「9条解釈変更で自衛隊は近々、戦闘に巻き込まれる」 ~長岡徹・関西学院大学教授が講演、安倍首相が目論む憲法改正にも言及 2014.11.22

記事公開日:2014.12.24取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・花山)

特集 集団的自衛権憲法改正
※12月24日テキストを追加しました。

 「安倍首相は『俺は選挙で勝った。だから俺の任期中は、俺のやることが民意である』という姿勢。多数を占めた政党が、どんどんものを決めていく時代になっている。政権の暴走を誰が止めるのか、真剣に考えなければいけない」

 神戸市東灘区の「九条の会.ひがしなだ」憲法学習講演会が、2014年11月22日、東灘区民センターで行われ、関西学院大学教授の長岡徹氏が「戦場ヘ行く自衛隊 ~9条改変閣議決定の帰結~」と題して講演を行った。

 長岡氏は、集団的自衛権の行使容認について、その閣議決定の内実を解説した上で、安倍政権の狙いについて論じていった。

 日本政府はこれまで、「自国に対する武力攻撃は発生していないが、他国に対する武力攻撃が発生した時に、他国を防衛する権利」、いわゆる集団的自衛権を認めない立場をとってきた。ところが安倍政権は、「わが国に対する武力攻撃が発生していなくても、自衛権を行使できる」と立場を一転させた。

 長岡氏は、この閣議決定について、「個別的自衛の範囲を少しだけ拡張したものだ、と政府は説明しているが、個別的自衛権では説明できない」と指摘する。そして、「自衛隊は戦闘に巻き込まれることになるだろう」と語った。

 また、こうした動きは安倍首相個人に起因するものではなく、「アメリカの指示だ」とも分析。今後も、その流れにしたがって政権の暴走が続くと話し、「憲法改正の希望を捨てていない安倍首相は、改正に向けて突っ走るのではないか」と懸念を示した。

■ハイライト

  • 講演 長岡徹氏(関西学院大学法学部教授、憲法学)

アメリカのために自衛隊が武器を使う

 「7月1日の閣議決定によって、近々、自衛隊はどこかに行って戦闘に巻き込まれる」と話を始めた長岡氏。まず、集団的自衛権の行使容認の閣議決定全文ついて内容を解説した。

 「あの閣議決定全文の中にある『武力攻撃に至らない侵害への対処』とは、何が言いたいのか。いわゆるグレーゾーンが生じた場合にも、自衛隊がすぐに行動できる体制をとる、ということである。武力攻撃に至らない事態でも、自衛隊の迅速な対応を可能にしようというのだが、これは今でもやっている。目新しいことを言っているわけではない」

 長岡氏は「これまで政府は『日本の施政下にある米軍に対する攻撃は、日本に対する攻撃だとみなして安保条約が適用され、共同で防衛する』と言っていた。それに対し、日本の施政下の外で(米軍などを)を守ることは、集団的自衛権の行使になるので憲法上できない、とされてきた」と語る。

 自衛隊が海外に出ていくときも、米軍あるいは多国籍軍との武力行使の一体化を避けるため、後方地域で活動し、武力では直接助けることができないと、日本の政府は、つい最近まで説明してきた。「ところが、今回の閣議決定は『武力攻撃に至らない場合でも、米軍を守るために武器を使用する』ということ」と長岡氏は指摘する。

「戦闘行為を行っていない現場」だと誰が判断するのか

 従来の周辺事態法(1999年)とイラク特措法(2003年)の考え方は、海外で自衛隊が武力行使に巻き込まれないように、また、直接手助けするのも憲法上禁止されているから、弾の飛んでこないところで後方支援するというものだ。長岡氏は「武力行使と一体化していないから、憲法違反ではないというのが、当時の小泉政権の考え方だった」と話す。

 「そして、自衛隊を派遣する時には、そこが非戦闘地域かどうか判断しなければならない。仮に、そこで戦闘行為が行われたら、政治が判断して、すぐに撤退させなければならない。それは政治の責任である。しかし、今回の閣議決定では、『自衛隊の活動は後方地域や非戦闘地域で』とは言わず、『現に戦闘行為を行っている現場以外』なら活動できることになった」

 では、戦闘行為を行っていない現場とは、どんなところになるのか。長岡氏は「それを政治が判断することはできない。結局、現場判断になる。現地の自衛官の判断次第で、ひょっとすると自衛隊が戦闘に巻き込まれるかもしれない。文民統制や政治の責任がなくなってしまう」と危機感を表した。

わが国の領域に対する攻撃がなくても自衛権発動

 続いて、集団的自衛権の話に移った。最初に長岡氏は、これまでの政府の9条解釈を確認した。

 「憲法はわが国が自国の平和と安全を維持するために自衛の措置をとることを禁じていない」。そして、「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される急迫不正の侵害があるときは、やむを得ない措置として必要最小限度の実力行使は許されている」と政府は説明してきた。

 「したがって、個別的自衛権をすべて認めたわけではない。あくまで(対象は)自国の領域に対する武力攻撃の発生。国民の自由や権利、生命が危なくなるので、やむを得ない措置として実力を行使することができるはずだ、という見解である」と長岡氏は説明する。

 対して、「自国に対する武力攻撃は発生していないが、他国に対する武力攻撃が発生したときに、他国を防衛する権利」が、従来、政府が認められないとしてきた集団的自衛権である。

 長岡氏は、これは個別的自衛では説明できないと話す。「今度の閣議決定では、今まであった個別的自衛の範囲を少しだけ拡張したものだ、と政府は説明している。どういうことか。他国の武力攻撃によって、『国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険』、これが非常に限定的だとしている。そういう場合に『わが国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置』をとる。これが閣議決定の趣旨であり、今までと大して違わないというのだ。しかし、わが国に対する武力攻撃は発生していないのだから、従来の国際法上、個別的自衛の名目での武力行使は正当化できない」

政府が「国の危機」を自由に判断

 さらに、「わが国の領域に対する攻撃は発生していない状況で、これを自衛権の発動だと説明すると、その自衛権で保護するのは、わが国の『領域』ではなく『国益』である」と指摘し、次のように言葉を継いだ。

 「戦前風に言うと、国の生命線の防衛。今までの個別的自衛とは質の違う個別的自衛。しかも、この閣議決定では『わが国に対する武力攻撃の発生にとどまらない』と言っている。

 『わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険』は、今までと違って客観的に判断できるかどうか怪しい。今までは『わが国の領域に対する武力攻撃の発生および発生する恐れ』だったので、自分のところが攻撃されているかどうかわかる。今度は客観的な基準がなく、政府が自由に判断できるようになっている」

 「これらすべてのことが、閣議決定だけで決定した」と語る長岡氏。「今までの9条の解釈の積み重ねのような国会論戦もない。これは立憲主義の危機でもある」と力を込めた。

9条解釈変更はアメリカに言われてやっている

 なぜ、急に集団的自衛権が出てきたのかを、長岡氏はこう解説する。

 「安倍さん個人の問題ではない。集団的自衛権の容認論の口火を切ったのはアメリカ。冷戦終結後のアメリカの対日要求の中で出てきた。冷戦後、グローバルな自由市場が成立した。この市場の維持に名乗りを上げたのはアメリカだが、アメリカ単独で維持するには限界がある。そこで、同盟国に相応の負担を、ということになった」

 長岡氏は、2000年に発表されたリチャード・アーミテージ氏による政策提言報告「第1次アーミテージ・レポート」に、すでに「日本は集団的自衛権を容認すべき」と書かれていることに言及した。

 「イラン、アフガンの戦争でアメリカは疲弊し、現在立て直し中。オバマ大統領は海外の米軍をどんどん引き上げようとしている。その中での、『武力行使を伴う米軍支援をすべき』という対日要求。また、アーミテージ氏は『集団的自衛権容認は、憲法改正でなく、解釈を変えればいい』と言っている。日本人が言ったのではなく、アメリカ人が言って、こうして出てきた」

安倍首相は、任期中の憲法改正に向かって突っ走る !?

 これまでの背景から、今後、この流れが進むと見る長岡氏は、「安倍内閣になってから国家安全保障会議が設置され、特定秘密保護法ができた。防衛計画の大綱が改定された。今年になって、防衛装備移転三原則を閣議決定、憲法9条の解釈を変更しての集団的自衛権行使容認の閣議決定。これらは安倍さんの個性でやっているわけではない。アーミテージ氏に言われてやったのだ」と述べた。

 2015年はどうなるか。長岡氏は、日米ガイドラインの見直しは、来年の統一地方選挙後に改定結果を発表するだろう、と予測する。

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