「安倍の談話を批判する目を持っていただきたい」――「国民(私たち市民)の70年談話」発表 2015.8.13

記事公開日:2015.8.14取材地: テキスト動画
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(IWJ・青木浩文)

※8月14日テキストを追加しました!

 安倍首相による戦後70年談話の発表が予定ていた前日の2015年8月13日、弁護士会館でシンポジウムが開かれ、「国民(私たち市民)の70年談話―戦後70周年を心に刻んで」が発表された。

 同談話を作成したのは、「『国民の70年談話』実行委員会」。同委員の澤藤統一郎弁護士は、その主旨について次のように説明した。

 「あの敗戦をどう私たちが総括をして、どのような国を作ろうという決意を固めたのか。70年前をきちんと振り返って、政府の立場ではない、国民の立場からのきちんとした総括をしたい。

 恐らく、明日、明後日と、戦争とその後の70年について、色々な総括が出されるかと思うが、私たちの総括を基準にしていただいて、安倍の談話を批判する目を持っていただきたい」

 シンポジウムの第一部では、敗戦とその後の70年で、それぞれの分野でどういうことがなされてきたのかというテーマで、パネラーによるトークが行なわれた。元日本教育学会で教育法学会会長の堀尾輝久氏、埼玉大学名誉教授の暉峻淑子氏、弁護士の新井章氏、一橋大学名誉教授の杉原泰雄氏の4人が登壇した。

 これを受けて第二部では、これからどういう日本作っていくのかというテーマで、各分野から10組が登壇し、スピーチを行なった。

 その内の一人、「安保関連法案に反対するママの会」の坂井和歌子氏は、8月28日に賛同メッセージを国会に届ける 「ママの国会大作戦」を計画しており、現在までに1万9000人の賛同メッセージが集まっていると報告した。

 「戦前、多くの女性達が我が子を戦場に送り出しました。大切に育ててきた子どもを戦争に取られたくない、この当たり前のことさえ、口に出すことが許されなかった時代と今が違うのは、私たち母親に参政権があることです。

 専門家にお任せするのではなく、自分自身が知り、考え、行動できる、多くの女性たちが勝ち取ってきたこの大切な権利を活かして、子ども達の未来を守るために、ママたちは今やれることは何でもやるという決意でいます」

 坂井氏は、感極まりながらも、安保法案反対の意思を強く訴えた。

 会の最後には、「国民の70年談話」実行委員会・事務局長の加藤文也氏により同談話が読み上げられ、満場の拍手によって採択された。

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「国民の70年談話」全文

「国民(私たち市民)の70年談話―戦後70周年を心に刻んで」

2015年8月13日

 私たちは、これまでにない危機意識の中で戦後70年目の8月15日を迎えようとしています。私たちにとっての8月15日とは、何よりもまず先の大戦で内外の人びとにもたらせた辛酸、苦痛、悲惨を心に刻む日であり、同時に、同じ過ちを繰り返さないために私たち自身の過去の歴史を真摯に省みるべき日でもあります。

 先の大戦で日本は、アジア諸国を侵略し、植民地として、これらの国々とそこに住む人びとに、この上なく甚大な被害と苦痛を与えました。中国においては、人体実験をして生物兵器を開発し、また、毒ガスを使用するなど想像を絶する非人道的な方法で多くの死傷者をだしています。

 日本軍が捕虜とした連合国兵士に対しても、捕虜に関する国際条約に反する扱いをし、多くの死傷者を生じさせました。 戦時中、朝鮮半島、中国、フィリピン、インドネシアなど多くのアジア諸国において、そこに住む女性を日本軍が関与して強制的に「慰安婦」と呼ぶ、性奴隷として、人間の尊厳と人権を深く傷つけました。慰安婦とされた女性の多くは、いまなおその時に受けた深い心の傷に苦しんでいます。

 また、軍国化した政府が国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れました。軍関係者のみならず、おびただしい非戦闘員の戦争犠牲者を生み出し、この大戦での犠牲者だけで310万人にもおよぶ結果となりました。沖縄は、地上戦の戦場となり、住民の4人に1人が犠牲になりました。広島、長崎には原爆が投下され、人類で最初の被爆国となり、強制的に日本に連れて来られた在日外国人を含む多くの人命を失うとともに、今なお多くの被爆者が後遺障害で苦しんでいます。

 私たちは、この深刻な歴史の事実を謙虚に受け止め、心に刻み、政府に対しては、被害を受けた国とそこに住む人々に対し、痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明することを強く求めます。また同時に私たち国民自身も、このような事態を防ぎ得なかったことに責任があったことを自覚し、戦後その自覚に基づく行動が必ずしも十分でなかったことを率直に認めて真摯に反省し、そのことを心からお詫びするとともに、近隣諸国の人びとと手を携えて揺るがぬ平和を構築すべき決意を再確認いたします。また、戦争と植民地支配の歴史がもたらした内外のすべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げ、この歴史の教訓を次の世代に語り伝えていくように努めるとともに、政府に対しては、近隣諸国と真の信頼関係をつくり出すことができる歴史教育を行うよう強く求めます。

 日本は、非軍国主義化と民主化の徹底を求めるポツダム宣言を受け入れて、無条件降伏をしましたが、1945年8月15日は、また、新生日本の再出発の日となりました。その後、女性も含む普通選挙で選ばれた議員で組織された第90帝国議会(制憲議会)で、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の3大特色を有する日本国憲法の制定が審議されましたが、当時の内閣総理大臣吉田茂は、「戦争放棄」の規定をおくに至った動機について、日本が今後世界の平和を再び脅かすことがないように、平和主義と民主主義を徹底するためである旨述べております。

 私たちは「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようすることを決意し、」(日本国憲法前文)「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、」(同9条)、全世界のすべての人びとが、「恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占め」ることを誓い(同前文)、「不断の努力によって、これを保持し」(同12条)ていくことを心に刻みました(同97条)。

 戦後、まもなく始まった東西冷戦の中で、1951年に政府は、連合国との間で講和条約を締結するとともに、アメリカとの間で安全保障条約を締結し、1954年には、アメリカの意向を受けて自衛隊を創設しました。ただ、沖縄は、その後も、アメリカの占領が長く続き、アメリカ軍の基地が集中することになり、今日の問題の原因を作り出すことになりました。

 私たちの国では、以後、平和主義と軍事化の問題が政治の争点として一貫して続くこととなりました。私たちは、原水爆禁止平和運動、安保改定反対運動、沖縄復帰の運動など平和で真に自立した国となるべく運動を続けるとともに、砂川、長沼訴訟、厚木、横田、嘉手納等基地公害訴訟、教科書裁判、戦後補償裁判、「君が代」訴訟など多くの訴訟を提起するなどして、日本国憲法を血肉化するため努めてきました。

 歴代内閣は、国民の強い声に押されて、憲法9条の下では、集団的自衛権の行使は認められないとの考えを示し、アメリカの軍備拡張の要求に対しては、憲法9条を盾に非軍事の政策を重視する対応をしてきました。このことが日本の経済発展をもたらす一因となりました。 東西冷戦中、世界では、朝鮮戦争、ベトナム戦争アフガニスタン紛争など多くの紛争が生じましたが、日本は、常に国民の強い意思を背景に、参戦したり、他国の戦争に直接加担することを避ける選択をし、広く非軍事で世界の平和に貢献すべく努めてきたことに対して、評価を得てきました。

 私たちは、唯一の被爆国として、核兵器が非人道の極みであるとの自覚に立って、政府に対し、核抑止力に依らない安全保障の検討を求め、人類を破滅させる危険性のある核兵器の廃絶に向けた運動を継続してきましたが、今の時代にあって、ますますこのことが重要になってきています。

 この戦後70年の中で、2011年の東日本大地震後の福島原発事故による地球環境の汚染は、持続可能な社会を破壊し、人類の生存を危険にさらすことを明らかにしました。核管理の難しさと人類の歴史を遙かに超える核廃棄物の無害化の時間にかんがみても、原発を廃止した上で、人びとが安心して生活し、住み続けることのできる持続可能な社会を創っていかなければなりません。

 私たちは、戦後70年、憲法の精神を生かし、戦争をせず、戦争に加担もせず、非軍事で世界の平和に貢献したことが、アジアの近隣諸国との信頼関係を維持し、平和な世界を創っていくことを学びました。私たちはこの70年の貴重な経験を心に刻み、未来を考える礎にしてまいります。

 私たちがこの夏かつてない危機意識を持つに至ったのは、安倍首相率いる政権与党が、閣議決定のみで集団的自衛権行使についての解釈を変え、今国会で、安全保障関連法案を強引に成立させようとしているからです。

 しかしながら、安倍首相が、先の大戦で、日本がアジア諸国を侵略し、そこに住む人びとに甚大な被害と苦痛を与えたことを痛切に反省され、日本が再び世界の平和を脅かすことがないようにするため、現行憲法が制定されたことに思いが至ったならば、安全保障関連法案の提出は本来あり得ないことです。安全保障関連法案は、戦後日本の平和の歩み大きく踏み外すものであり、立憲主義にも反し、違憲です。私たちは、安全保障関連法案の廃案を目ざし、粘り強く活動していくこととします。

 私たちは、この機会に改めて、戦後70年の間、日本が一度も戦争をせず、平和であり続けるためにたゆまぬ努力を続けてきた先人と、非軍事で世界の平和に貢献することの重要性を評価した国際連合および近隣諸国をはじめ世界の国々とそこ住む全ての人びとに心から感謝致すとともに、日本国憲法の理念に従い、全世界のすべての人びとが平和のうちに生存する権利を有することを踏まえ、非軍事であらゆる方法を駆使することにより平和な世界を構築するため不断に努力を続けていくことを誓います。

 国民(私たち市民)の70年談話実行委員会

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