2015年9月4日(金)福島第一原子力発電所の報道向け現地取材が行われた。この半年で大きく進捗したフランジ型タンクの解体現場や、運用を始めたばかりのサブドレンピット、B,C排水口、海側遮水壁などを公開取材した。今回はN95ダストマスクを着用しての取材であり、敷地内の環境が大きく改善していることをうかがわせた。
2015年9月4日(金)福島第一原子力発電所の報道向け現地取材が行われた。この半年で大きく進捗したフランジ型タンクの解体現場や、運用を始めたばかりのサブドレンピット、B,C排水口、海側遮水壁などを公開取材した。今回はN95ダストマスクを着用しての取材であり、敷地内の環境が大きく改善していることをうかがわせた。
記事目次
■全編動画
建屋への地下水流入量を抑制するサブドレンの運用を始めたことから、地下水制御の設備であるサブドレンを始め、地下水を制御する施設である海側遮水壁、陸側遮水壁、フェイシング、排水路などを取材した。護岸エリアの防波堤上から海側遮水壁を海側から見ることもできた。また、1~3号機建屋西側の高台から各建屋をつぶさに取材でき、補強材が破断している1、2号機間排気筒をじっくりと取材撮影することもできた。敷地内の環境が改善していることから、これまでなかったポイントを数多く取材することができた。
福島第一原子力発電所の正門付近に建設していた入退域管理棟や大型休憩棟が完成し、運用を開始している。そのため、発電所に到着後、装備を整え現場に出るまでが非常にスムーズに進められた。これまでのようにあちらこちらを移動する事もない。作業に当たる方々にとっても、準備にあまり時間や労力を費やすこともなく万全な体調で現場に出て安全に作業できるように、労働安全上の改善が大きく進んでいることが実感できた。
また、発電所敷地内の環境改善も進み、敷地内の約90%以上のエリアでは全面マスクの着用が不要になっている。今回の取材対象エリアはN95ダストマスクのみでよく、ゴーグル等も着用不要で取材できた。全面マスクや半面マスクでの締め付け、マスクの曇りもなく、この点だけは以前の取材に比べて快適であった。
とはいえ当日は日中の広野町での最高気温は約27℃と高く、タイベック等の装備を装着すると汗だくになる。もちろんクールベストと保冷剤で熱中症対策は行っている。取材陣は機材を構えて歩きまわっているだけでもこの始末。廃炉に向けて現場で作業を行っている方々の大きな大変さを改めて体感する機会でもあった。
取材陣は二台の構内用バスに分かれて乗り込み、先ず1,2,3号機R/B(原子炉建屋)の西側(山側)に移動した。ここは標高が約35mと高くなっている場所で、海側を少し見上ると視線の先がちょうどオペフロア部分に到達する。
一番近い1号機建屋からは直線距離で約70m離れている。1,2,3号機それぞれからの直接線の影響もあり、比較的雰囲気線量は高い。この場所に置かれた移動型のMP(モニタリングポスト)は98.6マイクロシーベルト毎時を示していた。
この場所からは、建屋カバーの解体を再開し屋根カバーを2枚外している1号機、震災当時には水素爆発せず建屋外観は元のまま残っている2号機、オペフロアのがれきを撤去する作業中の3号機、これらをすべて目前に見ることができる。各号機の状況の違い、作業進展の違いなどが一目に分かる。
建屋1、2号機の間には、いわく付きの排気筒がある。高さ約120mの排気筒は、一種の煙突。補強のため、定例会見などでスタックと呼んでいる斜め鋼材で組まれた構造物で取り囲まれている。真ん中あたり、高さ約60m付近の斜め鋼材が破断していることがわかっている。強度不足が心配されるが、東京電力は構造解析し、東日本大震災並みの揺れでも問題ないと評価している部分である。
経年劣化を見るため東京電力は定期的に写真撮影し目視確認をしているが、その画像は公開していない。公開するにしても数か月も過去の画像だった。その箇所を初めて直接撮影することができた。カメラが手持ちなのでズームにしても見辛いかもしれないが。しかし、この映像から健全性を確認できるだろうか? 東電はこれで確認していると言っているのだが…
また、この排気筒の根本付近には平成23年8月に25Sv/hという高線量を推定したSGTS配管がある。核物質防護措置上、撮影できない箇所が重なるが、できるだけ撮影するよう迫ってみた。見ただけでは何も変わりはない。しかし非常に高線量な場所である。放射能に注意すべき本質の一つを感じていただけると思う。
今取材陣が居る1~3号機原子炉建屋西側の高台には、いろいろな施設がある。先ず、地下水をくみ上げ迂回し海洋へ放水する「地下水バイパス」の揚水井(くみ上げ井戸)No.1~No.4がある。現在設備の洗浄を行っており、ダスト等の付着を防ぐためテント状の覆いで囲まれていた。陸側遮水壁のブライン(凍結液)を輸送、循環させる金属配管「ブライン管」も側を通っている。ブライン配管を目で追っていくと、その先に低い建物がある。凍土壁用ブラインを生成する冷凍機が入っている建物だ。今回その中にある冷凍機は見ることはできない。今後の凍土壁の運用開始時に取材できることを期待したい。
高台に居ることから、北側にある道路の対面部分の斜面を見ることもできる。そこでは、地面に雨水が染み込むのを防ぐ「フェイシング」工事を行っている。フェイシング工事の進展に合わせて、工事前の草の生えている元の状態、草を刈り汚染された表土をはぎ取った状態、フェイシングを終えコンクリで固められた状態が並んでいる。これらを一望し、工事の進展を見る事ができる。今後フェイシングの工事が進めば見られなくなる場面だ。
後ろには、震災前の発電所が正常な時に使われていたの「開閉所」がある。発電した電気を送電線へ送り出す最初の部分のスイッチだ。そこから送電塔へ送電線が伸び、電気が送り出されていた。震災で損傷し、現在は使われておらず、内部の機器も放置され錆びついている。送電塔への送電線も取り外され、もう使われることのない送電塔が建っていた。
建屋に流れこんだ地下水が融け落ちた燃料に触れ、一日に約300トンもの汚染水が増え続けている。これらを環境に出さないため、1000トン容量のフランジ型タンクを作り汚染水を溜めている。フランジ型タンクは、側面を弧状の鉄板をボルト締めして作られている。ボルト締めした鉄板で密閉、水を溜められるのだろうか。そういう当初の心配通りに数多くの汚染水漏えい事故を起こしているのは周知の事実だ。
そこで、東京電力はフランジ型のタンクを解体し、漏えい事故を起こさない溶接型のタンクに置き換える工事を行っている。今回の取材は、1200トン容量のフランジ型タンクが63基建てられ、多核種除去設備ALPSの処理水を溜めていたH1エリアタンクの解体現場だ。といっても酷暑の日中は作業を行っておらず、作業員の姿はない。解体工事途中の足場や、途中まで解体が進んだタンク、隣には新設した溶接型タンクが並んでいるだけだった。
後ろを振り返ると、道路を挟んだ向こう側にはDエリアタンク、こちらはSr処理水を溜めている溶接型タンクがそびえている。タンクの足元には、万が一タンクから漏えいした場合に備えてタンクエリアを取り囲むように「堰」が設けられている。降雨時にこの堰に雨が降り注ぎ、溢れて流れ出すといった本末転倒な事故が起こっている。そこで、堰に雨が降りこまないように、屋根や覆いを設置している。Dエリアタンクでは、タンク上部のタンク間に、その屋根が設置されているのが見てとれた。屋外に設置してあるタンクに屋根を付ける。なんだかおかしな光景である。
続いて3、4号機建屋側へ移動、建屋の南側から建屋至近部分へ移る。建屋のそばには、地下水をくみ上げる「サブドレンピット」と呼ぶ井戸が見える。とはいうものの、地上部分の設備は金属製の箱で保護されており、何かが見られるわけでもない。箱に「サブドレンピット No. ○○○」と明記してあり、それと分かるぐらいだ。
取材映像で見られるNo.51、No.212、No.213はくみ上げを行っているが、No.214は試験くみ上げを行った地下水の放射能濃度が高く、くみ上げは行っていないということだ。
そのまま3号機の方向へ移動すると、3号機の使用済燃料プールから撤去した燃料交換機が見える。約30トンもある燃料交換機が使用済燃料プールの中に落下してしまい、その取り出し撤去が大きな問題になっていた。燃料交換機は無事にプールの中から取り出しを終え、現在は地上に置かれている。現在周囲を遮蔽し、細かく切断しているところだ。切断されたがれきは線量に応じ、仮保管庫にて保管する予定だ。
3,4号機のそばを移動するとき、作業に使用している重機が駐車してあるのが見てとれる。よく見ると、治具をはじめクローラも激しく錆びている。十分なメンテナンスができないのだろうか、これではいつ故障等トラブルが起こってもおかしくないと思う。とはいえ、長期間現場で作業に使用しており、既に発電所外に出せないレベルで汚染されているのかもしれない。
次いで5,6号機側から護岸付近を通り、海側遮水壁へ向かった。護岸エリアの海側フェンスの先には、サブドレンピットから汲み上げた地下水の排水口、集水タンクなどが見える。撮影できない対象物が多く、残念ながらこの付近はほとんど撮影できていない。
堤防に近づくにつれ、太い黒い配管が見えてきた。これはB,C排水路だ。敷地内を通ってきた排水路は、当初外洋へ放水していた。放射能を外洋で放水していることになるので、港湾内へ排水するように付け替え工事を行った。その付け替えられた排水路が配管として走っている。
堤防上に出ると、海側遮水壁が見える。海底に鋼管矢板を打ち込んで組み合わせた構造で、鋼管矢板を地下の下部透水層(地下水が流れる地層)まで打ち込み、地下水の外洋への流出を抑制している。地下水の流れをせき止めているわけだが、地下水はどんどん流れこんでくるため、そのままでは溢れてしまう。そのため海側遮水壁は完全には閉じられておらず、一部が開いている不完全な状態だ。開いている部分が海側からはっきりとみてとれる。開いている部分には海上にシルトフェンスを置き対策をしているから問題ない、と東京電力は説明している。そのシルトフェンスがどのようなものなのか、海上に出ている部分だけだが見えている。
護岸エリアを戻る途中、原子炉建屋の海側や護岸エリアの状況を間近に見ると、損傷した建物や、がれきなど、まだそのままの状態で残っているものが多い。現在までの汚染水対策や廃炉工程に、必ずしも手を付ける必要なかったというのもあろう。もちろん雰囲気線量の関係で作業を避けていたというのもある。東日本大震災から4年半が経過したが、まだ4年半しか経っていないともいえる光景が印象に残っている。
現場の取材後、恒例となった小野明・福島第一原子力発電所長のぶら下がり取材が行われた。冒頭、小野所長は、前回3月の現場公開からこの半年で大きく進展があったこととして、作業環境の改善、1号機建屋カバー解体工事、3号機燃料プールからの大物がれき撤去、汚染水(RO濃縮塩水)の処理完了、海水配管トレンチの水抜き・充填完了等を説明した。サブドレンの運用開始では情報公開を徹底して行っていきたいという。また、9月5日午前0時に楢葉町に設定された避難指示解除準備区域が解除され、住民の帰還が始まることから、住民の方々への不安を与えないよう、廃炉に向け安全、着実にしっかり進めていきたいと考えを述べた。
この後記者からの質疑があった。主な質疑は以下の通り。
(記者)サブドレン運用が始まったがどのように安全に運用していくのか。くみ上げた水の海洋排水開始のめどは?
(小野所長)トラブルがあった場合も含めていろいろなケースを想定して手順書を作りこんでいる。くみ上げ、集水、浄化、貯留、分析、放水というように工程がいくつもあり、その工程ごとに手順、判断基準を設けて運用、チェックしている。これから手順を確認しながら行っていくので、いつ排水するのか今の段階ではまだ言えない。
(記者)ALPS処理しても汚染水は増えトリチウム水の処理は決まっていない。タンク増設場所も限界に近づいている。これらの対策をどう考えているのか。
(小野所長)タンクは90万トンまで溜められるように準備を進めているので、明日とか1年後とかいう至近で足りなくなるような心配はしていない。発生する汚染水の量を減らすことも非常に重要であり、サブドレンや凍土壁の効果も期待される。
(規制委)原子力規制委員会の田中委員長は、タンクを置く場所ももうなく、時間の問題であり東電がどうにかするしかない、という発言をしている。
(小野所長)廃炉に関しては東電に責任があるが、タンクの増設も含めて、汚染水の発生量、低減量、貯蔵量もしっかり把握しながら先を見据えて対策をしていきたい。
(記者)廃炉のゴールを100としたら、現状はどれくらいだと考えているか
(小野所長)ゴールを100里だとしたら、今はまだ1里、2里、3里ぐらいだと思っている。今後、炉内のデブリの状況を確認できた段階でかなりの進展になると考えている。
(記者)地下水処理、サブドレン、地下水ドレンにバイパス、遮水壁で地下水を制御しようとしているが、どれもどのように制御できるか不確定な状態。これで40年の廃炉作業を確実に進められるのか
(小野所長)地下水バイパスは既に1年以上運用して流入量も400トンから100トン程度減るなど効果が出ていると思う。サブドレンは建屋内外の水位の関係を把握し、建屋内の汚染水が外にでないことを第一義として運用していく。凍土壁はじっくりデータをとりながら、その効果を見極めながら、その後の運用に反映していくことになると思う。
(記者)トリチウム水の取り扱いは、先を見据えてどのように行うのか。
(小野所長)トリチウム水の扱いは東京電力だけの判断ではなかなか決められず、国も考えており、海外の知見も集めながらどうするか決めていくと思う。溜めるタンクがぎりぎりという限界が来る前にスケジュールをにらみながら決断していく。
(記者)フランジタンクの解体、リプレイス作業での被ばく対策はどのようにしているのか
(小野所長)ベータ線被ばくが主なので近寄らなければ、被ばくに対しては大丈夫だと思う。ただし、ベータ線被ばくは専用のリングバッジなどでしっかり管理していく。
(記者)これからデブリ取り出しなど作業が進むが、一方で住民の帰還も進んでいく。どのようなリスクがあり、住民にどのようにかかわりを持って対応していくのか
(小野所長)いろいろなリスクがあるが、油断をしないように設備をきちんと信頼度を上げていく。デブリは先ずデブリの状況を調査、確認し、情報を集めることから始めるため、社会の皆様にリスクを与えるような状況は、まだ先のことだと思っている。そのときにはリスクの発生を考えながら手順を検討していくことになると思う。
(記者)汚染水対策、土壌対策にベンチャーが参入できないように感じるが、どのように感じているのか。
(小野所長)我々が気づいていないような知見や技術があることも分かっている。いろんなところから吸い上げるように努力しているが、我々だけではできないので、国や大学、企業などからの情報提供も呼びかけているところだ。
福島第一原発休憩所の中にある食堂での食事代は自腹or東電のおごり?