「戦争法は憲法秩序そのものを破壊する。今、違憲訴訟2本を準備中だ」 ~狭山事件、東京大空襲訴訟などの中山武敏弁護士が人権と平和を訴える 2015.10.4

記事公開日:2015.12.7取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山格章)

※12月7日テキストを追加しました!

 「今後、日本が平和国家として歩いていくのか、再び武力によって海外で国益を拡大する道を選ぶのか。ひとりひとりが問われている」──。

 弁護士の中山武敏氏は、新しい戦争法に反対する運動の熱を一時的なものに終わらせずに、地に足のついた運動の継続を強く説き、「戦いは始まったばかりだ」と力を込めた。

 2015年10月4日、東京都足立区の学びピア21生涯学習センターで、「中山武敏弁護士講演会『戦後70年 平和と人権への取り組みを語る』」が開催された。狭山事件再審請求、東京大空襲訴訟などの弁護団を率いて活動した中山氏は、最近では、「慰安婦の記事を捏造した」とのバッシングを受けた元朝日新聞記者の植村隆氏の名誉毀損裁判にも取り組んでいる。また、足立区在住であることから、2014年に「戦争いやだ! 足立憲法学習会」を結成している。

 中山氏は、今年9月に成立した安保関連法は、憲法秩序そのものを破壊する、と危惧する。「多くの法律家が危機感を抱いている。ハードルは高いが、違憲訴訟を提起する」と述べ、遅くとも年内には、集団的自衛権を容認する安保法制に基づく自衛隊出動を差し止める抗告訴訟と、集団的平和生存権に基づく国家賠償訴訟の2本を提起することを明らかにした。

 また、東京大空襲訴訟について、「この訴訟は敗訴が確定した。しかし今年、民間人空襲被害者救済のために超党派の議員連盟が結成された。空襲被害者は高齢になっているので、1日も早い被害者救済のための立法を求める。戦争被害に対しては、軍人・軍属と民間人空襲被害者の区別はない」と主張した。

 慰安婦捏造記事訴訟については、「週刊文春の記事は、植村氏の社会的評価を低下させるだけでなく、雇用を侵し、家族が脅迫され、雇用先である大学の自治や、学問の自由まで侵しかねない事態を引き起こした。言論風圧の風潮をあおり立てたことは、言論機関としての自殺だ」と批判した。

 最後に中山氏は、「訴訟を通して多くの人と出会いがあった。人との出会いを大切にし、連帯の活動を積み重ね、人権を大切にし、平和な社会を求めていきたい」と述べた。

■ハイライト

  • 講演 中山武敏氏(弁護士)
  • タイトル 「中山武敏弁護士 講演会『戦後70年 平和と人権への取り組みを語る』」
  • 日時 2015年10月4日(日)14:00〜
  • 場所 学びピア21生涯学習センター(東京都足立区)
  • 主催 NO!有事法制足立の会

自衛隊出動差し止め抗告など、安保法の違憲訴訟を起こす

 中山氏は、2014年9月に立ち上げた足立憲法学習会について、「秘密保護法が成立し、集団的自衛権の行使が容認される状況となり、(危機感を抱いた)足立区在住の弁護士が集まった」と紹介する。

 そのうえで、「東京大空襲では東京で100万人以上の方々が亡くなったが、被害事実はまったく報道されなかった。戦前、戦中、国民は何も知らされず、戦争に反対する人はすべて排除された。このようなことを二度と許してはならない。多くの人が手をつなぎ、地域に根付いて平和を発信していきたいと思い、会を立ち上げた」と説明した。

 続いて、2015年6月6日に足立区で開催した憲法集会の様子を紹介した。

「日弁連憲法問題対策本部副本部長の伊藤真弁護士が、『多くの人に憲法を知ってほしい』と講演し、足立区在住で、戦争と平和問題をライフワークとしている作家の早乙女勝元氏も登場した。私が東京大空襲の弁護団長として戦ったことに触れた早乙女氏は、『国が始めた戦争は、国が責任を取るべき。生きている限り、それはおかしいと言い続けよう』と励ましてくれた」

 さらに、元最高裁長官の山口繁氏が、「集団的自衛権の行使を認める立法は、憲法に違反する。砂川判決を安保法制の合憲性の根拠とすることには、論理的矛盾があり、ナンセンスだ」と厳しく批判していることや、元最高裁判事の濱田邦夫氏の「かつて日本が戦争に突入した時、何も言わずに協力した弁護士や裁判官と、私たちは同じ後悔をすることになる」という言葉を紹介した。

 集団的自衛権の行使を容認した安保法制について、中山氏は、「今回の戦争法案は、憲法秩序そのものを破壊するものだ。絶対に見逃せないという危機感を、多くの法律家が共有している。われわれは違憲訴訟を提起することの意義を確認し、高いハードルであるものの、遅くとも年内には、集団的自衛権を容認する安保法制に基づく自衛隊出動を差し止める抗告訴訟と、集団的平和生存権に基づく国家賠償訴訟の2本を提起する」と明らかにした。

「戦争被害受忍論」──いまだに民間の空襲被害者には補償がない

 東京大空襲訴訟で弁護団長を務める中山氏は、「この裁判は、人権回復を求める裁判。国はこれまで軍人・軍属には54兆円を超える補償をしているのに、民間人空襲被害者には何ら補償もせず放置している。原告らは『軍人・軍属と同じ人間として認めてほしい。このままでは死んでも死に切れない』と訴えている」と語る。

 東京大空襲訴訟において、大きな障害となったのは戦争被害受忍論だという。これは、民間人空襲被害者にだけ、被害を等しく受忍せよという不条理なものだ。第一審、第二審の裁判官は被害の実態を認めたものの、訴えを棄却。最高裁は、2013年3月に本件上告を棄却する、との決定を出した。「これにより、司法救済の道は閉ざされた。だが、判決の中で裁判官は、民間人空襲被害者に対しては立法措置で解決してほしいと判断した。現在は、援護法制定を実現する方針で動いている」と中山氏は説明した。

 2015年8月6日、民間人空襲被害者のための超党派の議員連盟が結成され、会長には鳩山邦夫衆議院議員が選出された。鳩山氏は、国家意思が関われない天災の被害は補償されるのに、国家意思による戦争での民間人被害者が、何の補償もされていないのはおかしい、と表明している。

 中山氏は、「これまで14回、国会に提出された援護法は、審議未了及び廃案になった。空襲被害者は高齢になっている。1日も早い民間人空襲被害者救済のための立法を求める。戦争被害に対しては、軍人・軍属と民間人空襲被害者の区別はない」として、被害が国家補償されることが人権保障の国際水準だと力を込めた。

憲法学者・小林節氏からの手紙「妥協せず、信じることを語って死にたい」

 また、この立法化運動の中で、中山氏は慶応大学名誉教授の小林節氏と出会ったと語り、小林氏からの手紙を紹介した。

 「私は先天的障害児として差別の中に生きてきた。ですから、自然に求めて憲法学者になったが、体制側に近いところに長居していた。しかし、権力者の傲慢さを嫌というほど見せつけられ、60歳の頃から、妥協せずに信ずることを語って死にたいと思うようになった。

 戦争で逃げる術もない民間人空襲被害者(の補償)が、無償で良いはずがない。中山先生と直接お目にかかることができ、人生の契機になった気がした。最高の強さを備えてきた人物の暖かさや居心地がよく、初対面でありながら何か懐かしい感じがした」 

慰安婦捏造記事訴訟──言論風圧を煽った週刊文春は「言論機関として自殺」

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