「地域、世代、自然との共生が原発事故で崩壊する」 〜エントロピー学会 佐藤栄佐久氏(前福島県知事)ほか 2014.5.17

記事公開日:2014.5.17取材地: テキスト動画
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(IWJテキストスタッフ・富山/奥松)

 「便利だからと原発に頼ってきたわれわれは、長いスパンで考えると、非常に大きな罪を犯した世代になる、と言えないだろうか」──。

 2014年5月17日と18日、新潟市の新潟大学・駅南キャンパス「ときめいと」で、「エントロピー学会 2014年春の研究集会」が「地域社会から持続可能な未来を考える」をテーマに開催された。17日は、そのオープニングとして、佐藤栄佐久氏(前福島県知事)、平山征夫氏(新潟国際情報大学学長、前新潟県知事)を招いて、シンポジウム「原発なしの地域の自立・発展を考える」が行われた。

 生命系における物質循環の理論を基礎に、環境問題を考える市民と研究者の交流の場として、1980年代に発足したエントロピー学会は、福島原発事故以来、科学の神話、利権としての原発問題をテーマに取り上げ、自然や社会を壊さない文明の在り方を議論している。この日は、かつて原発立地地域の首長を務めた両氏が、原発なしでも発展できる社会の可能性を語った。

■全編動画 1/4 佐藤氏
※電波のトラブルにより、35分10秒頃より、映像が乱れます。ご了承ください。

■全編動画 2/4 佐藤氏〔続き〕/平山氏

16分30秒~平山氏による基調講演

■全編動画 3/4 平山氏〔続き〕/パネルセッション

37分~パネルセッション

■全編動画 4/4 パネルセッション〔続き〕

  • 基調講演
    • 司会 藤堂史明氏(新潟大学准教授)
    • 佐藤栄佐久氏(前福島県知事)「原発再稼働と地域の発展・自立をどう考えるか─福島県の経験から─」
    • 平山征夫氏(新潟国際情報大学学長、前新潟県知事)「原発再稼働と地域の発展・自立をどう考えるか─新潟県の経験から─」
  • パネルセッション
    • 司会 菅井益郎氏(國學院大学教授)
    • パネリスト
      佐藤栄佐久氏/平山征夫氏/伊藤久雄氏(東京自治研究センター理事・特別研究員)/矢部忠夫氏(柏崎市議会議員)/中山均氏(新潟市議会議員、緑の党共同代表)
  • 日時 2014年5月17日(土)13:30~17:30
  • 場所 新潟大学 駅南キャンパス「ときめいと」(新潟県新潟市)
  • 主催 エントロピー学会告知

「人と自然、世代間の共生。原発があっては無理だ」

 はじめに、ネットワーク型社会への転換や、地域の自立促進の必要性を語った佐藤栄佐久氏は、福島県知事を務めた経験を下に、「人と自然との共生、世代間の共生が大事である」と述べ、森林環境税を導入した経緯や、会津大学設立時のエピソードを語った。

 また、国の原子力政策については、「地域間の共生こそ、われわれの生活の基盤であったが、原発事故を見てもわかる通り、あの事故によって地域はめちゃくちゃに崩壊してしまった」と述べ、「世代間の共生も、原発があるとできない。双葉町は、原発誘致から30〜40年過ぎると町長の給料も払えないほど財政が逼迫し、『もう1〜2基、原発がほしい』という話になった。結局、次世代に渡すものはなく、廃墟だけが残る。原子力の問題は、世界一丸となって取り組まないと解決できない」と指摘した。

地域の自立を促す「地域経営」の視点

 続いて、平山征夫氏が登壇し、陸の孤島とも言われ、交通の便が非常に悪かった新潟県柏崎市が、それを払拭するために原発誘致に乗り出していった背景を解説した。

 「昭和44年に柏崎刈羽原発の誘致が決まるまで、賛成と反対の市民が2つに割れる戦いがあり、議会に警官が導入されたこともあった。最終的に、地域活性化のために誘致することになったが、以後も市民の間では賛否の議論が続いてきた」。

 そして、平山氏が新潟県知事を務めていた2002年から2003年にかけて、東京電力による、29項目にわたる原発の事故隠しが発覚。それを契機に、東京電力に対して不信感を抱き、原発の安全面への疑問が次第に大きくなっていった経緯を振り返った。

 「何万年も保管しなければいけないものを、便利だからと使ってきたわれわれは、長いスパンで考えると、非常に大きな罪を犯した世代になる、と言えないだろうか」。

 このように述べた平山氏は、再稼働の問題についても、「できるだけ早く、原発依存の構造から脱却することを前提に、議論を進めなければいけない」とした。また、経済合理性の観点からのみ進められてきた原子力政策に対して、「クロスチェックを行い、市民に是非を問う体制、地域の自立を促していく地域経営の視点が必要である」と主張した。

 柏崎市議会議員の矢部忠夫氏は、「福島の事故が、いまだ収束していないにもかかわらず、原発を推進していく姿勢は明らかにおかしい。10年、20年先のわが町をどのようにしていくか、喫緊の課題である」と述べて、原発に頼らない地域創出の必要性を訴えた。

現代社会そのものを、根本的に見直す

 新潟市議会議員の中山均氏は、「原発再稼働を推進する動きを、地域から押し返すためには、市民の声や運動、原発の管理に対する自治体の権限強化などが求められる。現代社会の常識そのものを、根本から見直すことが必要である」とした。

 また、小泉政権によって格差が拡大し、貧困率が増加した例を挙げて、自由主義経済がグローバル企業に利益をもたらす一方、個々人の所得の向上や、雇用の安定には結びつかず、環境に負荷がかかるという問題点を説明し、「成長を追い求め続ける経済から、地域循環型の経済への価値転換が重要ではないか」と問いかけた。

 パネルディスカッションの中で、平山氏は「人類を幸せにするために、資本主義が広がったわけではない。資本主義体制のほうが(他の体制より)国の成長を早め、莫大な利益を生み出すからである」と指摘。「1970年代以降、行き詰まってきた資本主義経済の仕組みから脱して、地球上の人類が幸せになる仕組みはどうあるべきか、真剣に考えなくてはいけない」と語った。

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