)私も担当しましたが、ソマリア沖の海賊対処法ということで対応したり、あるいは、海上警備活動、警察権の行使として自衛隊が何かする余地はあるとは思います。ただ海賊の場合と違うのは、相手が国または国に準ずる組織である可能性があるので、つまりイランとか革命防衛軍とか革命防衛隊とか、そういった国に準ずる組織であった場合は国対国の戦闘になりうる。あるいは、そこにエスカレーションしていく可能性があるので、慎重であるべきだと思いますし、そもそも現行法の体系の中で、派遣ができるのかどうか。そこを含めて慎重な検討が必要だと思っています。

 イージス・アショアについては大問題だと思っていまして、ミサイル防衛は否定しませんが、まず防衛大綱にも中期防衛力整備計画にも(倍増計画中のイージス艦はあっても)イージス・アショアはありませんでした。それが突如出て来たのは、やはり防衛赤字を解消するという観点からトランプ大統領に押し込まれた可能性は否定できませんよ。現に、一番迎撃システムにおいて必要なレーダーがまだ構想もないということですし、試し撃ちができない。かつ一番問題なのは一体、いつから迎撃できるようになるのか。政府からいまだに明確な答弁がない。

 つまりテレビでも洗濯機でも扇風機でも買ったらいつから使えるかわかるからお金を払うのであって、いつから使えるようになるのかわからないものに税金を何千億円も使うのは、防衛の観点からも私は合理性がないということで問題だと言わざるを得ません」

横田「防衛大綱にあったのはイージス艦を8隻にして対応すると。そこに急に割り込んで来たと」

玉木代表「そうです」

横田「安倍総理は米国製兵器爆買要請をした)トランプ大統領の言いなりではないかという疑いがある」

玉木代表「これは我が党の泉(健太)政調会長が国会で取上げましたが、『真に整備するべきはイージス艦の体制を強固にしていく』ということでしたが、突然、このイージス・アショアが出てきましたし、繰り返しになりますが、レーダーシステムがまだ構想もない。しかも、導入するソフトウェアは、アメリカに導入されたベースライン10よりも古いベースライン9を使うという意味のわからない装備体系になっておりますので、そういったことを含めて、そもそも我が国の防衛に役立つのかということも含めて、議論をするべきだと思いますし、今の状況ではとても賛成できません」

 玉木氏は、安倍総理主導の憲法改正案(9条自衛隊明記案を含む)については「反対」と明言、自衛隊海外派遣にも慎重な立場だった。また2017年11月の日米首脳会談でのトランプ大統領の米国製兵器爆買要請を安倍総理が快諾、翌月に購入が決まったイージス・アショアに対しても疑問を呈示し、「防衛の観点からも合理性がない」と問題視していた。

 米ワシントン・ポスト紙は「安倍総理はトランプ大統領の忠実な従属的助手」と酷評したが、まさにトランプ大統領に「NO!」と言えない「安倍下僕外交(政治)」と距離を置く姿勢を、玉木氏は示したといえる。

▲玉木雄一郎国民民主党代表(横田一氏提供)

時事通信記者の忖度記事!? 国民民主は安倍改憲勢力へのくら替えはありえない!?

 「安倍首相、国民民主に秋波=改憲3分の2、高いハードル」と銘打った7月5日付の時事通信の記事(上記)は、首相発言に対する国民民主党内の動揺ぶりを次のように報じた。

 「国民民主党内は早くも揺れている。『連立はありだ』(ベテラン)と歓迎する声が漏れる一方、党幹部の一人は『間違った期待だ。われわれに秋波を送っても片思いだ』と語り、首相のラブコールを一蹴した」

 しかし玉木氏の回答からは、首相発言で少なくとも玉木氏自身が動揺している気配は感じられない。代表としての指導力が急低下している兆しもない以上、党全体として、安倍政権との連立も安倍改憲勢力への鞍替え、現状では考えにくい。記事中の、「(安倍政権との)連立はありだ」というベテラン議員の匿名発言を、どう解釈すべきか。党内で賛否が二分された片方のサイドを代表する発言なのかどうかも怪しい。

 憲法改正が悲願の安倍総理の応援団のような時事通信の「忖度記者」が野党分断を画策し、ベテラン議員の声を針小棒大に膨らませて党内世論の約半分を占めるかのように紹介した「事実歪曲記事」なのではないか。そういう疑いが生じても仕方がないだろう。

 玉木氏が今後も代表として、安倍総理主導の改憲に反対し、自衛隊海外派遣にも慎重な姿勢を崩さず、イージス・アショア購入に代表される米国製兵器爆買にも疑問呈示をすることなどにより、安倍政権との対決姿勢を堅持すれば、官邸や忖度記者ら与党サイドが野党分断工作を仕掛けていたとしても、跳ね除けることができるはずである。

 今回の参院選で、改憲勢力3分の2割れが濃厚となる中、安倍総理が秋波を送り始めた国民民主党の動向が今後の改憲論議を左右することになる。参院選後も、玉木代表の言動や指導力から目が離せない。

官邸が国民民主・榛葉賀津也候補を支援!? 狙いは国民民主を改憲勢力へ引きずり込むことか!? IWJが玉木雄一郎代表に直接質問したところ、「冷静に考えればありえない」と回答!

 ところが7月13日、静岡新聞朝刊一面トップで、参院選静岡選挙区で立候補している国民民主党の榛葉賀津也(しんば かづや)候補を官邸が支援に回っている、という衝撃のニュースが報じられた。同紙によると、自民党関係者が「首相官邸からの依頼だ。(参院選後の)改憲を意識しているのだろう」と話したという。

▲静岡新聞7月13日朝刊1面

 さらに15日には、静岡朝日放送(SATV)が、「官邸参戦?静岡に異変」というタイトルを打ち、関係者への取材にもとづく話として、菅官房長官が直接電話で「榛葉氏を落とすわけにいかない。榛葉氏を助けてやってほしい」と要請してきたことなどを伝えた。

 官邸は、国民民主党を改憲勢力を引きずり込もうとしているのだろうか。こうした一連の報道を踏まえて、IWJ記者は7月20日、静岡県の磐田駅前へ榛葉候補の応援演説に来た玉木氏に直接質問した。

IWJ記者「榛葉候補に、自民党一部支持層から票が流れているという報道がありましたが、玉木代表はどのようにお考えですか」

玉木代表「ある意味、選挙妨害だと思いますね。私もそうですけど、やはり、いわゆる保守層といわれる支援団体とか組織にも食い込んでいって、そこから引っ剥がしていくということをしないと、我々野党は勝てないんですね。ですから、与党(支持)層にも食い込んでいっているという意味では、私は非常にいいことだと思っています。

 ですが、組織だって官邸が何かしてくるということは、冷静に考えればありえない話だと思いますから、とにかく、そういう妨害にも負けないで、とにかく1票でも思いを訴え、18年間の実績や、何とか静岡で勝ちたいという思いを伝えながら、勝利を勝ち取ってもらいたいと思います」

 玉木氏は「組織だって官邸が何かしてくるということは、冷静に考えればありえない」と断じた。しかし、現場レベルでは、玉木氏があずかり知らないところで交渉が進められているという可能性も捨てきれない。

 7月17日、テレビ朝日「報道ステーション」が、榛葉候補を支援するよう、菅義偉官房長官が各所に要請しているという内容を放送する予定だった。しかし、このために用意していた約6分のVTRは、放送直前になって丸ごと削除されることになった。

 この「『報ステ』から消えた『6分』のVTR」について、記者クラブ所属のある新聞社の現役記者・伊藤直也氏(筆名)から、詳細なレポートがIWJへ寄せられた。これは、テレ朝内部の報道ステーション関係者からの証言にもとづいて書かれたスクープ記事である。

 官邸側は国民民主党の候補個人に対して、選挙では支援する代わりに改憲発議では賛成に回るよう、交渉を持ちかけているのかもしれない。だからこそ、在京キー局では官邸による静岡選挙区介入疑惑を報じることができなかったのではないだろうか。

 伊藤氏のスクープ記事は、ぜひ、以下のURLからご一読いただきたい。

 また、IWJ中継市民が行った玉木氏への質問と、その回答の録画は、下記URLからご覧いただきたい。

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