「空気を読んで自粛することから、学問の自由、思想の自由は腐り始める」~「負けるな北星!の会」結成記者会見 2014.10.6

記事公開日:2014.10.6取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・阿部玲/奥松)

 「これは明らかに人権侵害の言論テロ。言論、出版、その他『表現の自由』に対する真っ向からの暴力であり、教育と研究、『学問の自由』を封じる行為でもある。この問題にどういう対処をするかが、この国の今後を決める」。東京大学教授の小森陽一氏は、こう警鐘を鳴らす。

 札幌市の北星学園大学に対し、同大の非常勤講師である植村隆氏(元朝日新聞記者)を辞めさせろ、という執拗な脅迫が行われている。植村氏は1991年に従軍慰安婦に関する記事を書いており、そのことで、本人や家族、大学が嫌がらせを受けているのだ。就任予定だった神戸の女子大との契約は解消となり、北星学園大学にも「爆弾を仕掛ける」などの脅しが届いているという。

 この事態を「一大学、一個人の問題ではない」と憂慮した学者や弁護士、市民らが「負けるな北星!の会」を結成。2014年10月6日、札幌と東京とで「北星学園大学への『言論テロ』阻止行動支援記者会見」を開き、外部から同大を支えていくことを表明した。東京での会見は、東京都千代田区の衆議院第一議員会館で行われ、山口二郎氏(法政大学教授)ら7名の呼びかけ人が出席して、この問題に対するそれぞれの見解を語った。

 質疑の中で「言論テロ」という言葉に疑問を呈した記者に対し、慶応大学名誉教授の小林節氏が「10代の女の子(植村氏の娘)がネットで顔と名前を公開され、自殺に追い込まれようとしている。まったく、テロとしか言いようがない!」と憤りを現す場面もあった。

■ハイライト

  • 日時 2014年10月6日(月) 14:00~
  • 場所 衆議院第一議員会館(東京都千代田区)

忌むべきテロリズムが放置されることは許されない

 はじめに進行役の山口氏が、一連の植村氏への脅迫について説明した。植村氏は2014年3月に朝日新聞を退職し、4月から神戸松蔭女子学院大学の教授に就任予定だった。しかし、1月に「週刊文春」が掲載した「『慰安捏造』朝日新聞記者がお嬢さま女子大教授に」という記事がきっかけで、神戸松蔭女子学院大学には脅迫や嫌がらせが相次ぎ、雇用契約は解消された。さらに、現在、植村氏が非常勤講師をしている札幌市の北星学園大学にも、同様の脅迫が行われるようになった──。

 「この状況を知った札幌市内の女性が、9月上旬に同大への応援メール運動を開始し、それに呼応して、学者やジャーナリストらが『負けるな北星!の会』を結成するに至った」と山口氏は説明した。

 続いて、海渡雄一弁護士が、「今回の問題はヘイトスピーチの一種かもしれないが、植村親子に対する加害の告知があり、明白な犯罪だ。先日、菅官房長官も『卑劣な犯罪』と発言したが、きちんと捜査がされているのだろうか」と述べ、背景として(8月に朝日新聞が慰安婦報道に関する謝罪をして)各メディアが凄まじい朝日バッシングを展開したことが、植村氏への攻撃も許されるような社会の風潮を作ったのではないか、と顔を曇らせた。

 海渡氏は「言論を暴力で封じ込めるのは、まさしくテロリズム。忌むべきテロリズムが社会で放置されることのないよう、市民もメディアも結束して、こういうことは絶対許さない、という姿勢を見せていく必要がある」と力説した。

慰安婦報道に絡んだ記者OBが追放される

 小林氏も、これは刑事事件として公権力が動くべきケースだと話し、「憲法学者として言っておきたいのは、言論の自由とは、自分の発言のリスクは自分で背負わなくてはいけない、ということだ。インターネットの物陰に隠れて弾を撃つなど、腹立たしい。刑事捜査をして(脅迫の)出元を明らかにする必要がある」と主張した。

 北星学園大学と同様の事件が、この夏、大阪府の帝塚山学院大学でも起こっていた。同大教授の清田治史氏もまた、元朝日新聞記者で従軍慰安婦報道に関わっていた。帝塚山学院大学には複数の脅迫文が届き、清田氏は9月に退職している。

 一橋大学名誉教授の田中宏氏は、「最初は神戸松蔭女子学院大学。次に帝塚山学院大学。今回の北星学園大学は3つ目だ。一連の慰安婦報道に絡んだ記者OBが、大学を追われる。これは戦前の矢内原事件(1937年、東京帝大の矢内原忠雄教授が論文の内容などを理由に大学を追放された事件)と重なる。なんとかストップをかけたい」と危機感を表明した。

 「ここに並んでいる先生たちも、一度や二度は脅迫を受けているはず」と切り出したのは、市民文化フォーラム共同代表で恵泉女学園大学名誉教授の内海愛子氏だ。「私も、爆破するぞ、殺すぞ、という脅しをもらったことがある。(慰安婦問題など)一定の事件に関わると、そうなるのだ。先の2つの学校では、脅迫を受けた側が退職することによって、問題を封じ込めようとした」。

 こう続けた内海氏は、植村氏を守ろうとしている北星学園大学の姿勢を評価し、「キリスト教主義で、平和宣言を出している北星学園大学だから、こういう対応ができた。私たちは外側から、負けるなと応援したい」とエールを送った。

教育現場での「赤狩り」再来の危機

 元東京大学教授の桂敬一氏は、問題の背景にある慰安婦報道に関して、「かつては、戦時中の日本の加害責任を考えようとする風潮が社会にあった。日本軍の残虐行為を描いた『三光』という本や、(人体実験を行った)731部隊をテーマにした『悪魔の飽食』(森村誠一著)が飛ぶように売れた。しかし、ひとつの間違いがあったことで右翼の攻撃が始まり、森村氏の書いたものは全否定された。これは、今の問題につながる原型だ」と述べた。

 さらに桂氏は、今回の植村氏の問題で、朝日叩きを展開していたメディアも「大学への脅迫は卑劣な言論封じ」と報じていることについて、「そう思うなら、当初のバッシングを自らも反省する部分があるのではないか」と指摘した。

 東京大学大学院教授の小森陽一氏は、「これは明らかに人権侵害の言論テロ。言論、出版その他表現の自由に対する真っ向からの暴力であり、教育と研究、学問の自由を封じる行為でもある」と断じ、かつてのマッカーシズムの赤狩りが、教育の場で行われるきっかけにしてはならないと語った。

 そして、「閣議決定だけで集団的自衛権の行使を容認する内閣の下で、こういう事態が起きている。ここが正念場だし、瀬戸際だ。この問題にどういう対処をするかが、この国の今後を決める」と警鐘を鳴らした。

ここで止めないと、学問の自由、言論の自由が崩壊する

 再びマイクを握った山口氏は、「私も現状を日本のマッカーシズムととらえている。ただ、この会は朝日新聞擁護や慰安婦問題の追及を目的とするものではない。あくまで、私たちは言論テロから大学の自治と学問の自由を守ることを応援する団体だ」と立ち位置を確認した上で、次のように話した。

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「「空気を読んで自粛することから、学問の自由、思想の自由は腐り始める」~「負けるな北星!の会」結成記者会見」への1件のフィードバック

  1. びえいぶる より:

    恵泉女学園の創立者の河井みちは、北星学園の前身のスミス女学校の卒業生なんだよね。
    北星学園が恵泉女学園の関係者から応援されるということに、深い因縁を感じるなぁ。
    因縁というより、キリスト教だから、神への執り成しのようだというべきか。

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