「自主避難者への住宅提供、2年後に終了へ 福島県が方針」──。2015年5月17日付の朝日新聞朝刊に踊ったこのタイトルに、もっとも強く衝撃を受けたのは、ほかならぬ自主避難者たちである。正確にいえば、東京電力福島第一原発事故後に、政府からの避難指示を受けずに、東京など福島県外に避難した人たちである。
福島県は災害救助法に基づき、県外への自主避難者らにも、移転先の公営・民間住宅を無償で提供している。期間は原則2年だが、1年ごとの延長が可能で、これまで3回の延長を実施済み。現在の提供期限は2016年3月までだ。
記事によれば、福島県は自主避難者向けの住宅の無償提供を、2016年度(=2017年3月末までの、もう1回の延長)で終える方針を固めており、関係市町村と調整に入った、とのこと。執筆した記者は、故郷への帰還促進が狙いとみており、「自主避難者からの反発が予想される」と結んでいる。
2015年6月9日、東京・永田町の参議院議員会館で、その「反発」の狼煙を上げる集会が開かれた。「原発事故の避難用住宅打ち切りに反対する院内集会」。全国から自主避難者が集結して、応急住宅の無償提供打ち切りの方針に撤回を求める声を上げたのである。
集会では何人もの自主避難者が代わる代わる登壇。時に涙ぐみながら窮状を訴え、政府に対し、制度打ち切りの中止を強く求めた。福島瑞穂参議院議員ら、会場に姿を見せた野党議員たちは、自主避難者たちへ激励のメッセージを送った。
避難者らからは、「国民が支払った血税が源泉の無償制度に頼ることに、心苦しさを感じる」といった自重気味の発言も聞かれた。しかし、それでも制度を利用せざるを得ないほどの困窮にあえぐ世帯が多いことや、原発事故の収束が真に安全なレベルで実現しない限り、帰還政策には従えないことを告げる決意などが表明された。ある男性は、すべての避難者が故郷・福島への帰還を切望しているかのように伝えるメディアの報道姿勢に嫌悪感を示した。
会場には、衆議院議員の菅直人氏や参議院議員の山本太郎氏も姿を見せてマイクを握った。菅氏は、「自主避難者から(無償住宅制度の)継続の要望がある限りは、無期限で支援が続くように取り組んでいきたい」と述べ、山本氏は、「みなさんの思いを、避難者以外の人たちにも広げる運動を、2016年の参院選に向かって実現させる必要がある」と話した。
- 内容 全国の避難者による具体的要望、参加国会議員挨拶など
「長期無償」方針の表明を心から願う
主催者を代表して挨拶に立った、ひなん生活を守る会代表の鴨下祐也氏は、「福島県外に自主避難している人たちの叫びに、耳を傾けてほしい」と訴えた。
鴨下氏は、自主避難者にとってもっとも気がかりなのは、避難先での安定的な住宅確保の問題であるとし、近いうちに総理大臣から、避難先住宅を長期無償で提供する国の方針が示されることを、切に願っていると語った。
「制度の利用形態が、現行の災害救助法に則った『1年ごとの更新』でも、国から『長期無償』の方針が示されていれば、避難者たちは安心して将来設計に励むことができる」
その上で鴨下氏は、ひなん生活を守る会が今年2015年5月に、内閣府防災担当、復興庁、福島県に対し、「長期無償」の方針表明を求める約4万4000筆の署名を提出したことに触れ、「住宅提供打ち切りの報道は、その直後のこと。非常にショックだった」と表情を曇らせた。
集会には、野党議員らも参加した。共産党の吉良佳子参議院議員は、「一方的に、無償住宅の提供を打ち切るやり方は許せない」と強調。事故の原因は東電と政府にあるとし、「被曝を恐れて避難している人たちに向かって、『とにかく帰還せよ』と言わんばかりの国の態度は、事故への責任を放棄しているとしか言いようがない」と怒りをあらわにした。
無償住宅は母子避難の生命線
社民党の福島瑞穂参議院議員は、超党派の子ども・被災者支援議員連盟の中でも、無償住宅制度が2016年3月に打ち切られることを案じる声が上がったと伝え、「打ち切らないでほしいという申し入れを、議員連盟として、政務官に対して行った。福島のみならず、茨城などの周辺自治体から自主避難中の世帯も多く、住んでいない自宅のローンの返済に苦労している話をたくさん聞いている。そういった国民の窮状に、今の政治は対応できていない」と口調を強めた。
この申し入れは5月29日に、内閣府の山谷えり子防災担当大臣に対して行われ、松本洋平大臣政務官が対応したという。申し入れの内容は、1. 2016年3月末が期限の、原発事故避難者へのみなし仮設住宅を含む仮設住宅等の提供期限の速やかな延長、2. 延長する際、2017年3月末を以て、自主避難者への提供を打ち切る方針としない――など。
松本政務官は、「(打ち切りは)まだ決まっていない」と述べたとのことだが、子ども・被災者支援法が、その第9条で「移動先における住宅の確保に関する施策について必要な措置を講ずるものとする」と定めていることに照らせば、今の政策は、それとは真逆の方向に動こうとしていることになる。
自主避難者らによる訴えは、北海道札幌市に母子で避難中の女性のスピーチで始まった。札幌に住む、登録済み避難者は約2500人で、そのうちの約1500人が福島県から。うち約1200人が自主避難者だという。「当初、自主避難者の7~8割は母子避難で、それも幼児を抱えているケースが多かった。今は父親が後で合流したケースがあり、母子避難の割合は6割程度に下がっている」と説明した女性は、無償住宅制度は母子避難者にとっては命綱であると指摘し、次のように強調した。
「無償住宅制度は母子避難者にとっての命綱」 福島原発事故の自主避難者が院内集会 ~無償住宅打ち切り撤回を要請 山本太郎氏ら野党議員による激励も http://iwj.co.jp/wj/open/archives/248565 … @iwakamiyasumi
加害者が賠償内容を決めるとは。何なんだろうね、この国は。
https://twitter.com/55kurosuke/status/610373557055418368