【IWJブログ・特別寄稿】原発推進・森候補を支えるのは、公共事業推進と選挙応援がバーターの自民党流「土建選挙」! 街頭演説一切なしで県内の企業・団体回りに励む二階幹事長、「利益誘導なんてない!もっとレベルの高いことだ!」と開き直り! 2016.10.15

記事公開日:2016.10.16取材地: テキスト
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(取材・文・写真:横田一)

 いよいよ新潟県知事選挙の投開票日を16日、迎える。ここへきて、「自主投票」を決めていた民進党議員が次々と新潟県入りし、共産・社民・自由が推薦する米山隆一候補の応援にまわっている。2016年10月14日にはついに、蓮舫代表も新潟入りして応援演説に駆けつけた。

 自公推薦候補の森民夫・前長岡市長の「圧勝」と予想されていた選挙は、今や「激戦」の様相を呈している。原発推進派の森氏と慎重派の米山隆一氏の戦いの結果は、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働を左右する。民進党議員がここにくるまで米山候補の応援に重い腰を上げなかったのは、連合新潟の最大母体の電機連合が原発再稼働を求め、森氏を応援しているためだ。

 両候補ともに有権者に向けて最後の投票の呼びかけを行う中、ジャーナリストの横田一氏が森陣営の応援に入った自民党・二階俊博幹事長を直撃した。

 米山候補が問題視している原発事故時の避難計画の杜撰さについて指摘された二階氏は、「それは、相手候補が考えればいいことです」と無責任極まりない答えで煙に巻いたことは、以下の記事で報じたとおりである。

 今回、横田氏が斬り込んだのは、森陣営を応援する自民党が進める旧態依然とした土建選挙(公共事業推進と選挙応援が交換条件)の実態である。新潟県内の企業や団体を回り、森候補への支援を要請していた二階幹事長は、公共事業予算増加の見返りに選挙応援の恩返しをしてもらおうとしている。

 新潟県民、いや、日本国民の多くの人の安全に関わる原発問題がろくに論じられないまま、選挙票が公共事業の予算で買われようとしている。そんなことが許されてはならないのではないか?

 以下に、横田氏の取材レポートを掲載する。(IWJ編集部)

土建選挙?という質問に 「そんなことはない!もっとレベルの高いことだ!」と反論――「大物族議員」「寝業師」の異名を持つ二階幹事長を直撃

 柏崎刈羽原発再稼動を左右する新潟県知事選(10月16日投開票)で、「全国市町村長会会長」だった森民夫候補を推薦する自民党が、旧態依然とした土建選挙(公共事業推進と選挙応援が交換条件)を進めていた。12日、大物族議員で「土地改良事業団体連合会」会長の二階敏博幹事長が、新潟県内の企業や団体を回り、推薦候補への支援を要請。公共事業予算増加の見返りに選挙応援の恩返しをしてもらおうとしか見えないのだ。

 12日16時、長岡市福島江の土地改良事業団体連合会での関係者向けの講演会を終えた二階幹事長を直撃。「土地改良予算を増やした見返りに選挙応援を依頼したのですか?」と聞くと、二階幹事長はこう答えた。

 「そんなことはない!もっとレベルの高いことだ! 『利益誘導をした』とか、『しない』とかと言いたいのだろう!?」

▲新潟入りした二階俊博幹事長

▲新潟入りした二階俊博幹事長

 売り言葉に買い言葉で「利益誘導ではないのですか?」と確認すると、二階幹事長は「ないよ!」と即座に否定。「(土地改良事業)予算増の見返りに(応援を依頼すると?)」と質問を続けようとしたが、二階幹事長が「何を言っているのだ!」と怒りを爆発させると同時に、SPが「急いでいるので」と間に入り、直撃取材は打ち止めとなった。

 この日、二階幹事長は精力的に大票田の新潟市と長岡市を回った。11日夜から新潟入りしていた二階氏は、翌日の朝8時、新潟市のホテルで新潟市を地盤とする国会議員や県議や市議らに、「何が何でも勝ち抜く」とげきを飛ばした後、9時からは「新潟県建設業協会」の植木義明会長(植木組社長)と面談。報道関係者には非公開で、「会長からどんな陳情をしたのか。二階先生からどんな要請を受けたのかについてはお話できません」(建設業協会)。

 ただし、建設業協会の会館内には森候補のポスターが貼られ、植木会長は森候補を推す理由として「長岡市長としての実績があり、自民党も推薦している。建設省出身で国とのパイプもある」と話していた。

 旧建設省出身の森候補は、道路や港湾など県内のインフラ整備推進が目玉政策。その中には、青森から新潟を経て大阪までの日本海側を結ぶ「羽越新幹線計画」も含まれている。「米山候補は原発問題ワンイッシューだ」との森陣営の批判に対して、米山候補が「森候補は公共事業ワンイッシューだ」と反論したのはこのためだ。

原発再稼動についての議論には不熱心だが、公共事業予算確保をネタに選挙応援を頼むことには熱心な二階幹事長、選挙事務所訪問で土地改良事業団体連合会の関連団体回りを予告

 12時半には、森民夫事務所を二階氏は訪れて挨拶。囲み取材では、原発再稼動についての質問が集中したが、原子力防災の課題への無関心ぶりが露呈した。

 上記記事で触れたとおり、二階氏は、「『原発事故の時に放射能被曝の恐れがあるところに行くバスの運転手が確保できない』と相手候補(米山候補)は言っているのですが。その点はいかがですか?」との筆者の質問に対し、「それは、相手候補が考えればいいことです」と無責任な回答をしたのである。

 原発再稼動についての議論には不熱心な二階氏だが、公共事業予算確保をネタに選挙応援を頼むことには熱心だった。選挙事務所での挨拶で二階氏は、土地改良事業関連団体を回ることを予告。自民党の伝統的集票マシーン土改連関連団体の活用を呼びかけていたのだ。

 「この後は土地改良の関係を回って歩きますが、皆様方からも土地改良の方に声をかけていただいて、縦横、みんなで押し上げていくというふうにやっていきたいと思っております」

▲二階幹事長

▲二階幹事長

 二階氏は「土地改良事業団体連合会」会長。民主党政権時代に大幅削減された土地改良事業(農業土木事業)の予算を、安倍政権誕生後に再び増やすのに貢献した。

 臨時国会で成立した第二次補正予算にも、土地改良事業は「TPP対策」を名目に約1000億円盛り込まれたが、こうした農業土木予算増額の恩返し(自民推薦候補支援)を期待して二階氏は、関連団体周りをしたのは確実。「ギブアンドテイクの関係」とはこのことだ。

 土地改良事業は農地の大規模化や灌漑設備整備などをする農業土木事業。しかし、米価下落や後継者不足の農家にピカピカの農地を提供しても、有効活用されず、大型店などに転用されるケースも相次いだ。

 そこで民主党政権は土地改良事業予算を5772億円から2135億円へと約6割削減、その財源で「農家への直接支払(戸別所得補償制度)」を導入した。

 しかし、公共事業バラマキが得意の安倍政権は、土地改良事業予算を増額。その急先鋒が、土地改良事業団体連合会会長の二階幹事長と、大物農水族で、「TPP断固反対」から「TPP断固推進」に180度立場を変えた西川公也・元農水大臣。西川氏は農業関係者との会合(TPP地方キャラバン)でこう熱っぽく語っていた。

 「(民主党政権が減額した土地改良事業費を)何年で戻すのかを二階会長と相談、私は『3年』、二階会長は『2年』と思っておりますので、なるべく早く戻したい」

 しかし「TPPに便乗した選挙対策のバラマキ」と見透かす農家も少なくなく、建設業界に詳しい永田町関係者もこう解説する。

 「建設業者には、道路や港湾などの国交省系と農業土木を受注する農水省系がいます。民主党政権時代の予算減額で干され気味の農水省系業者の工事を増やすことで、今後の選挙でフル稼働してもらう狙いは見え見えです」

 農業土木事業(土地改良事業)予算増が選挙対策になることを熟知している二階幹事長は、与野党激突の新潟県知事選において、自民党が得意とする”土建選挙”を実行に移そうとしたのは明らかだ。

 一方、民進党出身の米山氏は農業政策についても対照的な立場。

 「自民党は『TPP反対』と言っていたのに賛成に回ったのはおかしい。米どころ新潟を守るためにTPPには反対。『農家への戸別所得補償制度』を充実するべき」と訴える。「TPP賛成・公共事業中心の土建選挙の自民推薦候補 対 TPP反対・戸別所得補償制度充実の野党推薦候補」という対立の構図になっていたのだ。

街頭演説は一切なし! 水面下で企業や団体回りをした二階氏の「予算をつけたのだから与党系候補を応援するのは当然だ!」というようにみえる恫喝的依頼

 13時半から「土改連(土地改良事業団体連合会)ビル」(新潟市)で二階氏の時局講演会が開かれた。二階氏が到着するまでの前座は、7月の参院選全国比例区で初当選した進藤金日子(しんどうかねひこ)参院議員が務めた。引き合いに出したのは、全国行脚で各地の農業関係者の声を耳にしている小泉進次郎・農林部会長のエピソード。戸別所得補償制度充実を求める農家の要望を受けた小泉氏が、「土地改良事業予算を減らしていいのですか」と脅し文句を口にすると、その農家は黙ってしまったというものだ。

 将来の首相候補として注目されるイケメンで人気の高い小泉氏だが、旧来型農業土木予算復活で意気投合した二階幹事長と西川元大臣の跳梁跋扈を覆い隠す客寄せパンダ役をしている。「人気の高い進次郎氏の農林部会長抜擢は、TPPで変節した自民党への反発を抑えると同時に、その奮闘ぶりをマスコミが紹介することで旧来型農業土木事業復活の隠れ蓑としても利用できる。人気政治家を国民騙しに利用する官邸の巧みな世論操作術です」(永田町関係者)。

 実際にマスコミは、小泉進次郎氏が「農協販売の資材(農薬や肥料など)が高い」と指摘していることについては紹介するが、増額された土地改良事業予算が選挙対策に使われている実態を報道しようとはしない。大物族議員跋扈の隠れ蓑と化した進次郎氏の正体が覆い隠される間隙を縫って、二階幹事長は旧来型の土建選挙を展開していたのだ。

 土改連ビルでの講演会では、進藤参院議員の話がしばらく続いたところで、真打ちの二階氏が登場。土地改良事業予算を増やした成果を報告した後、新潟県知事選での応援要請をした。予算増の見返りに選挙応援の恩返しをして欲しいと依頼したといえるのだ。

 この後、二階氏は新潟市内の関連団体を2ケ所回った後、同じく大票田の長岡市に向かった。そして16時半から同市の福島江土地改良事務所で時局講演会。ここでも二階氏は、民主党政権時代の土地改良事業予算削減に対して「戦う土地改良」と命名して予算復活(増額)に尽力したことを振り返った後、森民夫候補への応援要請をした。

 森候補のポスターが貼られた会場には、制服姿の建設業者を含む100人以上の土地改良事業関係者(受益者)が参加していた。その会場を後にしようとした二階氏を直撃したのは、露骨な利益誘導(地元の公共事業予算確保と政権与党系候補への選挙応援が交換条件)にしか見えなかったからだ。

▲新潟市内の土改連ビルでの時局演説会にのぞむ二階幹事長

▲新潟市内の土改連ビルでの時局演説会にのぞむ二階幹事長

 二階氏は「もっとレベルの高いことだ!」と言い放ったが、利益誘導(土建選挙)以外のどんな高尚な理由があるのかは全く想像がつかない。街頭演説は一切せずに水面下で企業や団体回りをした二階氏は、公共事業予算を増やせる政権与党の強みを活かしながら「予算をつけたのだから与党系候補を応援するのは当然だ!」と威圧(恫喝的依頼)をしているとしか見えないのだ。 二階氏は選挙事務所での挨拶をこう締めくくっていた。

 「こういう戦いは一歩手を休めたり、足を休めたりした方が勝利の女神から見放されるわけです。我々はヘッドスライデイングで勝ったということで、我々は全力を尽くします。勝つ自信はあります」

 「公共事業バラマキによる集票マシーンのフル稼働こそ勝利の方程式」と確信しているようにみえる二階氏は、新潟でも、まさに地べたを這いつくばって企業団体回りをする土建選挙を実践、当選を勝ち取ろうとしていたのだ。新潟県知事選は、旧態依然とした「企業団体依存型土建選挙」が通用するか否かと問うものでもあったのだ。

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