「ガザとウクライナの問題はきちんと結びつけて考えなければいけない。その際に、マレーシアというものを脇に置いていては理解できない」
イスラエル軍によるガザ侵攻と、ウクライナ内戦。一見何の関連性もないような2つの事件が、実は根幹の部分でつながっていると、東京大学名誉教授の板垣雄三氏は説き明かす。そればかりか「あらゆるところに世界中の問題が凝集している」と指摘。その先には「世界戦争」と「共滅」という運命が待ち構えていると語った。
ウクライナ危機とガザ問題のつながりを示す最も明確な事例として、板垣氏は、2014年2月18日に、ウクライナ首都キエフの欧州広場で発生したデモ隊と治安部隊による衝突をあげた。ヤヌコビッチ政権が退陣に追い込まれるきっかけとなったこの武力衝突において、現地の極右組織「右派セクター」と協力関係を結んでいたのが、イスラエル国防軍の元兵士だったというのだ。
反ユダヤ主義を掲げるネオナチの「右派セクター」とイスラエル国防軍が結託しているという事実は、矛盾しているようにも見える。しかし、「イスラエル建国における最大の功労者はナチスドイツです」と主張する板垣氏によれば、ウクライナにおけるイスラエル国防軍と「右派セクター」のつながりは、ナチスドイツとシオニストの間にあった協力関係と同様であるという。
一般的にイスラエルの建国は、ナチスドイツによるユダヤ人虐殺をきっかけとするシオニズム運動の盛り上がりによって成立したと理解されている。ところが板垣氏は、ドイツに内在していた根深い反ユダヤ主義が、ユダヤ人を追い出すという動きにつながり、その結果としてできあがったのがイスラエルだと解説。つまり、シオニズムの運動というのはユダヤの理屈から派生したものではなく、ナチスの後押しによって成立したものだというのだ。
このように国と国、あるいは民族と民族との間には、一般的に理解されているものとは異なる背景や関係性が隠れていることがある。「何事もバラバラに考えていてはいけない」というスタンスのもと、板垣氏が世界中で注目される様々な事件の関係性を解き明かす。
中東のことを考えるということは、世界中の国際関係を考えること
▲板垣雄三氏
岩上安身(以下、岩上)「みなさんこんにちは。ジャーナリストの岩上安身です。私は今、長野県の諏訪のほうに参っております。これから、板垣雄三・東京大学名誉教授にお話をうかがいます。板垣先生、よろしくお願いいたします」
板垣雄三氏(以下、板垣・敬称略)「よろしく」
岩上「先生とお知り合いになって、ご挨拶させていただき、一度お話をお聞かせくださいとお願いしてから、それが実現するまで、だいぶ時間が過ぎてしまいました。
しかし、今日、お時間をいただけたということは、結果的には、良いか悪いかというと、ちょっと良いとは言いにくいかもしれませんけれども、しかし、非常に重要なタイミングでお話をうかがえることになったなと思っております。
板垣先生について、皆さんにご紹介しなければいけないなと思いまして、打ち合わせの段階で、『そういえば先生、ご専門は何なんでしょう?』とうかがいましたところ、『相手に応じて変わるんだ』ということでした。
先生は、アラブのお話とか、中東のお話とか、パレスチナのお話はもちろんですが、それだけではなく、ものすごく広域の国際関係のお話もするし、またそこに思想の話も入ってくるし、これがまた、東洋も西洋も入ってくるしと、私から見ますと、ちょっと正体不明の知識人なんです。
そこでもう一度お尋ねしますが、先生は、本当のご専門はどういうことなのでしょうか? 元々は歴史学とおっしゃっていたと思いますけれども」
板垣「まあ、岩上さんには、じゃあどういう看板を出したらいいかなというふうにも思うんですけれど、今回は、必ずしも岩上さんだけが相手じゃないので」
岩上「はい、そうなんです」
板垣「ともかく難しいですね。私の本来の専門ということでいえば、学問の上では歴史学というのがメインの分野というか、フィールドなんですけれども、ただ、中東とかイスラムとかいうことに関わりましたので、そうしますと、世界中のことが関係してくるんですね。
中東の問題を中東という地域のなかだけで考えているわけにはいかないのです。すぐ、世界全体の問題になるんですね。例えば、ユダヤ人の問題を考えると、中東の問題だというふうに限定して考えてはいられない。ただちに、アメリカの社会とか政治とかの問題になるし、あるいはロシアの国内問題になる。イスラムということについても同様で、これはもう、地球上のいたる所にイスラム教徒がいるわけで、例えばノルウェーのオスローの地下鉄に乗ろうとすると、もうたちまちアラブの人が目に入るとか。そういったことがあります。なので、イスラム研究というのは、世界研究にならざるを得ないのです。
ですから、私の場合には、中東の国際関係ということから、世界中の国際関係の問題に関わることになり、それから比較文明の問題にも関わることになります。私は、文明戦略論というようなことも言っていますけども。そうしますと、例えば、日本はこれからどういうふうに進んでいったらいいのかという、そういうことも自ずと私の問題になるんですね」