誰もが安心して働ける就労社会の実現を目指し、労働法を守っていない企業・団体を「ブラック企業」と認定して改善を求めていくイベント「ブラック企業大賞」の第3回授賞式が、2014年9月6日(土)に東京都千代田区で開催された。
ノミネートされた11の企業・団体の中から、最高位の「大賞」とインターネット上の投票による「ウェブ投票賞」の2つに選ばれたのは、社員の過労自殺が問題となっているヤマダ電機。また、性差別ヤジが問題となった東京都議会には「特別賞」が与えられた。
式典では、過去2回の受賞・ノミネート企業の「その後」を追跡調査した報告も行われた。
今回、ことに会場の耳目をさらったのは、ノミネート企業の秋田書店に社員として働いていた女性による、涙ながらの訴えだった。上司によるパワーハラスメントにさんざん苦しめられ、自殺という選択肢も頭をよぎったと明かす彼女の言葉は、それまでブラックジョーク的な陽気さで進行してきた式典の雰囲気を一変させ、労働問題を抱えた当事者の苦しみを浮き彫りにした。
- 日時 2014年9月6日(土)14:00~17:00
- 場所 在日本韓国YMCAアジア青少年センター(東京都千代田区猿楽町)
- 主催 ブラック企業大賞実行委員会(詳細)
24歳の新人が「月平均276時間」勤務
第1部では、実行委員会が監修した、土屋トカチ監督の最新映像作品『ブラックバイトに負けない!』が上映された。
「クイズで学ぶしごとのルール」との副題が付いたこの作品は、これからアルバイト先を探す人たちが対象。就労シーンを巡るさまざまな決まりを大多数の日本人が誤認していることを、一問一答の形で小気味よく明かしていった。
象徴的なのは「出勤時のタイムカードの打刻は、ユニフォーム・作業着に着替えた後で行わねばならない?」との問いで、これは「NO」が正解。登壇した土屋監督は、「バイト労働者が本来持っている諸権利を、楽しく学ぶために大いに活用してほしい」と語った。
続く第2部は、実行委員による今回のエントリー企業の選抜理由の説明から始まった。
第3回ブラック企業大賞には、大庄、JR西日本、ヤマダ電機、A-1 Pictures、タマホーム、東京都議会、リコー、秋田書店、学校法人智香寺学・ 正智深谷高等学校&株式会社イスト、不二ビューティ、ゼンショーホールディングスの11社・団体がノミネートされた。
たとえば「庄や」などの居酒屋チェーンを展開する大庄については、「24歳の男性新入社員が、2007年に過労死している。急性心不全で自宅で死亡したのだが、直近の労働時間は月平均276時間で、時間外労働は同112時間だった」と指摘。「この件は訴訟が起こされており、最高裁でも大庄は負けている。判決では会社のみならず、取締役4人にも損害賠償金の支払いが命じられた」とした。
ワタミのその後は? ~改善する企業・しない企業
過去の受賞・ノミネート企業の「その後」に迫るコーナーでは、第1回でノミネートされた、安売りコンビニストアのショップ99(現ローソンストア100)が対象となった。入社4ヵ月後に「名ばかりの店長」に就任させられた若手社員は、4日間で80時間も働くことがあり、過酷な長時間労働が原因で、彼はうつ病になり休職。裁判では会社が断罪され、残業代44万8376円と付加金20万円、慰謝料100万円の計164万8376円の支払いを命じる判決が下されたという。報告者は概要説明のあとに、次のように続けた。
「通常、こうしたケースでは、裁判で勝っても当人の会社への復帰はなかなか難しい。しかし、その彼は『もとの職場に戻り、社員の待遇を良くするためにもがんばりたい』との意思を強く表し、すでに職場への復帰を果たしている。うつ病は完治していないため、週3日という変則勤務だが、残業代がきちんと支払われるようになった」。
これとは対照的な報告がなされたのは、前回ダブル受賞したワタミ。居酒屋チェーンや介護事業を展開する、よく知られた大手企業である。実行委員は「ワタミは、今回はノミネートされていないが、そのブラック体質が改まったわけではない」と言い切った。
2008年、当時26歳だった同社の女性社員は、厚生労働省が定める過労死ライン(残業は月80時間まで)を大幅に超過する月141時間の残業を強いられ、入社からわずか2ヵ月後の同年6月に、神奈川県横須賀市内の自宅近くのマンションから飛び降りて自殺した。
「法的責任では相違がある」反省の色を見せない渡邉美樹氏
遺族は、経営者らとの面談を何度も求めたが、ワタミは顧問弁護士との面談しか受けつけないという不誠実な対応を続け、さらに遺族に対して、名古屋地裁に民事調停を申し立てる行動にも出た。「趣旨は、損害賠償額の確定だ。つまり、ワタミは『遺族とは会わないが、金なら払う』という姿勢なのだ」と報告者は語った。
2013年12月、遺族は、同社と当時の社長で現参議院議員の渡邉美樹氏を相手取り、損害賠償訴訟を起こした。これまで4回の口頭弁論が行われ、その時の様子を報告者は、「2回目に渡邉氏が出廷し、意見陳術した。彼は遺族に向かって低頭し、『道義的責任は認める』としつつも『法的責任では相違がある』とし、争っていく構えを鮮明にした」と伝えた。
その2回目の口頭弁論にはワタミの関係者が押し寄せ、一時は傍聴席を占領したという。「遺族の支援者らから抗議の声が上がり、法廷内が騒然となる場面があった。とにかく、過労死を起こした企業として反省の色がまるで感じられない。実行委員会は今後も、同社の監視を続けていく」と語った。
ヤマダ電機、最多の5256票を獲得
その後、各受賞企業の発表に際して、実行委員の1人である内田聖子氏(アジア太平洋資料センター事務局長)が、このように説明した。「第1回からこれまで、ノミネートしたすべての企業には、郵送などで受賞式への招待状を渡してきた。今日もノミネート企業が来てくれると信じて、客席前方に招待席のコーナーを用意したのだが、残念ながら、どの企業も出席してくれなかった」。
授賞式では「ウェブ投票賞」から順番に企業名が発表され、ヤマダ電機に同賞と「大賞」の両方という、実に不名誉な2冠が付与される結果となった。同社が受賞した理由は次の通り。
「インターネット投票と、この会場での投票で、最多の5256票を獲得した。ヤマダ電機の従業員を名乗る人からの投票も多かった。従業員の声に真摯に向き合うことを求める」(ウェブ投票賞)。
「2007年9月、当時23歳だった前途ある若者を酷使し、過労死に追い込んだ。2005年にも別の社員が自殺して、遺族から提訴されているヤマダ電機は、それを教訓にしていれば、この事態は十分に避けられたはず。すでに、第3の犠牲者の存在も取り沙汰されており、こうしている今も、過労死ラインにある店長が大勢いるとあっては、決して見過ごすことはできない。われわれ実行委員は、ヤマダ電機は今回のノミネート企業の中で、もっとも悪質と認定した。これ以上、悲劇を繰り返さないためにも、まともな労働環境をすぐに構築するよう求める」(大賞)。
エステ業界では「たかの友梨」も受賞
東京都議会には「特別賞」が与えられた。「6月18日の一般質問で、女性蔑視となる発言(ヤジ)があったことに何ら対策を講じず、加害者の特定をメディアや当該被害者が所属する政党に任せるなどして、事件解決の努力をしてこなかった」との受賞理由が示された。
就労環境の劣悪ぶりが目立つ業界が対象となる「業界賞」には、アニメ業界とエステ業界が選ばれ、A-1 Pictures(エー・ワン・ピクチャーズ)と不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)に、それぞれが業界の代表格であるという理由から同賞が与えられた。また、「要努力賞」はゼンショーホールディングス(すき家)だった。
授賞式のあと、実行委員がこのように警鐘を鳴らした。「今日取り上げた事例は、まさに氷山の一角。中小・零細企業に目を向ければ、ブラックな実態は星の数ほどあるのが現実だ。それなのに現政権は、労働者を守るための規制をどんどん取り払おうとしており、このままだとブラック企業が合法化される世の中になってしまうかもしれない」。
秋田書店の元社員が激白
会場には勇気ある告発者も現れた。実行委員は「会場に、秋田書店の悪徳ぶりを告発した勇気のある同社元社員の女性(Aさん)が来ている。これから登壇するが、動画や写真の撮影は一切行わないでほしい」と呼びかけた上で、Aさんを紹介した。