世界の「緊急事態条項」を検証!自民党改憲草案の「異常性」に迫る~岩上安身によるインタビュー 第608回 ゲスト 早稲田大学法学学術院教授 水島朝穂氏 2016.2.13

記事公開日:2016.2.13取材地: テキスト動画独自
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(文・花山格章)

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 2019年5月20日、テキストを追加しました。

「安倍総理に、改憲を語る資格はない!」

 緊急事態条項を創設する憲法改正について、安倍晋三総理の周辺から「お試し改憲」という言葉が出ていることについて、早稲田大学法学学術院の水島朝穂教授は、「改憲とは、非常に重い『憲法という縛り』を解くもの。『お試し』という言葉など、そもそも成り立たない」と厳しく批判した。

▲水島朝穂氏(2016年2月13日、IWJ撮影)

 2016年2月13日(土)、東京都港区のIWJ事務所で、岩上安身のインタビューに応じた水島教授は、安倍政権の改憲の狙いが緊急事態条項にあることを見すえて、「立憲主義の根底を覆す仕組みが緊急事態条項。『お試し』という言い方をすること自体、すでに憲法をなめているし、蔑視している」と憤りを示し、このように続けた。

 「もっともふざけているのは、緊急事態が限定されていないこと。『内乱等』と書いてあるが、『など』を入れれば何でも入るし、判断する人間が決められる。何かをやりたい側が、『今、非常事態だ』と自分で判断して、自分で実施できることになる」

 憲法は権力を縛るものなので、国民にとっては「原則自由で、例外不自由」、国家権力にとっては「原則不自由で、例外が自由」なのだ、と水島教授。その視点で見ると、緊急事態条項とは権力者が国民に向かって「私に自由をください」と言うことであり、それゆえに危険なのだという。

 「緊急事態条項ができたら独裁者が生まれる、なんて単純なことではない。そういうものの仕組みができた時、私たちの身体が蝕まれていくのだ。民主主義国家が、知らないうちに静かに死んでいく。この国は今、そのプロセスに確実に入っている」

 水島教授は、緊急事態についての議論は必要だが、立憲主義という国の仕組みの根底に関わる議論は、冷静な時にしっかりとやらなければいけないと主張する。

 「今の安倍さんたちのような荒っぽい議論には乗らないこと。国民として、この議論はすべきではない。緊急事態法を『お試しだ』と言う改憲議論には、国民の側から『ナンセンスだ』と言って、議論させない姿勢が大事だ」と指摘し、最後にこう締めくくった。

 「緊急事態条項は災害とセットにした瞬間、安保法案と違って、みんな無関心になる。この両方を、政府は非常にうまく突いてきている。歴史、現状、他国との比較。この3つを頭に入れながら見ることです」

記事目次

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■ハイライト

■全編動画

  • 日時 2016年2月13日(土)13:30〜
  • 場所 IWJ事務所(東京都港区)

あれはNHK島田解説委員の罠だった!? 「維新の党の(安保法)修正案に触れないで」と謎の誘導をされた『日曜討論』!

 この日のインタビューのテーマは、自民党が憲法改正で創設を目指している緊急事態条項の危険性について。岩上安身は、「緊急事態条項は、昨年成立した安保法制と密接に関係している」と前置きし、2015年7月12日にIWJで行った水島教授のインタビューに話を向けた。当時、国会は安全保障関連法案の審議が白熱しており、政府与党は会期を延長したものの、法案へのさまざまな懸念を払拭できていなかった。

 水島教授は、「7月12日、私は(IWJのインタビュー前に)NHK『日曜討論』に出演した。打合せの時、司会をするNHK解説委員(島田敏男氏)から『維新の党の(安保法)修正案については、触れないでくれ』と言われた。発言内容に介入されてムッとしたが、結局、維新には触れずに終わった。帰り際、送迎の車に乗った時に、彼(島田氏)が顔をのぞかせて、『維新の党の修正案は、審議促進上、とても良いものですよ』と言った。その意味がわからないまま、私はIWJに来たのです」と振り返る。

 維新の党は同年7月8日、平和安全整備法案・国際平和協力支援法案の2法案を国会に提出し、さらに、政府案から抜け落ちている尖閣諸島など離島防衛のための領域警備法案を、維新・民主共同で提出していた。7月12日のインタビューで水島教授は、「安倍総理は戦後最長の会期延長を打ち出した。その段階での維新の対案提出は、それまでの『廃案にすべき』という流れを審議継続に向かわせた。安倍政権にとってできすぎのタイミングだ」と語っている。

 「その後、衆議院で強行採決が行われ、安倍総理は『維新の党の修正案が出ているから、単独採決ではない』という形をとった。これが、そのこと(維新の修正案に言及するな、という件)だったと気づいたんです。さらに、安倍総理と会食するマスコミ関係者の中に島田氏がいることを知って、『審議促進上、良い』という発言の意味がわかって、怒りが沸いてきた」

 岩上安身が、「島田さんは強行採決することまでわかっていて(水島教授への誘導を)やったのか?」と尋ねると、水島教授は、「わかりませんが、あそこで私が維新の党を批判したら、違憲か合憲かという議論がNHKの『日曜討論』で出るじゃないですか。そうすると、4日後の強行採決(7月15日・衆院特別委員会、7月16日・衆院本会議)は雰囲気が悪い。だから、向こうの罠に嵌ったのかもしれない」と表情を曇らせた。

■ハイライト2

緊急事態条項を「お試し」でやろうという考えは憲法をなめている。安倍さんに改憲をやる資格はない!

 水島教授は、「安倍さんには憲法改正をやる資格はない」と断言し、その理由を3つ挙げた。

 「1つ目は、集団的自衛権の行使について、憲法違反だと猛烈に反対される中で、閣議決定によって政府の解釈を変えてしまったこと。あれは憲法を壊した。私たちは破壊の壊の『壊憲』だと言ってきた。憲法を壊した人間に、改正をする資格があるでしょうか?

 2つ目は、緊急事態条項を『お試しでやろう』という姿勢。そもそも、『お試し改憲』という言葉は成り立たない。改憲とは、ものすごく重い『憲法という縛り』を解くもの。『お試し』するような代物ではない。立憲主義の根底を覆す仕組みが緊急事態条項なので、『お試し』ではなく(改憲の)本体になる。それを『お試し』という言い方をすること自体、すでに憲法をなめているし、蔑視している証拠だ。こういう人に(改憲を)語る資格はない」

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 3つ目は、片山さつき衆議院議員が、福島第一原発事故に絡めて緊急事態条項の必要性を口にし、安倍総理がそれを容認したことだ、と水島教授は言う。

 「片山さんが『原発20キロ圏では病院の避難などが不十分だった。これは憲法に緊急事態条項がないから』と言った。安倍さんは、それをオッケーのように言ったが、とんでもない。当時の混乱は、緊急事態法がなかったからではなく、災害対策基本法やいろんなことが十分に機能しなかったから。政治の無策や不十分さが、東日本大震災ではっきりした。

 だから、憲法改正ではなく、災害や原発事故などの緊急事態にどう対応するかをしっかり議論しなければならない。

 ところが、それを憲法改正に持っていった。震災便乗型の改憲だ。彼らはオリンピックを引っぱり、大きな復興予算を他のものに使い、被災者に冷たい復興政策をしながら、被災者を理由に憲法改正を言う。これは、二重三重の憲法冒涜だ」

 岩上安身は、「被災者が現実に苦しんでる中で、『もし緊急事態条項があれば、たくさんの犠牲者を出さずに済んだ』という言い方は失礼な話。日本のほとんどの人たちは、阪神大震災でも東日本大震災でも、すごく整然と助け合って相互扶助しながらやってきた。だから、(こういう発言は)国民に対する冒涜でもある」と述べた。

 水島教授は、日本で大規模自然災害や原発事故が起きた時、どう対応するかという議論は必ずしなければならないが、それと憲法改正の議論はしっかり分けるべきだと力説する。

 「どうしても憲法を変えなければいけないなら、そのことがきちんと証明、説明された時に、初めて議論に乗ることだ。ところが、彼らの議論には『緊急事態条項を作ったら、こうなる』という説明がまったくない。『緊急事態条項がないことが、おかしい』としか言わない。これは、安倍さんの改憲論に共通する。緊急事態条項を作ると、誤用、濫用、悪用が必ず起きる。だから、作ったらどうなるかの議論を冷静にやらなければいけないのだ」

緊急事態が限定されていない、ふざけた自民党改憲草案!「内乱等」と書くことで恣意的に範囲の拡大が可能!

 立憲主義では、立法・司法・行政に権力が分配され、人権が保障されている。ところが、戦争、内乱、大規模な災害が起きた時、権限を分けていたり、人権を尊重する仕組みのままでは、国家として有効に対処できない場合がある。そういう時、一時的に、ある執行権力に集中させて事態を乗り切ろうとするが、それを正当化する論理が国家緊急権だ。水島教授はドイツの例を挙げながら、自民党改憲草案の危うさを、以下のように説明した。

 「かつてドイツでは、ワイマール憲法48条第2項で、大統領にすごく強い非常事態権限を持たせた。ストやデモが起きて国家の安全秩序に関わる場合、大統領は必要な措置がとれた。そして、移動の自由、表現の自由、人身の自由など7つの基本権が停止する、と書いてある。

 この非常事態の権限をヒトラーが上手に使って、国会が放火された直後、『犯人は共産党だ』として共産党議員を令状なしで逮捕し、国会の議席を減らして、全権委任法を通した。全権委任法は緊急事態条項を乱用してできたから、ドイツ人は(現在の)緊急権を作る時、実行する人に判断権を与えてはダメだと考えた。

 だから、緊急事態を判断する人と、緊急事態で特別の権限を持つ人を分けるべきという考え方は、緊急事態の議論では常識中の常識だ。しかし、自民党改憲草案99条では、総理大臣がすべてを判断する、とある。そして、法律に変わる政令で、内閣だけで国会に代わってできるのだ、と。

 もっともふざけているのは、緊急事態が限定されていないこと。『我が国に対する外部からの武力攻撃』は、どこの国でも緊急事態だ。ところが、(改憲草案には)次に『内乱等』と書いてある。『など』を入れれば、何でも入る。ドイツでは最初、『対内的非常事態』が入っていたが、これではストライキやデモも対象になるだろうと、社会民主党が反対して削除された。『など』を入れたら、判断する人間が範囲を決められる。これは、非常事態で何かをやりたい側が、非常事態だと自分で判断して、自分で実施できる。ドイツのやり方の正反対だ」

どの国も緊急事態条項は必ず限定的に運用する。知識もなく、「おおらか」過ぎる自民党改憲草案の怖さ!

 私たちは憲法とは何かという議論に、もう一度立ち返る必要がある、と水島教授は力を込める。憲法は、私たちを縛っている道徳規範でなく、権力者を統制し、制限する規範である。だから、通常は立法・司法・行政に分けられている権限が緊急事態で集約される時には、時間的な制限は必須なのだという。

 「典型的な例として、フランスの戒厳は、戦争事態で包囲されると軍司令官が行政権と司法権を持つ。裁判も軍司令官がやるから、軍法裁判が一般の裁判所に変わる。行政は軍事行政になる。それが戒厳令。例外的なものだから、たとえば12日以内とかで、憲法は直ちに現状に戻らなければならない。例外的に、一時的に集中するもの。

 緊急事態条項を議論する際の3点セットは、集中、省略、特別の制限だ。集中は、権限が危機の時だけ行政権のトップに集中する。省略は、通常は議会の同意を得るなど手続きを踏むが、それを踏まなくてもいいというもの。特別の制限は、通常では認められない、令状を必要としない捜索ができるもの。しかし、これらは10日間だけとか期限があり、延長する時には手続きを要する。

 こういうことは、どこの国も必ず限定されているのに、自民党の改憲草案では『など』を入れている。自分で(緊急事態を)100日間やりますよ、としておいて、その間に独裁体制が作れる。

 どこの国でも危惧することを、自民党の草案は平気で書いているから、ある意味『おおらか』である。『多くの国が緊急事態法を持っているから、日本も』と言っている人が、知識も持たずに、おおらか過ぎるのだ。そういう人に、権限を与えてはいけない」

自民党の改憲草案は完全に落第。現行憲法を「みっともない」と蔑視する安倍総理の下で憲法改正をしてはいけない!

 岩上安身は、国際人権規約にある、デロゲーション条項について触れた。これは「国民の生存」を脅かす緊急事態の場合、国際人権規約にもとづく義務に反する措置をとることができる、というもの。大規模災害や戦争で、個々の人権を守り切れない場合に、例外状態が生まれる。ただし、これは「国民の生存」のためであって、国家のためではない。

 水島教授は、人権規約に、例外状況として適用除外のデロゲーション条項が入った意味について、「どこの国でも緊急事態を作って(人権を)制限しようとする。それを、これ以上は制限してはいけない、というスタンダードを国際法的に示したもの。だから、国家を守るのではなく、本当に国民の命が危うい時は、この規約で認めているものも制限していい、と国に言っている」と述べて、こう続けた。

 「日本国憲法に緊急事態条項がない、というのは嘘。日本国憲法も参議院の緊急集会などの規定を持っていて、制定過程でも、日本は災害があるから緊急の対応が必要だ、という議論をきちんとしている。その意味では、国民にとっての緊急事態には、ちゃんと国家が国民のために対応しようという仕組みができている。

 各国が緊急事態を定める場合、この自由権規約に適合的であることが求められるが、自民党改憲草案は完全に落第だ。憲法を軽視したり、無視したりする総理大臣はいたが、安倍さんは蔑視している。『みっともない憲法』とまで言い切った唯一の総理。『みっともない憲法は押し付け憲法であり、私たちの手で憲法を作る』と、妙に観念的、抽象的、情緒的な憲法論をお持ちなので、この人の下で憲法改正だけは、してはいけません」

緊急事態への対処は現行憲法に折り込み済み。むしろ、権力者が「私に自由をくれ」と言う時は危ない!

 岩上安身が、「日本国憲法は、国家緊急権に対して沈黙している。沈黙しているけれど、意味がある。ここに触れていただきたい」と求めると、水島教授は、憲法に何が書いてあり、何が書いていないかというのは重要なことだと応じて、次のように述べた。

 「憲法にはさまざまな人権が書いてあるが、環境権、嫌煙権などの新しい人権も裁判所は認めている。このように、自由や権利は広げていくべきである。

 それに対して、権力者に対する縛り(の変更)は、憲法を改正して、憲法や法律に根拠がなければできない。つまり、国民の場合には、原則自由で例外不自由。国家権力には、原則不自由で例外が自由。そういう観点からすると緊急事態条項とは、国民に向かって権力者が『私に自由をください』と言ってきた、ということ。だから、危ない。

 大日本帝国憲法に緊急事態条項があったから、それに対する反省で、日本国憲法には緊急事態条項を入れなかった。しかし、完全沈黙ではない。緊急事態は戦争とセットで必ず出てくる。日本国憲法には9条があるから、その条文がない。ところが、日本は台風国家。天変地異への対応は必要なので、憲法54条第2項『参議院の緊急集会』が入った。完全沈黙ではなく、織り込み済みなのだ。だから、安倍さんのように『日本国憲法には緊急事態条項がなくておかしい』という議論は、全くおかしい」

自民党改憲草案はワイマール憲法と同じ!? 麻生副総理の「ナチスを真似ろ」発言のポイントはここ!

 岩上安身が、自民党の改憲草案の問題点は「法律の委任の多用」ではないかと指摘し、「98条と99条にこの文言が8ヵ所もある。非常に危険だ」と話すと、水島教授も、「憲法には『法律の定めるところにより』という文言はある。ところが(改憲草案の)この条文には、やたらと『法律の定めるところ』が出てくる」と懸念を示した。

 「本来、憲法が定義した上で法律に委任して、法律で具体化する。(草案では)法律で具体化されたものを憲法が準用する、と逆転している。これを今の政権で通してしまうと、憲法が憲法でなくなる。法律を縛る憲法が『法律に従う』と言ったら、憲法に反する法律も作れることになる。これが、ワイマール憲法の教訓だ。麻生さんが『ナチスを真似しろ』と言ったのは、この部分だ」

 災害対策基本法には、「法律と同一の効力」を持つ緊急政令がある。これは、災害緊急事態が布告されると、政令で法律に変わってできる、とある。東日本大震災では、国会が開かれていることから使われなかったが、水島教授は「これは合理性がある」と言う。

 「緊急性があり、立法府ができない場合、と限定されているから、自民党草案99条の『法律と同一の効力』というような、おこがましいものではない。災害対策基本法で十分対応できない部分の緊急政令は、デロゲーションのように国際スタンダードで、本当に急いで食糧を持っていくような必要性があるから、特別の例外的なやり方を、一時的に政府に与えることには合理性がある。この緊急政令を違憲と言わない。しかし、自民党99条案の『法律と同一の効力』は、ワイマール憲法と同じになってしまい、一時的集中ではなく、独裁になってしまう」

独裁者が生まれる仕組みができた時、民主主義国家は蝕まれ、静かに死んでいく。日本は今、そのプロセスに入っている!

 水島教授は、「明治憲法でさえ、ギリギリの立憲主義の仕組みがあって、天皇が勝手にはできなかった。天皇の名を使ってやったけれど、内閣総理大臣がいて、議会があり、いろいろな仕組みがあったから、天皇自身が無理矢理やることはなかった。ドイツでも、大統領がめちゃくちゃやったわけではなく、この下の政権が憲法上の規定を使って、緊急命令や何かを乱発する中で立憲主義の仕組みを取り崩していった」と話し、現在の日本は、それ以上に危険な状況にあると訴えた。

 「注意しなければいけないのは、安倍さんは総理大臣だけれど、何もわかっていないこと。そして、わかっていない総理大臣が高揚してやっているのではなく、この機会に、今までの制限を外していきたい人たちが、あの人(安倍総理)にやらせているということだ。

 メディアが批判しない中で、国民が気づかなかったらどうなるか。(高市早苗総務大臣の)放送法の電波停止の話まで来てしまった。安保法案の危うい側面は、具体化されている。こういう思考法で国を運営してはいけないと、私は警鐘を乱打している。こうすれば独裁者が生まれる、なんて単純なことではなく、そういうものができる仕組みができた時、私たちの身体が蝕まれていく。民主主義国家が、知らないうちに静かに死んでいく。この国は今、そのプロセスに確実に入っている」

 また、水島教授は、「自民党改憲草案の99条3項は武力攻撃事態法のコピペで、びっくりした」と言う。

 「憲法では14条、18条、19条で、思想、良心の自由、表現の自由を保障している。それを改憲草案の99条で『思想良心の自由を保障しなければいけない』と言ったら、だぶってしまう。

 もうひとつおかしいのは、『最大限に尊重しなければいけない』という言い方。思想、良心は心の中に留まっているから、絶対的保障であり、制限はされない。だから最大限尊重という低レベルではなく、絶対保障だと憲法学者は考えている。これは、コピペ以上に無礼な憲法草案だ。不勉強以上に、立憲主義や人権保障の無理解や無自覚、もっと言えば蔑視だと思う」

 岩上安身が、「これは、将来的にやるつもりで布石を打っているのでは?」と尋ねると、水島教授は、「明治憲法より前に戻ろうとする、筋の悪い人たちが今の政権を握っている。非常に危ない人たちの思考法は『憲法は国民を縛る規範だ』と思っていること。だから、こういうことを平気で入れてくる。立憲主義に反するとは、こういうことだ」と口調を強めた。

非常事態を総理判断ではなく、議会が決めるドイツ。一方、日本では「裁判所が止まる独裁体制」になる可能性も?

 大事なことは「緊急事態の決定」だと水島教授は言う。ドイツでは1968年に緊急事態の条文を入れた時、議会が決定するまで、総理大臣に軍の指揮権は移動しない規定にした。非常事態が何であるか、状況が非常事態かどうかは議会が決め、議会が認定して初めて、総理大臣に例外的な権限が集中する。総理大臣に判断させる案もあったが、全部廃案になっている。

 「ソ連からミサイルが飛んできた時、非常事態かどうか決めるために、ドイツでは核シェルター内に憲法機関待避所を作った。事前に32人の下院議員と16人の上院議員を各政党ごとに選んでおいて、その待避所に48人が行き、その3分の2で決定して初めて国会が緊急事態を認定したとみなす。その上で、総理大臣に全権限を例外的に集中する」

 これを聞いた岩上安身は、「憲法上の議論だけでなく、運用まで決めてある。水島先生は(自民党改憲草案を)おおらかだ、と優しい言葉を使っているが、私は野放図で杜撰でいいかげんだと思う。戦争に備えるという極限状態を想定しているなら、ドイツのようにリアルに考えて、国民の前で議論しなければいけない」と話した。

 さらに水島教授は、「自民党の改憲草案には、司法権の規定がまったくない」とも指摘した。

 「これは非常に重要。ドイツの条文では、憲法裁判所の権限は侵されないとある。いざという時には、そこまで考えていることを国民に示した上で、国民の権利の制限は最小限度に。司法的救済もある。

 ドイツ、フランスでは非常事態であっても裁判所は維持される、と規定されている。驚くことに、韓国でも同様に規定されている。韓国は独裁政権が憲法を改正し、クーデターでやってきた国だから、最後にできた憲法にはきちんと憲法裁判所が入っている。独裁を経験した韓国から『非常事態はダメだ』という意思を感じる。なのに、自民党改憲草案には、そこがまったくない。つまり、(非常事態には)裁判所は止まる」

 岩上安身は、憲法学者の長谷部恭男氏が「緊急事態条項の新設を強行するなら『統治行為論』を廃止しなければダメだ」と発言していることを紹介し、「統治行為論は、政治が何か決めたことで、高度な判断であれば司法は口を出さないということだ。そんなことやったら、大変なことになる」と危惧した。

多くの犠牲を出した防空法の再来!? Jアラート設置の国民保護法は非常時の協力を国民に義務づける布石か?

 岩上安身は、国民保護法制の改正案と安保法制との関連性についても尋ねた。

 水島教授は、「2003年に武力攻撃事態法ができて、 2004年に国民保護法ができた。国民保護法によって、Jアラートが各自治体に常置されていった。当時はテポドン問題を理由に、自治体と国民に何らかの形で非常事態に対して協力する義務づけを入れたかったのだ」と話す。

 国民保護法の第4条には「必要な協力をするよう努めるものとする」「自発的な意思に委ねられるものであって、その要請に当たって強制にわたることがあってはならない」とあるが、これらは災害対策基本法にすでに入っている、と水島教授は指摘する。

 「災害が起こった時に、物資を災害地に持っていけとか、NHK、NTT、JRなど指定公共機関で働いている人たちに対して、命令で『国の被災物資を運ぶ協力をしなさい』ということができるようになっている。『サラリーマンだから、やらない』と言ったら罰則がある。医者や看護師、トラック運転手も協力する義務がある。

 その枠組みを、そのまま戦争にスライドさせたのが国民保護法制。ところが、安保法の時には、それが入ってこなかった。なぜかというと、ここに入れてしまうと『国民が戦争協力をするのか。自治体は戦争協力させられるぞ』という反対が出るからだ。とにかく、(安保法では)自衛隊員が海外で武力行使ができる仕組みを作りたかった」

 そして、憲法に緊急事態条項を作って、国民や自治体や民間企業に義務を与える国民保護法制の仕組みを入れていくだろう、との見方を示した水島教授は、「国民保護法制の改正をしなくても、緊急事態条項作ったら連動するので、憲法を改正してしまおうという総理判断でしょう。戦時中の防空法は、『空襲時、国民は立ち止まって火を消せ。逃げてはダメだ』と。逃げると500円以下の罰金規定が入っていた。それで、多くの国民が焼け死んでしまった。憲法が変われば、あれを義務化して、国民を協力させることもできる」と述べた。

国の仕組みの根底に関わる議論は、冷静な時にやるべき。今の荒っぽい議論には乗らないこと!

 このインタビューの3日前(2016年2月10日)、フランスでは憲法に緊急事態条項を入れることが、317対199で下院で可決された。

 これについて、水島教授は次のように解説した。

 「フランスには、もともと1955年にできた緊急状態法という法律があって、この法律は、いわゆる家宅捜索ができる。令状なしで身柄が拘束できる。集会の制限ができる。緊急状態法はアルジェリア紛争や植民地でけっこう使われたし、サルコジ大統領も暴動の時に使っている。

 オランド大統領は憲法改正して、これを憲法に入れようと言い出した。36条に戒厳の規定がある。この戒厳の条文は、戦後、一度も使ってない。改正して使いやすくしたい、と。それが可決された。おそらく、これは通る。どうなるかというと、36条の戒厳は戦争の時だけではなく、テロにも使えて、基本的には令状なしの捜索や権利の制限ができる。

 フランスは、初めてテロに対して憲法で向き合うかもしれない。130人が殺されたテロに対して、冷静さを失っている。そういう、ドサクサの時に憲法を変えるのは一番まずい。フランスは最悪な時期に憲法36条に手を触れようとしている、と言っておく」

 立憲主義という国の仕組みの根底に関わる議論は、冷静な時にしっかりとやらなければいけない、と水島教授は言葉を重ね、「私は、日本でも大災害やテロにどういう対処が必要かは十分に議論する気はある。だが、今の安倍さんたちがやるような荒っぽい、おおらかな議論には乗らない。国民としては『待った』をかけて、この議論はすべきではない。だから、緊急事態法を『お試しだ』という議論には、国民の側から『ナンセンスだ』と言って、議論させない姿勢が大事だ」と強調した。

緊急事態条項は災害とセットにされたら警戒心が緩む。だが、うっかり飲んだら立憲主義が死ぬ劇薬だ!

 日本には、緊急事態に関する規定がいろいろある。このインタビューの中では、大日本帝国憲法と自民党改憲草案とを比較した。

 戦時中の戒厳令について、水島教授は、「日清戦争の時、宇品(広島市)に布告されている。あそこは臨戦地境と言って、日清戦争の戦場だ。これが布告されると、そこの行政は全部、軍司令官が持つ。戒厳というのは地域と期限の限定版だ」と語る。

 「日比谷焼き打ち事件、関東大震災、226事件の時は、行政戒厳といって、軍司令官の下に全権限が集中した。3回目の行政戒厳は226事件で、軍内部のクーデターだった。最高責任者が、実は反乱の首謀者。つまり、自作自演だ。この時、天皇が鎮圧側に立ったから、その責任者も鎮圧側に回ったが、天皇が何も言わなかったら軍事政権ができていただろう。しかし、1936年に統制派が権力を取り、日中戦争へ。結局、戒厳令は日本でも乱用されて、戦争に突入していった。こういう安易なものを入れてはいけない」

 安保法と緊急事態条項は、表裏の関係にある重大な問題であり、国民は安保法案の時以上の眼差しで、緊急事態条項を見てほしい、と水島教授は訴える。

 「緊急事態条項は災害とセットにした瞬間、安保法案と違って、みんな無関心になる。この両方を、政府は非常にうまく突いてきている。歴史、現状、他国との比較。この3つを頭に入れながら見ることです」

 岩上安身は、「226事件では、軍部がすごく危ないことをやろうとしている時に、天皇が『抑えろ』と言った、と。皮肉なことに、対抗権力みたいなものがあった。今も、天皇が(憲法遵守などを)言っている。だが、昭和天皇と今上天皇(現上皇)では権力が全然違う。だから、今上天皇が何を言おうと馬耳東風。この状態で、総理大臣に権限が集中すると大変なことになる。それだけは何としても阻止しなければいけない」と話した。

 水島教授は改めて、「(緊急事態条項は)劇薬だ。処方する人の説明がない時には飲まないこと。飲めば身体が腐っていき、立憲主義が死ぬ」と力を込めた。

(了)

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