【シリア邦人拘束事件4】犯行声明で湯川氏を「スパイ」と断定した「IS」(=イスラム国) 疑惑払拭に動かない安倍政権と田母神氏 〜明らかになる自民党関係者との「不可解」なつながり 2014.8.19

記事公開日:2014.8.19 テキスト動画
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(安斎さや香・佐々木隼也)

 「 الدولة الاسلامية تلقي القبض على جاسوس ياباني يدعي انه مصور (「IS」=「イスラム国」は、写真家と主張する日本人男性のスパイを拘束した)」——。

 これはイスラム圏で、武装組織がテロ予告などに使用するサイトに投稿された犯行声明だ。8月16日、内戦下のシリア・アレッポで日本人男性が「IS」(=イスラム国)に拘束されたことが明らかになった。男性の安否は未だ不明で、外務省が対策室を設置して情報収集にあたっている。

 この犯行声明では、「IS」側が、拘束した日本人男性の身辺情報を調べ上げていることが分かる。以下、その声明文の邦訳を掲載する。

「処刑された」「生存可能性あり」情報錯綜、安否は未だ不明

 声明文は、男性を拘束した際に撮影された尋問動画から始まる。

(※オリジナルの動画は削除されたため、コピーを掲載。動画のやり取りの詳しい内容については、下記に掲載)

 「 ياباني الجنسية وهو مدير Haruna Yukawa القت مخابرات الدولة الاسلامية على الجاسوس يدعى
 (「IS」=「イスラム国」の諜報部は、『湯川遥菜』という日本国籍の経営者との情報を上げた。

 تنفيذي لشركة امنية يابانية وهو ليس مصور
 彼は写真家ではなく、日本の警備会社のCEOで、

 من مهات الشركة الامنية هي القتال المباشر وحماية الشخصيات 民間軍事会社 وهذا اسم الشركة
 この警備会社の名前は民間軍事会社、業務内容は直接の戦闘、要人保護、

 المهمة والتدريب والدعم اللوجستي ورسم خطط حربية وتقديم استشارات وتكتيكات عسكرية
 職業訓練、後方支援、軍事作戦の計画やコンサルティング、軍事戦術の提供だ。

 وهذا احد تدريباتها في شركته
 これは彼の会社での研修の1つだ

http://youtu.be/K9-aChHGxPE?list=UUWNsh_PsmBZvV-MtgpQT1Gg

 وبعض الصور في هاتفه تدل على ثبوت تهمته 」
 彼の携帯電話の画像が、彼がスパイである証拠だ)

 声明文はそう締めくくり、以下の2枚の写真を掲載している。

 この声明文の信憑性について、8月18日に岩上安身がインタビューを行った、中東・イスラム情勢の専門家で元同志社大学神学部教授の中田考氏に聞いた。

――イスラム国の組織としての公式声明であることは、間違いないのですね?

 「今回ハッキングされたということがない限りそうですし、私が記憶する限り、これは最後の『電話の中に証拠…』以外は一昨日(16日)の時点からアップされていた文面なので、間違いないでしょう」

 中田氏はこう述べ、続けた。

 「これで身代金での釈放はなくなりましたが、捕虜交換は微妙ですが、希望はあります」

 中田氏は18日のインタビューでは、拘束された湯川氏が武器を携行していたにも関わらず「写真家」と身分を偽ったことで、「戦闘員」よりも罪の重い「スパイ」とみなされたとし、処刑される可能性が高まったと指摘した。しかし、今回このような犯行声明が出たことで、少なくとも「安否は不明」という程度には、湯川氏の生存に希望が見出せるというのが、中田氏の分析だ。

 湯川氏の生存可能性については、8月18日付けの毎日新聞が、反体制派最大勢力の「イスラム戦線」と連携している「ムジャヒディン軍」の報道担当者が、捕虜の交換による湯川氏の解放に向けて動いていると報じている。また、19日付けの時事通信の記事は、同じく反体制派の「自由シリア軍」幹部が、湯川氏の生存について「ほぼ確信している」と語ったと伝えている。

・シリア日本人拘束:捕虜交換を模索…男性が随行の組織(8月18日、毎日新聞)

・邦人男性生存「ほぼ確信」=反体制派「自由シリア軍」幹部(8月19日、時事通信)

 しかし、現時点では「処刑された」「生存している」という情報が混在しており、湯川氏の安否の確認は取れていないのが現状だ。

 対策に当たっている外務省だが、本日19日の大臣会見は閣僚が「夏休み」のため開かれず、事務方のブリーフィング等も行われていない。報道では、「IS」側と交渉ルートを構築できていない外務省の苦慮が伝えられている。

湯川氏は本当に「スパイ」なのか? 〜浮かび上がる不可解な人脈

 IS側がスパイだと主張する湯川氏だが、こちらの真偽についてはどうだろう。湯川氏本人の交友関係を調べると、政界、とりわけ自民党関係者との関係が浮かびあがってくる。

 湯川氏個人が連載していたアメーバブログを見ると、登録されているお友達の中に、Facebookでもツーショットが掲載されていた田母神俊雄氏や、自民党の西田昌司参議院議員、菅義偉官房長官といった、そうそうたるメンバーが名を連ねていた。

 また湯川氏がCEOを務める民間軍事会社「PMC JAPAN」の過去のブログには、「忘年会」の様子として、田母神氏の他に、チャンネル桜代表である水島総氏と一緒に写っている写真も掲載されている。

・2013/12/24の「PMC Co.,LTD.のブログ」

 さらに、田母神氏と同じようにFacebookにツーショット写真が掲載され、「元特命全権大使」として紹介されていた人物は、元外務省官僚で、ベネズエラ特命全権大使などを歴任した国安正昭氏だとみられている。国安氏は、2009年の衆院選で自民党から出馬した経歴を持ち、湯川氏の経営する「PMC JAPAN」の「顧問」を務めていた。そしてこの国安氏は現在、放射能影響研究所の評議員も務めている。

 さらに調べていくと、国安氏と田母神氏、さらに安倍総理周辺の人脈とのつながりも浮かび上がる。国安氏は以前、国に政策提言などを行うシンクタンク「日本戦略研究フォーラム」の評議員を、田母神氏と同時期に務めている。

・「日本戦略研究フォーラム」の以前のHPより 役員・政策提言委員等 (平成22年12月31日現在 敬称略)

「日本戦略研究フォーラム」のHPを見ると、現在も評議員を務める田母神氏のほか、山谷えり子参議院議員(元首相補佐官)、山田宏衆議院議員(前杉並区長)、西修・駒澤大学名誉教授、佐藤正久参議院議員(前防衛政務官)、石破茂衆議院議員、岡崎久彦氏(NPO岡崎研究所所長)、葛西敬之・JR東海会長、そしてケビン・メア前米国務省日本部長など、安倍総理に近く、「集団的自衛権の行使容認」の旗振り役たちが、顧問や理事として顔を揃えている。

 湯川氏が、彼らととこまで親しかったのかは定かではない。しかし、こうした自民党中枢のタカ派人脈に、湯川氏が積極的に接触を試みていたことは間違いない。さらに湯川氏の経営する会社の関係者を調べてみると、「親しい」では済まされない、「不可解な」政界とのつながりも浮かび上がってくる。

自民党関係者の関与

 湯川氏のFacebookに登場する「元県会議員(自由民主党)」とは、国安氏と同じく「PMC JAPAN」の「顧問」を務める、木本信男・元茨城県議であることが判明している。木本氏は、自民党の水戸支部事務局長も務めた人物だ。

・シリア邦人拘束:千葉県在住の男性か(8月18日、毎日新聞)

 この木本氏の長男で、信男氏の地盤を引き継ぎ、現在自民党の茨城県連に所属し、水戸市議会議員を務めるのが、木本信太郎氏である。不可解なのは、この信太郎氏の水戸市にある後援会事務所の住所の所在地が、湯川氏が立ち上げた「アジア維新の会」シリア支援募金の茨城県事務所の所在地と同一住所にあることである。この「アジア維新の会」の茨城県事務所の担当者名は「きもと」となっている。

▲木本信太郎氏講演会事務所のHP

▲「アジア維新の会」シリア支援募金の詳細

 湯川氏が、政界、とりわけ自民党関係者と極めて近しい関係にあったことが、これで明らかになった。

 さらにこの木本氏も、田母神氏と関係が深い。田母神氏が会長を務める「頑張れ日本! 全国行動委員会」の茨城県本部の代表が木本信男氏なのだ。ちなみに、湯川氏と「忘年会」でツーショット写真を撮っていたチャンネル桜代表である水島総氏も、この「頑張れ日本! 全国行動委員会」の幹事長を務めている。

「面識がない」あっさりと湯川氏を切り捨てた田母神氏

 国安氏、木本氏。湯川氏と関係の深い2人の人物が、自民党の関係者であり、さらに安倍政権の中枢とつながりの深い立場だったとすると、当然、湯川氏の経営する「民間軍事会社」への自民党、安倍政権の何らかの関与が疑われてもおかしくはない。

 特筆すべきは、国安氏、木本氏両者とつながりのある田母神氏だ。IS側は、湯川氏と関の深い人物として、田母神氏の写真を掲載している。元自衛隊航空幕僚長という肩書きのあるタカ派の政治家で、集団的自衛権の旗振り役である田母神氏の動向を、IS側は注視しているはずである。湯川氏の身柄の保証、身の潔白の証明、そして日本政府関係者の組織的関与の有無の証明という意味で、田母神氏にどのような発言をするかに注目が集まっていた。

 そんな中、こともあろうに田母神氏は、18日にTwitter上で「面識がない」などとして、湯川氏を切り捨てた。湯川氏は自身のブログで、田母神氏の思想に深く共感し、支持を寄せている。そんな湯川氏を名前を、田母神氏はツイートで「湯浅氏」と書き間違え、湯川氏への同情や身の安全を心配するような言葉も一切なかった。

 湯川氏は、安倍政権が進める「集団的自衛権」に感化され、自民党関係者の関与のもと、民間軍事会社を設立し、活動していた。にも関わらず、現地で危険な目にあったら「自己責任」とばかりに切り捨てるのが、安倍政権の進める「集団的自衛権」なのだろうか。山梨の別荘で夏休みをとっている安倍総理は、8月19日現在、この事件についていまだコメントを出していない。

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