2014年3月、外環道は「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(以下、大深度法)に基づく大深度地下使用が認可された。
これに合わせ、リニア新幹線は、東京・神奈川間における大深度法の適用を視野に事業が進められている。
両事業がもたらす地下水の汚染への懸念や、地価の下落の不安、地上の建築制限など、沿線付近の住民から問題を指摘する声があがっている。そんななか、外環ネットとリニア東京・神奈川連絡会による共催で、2月3日(火)11時30分より、参議院議員会館102会議室にて、院内集会が行なわれた。
日本自然保護協会プロジェクトリーダー・辻村千尋氏による問題提起「大深度事業がもたらす環境負荷」のあと、外環道・リニアをめぐる計画に反対する多数の市民、議員による意見交換が行われた。
環境問題や災害時における避難法など、さまざまな懸念への解決策が確定しないままに進められる工事計画。建設ありきの官僚主義的な手法への疑義が表明され、それぞれの立場から着工阻止への決意が述べられた。
- 問題提起 辻村千尋氏(日本自然保護協会プロジェクトリーダー) 「大深度事業がもたらす環境負荷」
- 日時 2015年2月3日(火) 11:30~
- 場所 参議院議員会館(東京都千代田区)
環境への影響は未知数――地下水の汚染、地盤沈下、廃土による汚染
辻村千尋氏「大深度地下事業が環境にもたらす影響として、結論から言えば、わからないことが多すぎます。では、なにがわからないのかを、お伝えしたいと思います。
『大深度地下の公共的使用に関する特別措置法』の適用範囲は、首都圏、近畿圏、中部圏という過密地域に限られています。土地収用法に使えるすべての行為が勝手にできるという法律です。
なぜ、こんな法律ができてしまったのか。複層利用された地下構造のため、地下鉄一本通すのに大きな費用がかかる、ということや、補償費の増加、土地所有者の同意を求める交渉の長期化、地層処理の問題などが、2001年の施行当時、社会の背景にありました。
この法律を施行したことの主な目的としては、地権者への補償問題を解決するためではなく、地権者の同意をとらなくても大深度地下を利用できるようにするため、というものでした。
三大都市圏はいずれも平野です。地質は新しく、柔らかく、未固結。例えば、多摩川低地の地盤は弱く、地下水が複雑に流れています。断層破砕帯になった地下水の通り道が関東平野にもあるはずですが、どこにあるのかは分かっていません。
非常に脆いところの地下の開発をする、というのがこの大深度地下利用計画の前提になっており、環境影響評価技術の確度が問題となっています。地下水への影響、地盤沈下の懸念について、必要な情報を充分に知ることができない、ということです。
また、一番分かっていないのは、廃土による汚染の問題です。自然由来の重金属問題と接触することにより、どのような影響があるのか。微生物が酸素に触れると、コンクリートを溶かすことにつながる、という恐れもあります。
このように、地下環境には未知のことが多いということをふまえたアセスメントが必要で、予防原則に立った影響評価が重要なものとなっています。分からないことの不確実性の共有がまずあってからの合意形成が望まれています。
4月1日に改正された行政手続法が施行になります。明らかな法律違反を侵している行為に関し、事業に関わらない人であっても、裁判を起こすことができるようになります。かなり我々にとって有利になります。
今の環境アセスメントは、すべて数字で切っています。数字で切らない環境影響評価法を我々で作りましょう。環境権を憲法で明確に位置づける法律を我々で作ろうではありませんか。そして、誰が反対するのかを、国民の目に明らかにしようではありませんか」
大深度法と都市計画法の矛盾――国土交通省への異議申立て
外環ネット世話人・大塚康高氏「昨年(2014年)3月28日に大深度法適用が認可され、以来、新たな問題が発生しているというのが今の状況です。リニア新幹線の大深度部分が東京、神奈川、名古屋で適用されているため、問題点をリニアへの反対活動をされている方々と共有したいと思います。
大深度法が2001年に施行され、本格的に採用されたのが東京外環道でした。大泉から世田谷まで16キロ、その70パーセントが大深度ということです。外環道は大深度法を利用するから、地上には影響がない、と国土交通省が説明し、我々はみな、そう考えていたのです。
しかし、昨年3月、大深度法の認可がおり、地上部には建築制限があります、と説明会で言われました。大深度法と都市計画法の矛盾に対し、仕方ない、という態度でいる国土交通省に怒り狂っております。それが異議申立ての大きなポイントになっています」
国会で議論される外環道問題――住民への説明不足
辰巳孝太郎・日本共産党参院議員「参議院で、国土交通委員会に所属しています。外環道の問題は、昨年2014年の通常国会で取り上げました。その後、1年半で10回ほどリニアの問題も取り上げております。環境問題や、必要性の問題について、9兆円をかけて、採算がとれるのか、地方創生の名のもとに、地域の再開発が行われ、それが本当に国民のためになるのか、という視点で取り上げてきました。
建築上の制限はない、という事前説明でしたが、高い建築物を建てる時、充分に深く掘れないのではないか、ということが明らかになってきています。住民への説明がなにより大事なのですが、説明に瑕疵があると考えています。このことについて、もっと追及されなくてはならないと考えています」
田村智子・日本共産党参院議員「私は神奈川県津久井湖に視察に行きましたが、そこの豊かな水を利用してお酒やお豆腐を作っている方々は、これからもおいしくてきれいな水を使い続けていくことができるのでしょうか。そうした方々が、トンネル工事の現場から離れたところにいるために、関係者とは見なされず、何の説明もない、という状況で、こんな工事が行われてよいのでしょうか。
日本の豊かな水資源こそ、世界に誇れるものであり、それを守っていくのが政治の役割だと思っています。無駄な巨大計画は、さらなる無駄を生んでいきます。無駄の連鎖を止めるため、超党派で頑張っていきたいと考えています」
リニア新幹線の問題点――地下水への影響、行き場のない残土、地価下落
リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会共同代表・天野捷一氏(以下、天野・敬称略)「第一に、私たちが問題にしているのは、地下水への影響です。立坑の工事に際し、現場に地下水が入らないようにするため、コンクリートの止水壁が作られます。結果、地下水の流れが変わり、周辺の地盤沈下を引き起こす恐れがあります。
第二には、土砂の問題です。東京の大深度工事では600万立方メートル、川崎では400万立方メートル、あわせて1000万立方メートルもの大量の土砂が出ると言われています。この行き先については決まっていません。外環道の土砂は、荒川の堤防の増設に使うと聞いていますが、リニアに関しては一切決まっていません。
第三に、地価の下落です。先日、JR東海による地域説明会が行われました。不動産業者の人が参加していて、その人によれば、大深度であろうとなかろうと、地下にトンネルがあると、地価が2パーセント下落するというのが不動産業界の常識だそうです。30年ローンを組んで川崎に引っ越してきた人で、沿線に土地と家を買ったが、大深度トンネルが通るとあらかじめ知っていれば、絶対に買わなかった、とおっしゃった方がいました。JR東海によれば、地価は下がらない、と言っていますが、そんなことはありません。現実にそういう事態は起きています。
リニアには社会的ニーズがまったくありませんし、採算もとれません。住民の理解を得ていません。大深度地下使用認可は着工ではありませんし、着工は完成ではありません。着工をできるだけ遅らせ、この計画の撤回を求めていきたいと思っています」
官僚主義的な計画「一回決めたことはやらないと気持ちが悪い」
関東学院大学教授・丸山重威氏「辻村氏のお話しを聞き、まったくその通りだと感じました。
私が調布市東つつじヶ丘に住み始めたのは1980年でしたが、当時は上を通るということになっており、そのため反対運動をしなくてはと言われていました。しかし、その次に出てきたのは地下トンネルの計画です。
だいたい、自分が本当に地権者であるのか、がまず分かりません。トンネルが、自分の買った土地の上を通るのか、下を通るのか、さえ分からない、という状況です。こんな馬鹿なことがあるのか、というのが第一印象です。
民法を、権力が手続法でおさえてしまう、ということ、やり方自体が問題だと考えています。一回決めたことはやらないと気持ちが悪い、という官僚制が強いのでしょう」
正式受理された「外環の2・一部区間廃止の都市計画提案」
外環の2・話し合いの会メンバー・古川英夫氏「昔からトンネルを掘ると田んぼが枯れたり、井戸水が枯れた、ということがあります。甲府から上野までリニアの実験線ができ、沿線では池、川、簡易水道の水源が枯れてしまったと言われています。
水はどこに消えたのでしょう。これはトンネル周りに水の道ができたからだ、と私は信じています。大江戸線では、一日1万トンのトンネル周りの地下水を汲み出しています。
外環の2計画道路のうち、一部区間の廃止を求める提案を東京都に提出し、3年かかって昨年(2014年)12月、正式受理されました。これは道路での提案は東京都初です。また、廃止の例は全国でも前例がありません。
今後、東京都は杉並区に意見を聞いた後、この提案に基づく都市計画を定めるか、判断することとなります。定める、定めないに関わらず、都の都市計画審議会にかけられ、委員の意見を求めることとなります」
膨らむ外環道工事予算――投入される血税、残土によるスーパー堤防の建設
土地収用法は災害発生時に悪用されているのではないでしょうか。
大深度法は、災害が発生しやすい状況を作りやすくしていくように思います。
辻村さんのお話を聞きながら311と辺野古がうっすらとリンクしていきます。どちらも土地収奪。