リオ五輪・男子マラソン銀メダリスト、国民を弾圧し殺害する政府に抗議のゴール!「国に帰れば殺されるかもしれない」~「TALK ABOUT DEMOCRACY」を守れ!! 2016.8.24

記事公開日:2016.8.24 テキスト
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(太田美智子)

※『日刊IWJガイド』2016.8.23日号~No.1439号~より抜粋・加筆

 リオ・オリンピック最終日の8月21日に行われた男子マラソン。2時間9分54秒のタイムで銀メダリストとなったエチオピアのフェイサ・リレサ選手は、ゴール前、こぶしを握りしめた両手を頭の上で交差させ、その姿でゴールした。笑顔はなかった。

▲フェイサ・リレサ選手。2015年ベルリンマラソン出場時の写真(写真はウィキメディアコモンズより転載)。

▲フェイサ・リレサ選手。2015年ベルリンマラソン出場時の写真(写真はウィキメディアコモンズより転載)。

 半年前の2月28日、リレサ選手は招待選手として東京マラソンに出場。みごとに優勝したときは、ゴール前でガッツポーズし、喜びをあらわにしていた。

 リオでのゴールは、何を意味していたのか。

 レース後、ユニフォームから着替え、複数のジャーナリストに囲まれたリレサ選手は、「あのサインの意味は?」と聞かれ、「オロモの抗議(Oromo protest)を意味している。9カ月間で1000人以上が死んでいて、今、エチオピアでは、オロモの人々にとって非常に危険な状態だ」と答えた。

 そして、栄光の銀メダリストは、「エチオピアに帰れば、私は殺されるだろう」と、衝撃の告白をした。

エチオピア政府がオロモ民族を弾圧~非暴力のデモ参加者が大量殺害・逮捕される事態

 オロモというのは、80以上あるといわれるエチオピアの民族の中で最大の民族だ。人口の3分の1を占める。リレサ選手もオロモ民族だ。多数派のはずのオロモ民族は政治的・経済的・社会的に隅に追いやられ、虐げられた人々による抗議と、国による弾圧が繰り返されてきた。

 アムネスティ・インターナショナルは、2014年10月、「2011年からの4年間で5000人以上のオロモ族が、反体制的だという理由で逮捕されて」おり、「今年の4月と5月の抗議活動中に治安部隊が発砲し、(中略)数十人が死亡し数千人が逮捕された」と報告している。

 それが今、さらに激化している。昨年11月、オロモ民族が主に居住するオロミア州の土地を一部、首都アジスアベバに組み入れる計画を国が発表し、オロモ民族の農地が奪われることに反対した人々の抗議運動が盛んになったからだ。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチが今年6月16日に発表した報告書によると、昨年11月以降、オロミア州で行われた抗議運動の参加者400人以上が治安部隊によって殺害され、数万人が逮捕された。

リオ・オリンピック開会直後も、エチオピアで治安部隊の発砲により約100人の死者

 オリンピック開会直後の8月6~7日にも、政治改革、法の支配、正義を求める非暴力のデモに向けて治安部隊が発砲し、97人以上が殺害されたと、アムネスティ・インターナショナルが報告している。

 8月6日、全国でのデモの様子を撮影したとされる動画がYoutubeにアップされており、リレサ選手がリオのゴールで世界中に示して見せたポーズをとり、デモする人々の姿が映っている。

政府の弾圧に抗議の意思をあらわすサイン

 2時間4分32秒の自己記録を持つ26歳のリレサ選手は、マラソンの国際大会でメダル獲得の常連だ。リオでも金メダルを目指していたに違いない。

 オリンピックが開会し、男子マラソンが2週間後に迫った8月6日、リレサ選手がどこにいたのかは分からないが、エチオピアで起きた惨劇のニュースは耳に入ってきていただろう。それでも、42.195キロを走り終えるまでは、レースに集中せざるを得ない。

 しかし、走り終えて、ようやくエチオピア政府への抗議の意思を示すことができたのではないかと思う。それは、世界中の注目が集まっている、絶好の瞬間でもあった。

メキシコ五輪の表彰式で、人種差別に抗議した3人のメダリストたち

 リレサ選手の勇気ある抗議は、1968年のメキシコ・オリンピックで黒人差別への抗議の意思を示した3人のメダリストの姿を彷彿とさせた。

 男子陸上200メートルで1位と3位になったアフリカ系アメリカ人のトミー・スミス、ジョン・カーロス、そして2位になったオーストラリア人のピーター・ノーマンの3選手だ。

▲表彰台上で米国の人種差別に抗議するピーター・ノーマン、トミー・スミス、ジョン・カーロス(左から)(写真はウィキメディアコモンズより転載)

▲表彰台上で米国の人種差別に抗議するピーター・ノーマン、トミー・スミス、ジョン・カーロス(左から)(写真はウィキメディアコモンズより転載)

 1968年は、米国ではベトナム反戦運動と人種差別と戦う公民権運動が盛んに行われ、その最中の4月4日、公民権運動の指導者であるマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が暗殺された年でもある。

 トミー・スミスとジョン・カーロスの両選手は表彰台で、国歌が流れ、国旗が掲げられている間、地面を向き、黒い手袋をはめたこぶしを突き上げる姿勢をとった。それが、黒人差別への抗議を示す行動(「ブラック・パワー・サリュート」と呼ばれる)だったからだ。

 銀メダリストのピーター・ノーマンは、当時、やはり人種差別的な白豪主義をとっていたオーストラリアの白人で、こぶしは突き上げなかったものの、二人とともに「Olympic Project for Human Rights(人権のためのオリンピック・プロジェクト)」のバッジを胸につけて表彰台に上り、二人に賛意を示した。

 この勇気ある行動で世界に差別撤廃を訴えた3人は、それぞれ帰国後、スポーツ界から弾圧され、名誉回復されるまで数十年を必要とした。

リオ五輪閉会式でマリオに扮した安倍総理

 リレサ選手が覚悟の抗議を示しながらゴールしてから、約半日後に行われた閉会式で、2020年の東京オリンピックを開催する日本の代表として、安倍総理がサプライズ登場した。

 しかも、任天堂の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」のキャラクター、マリオに扮しての登場だった。ご存知の通り、マリオは、赤い大きな帽子、赤いシャツ、青いオーバーオールに加えて、大きなヒゲが特徴だが、安倍マリオにはヒゲがなかった。

 一国の首相としてマリオに扮しておいて、ヒゲをつけるのは恥ずかしかったのか。ヒゲをつければ、ヒトラーに似ていると揶揄(やゆ)されると分かっていて、避けたのではないだろうか。

安倍マリオ、リオの次はケニアでアフリカ開発会議(TICAD)出席へ

 安倍総理は今夏、2回にわたって計17日間の夏休みをとり、休み明けにリオに出発して23日に帰国。25~29日はアフリカ・ケニアで開催されるアフリカ開発会議(TICAD、27~28日)出席のため、再び日本を離れる。

 TICADは、Tokyo International Conference on African Developmentの略である。「1993年以降、日本政府が主導し、国連、国連開発計画、アフリカ連合委員会、世界銀行と共同で開催」(外務省ウェブサイト)してきた。これまで日本で開催してきたが、第6回の今回、初めてアフリカでの開催となる。

 2013年に横浜で開かれた前回のTICADは、アフリカだけでも39名の国家元首・首脳級を含む51カ国から参加があり、安倍総理とエチオピアのハイレマリアム首相が共同議長を務めた。安倍総理はODA約1.4兆円を含む、官民による最大約3.2兆円の事業、産業人材育成、開発・人道支援などを打ち出した(外務省ウェブサイト)。

 今回の支援規模は不明だが、相当な額の税金が投入され、日本がアフリカを“支援”する会議らしい。ならば、リレサ選手が亡命を覚悟で世界に訴えた、エチオピア政府による民衆弾圧を止めるよう、圧力をかけてはくれないものだろうか。それでこそ、正義の味方、安倍マリオになれるはずだ。

今こそ「TALK ABOUT DEMOCRACY(民主主義について話そう)」!ファシズムを押し返せ!

 news.com.auというサイトの記事では、リレサ選手がエチオピアの状況について、「If you talk about democracy, they kill you(民主主義について話せば、殺される)」と話したと紹介している。

 幸い、日本はまだ、民主主義について話せばすぐに命が脅かされる、というほどの状況ではない。しかし、沖縄・高江では、米軍のヘリパッド建設に反対する非暴力の人々を機動隊が文字通りの暴力で排除している。全国から機動隊を送り込み、弾圧する国の最高権力者が安倍総理だ。

  沖縄で起きていることは、他の46都道府県に住む人間にとっても他人事ではない。IWJが警鐘を鳴らし続けてきた、自民党の危険な改憲草案の中身、わけても緊急事態条項が現実化すれば、日本全土が「沖縄・高江」と化す。


  折りしも、IWJでは「TALK ABOUT DEMOCRACY(民主主義について話そう)」Tシャツを復刻・販売しています。Tシャツに書かれた全文を日本語に訳すと、「民主主義と憲法についてオープンに話そう、私たちの自由と未来のために」です。

  憲法は、私たちの民主主義を守る盾として機能していますが、衆参両議院で改憲派が3分の2の議席を確保した今、安倍総理らは緊急事態条項新設を含む改憲をもくろんでいます。戦前の日本、そして現在のエチオピアの轍(てつ)を踏むことのないよう、みんなで止めていきましょう!ぜひTシャツの購入もご検討ください。 

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