「安倍首相の下で、国民の生命にかかわる法案を議論してほしくない」 ~「国によって生命が買われる」――保阪正康氏が警告「新たな安保法制で国民の序列化が始まる」 2015.7.30

記事公開日:2015.8.4取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJテキストスタッフ・富田)

※8月4日テキストを追加しました!

 「今の安保法案に大義はあるのか。何もないではないか。中国の脅威を持ち出しているが、そんな付け焼刃の議論で国民を脅かしているつもりか。60年安保の時は、『こんな指導者によって、戦争に巻き込まれてたまるか』という危機意識が日本中に高まった。今また、若い世代に同じ意識の高まりが見え始めている」──。

 こう語った保阪正康氏は、安倍首相が崇拝する祖父の岸信介氏について、「仮想敵がいないと生きていけないタイプ。官僚出身で、状況判断の中での選択しか行えない」と分析した上で、安倍首相が祖父と異なる点は、無知蒙昧ゆえに抑制力が働かないことだと指摘。「こういう首相の下で、国民の生命にかかわる法案を議論してほしくない」と断じた。

 2015年7月30日、東京都千代田区の参議院議員会館で、立憲フォーラム・戦争をさせない1000人委員会共催による「『戦争法案』を葬ろう 7.30院内集会」が開かれた。講師に招かれたノンフィクション作家の保阪正康氏は、1960年の安保反対運動の高揚の理由を、「当時の(最終的には世論の反対を押し切り、日米安全保障条約を改定することになる)岸信介という指導者に対し、国民が抱いた嫌悪感がそうさせたと思う」と語った。

 今の安保法案への抗議活動では、安倍晋三政権の国会運営は非立憲的だとの批判が大半だが、それは「非立憲」を是としている安倍首相に対する批判にほかならない。では、安倍首相はなぜ、そのような政治姿勢をとるのか。その点について、保阪氏は、安倍首相が祖父の岸信介と同様に権力欲が強いことを指摘しつつ、さらに固有的欠点があることを浮き彫りにしてみせた。

 また、保阪氏は、今の若者の貧困問題は、労働政策をも巻き込んだ日本の軍事大国化の流れの中にあるのではないか、とも言及した。

 「(自分は)今、死ぬわけにはいかない」との言葉に説得力があふれる、保阪氏の渾身の講演に、集まった市民らは熱心に耳を傾けた。

記事目次

■ハイライト

  • 保阪正康氏(作家)、宗教界など各界からのアピール

「60年安保」反対の民意が高まった背景とは

 保阪氏の講演に先立ち、あいさつに立った立憲フォーラム代表の民主党衆院議員の近藤昭一氏は、「今は、国民一人ひとりに民主主義の意味が問われている時代だ」と述べ、是が非でも安保法案を葬り去ろうと、客席に向かって呼びかけた。

 続いて登壇した保阪氏は、開口一番、「私は1939年生まれの75歳。この年齢になれば、普通はのんびりしたいと考えるが、腹が立っており、ガンにもかかったが、今は死ぬわけにはいかない」と口調を強め、「ここで死んだら『何のための戦後だったのか』という話になってしまう」と怒りをにじませた。その怒りの矛先が、安倍晋三首相に向いていることは言うまでもない。

 「今年は、60年安保から55年が経過している」とした保阪氏は、20歳当時、自身は「60年安保」の問題を真剣に考えていた市民の1人だったと振り返った。

 60年安保の反対運動が、あれほど盛り上がった理由は何だったのか。保阪氏は、このように語る。

 「当時、私は京都の私大に通っていた。1960年6月の運動最盛期には、京都府学連主催の(日米安全保障条約改定反対で)京都・円山公園から出発するデモに、高校生や女子大生を含む約5万人の学生が集まった。それまでのデモには、地元の商店主やタクシー運転手から『迷惑だ』との怒声が飛んできたが、その時は、それがなかった。当時の岸信介という指導者に対し、国民が抱いた嫌悪感がそうさせたのだと思う」

 保阪氏は、当時のデモに参加していた学生の多くは、岸首相が掲げた安保改定の中身を細かく理解していたわけではない、と明かす。

 「戦後の民主主義教育を受けて育った世代には、岸首相に相応しい言葉は『嫌悪感』とか『不潔感』しか見当たらなかった。政治のみならず、どの世界にも、自身の権力のことしか考えない人物がいるが、岸首相はその典型であるように映ったのだ」

日本の軍事大国化を狙っていた岸信介

 「第二次世界大戦中には東条英機内閣で重要閣僚を務め、終戦後は、軍に反対したような素振りを見せるも、東京裁判ではA級戦犯容疑者扱いになり、巣鴨プリズンに収容。そして、石橋湛山政権が短命に終わると、総理大臣に就任するのだが、彼が最初に行ったのは、1958年10月の、警察権限を拡大する、警察官職務執行法の改正法案の国会への提出だった(国民の猛反発で改正は断念)」──。

 岸信介の歴史を駆け足でこう紹介した保阪氏は、岸首相が安保条約改定を掲げた理由を「片務性の解消」としたことについて、このように指摘する。「片務的とは、軍事力に欠ける日本を米国が守るといこうと。岸首相は、これを双務的なものに変えようとしたわけだ。彼の言い分は、一見、もっともらしかったが……」

 当時の国民への説明がどうであれ、岸首相は日本の軍事大国化を狙っていたと、保阪氏は言いかぶせ、「藤山愛一郎外相を使い、米政府と交渉して新条約案をまとめた。それが国会の審議にかかったところ、社会党の追及でボロが出た」と、当時の国会での論戦に言及した。

(…会員ページにつづく)

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

関連記事

「「安倍首相の下で、国民の生命にかかわる法案を議論してほしくない」 ~「国によって生命が買われる」――保阪正康氏が警告「新たな安保法制で国民の序列化が始まる」」への1件のフィードバック

  1. 宇佐美 保 より:

    保坂氏同様な思いで、60年安保のデモに参加した一人としてのお願い。
    この保坂氏の貴重な、ご講演を、一人でも多くの方々が視聴できるようなご配慮をIWJの皆様にお願いいたします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です