「透さんはご自身では気づかれてはいないかもしれませんが、工作関係者に利用されている」――。
北朝鮮による拉致被害者やその家族を侮辱する、驚くべき発言が与党議員、それも大臣経験者の口から飛び出した。
2016年1月19日、参院予算委員会で、「日本のこころを大切にする党」の中山恭子代表(元少子化対策・男女共同参画担当大臣)が、拉致被害者・蓮池薫さん(2002年に帰国)の兄である蓮池透さんの近著『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)を取り上げ、「この本については事実と異なることがたくさん書かれている」と主張。透さんが北朝鮮の「工作関係者に利用されている」と貶したのだ。
▲蓮池透さんを「工作関係者に利用されている」と誹謗中傷する中山恭子議員
安倍総理はこれまで、何度も拉致問題解決に「あらゆる手段を尽くす」と訴えてきたが、透さんは『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』の中で、「あらゆる手段を尽くす」どころか、安倍総理が「拉致問題をもっとも巧みに利用」し、拉致問題を追い風にして総理大臣にまで上り詰めたと告発している。
▲『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)
2002年当時、安倍総理(当時は官房副長官)は、薫さんら拉致被害者5人を北朝鮮に一時帰国させる方針に頑強に反対したとして知られているが、同書によると、実際には反対していなかったばかりか、「(薫さんらの)『北朝鮮には帰らない、日本に留まる』という強い意志が覆らないと知って、渋々方針を転換、結果的に尽力するかたちとなったのが、安倍氏と中山氏であった」という。中山氏は当時、拉致被害者・家族担当、内閣官房参与だった。
2016年1月12日の衆院予算委員会では、民主党・緒方林太郎議員が同書を取り上げ、内容の真偽を追及。安倍総理は「当時は5人の被害者を北朝鮮に戻すという流れだったが、私は断固として反対した」と強弁し、「極めて不愉快だ。何の意味があるのか」、「あなたが批判することが北朝鮮の思うつぼだ」と逆上した。
また、透さんの著書では、「この期に及んで、まだ政治利用を止めようとしない」として、安倍総理が拉致問題を政治利用する姿が鮮明に描かれている。
例えば、2014年末の解散総選挙の際、安倍総理は新潟二区の応援演説に入ったが、この講演会には蓮池薫さんが招かれた。多忙だったため断ると、なんと蓮池さんの両親が「駆り出され」、安倍総理らは「拉致被害者、蓮池薫さんのご両親も来ておられます」と紹介。蓮池さんの母は、「結局、安倍さんのダシにされただけだね」と嘆いたという。
誰よりも拉致問題に翻弄され、苦境に立たされてきた透さんの告発を、北朝鮮の「工作関係者に利用」されたものだと貶める中山議員の言葉――。これが拉致問題を担当してきた議員の言葉なのか。許されざる誹謗中傷ではないか。
中山議員はさらに、「総理に対し、事実確認もしないまま総理の名誉を傷つける発言がございました。この本については事実と異なることがたくさん書かれております」と、本の中に複数の虚偽事実が記されているなどと、驚くべき主張を展開した。
しかし、どこがどう事実と異なるのか、中山議員は具体的には示さしていない。「抗議するかどうか、被害者家族の方々や救う会とも相談しましたが、この本は北朝鮮のある種の工作活動の一環であるとの考えから、まともに取り上げるものではないので、無視することと致しました」と、蓮池透さんの著書を「北の工作活動」とし、事実上、透さん本人を「工作員認定」した。拉致被害者家族に対して、公権力者が公然と「北の工作員」扱いしたのは、前代未聞のことではないか。
事実なら大変な問題であり、中山氏は、透さんが北朝鮮の工作員であるというその論拠や証拠を示すべきである。論拠を示せなければ、中山議員の発言は2ちゃんねるのような掲示板に「工作員認定」と書き込んでいる匿名のネトウヨと何ら変わらないレベルの誹謗中傷となるだろう。もちろん、事実でないなら透さんに対する重大な名誉毀損となる。
中山議員は「透さんはご自身では気付かれてはいないかもしれませんが、工作関係者に利用されていると考えている」というが、となれば、蓮池さんが今後抗議したり、反対の言論を展開しても、「操られているだけだから相手にする必要がない」ということになる。これは反論封じのための煙幕ではないか。もちろん、中山議員は、透さん自身が知らずに操られているという根拠など、まったく示していない。
蓮池透さんが、自分自身でもが知らず知らずに操られていて、それを第三者の中山議員は見抜くことができている、というのは、相当に想像力(妄想力)を駆使しないと理解するのは難しい。時々、「電波が送られてきて操られている」系の話では聞く話だが、普通、こんなことを言い出した人は、誰もまともに相手にしなくなる。
もし、これらがすべて事実ではなく、中山議員の空想や思い込み、反論を封じるための「レッテル貼り」だとしたら、非常に恐ろしいことだ。国会議員が一民間人を、緊張関係にある外国の「スパイ」呼ばわりしたも同然だからだ。
透さん本人に連絡をとり、中山議員の発言についてどう感じたか、率直な気持ちをたずねた。
「おそろしい話です。いくら国会議員に免責特権があるからといって、何を言っても許されるのか。これは人権侵害ではないか。中山さんの発言そのものについては、バカバカしすぎて、まじめにとりあう気になれない。人を『北の工作員』呼ばわりするなんて、もう国会議員やめたら? って思いました。反論は、岩上さんのインタビューを受けるときに、言いたいことを全部言わせてもらいますよ」
蓮池透さんは2015年12月20日、IWJ主催の「饗宴VI」の第二部パーティーで挨拶し、やはり安倍総理は「拉致問題を巧妙に利用した」と明かしている。この模様は会員限定で公開する。
蓮池透さんの単独インタビューは2016年1月27日午後7時から開始し、安倍総理や中山氏に徹底的に反論していただく。IWJで中継するので、ぜひ、ご覧いただきたい。
予算委員会の質疑応答ではさらに、中山議員の「日本国内に工作活動をする動きが日常的にあることを、日本の人々が知っていることが大切」など根拠を示さない話が続いた。
以下、中山恭子議員と安倍総理による問題の国会質疑を、文字起こしして掲載する。
(岩上安身)
蓮池透さんは北朝鮮の「工作関係者に利用されている」!? 中山恭子議員による “誹謗中傷”の全容!
中山恭子議員(以下、中山議員)「さて、北朝鮮による拉致問題でございますが、北朝鮮は先日の核実験に見られますように相当切羽詰まった状況にあると考えています。拉致被害者救出にあたっては金正恩第1書記に直接接することのできるグループと交渉することが鍵を握ることになると考えています。外交部とのルートが動いている限り、北朝鮮側から新たな交渉のための動きは出てきません。官邸主導の下で拉致被害者救出に集中して交渉を進めていただきたいと思います。総理のご決意をうかがいます」
安倍総理「拉致問題の解決は安倍政権の最重要課題でございます。すべての拉致被害者の生還をめざして全力を傾けていく決意でございます。同時に先般北朝鮮が核実験を強行いたしました。この核実験に対しましては、日本は安保理非常任理事国の一員として、安保理において、しっかりと対応していきたい、決議を導いていきたいと、こう考えておりますし、また同時に、わが国独自の制裁について、さらに強化をしていく考えでございます。
しかし、拉致問題の解決に向けてはですね、こうした圧力をかけていくと同時にですね、我々は対話も求めていきたいと、こう考えているところでございます」
中山議員「ぜひ今年、ある意味では『チャンス』といえるかもしれませんので、被害者救出に集中した作業を進めていただきたいと思っております。
で、拉致被害者の救出は政府のみならず、国として、国民を守れるかどうかの問題であります。国会でも超党派で政府を応援し、後押ししている問題でございます。蓮池さん、蓮池透さんの本につきまして、これは私は国会で取り上げる問題ではない、と考えておりましたが、先日、衆議院予算委員会で、この本に関連し、総理に対し、事実確認もしないまま、総理の名誉を傷つける発言がございました。
この本については事実と異なることがたくさん書かれております。違っている箇所を指摘し、抗議をしようか、との意見もございました。例えば、バツがつくような、文章を変えなければいけない箇所が各所にございます。
抗議するかどうか、被害者家族の方々や『救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会)』とも相談しましたが、この本は、北朝鮮のある種の工作活動の一環であるとの考えから、まともに取り上げるものではないので、無視することといたしました。
(民主党)緒方(林太郎)議員が取り上げた『安倍、中山両氏は弟たちを一度たりとも止めようとはしなかった』といった部分につきまして、当時の安倍官房副長官の部屋で、関係省庁のメンバーで開かれていた会議を思い出しました。
帰してはならないとの主張に対し、中山参与は5人の中に北朝鮮に帰りたいという人がいたら、紐で縛り付けてでも日本にとどめる、とどめよ、というのかといった議論もございました。そのようななか、5人を国家の意志で日本にとどめると決断してくださったのが、当時の安倍官房副長官でした。どれほどに嬉しかったことでしょう。
このようなこと、話し出せばきりがありません。今はその時期ではないと考えております。透さんはご自身では気づかれてはいないかもしれませんが、工作関係者に利用されていると考えています。ある意味では透さんも拉致問題の被害者といえるかもしれません。
当時も北朝鮮側から安倍、中山、齋木(斎木昭隆・アジア大洋州局審議〈当時〉)が日本の3悪人と指名されておりました。今回は安倍、中山、横田を3悪人としたいようでございます。思ったように利益が得られなくなると、このような工作活動が動き出します。日本国内に工作活動をする動きが日常的にあることを、日本の人々が知っていることが大切です。
特に国会議員が、そのような動きに乗せられてしまうことはあってはなりません。総理のご見解をうかがいます」
安倍総理「当時の議論としてはですね、いわば5人の被害者については、再び北朝鮮に戻すべきだ、との論調は強くマスコミ等にもあったわけでございます。
私と中山参与とで、それぞれ拉致被害者ご本人との接触の中においてですね、最終的に日本にとどまる意志を確認をしたのでございますが、その際ですね、5人の意志でとどまるということではなくて、国家の意志として残す、ということを外に出そうと。そうしなければ、5人の被害者の方々のご家族に累が及ぶ危険性があると、そう判断し、我々は国家の意志として、表に出していく。これは政府でもずいぶん議論があったところでございますが、そう決定したところでございます。これは中山参与の強いご意見でもあった。
しかし当時はですね、個人の考え方を国家が超えていいのかという批判を我々ずいぶん受けた。そこで大切なことは、北朝鮮は国論を二分しようと、さまざまな工作をするわけでございます。それに乗ってはならないだろうと、こう思うわけでございます。
当該の本におきましても、拉致被害者のご両親からですね、この本について、しっかりと批判をしたいという相談をうけたことがございましたが、しかし、被害者の家族の方々の中でですね、これ分裂しているかのごとくの印象を与えるのはよくないと、それはやめといた方がよいのではないかとも、申し上げたわけでございまして、そういうことをしっかりと認識したうえで議論するべきではないか。
いずれにいたしましても、声をひとつにして北朝鮮に『被害者を帰せ』と、日本は強く要求していく必要があると、こう考えております」
中山議員「明快なお答えいただきまして、ありがとうございます。私ども超党派で動いていく必要がございます。今年、ぜひ全員、被害者全員が帰国できますように、私どもも一緒になって活動させていただきたいと思います。ありがとうございました」
中山議員自ら《考えています》と述べているように、《透さん》が《工作関係者に利用されている》というのは根拠が無い妄想である。妄想であるから自分の発言に《考えています》と逃げ道が作ってある。この中山議員の妄想発言は、2ちゃんねるなどの掲示板で何回もコピペされることを前提とした国会での発言であり、これこそが“工作活動”である。この質疑応答は最初から双方のシナリオができている可能性が高く、典型的な詐欺師の安倍と中山議員はツーカーだということだ。
こういうやりとりを掲示板で何回もコピペされると、多くの人が事実だと誤認する場合が多い。最初から誤認を狙った“工作質問”が中山議員のこの質問だ。中山議員は自分が“工作質問”しているからこそ、他人のことを《工作関係者に利用されていると考えています》なんて言っているだけ。そうでなければこんな発想は出てこない。
安倍の支持者とされる連中はネトウヨがたいへん目立つが、安倍自身もネトウヨ的な発想で成り立っている。しかし、安倍は典型的な詐欺師の橋下徹と同じく100吹っかけて50実現すればいいというやり方をしているので、細かい話に付き合うと相手の術中にはまる。典型的な詐欺師だということを念頭に於いて話をするべきだ。
詐欺師が得する質疑応答を出来レースでする中山議員もやっぱり詐欺師だ。詐欺師の演劇だということだ。
蓮池透氏 「いくら国会議員に免責特権があるからといって、何を言っても許されるのか。これは人権侵害ではないか。人を『北の工作員』呼ばわりするなんて、もう国会議員やめたら?って思いました。」 http://iwj.co.jp/wj/open/archives/283417 … @iwakamiyasumi
https://twitter.com/55kurosuke/status/689928491261816832