欧州のストレステスト批判と日本の現状 ~原発運転再開問題をめぐって~ 2012.1.12

記事公開日:2012.1.13取材地: テキスト動画
このエントリーをはてなブックマークに追加

(IWJ・原佑介)

 2012年1月12日(木)、衆議院第二議員会館で、院内集会「欧州のストレステスト批判と日本の現状」が開催された。集会には、国立ウィーン自然資源応用生命科学大学上席研究員のゲオルギ・カスチエフ氏、欧州議会議員のレベッカ・ハームス氏が招かれ、グリーン・アクション代表のアイリーン・美緒子・スミスさんが司会を務めた。

■ハイライト

 冒頭、カスチエフ氏は「欧州のストレステストに関してお話ししたい」とスピーチを切り出した。「ストレステストの目的は、透明性の確保された『原発の評価』である。ストレステストは任意ベースで行われ、『制御システムが使えなくなった場合も、核連鎖反応を避けることができるか』、またその場合『炉心や使用済み燃料プールは冷却できるのか』、『環境への放射性物質の放出を防ぐための対策をどれだけ取れるのか』の3つがポイント」だという。

 これらを回答する際、具体的に記入を求められるのは、「原発の状態が如何なるものか」、「設計が如何なるものか」、「地震や津波が設計基準を超えた場合、どれ程まで耐えられるのか」、また「これらの問題を改善するには、どのような案があり得るか」などの項目だ。しかし、現行のストレステストは「発電用の原子炉」だけが対象になっており、研究用やその他の施設はテスト外であり、ストレステストはあまりに限定的である、との批判もある。

 さらには、外部災害以外にも、内部災害(配管破損、火災、人的ミス)も対象外、設備・部品の品質劣化、老朽化も対象外、事故防止体制も対象外、大型の航空機墜落・テロなども対象外、事故が起きた場合、賠償ができるかどうかも対象外だという。

 テストから報告までの時間も短く、事業者がテストを行ったあと、報告をまとめ、提出するまでは6カ月しかない。また、その報告を国の規制機関がチェックする期間も、3カ月程度だという。こうしたテストが「原発は安全だ」という根拠になっており、さらに報告をどう評価するべきか、という基準も決まっていない。大部分が原子力関連組織の主観的な判断に委ねられている。

 カスチエフ氏は「過去の経験から、これらの大部分が間違っていると判断できる」と述べ、透明性や公開性がないこと、国内での公開討論会もなく、事業者が出してくる報告書も、一般には非公開であることなどを問題点として指摘した。そして、「必要なのは、福島第一原発事故を踏まえた対応にすること。どの原発を廃炉にするか、政治的判断が必要」と述べた。

 欧州議会議員のハームス氏は「事故が欧州に与えた影響はこれ(ストレステスト)だけではなく、EUの加盟国の半分以上が原発を開発してこなかった国、もしくは脱原発を目指す国となっていることにも表れている」と述べ、各国の変化を説明した。スイスは、福島第一原発事故の1年前まで、新しい原発を作る予定だったが、事故後その計画は放棄された。また、既存の原発も稼働する期間を定め、段階的に放棄する方針となった。ベルギーは事故後、10年以内に原発をなくすと決めた。フランスでは、原発問題が史上初めて、選挙の争点となった。そしてイタリアでは、原子力を再開する動きもあったが、国民投票を行った結果、国民の92%が原発にNoの意思を示した。ハームス氏は「日本も、欧州からストレステストを学ぶなら、脱原発への過程を学んでほしい」と訴えた。

 また、スピーチ終了後に質疑応答が行われた。「日本の20ミリシーベルト問題をどう評価しているか」という質問に対して、カスチエフ氏は「放射線医学からいえば、量が低くても健康被害をもたらす」と指摘した。欧州では、原子力施設労働者には20ミリシーベルト、一般人には1ミリシーベルトという被曝の規定がある。原子力労働者の場合、危険リスク教育を受け、身を守る方法も知り、当然賃金も発生する。さらに、ほかの仕事と比べて、年間有給休暇も長く、定年退職も早いという。カスチエフ氏は「20ミリシーベルトとは、限られた人に適応できるのであり、一般国民に適応するのは許されない。だからこそ、政府の責任で除染対策を行い、水、食品からのベクレル摂取制限をすることで、年間1ミリシーベルト未満に収める必要がある」と説明を行い、さらに、生物学的な知見から見ると、「『核戦争後の世界』と言ってもいい」と述べ、世界基準から見て異常事態であることを強調した。

アーカイブの全編は、下記会員ページまたは単品購入より御覧になれます。

一般・サポート 新規会員登録単品購入 330円 (会員以外)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です